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研究成果物



 

(5) オゾン感受性突然変異体を用いた植物の環境適応機構の解明


〔区分名〕奨励
〔研究課題コード〕0101AF135
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕

〔担当者〕青野光子(生物圏環境研究領域)・久保明弘
〔期 間〕平成13年度(2001年度)
〔目 的〕大気汚染ガスのオゾンに対し感受性を示すシロイヌナズナ突然変異体から,オゾン感受性の原因となっている遺伝子の単離を目指すとともに,突然変異体の生理的・遺伝的解析を行い,オゾンによる障害の機構を明らかにすることで,複雑な植物の環境適応機構の一端を解明することを目的とする。オゾンにより植物が受ける障害の機構には,他の環境ストレスの機構との共通点が多いが,詳細は未解明である。遺伝子の変異が原因で通常とは異なるオゾン感受性を示す突然変異体の植物を解析することにより,植物の環境ストレス耐性に関わる未知の有用な遺伝子,特に発現量は非常に少ないが重要な機能を持つ遺伝子の単離をすることができると期待される。本研究を実施するまでに,我々は既にオゾン等の環境ストレス耐性にかかわるシロイヌナズナ突然変異体の選抜法を確立し,選抜した複数の突然変異体系統の解析を行って,種々の環境ストレスに対する耐性に関するある程度の知見を得ていたところである。環境保全にバイオテクノロジーを利用することの有効性が指摘されているが,そのためには生物の持つ環境適応のための機能を詳細に把握する必要がある。特に植物は環境保全に必須であり,大気汚染や紫外線などのストレス要因が植物に及ぼす影響やそれらに対する植物の耐性機構を明らかにすることは,環境保全のための新技術の開発において非常に重要である。環境ストレス耐性に関わる突然変異体から単離した遺伝子や,突然変異体の解析によって得られた情報は,植物を用いた環境モニタリングや環境修復などに利用できる。また,これらの遺伝子に関する情報は,植物の環境適応機構と環境変動による生物多様性減少機構を理解する上での基礎的知見となる。
〔内容および成果〕
 シロイヌナズナは全ゲノムの塩基配列が決定されており,分子生物学の材料として最適の植物である。突然変異原処理として薬剤処理あるいは速中性子線照射を行ったシロイヌナズナ生態型Colから4系統,T-DNAと呼ばれるDNA断片をゲノム上に挿入した生態型Ws-2から5系統のオゾン感受性突然変異体が選抜されている。これらの突然変異体の抗酸化物質の量や傷害ホルモンの生成といった生理的性質を調べるとともに,オゾン以外の環境ストレス(低温,強光,二酸化硫黄,紫外線,除草剤)耐性について調べ,原因遺伝子の環境適応機構への関与を推定した。Colの突然変異体については,異なる遺伝マーカーを持つ他の生態型C24との交配により原因遺伝子の染色体上の位置の決定を試みた。また,Ws-2の突然変異体に関しては,T-DNAとオゾン感受性の連鎖を調べた後,原因遺伝子を推定し,その機能の推察を行った。
 9系統の突然変異体はオゾン以外の環境ストレスに対して様々な耐性・感受性のパターンを示すことから,各突然変異体のオゾン感受性が単一の原因によってもたらされているのではないことが示唆された。また,抗酸化物質であるアスコルビン酸含量に野生型と突然変異体で差が無かったことから,これらの突然変異体においてはアスコルビン酸欠乏によってオゾン感受性がもたらされているのではないことが分かった。さらに,いくつかの突然変異体ではオゾン暴露中に傷害ホルモンであるエチレンの生成量が野生型よりも高く,それによって可視障害が増幅されている可能性が示唆された。Colの突然変異体においては,Col野生型と同等のオゾン感受性を持つ生態型C24との交配を行い,染色体上の遺伝マーカーの生態型による差異を利用して,オゾン感受性をもたらす原因遺伝子の位置の決定(マッピング)を行ったところ,1系統の突然変異体では原因遺伝子が第4染色体の下方にあることが推定された。一方,Ws-2の突然変異体のうち1系統からは挿入されたT-DNA断片近傍のゲノム断片が得られた。その塩基配列を決定し,一般に公開されているシロイヌナズナ全ゲノム塩基配列の情報と対応させて,染色体上のT-DNA挿入部位を第4染色体上方と決定した。T-DNA断片挿入部位近傍には遺伝子の存在が推定され,現在T-DNAとオゾン感受性との連鎖を更に詳しく解析中である。
 以上のような研究により,ある環境ストレス耐性に複数の遺伝子が関与し,それぞれの遺伝子はいくつかの限られた環境ストレスにのみ有効に機能するといった複雑な植物の環境適応機構の一端が明らかになりつつある。
〔備 考〕


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