(6) 森林火災による自然資源への影響とその回復の評価に関する研究
〔区分名〕環境-地球推進 E-2
〔研究課題コード〕0002BA002
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕清水英幸(国際室共同研究官)・渡邉 信・大田伸之
〔期 間〕平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕インドネシアでは,焼き畑等に起因する森林火災が,森林のバイオマス・物質生産ばかりでなく,森林に生息する多くの生物種や個体数,遺伝的多様性等に多大な影響を及ぼしている。1997〜1998年には,エルニーニョの影響と思われる記録的な異常乾季と,過去最大規模の森林火災が発生したが,基準となる火災前の生物種データ等が未整備であるため,生態系・生物多様性への影響評価が困難であり,森林管理に支障をきたしている。そこで,火災が森林生態系・生物多様性に及ぼす影響を評価するための具体的指標を策定する必要がある。
本研究では,@森林火災の影響をレビューすると共に,衛星データによる影響地域の把握と経時変化の基盤的情報を整備し,A生態系や生物多様性の調査から,森林火災の影響と回復過程での森林生態系の構成樹種や森林依存性の高い代表的生物群の種数や個体数の変動を明らかにし,B火災に敏感で,その影響と回復を評価・モニタリングするための生物指標を提案し,Cまた,生態系/生物多様性の観点から火災被害林の有効な回復方策を検討することを目的とする。さらに,D先駆的リモセンによる計測情報を検討し,リモセンによる生態系/生物多様性評価の精度検証や客観性の向上を促進する。
〔内容および成果〕
これまでに森林火災の文献収集・整理を行うとともに,衛星データによる影響地域の把握や研究対象地域の選定を行った。また,インドネシア側研究グループとの国際共同研究体制を整え,東カリマンタンBukit
Bangkiraiの重度被害林,軽度被害林および無被害林に調査区(各々HD区,LD区,K区)を設定し,初期調査を行った。
(1)リモートセンシングデータなどによる森林火災の影響と回復過程の解析と総合化
森林火災と生態系の関係についてレビューした結果,@火災原因に関して,自然原因による発火の機構や,伐開地・農地からの延焼に対する森林反応の立地・埴生による違いの把握 A火災の森林生態系への影響に関して,高等動植物以外の生物多様性の現況把握,被害実態の質・量両面からの評価,バイオマスの消失と発生物質が被害後の森林樹木種子の発芽・萌芽・稚樹生長への影響,浸食土壌や塩類移動の流域単位での物質循環的観点からの影響把握 B森林生態系の修復に関して,火災後の森林生態系の長期モニタリング,森林回復の促進のための植栽,などの研究を推進する必要があると思われた。
衛星リモセンデータを用いて1997〜1998年の森林火災の影響と回復過程の評価を行った。まず,毎日広域でデータを取得している高頻度観測衛星であるSPOT衛星4号VEGETATIONモード(地上分解能1.1km)データから,雲の影響を取り除くフィルタ処理後,10日間合成を行い,正規化植生指数(NDVI)を算出して,火災の影響程度と火災後の植生回復過程を検討した。その結果,東カリマンタンに被害が集中していることが判明し,また,最大被害地域のNDVIの時系列プロファイルから,各地点の植生回復傾向の差を表現することが可能となった。
高分解能衛星であるLandsat衛星7号ETM+センサデータを用いて,火災地域の現在の植生被覆の評価を行った。25カ所の円形プロット(半径10m)で,葉面積指数算出のための全天写真を撮影し,林分構造を把握するためにビッターリッヒ法による断面積合計を推定し,枯死木を数え,最大樹高を計測した。その結果,下層植生が増加するに従ってNDVIが増加する傾向が認められ,NDVIを5クラスに分けて火災の影響評価図を作成した。
なお,雲を透過して地上を観測する合成開口レーダを用いたJERS衛星SARセンサの1993〜1998年のデータを比較可能にするためのアルゴリズムの開発を行い,1998年2〜3月にかけて研究対象地で発生した大規模森林火災による植生変動を広域でとらえることが可能となった。
(2)森林火災による生態系・生物多様性への影響と回復に関する評価解析
各調査区内の約半数のサブ区(10m×10m)で,13種(樹高1.3m以上で胸高直径4.8cm未満)の毎木調査を行った。フタバガキ科やMadhuca
kingiana等の密度はK区で最も高く,LD区で半分以下,HD区ではほとんど生育していなかった。逆に,Macaranga
gigantia等の若木はK区にも低密度で生じていたが,LD区とHD区では高密度であった。約半年間の生長率を計算すると,8種がLD区で最大となった。なお,各調査区の一部(0.28ha)で実生(高さ1.3m未満)の調査を行った結果,HD区では,火災跡地に多く生じる種以外の実生は認められなかった。
各調査区内に,データロガー付きの温湿度センサ(地上1.3mと5m),温温度センサ(地上0.5mと地下5cm),光量子センサ(地上1.3m)を設置し,調査区近くの裸地に雨量計や全自動気象観測装置を設置し,風向風速等の計測も開始した。データの一部は回収し,現在解析中である。
各調査区内に,4倍サブ区(20×20m)2カ所を設定し,腐生菌類を採集・同定した。合計種数は,K区29種,LD区27種,HD区16種であった。HD区において腐生菌類が少ない地点はシダ類や草本のアランアランに覆われており,Gloeophyllum
imponense, Pycnoporus sangu-ineus,
Rigidoporus microporusといった高温・乾燥耐性の特定菌類が出現した。K区のみで認められた菌類としては,フタバガキ科樹木に発生するPerenniporia
corticola等があった。
各調査区3カ所にマレーズトラップを設置し,カミキリムシを中心に昆虫捕獲調査を行った結果,LD区で種数,個体数とも最も多かった。LD区では火災後に木材穿孔虫であるカミキリムシにとって餌条件が良くなり,増加したと考えられた。しかし,湿った森林環境に生息するカミキリムシ類はK区に比較するとLD区でも少なく,HD区ではほとんど認められなかった。火災後3年でも自然林と比べ回復したとは言い難いことが判明した。
森林火災の被害増加に伴い,樹上性小型哺乳類種が減少し,相対的に地上性種が増加する傾向が示された。しかし,K区とHD区の間でも個体数・種数に有意差は認められなかった。種組成はK区とLD区で比較的類似していたが,優占種等は異なっていた。火災被害の増加に伴い,地上性哺乳類ではRattus
tiomanicusが増加し,Maxomys whiteheadi,Leopordamys
sabanusは減少した。樹上性ではSundasciurus
lowiが減少した。これらの種は火災影響を評価するための指標となりうることが示唆された。
(3)森林火災の影響評価のための指標策定
各調査区において,環境指標として有望な蘚苔類・地衣類のインベントリー調査,樹上および地上コドラートの遷移調査を行った。これまでに合計86種の蘚苔類を確認したが,K区で62種,LD区で45種,HD区で29種であった。LD区,HD区に出現する蘚苔類種はほとんどK区にも生育しており,多くがCalymperacaeであった。無性芽等の散布体による非火災地域から火災地域への乾燥耐性種の再侵入・再定着が示唆された。地衣類では,K区で23種,LD区で23種,HD区で16種を確認したが,まだ葉上地衣類等未同定のものも多い。希有な種として,Sarcographa
leprieurii L.(Mont.)Muell. Arg.
var. leptastra(Mass.)Zahlbr.,
Cyclog-raphina macgreorii(Vain.)Awas.
& M. Joshi等を見いだした。なお,森林火災の影響増加に伴い,樹木着生地衣類の種数・被度は低下していた。永久コドラートによる遷移調査では,今後さらに長期モニタリング等の検討を要すると考えられた。
各調査区34点で,1週間ほどの晴天後および降雨直後に,誘電率式体積水分量計を用いて土壌水分の測定を行った。その結果,林冠の破壊されたHD区では谷筋を除いて全体に乾燥していたが,LD区はかなり湿潤であった。菌根の間接的指標である外菌根性菌類は,HD区では前回調査時に全く見られなかったが,今回はカレバキツネタケが認められ,生存した宿主樹木に菌根が回復しつつあることが示唆された。また,LD区ではK区と同様に成熟林分の菌群が観察され,地下の菌根菌相は壊滅していなかったことが示唆された。各調査区16点の試料を採取し,有機物層と鉱質土層に含まれる菌根を定量したところ,K区ではほとんどの試料から菌根が検出されたが,HD区では菌根は認められなかった。
各調査区の複数地点からA層土壌を採集し,土壌の炭素と窒素の含量,粒径組成,pH等の物理化学性を調査したが,火災被害度との関連は得られなかった。一方,土壌の微生物バイオマスは,K区で最大,HD区で最小を示し,土壌呼吸量にも同様の傾向が認められた。一方,土壌から抽出した16SリボゾームDNAのPCR産物の制限酵素分解断片長の多型性(PCR-RFLP)を調べ,土壌細菌の多様性を検討したが,おそらく細菌の種類の多さから,各調査区に特徴的な断片は検出されなかった。熱帯林では,火災後の土壌細菌相の回復はかなり早い可能性が考えられた。今後,特定属に特異的なPCRプライマーを利用し,生態系破壊に敏感な細菌グループ(指標グループ)を特定できると期待される。
〔備 考〕
研究代表者:阿部泰久(森林総合研究所)
共同研究機関:インドネシア科学研究院(Simbolon,
H.他)
共同研究者:平田泰雅・斉藤英樹・槇原寛・明間民央(森林総合研究所)・梅原俊彦(通信総合研究所)・笹岡達男(生物多様性センター)・鋤柄直純・脇山成二・佐藤香織(自然環境研究センター)・大塚重人(東京大学)・山口富美夫(広島大学)・宮脇博巳(佐賀大学)
本研究は,国立環境研究所とインドネシア科学研究院との間で国際共同研究のための覚え書き(MOU)を締結した上で連携して実施した。
先頭へ