<HOME <Index of 年報(平成13年度)

研究成果物



 

(5) 温帯高山草原生態系における炭素動態と温暖化影響の解明に関する研究


〔区分名〕環境-地球推進 B-13
〔研究課題コード〕0103BA141
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応調査,研究名〕

〔担当者〕唐 艶鴻(生物圏環境研究領域)
〔期 間〕平成13〜15年度(2001〜2003年度)
〔目 的〕温帯高山草原生態系はアジア陸域全体において大きな面積を占め,炭素蓄積密度が高く,炭素シンクである可能性が高い。当該草原生態系における炭素動態の解明は,アジア陸域,地球レベルの炭素収支の評価においても重要なカギとなっている。特に,青海・チベット高山草原を覆う植生の変化と東アジア地域全体の気候変動は極めて密接な関係を有している。このことから,東アジア地域全体の温暖化影響を明らかにするためには,当該草原生態系における温暖化影響の評価が是非とも必要である。また,高山草原生態系は代表的な脆弱生態系であり,温帯地域における多くの脆弱生態系の炭素動態と温暖化影響を把握するためには,高山草原生態系に関する新しい知見は必要不可欠である。さらに,草原生態系の炭素蓄積量の再評価はすでに世界の他の地域でも始められており,温帯の広大な高山草原生態系についての評価も早急に開始する必要がある。本研究は,代表的な温帯高山草原生態系,とりわけ青海・チベット高山草原生態系において,炭素蓄積の時間的空間的変動の測定と分析を行い,炭素蓄積過程に影響を及ぼす生物環境要因を評価し,広域な気象環境・草原生産力に関する既存の観測データを利用し,温帯高山草原生態系の炭素動態,および当該草原生態系の炭素動態に及ぼす温暖化の影響を解明することを目的とする。
〔内容および成果〕
 草原生態系におけるCO2フラックスの短期変動:CO2フラックスとそれに関連する環境要因の短期変動について以下のような結果を得た。高山草原では光合成有効光量子密度(PPFD)が高く(最大瞬間PPFD=2530μmolm−2s−1),夜間の気温が低く,飽和水蒸気圧差(VPD)も低く夜間のVPDがほとんどの場合0に近いことがわかった。このような気象環境下では,生態系CO2純交換速度の日平均は0.36mg m−2s−1に達し,夜間の呼吸速度は低かった。晴天日ではCO2フラックスの瞬時変動は,PPFDの変化に強く依存し,NEEはPPFDが1700μmolm−2s−1前後でほぼ安定することが示された。また,PPFDの高い条件下では,CO2フラックスの変化は気温とVPDの影響に大きく制限されることも示唆された。さらに,同じPPFDでは生態系のCO2吸収速度は快晴日より曇天日のほうが高いことがわかった。これらのことから,昼間の高い光合成生産と夜間の低い呼吸によって当該高山草原生態系は生育期間中において多くの炭素を蓄積している可能性が高いと考えられる。
 高山草原植物の光合成特性:青海高原では,高い日射量と低い気温により,植物の光合成光阻害が起こりやすいと考えられている<CODE NUM=00A1>そこで,本研究では,自然条件下で光阻害の発生状況と光合成物質生産に及ぼす光阻害の影響を明らかにするため,3種類の高山草本植物を実験材料として,受光量と葉の温度の測定と推定を行うとともに,CO2の交換とクロロフィルの蛍光反応の測定と解析を行った。その結果,匍匐性のSaussurea superba は直立のSaussurea katochaete及びGentiana stramineaと比べ,日積算受光量が高く,平均葉温も高いことが判明した。これらの植物では,PPFDが800μmol m−2 s−1を超えた場合,二酸化炭素固定速度が下がり始め,電子伝達速度(ETR)も低下することもわかった。また,匍匐性のS. superbaは他の二種と比べ,@光合成速度の低下を引き起こす強光のPPFDが高く,A同じ光強度では,光合成速度の低下量が少ないことがわかった<CODE NUM=00A1>さらに,他の二種と比較して,匍匐性のS. superbaの方では,@葉のPhotochemical fluorescence quenching(光化学反応に流れるエネルギーによる蛍光強度の低下)が最も高く,A光飽和点と気孔コンダクタンスも高く,B光合成速度に制限し始める気孔コンダクタンスも高いことが明らかになった。また,S. superbaでは光合成の最適葉温も高かった<CODE NUM=00A1>これらの結果から,青海-チベット高山草原における強い日射条件が草本植物に光阻害を与え,植物炭素固定を制限することが示唆された。また,匍匐性の植物は直立性のものより光阻害に対する抵抗性が高い可能性があると考えられる。
 生態系から放出するCO2の短期変動:
 高原草原生態系は,生産性が高い一方,有機物の分解速度が遅いため,炭素収支においてシンクとしての役割が大きいと考えられている。そこで,本研究では高山草原の土壌呼吸と湿地における炭素動態解明を目的として,海北高寒草寒草甸生態系研究所付近にある湿地(乱海子)で調査を行った。土壌温度を深度別に測定したところ,10cmまでの土壌温度は明瞭な日変化を示した。また,底泥中に溜まったガスの分析を行ったところ,CH4は20cmまではほとんど存在しなかったことから,表層より20cm程度までは比較的酸化的な環境であると考えられた。20cmより深くなると,CH4濃度は徐々に増加して,80cmを越えると2000ppmvに達する。また,CO2濃度は深さ70cmまでは増加する傾向があり,最大で20000ppmに達したが,それよりも深いところでは5000ppm程度まで減少した。
 中国青海高山草原において土壌呼吸の短期変動を測定した結果,土壌呼吸速度の日最大値は,5日間の調査期間中,温度の変化に対応して400から800 mg CO2 m−2 h−1 の間で変動した。生育期間の後期,夜明け時は降霜があり,気温は氷点付近に下がり,土壌呼吸速度は約200mg CO2 m−2 h−1 と1日の最小値を示した。また,1日の最大土壌呼吸速度はプロットによりばらつき,600から800mg CO2 m−2 h−1 であった。さらに,温度と土壌呼吸速度の指数回帰は,地表温についてがもっとも強い相関を示した。
 また,高山草地の夏季放牧地において,家畜から排出される糞量と遊牧民によって生活燃料として消費される糞量を調査し,炭素および窒素フローの推定を試みた。その結果,遊牧民一家族あたり糞燃料使用量は,ヒツジとヤクの糞を合わせて夏季一日あたり17.7kgであった。この割合から,夏季の92日間にこの放牧地において糞として排出される炭素量はヒツジとヤクを合わせて119kg/ha,窒素量は8.3kg/haと推定された。
〔備 考〕
共同研究者:川島茂人・杜 明遠・西村誠一(農業環境技術研究所)・鞠子 茂(筑波大学)・小泉 博(岐阜大学)・塩見正衛・堀 良通(茨城大学)・市河三英・光岡佳納子(自然環境研究センター)・方精雲(北京大学)・趙新全・李英年・師生波・曹広民(中国科学院西北高原生物研究所)


先頭へ

 


HOME

Copyright(C) National Institute for Environmental Studies.
All Rights Reserved. www@nies.go.jp