(7) 高度情報・通信技術を用いた渡り鳥の移動経路と生息環境の解析および評価に関する研究
〔区分名〕環境-地球推進 F-4
〔研究課題コード〕0103BA030
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.5 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト
〔担当者〕田村正行(社会環境システム研究領域)・山野博哉・島崎彦人
〔期 間〕平成13〜15年度(2001〜2003年度)
〔目 的〕近年,長距離移動性の渡り鳥が世界各地で急速に減少している。その主な原因は,繁殖地,中継地,越冬地それぞれでの環境破壊であると考えられている。渡り鳥の急減は,単に渡り鳥そのものの消失を意味するだけでなく,渡る先々での生態系の歪みの発生を意味している。渡り鳥が消失することになれば,それらを媒介とする生物間の相互作用が機能しなくなり,生態系の健全性が損なわれることになる。その意味で,渡り鳥の保全は,渡り鳥によって連結されている世界各地の自然環境の保全に深く関わっており,私たち人間の生活とも密接に結びついている。渡り鳥の保全を目指す研究を進展させるためには,渡り鳥が非常に広い範囲を移動するため,人工衛星を利用した移動追跡や衛星画像による環境解析などの技術が不可欠である。本研究は,これらの高度情報・通信技術を利用して渡り鳥の生態を調べるとともに,全地球測位システム(GPS)を用いた新たな追跡技術をも開発しながら,渡り鳥とその生息環境の保全を進めることに貢献する。
〔内容および成果〕
衛星画像による渡り鳥生息地の環境解析手法を開発するとともに,GIS
を用いて渡り鳥の行動範囲や営巣地と地理環境特性との関連性を解析する手法を開発した。また,東アジアを対象として過去20年間の自然環境の変化を調査するための衛星データを収集しデータベース化した。
渡り鳥の衛星追跡に関しては,極東ロシアで繁殖するガン類やコウノトリ類,および日本の沖縄県で越冬するタカ類(サシバ)を対象とし,渡り経路と重要生息地を明らかにした。渡りの経時パターンや環境利用を調べ,渡り経路選択の機構を探るために必要な情報を整備した。
また,1998年から2000年の間に収集した渡り鳥の移動経路データと衛星画像を組み合わせて解析することにより以下のような成果が得られた。
・アムール川流域の繁殖地における鳥の行動範囲は,タンチョウとコウノトリどちらの種も年ごとに異なっていた。1998年と2000年には,大部分の鳥の位置データは直径が10〜15km程度の範囲内に収まっていた。これに対し1999年には,鳥の位置データは広範な範囲に散らばり,大半の鳥がアムール川流域への滞在期間中に前期と後期で居場所を変えた。このような鳥の行動パターンの違いは,気象条件によって引き起こされる餌の状況の違いによるものではないかと思われる。
・アムール川流域においては,両種の鳥とも,生息期間中の大部分のあいだ自然湿地の中に留まっていた。両種の鳥とも,衛星追跡によって得られた位置データの約80%は湿地の中にあった。
・東アジアにおけるタンチョウとコウノトリの渡りの経路と重要生息地を同定することができた。両種の鳥ともに,中国東北部ではアムール川流域から遼東湾岸に至る二つの主要なルートを辿っていることが分かった。1つは西側のルートで嫩江(ネンジアン)沿いの湿地を辿るルートであり,もう1つは東側のルートで松花江(ソンホワジアン)沿いに南下するものである。遼東湾岸からは,両種とも,海岸を辿るように移動し渤海湾岸を経て黄河河口のデルタ地帯に移動していた。ただし,例外として1998年に一羽のタンチョウ(C20848)は,朝鮮半島の漢江・臨津江(ハンコウ・イムジンコウ)河口に渡りそこで越冬した。黄河河口から先は,タンチョウは揚子江河口の北側にある塩城干潟に渡って越冬したのに対し,コウノトリは,1998年には武漢近辺の湖沼地帯に,1999年と2000年にはポーヤン湖近辺に渡り越冬した。
・中国においては,両種の鳥とも湿地の中より農地に滞在する頻度が高かった。農地の頻繁な利用は,農業被害,狩猟,農薬汚染等,鳥の生存にとって問題を引き起こしている可能性がある。中国における湿地環境の悪化と渡り鳥の生存への影響に関しては,個々の湿地を対象により詳細な調査が必要である
GPS位置情報収集システムに関しては,試作機のテスト・改良を行った後,ガラパゴスアホウドリを対象にして2,3か月程度の比較的短期の移動経路観測実験を行った。システムの動作確認と性能評価を行い,新試作機設計の指針と基礎データを得た。
〔備 考〕
共同研究者:樋口広芳(東京大学)・福田 明(静岡大学)
当課題は重点研究分野W.5.3にも関連
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