(10) 生理過程からスケールアップした冷温体林生態系の撹乱・環境応答:ふたつの大陸東岸の比較解析
〔区分名〕文科-科研費
〔研究課題コード〕0103CD204
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕竹中明夫(生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクトグループ)
〔期 間〕平成13〜15年度(2001〜2003年度)
〔目 的〕本研究課題では,変動する気候環境のもとでの森林生態系の自律的維持と応答のメカニズムを解明するために,光合成系(葉群),通導支持系(幹,枝,支持根),栄養獲得系(菌根菌を含む細根系)の生理的素過程の応答から個体の成長,さらには群集動態へとスケールアップしていく理論的・実証的な研究を行う。冷温帯性落葉広葉樹林とその構成樹種を主要な研究対象としながら,北米東北部の落葉広葉樹林のデータとの対比・検討も行う。国内での測定データに基づいてスケールアップ手法を開発するとともに,北米のデータを用いてスケールアップ手法の一般性を検証する。本研究所の担当部分は,個体を構成するシュートkら個体全体へのスケールアップ,さらに個体間の相互作用を組み込んだ森林全体へのスケールアップを行うためのモデルの開発である。
〔内容および成果〕
(1)ホオノキのシュート構造の解析
シュートを単位とする樹木の成長モデルでは,シュートの発生と死亡のプロセスが基本となる。どのような構造のシュートを樹冠内のどこにどれだけ作るのかによって樹冠全体の構造が決まってくる.本年度は,構造が比較的単純なホオノキの若齢個体(高さ1〜5m)13個体を材料に選び,そのシュートの構造を調べた。一年ごとの伸長部分(年枝)の長さを過去にさかのぼって測定するとともに,年枝ごとの太さを測定した。当年枝については葉の一枚一枚のサイズも測定した.これらのデータを解析したところ,以下のようなパターンが見いだされた。
・シュートの中には枝が大きく伸長する長枝タイプのものと枝があまり伸びずに葉を付ける短枝タイプのものがある。
・分枝直後のシュートはごく小面積の葉しかつけない
・長枝の頂芽から作られるシュートは年ごとに順次短くなっていく。
シュートの構造タイプの違いによって,枝の太さを規定しているものが葉への水分供給の必要性なのか,力学的な保持の必要性なのかも変ってくることが考えられる。また,任意の枝断面を取ったとき,そこから先の枝の総延長と総バイオマスの間に高い相関関係が見いだされた。空間獲得努力としての枝の伸長が,どれだけのバイオマスを要求するのかが定量的に把握できれば,コストと利得の兼ね合いの視点から長枝,短枝の分化の意味を説明できるものと期待される。
(2)冷温帯林の樹種ごとの空間分布パターンの解析
多数の樹種が林冠木として共存しているメカニズムは今なお謎である。構成種の種子生産能力に多少とも差があるとすると弱者はしだいに個体数を減らし,やがて絶滅するはずである。このプロセスを簡単な森林動態モデルを使ってシミュレートしてみたところ,森林の空間構造を考慮し,種子が親木の近くに局所的に散布されることを考慮すると,種子が均一に散布されるという単純な想定から予測されるよりも絶滅までに長い時間がかかることが確かめられた。これは,弱者,強者がそれぞれ集中分布をすることにより,いわば強者同士の同士討ちがおこって弱者が生延びやすくなるのだ,と考えられる。
この樹種ごとの集中化のプロセスを,点過程の理論に基づくL関数を利用して解析し,弱者の絶滅過程でしだいに集中度が高まっていく様子を定量化した。同様の解析を,苫小牧研究林内およびその近くの2つの調査区(それぞれ面積4ha)について行ったところ,樹種により集中分布をしているもの,ランダム分布をしているもの,均一分布をしているものがあった。また,同種内での大型個体と小個体の分布の対応関係を解析したところ,大小個体間で引き合う関係が見られた樹種もあれば,無関係なもの,排他的なものもあった。こうした違いは樹種による更新パターンの違いや歴史的な経緯などが総合してあらわれてきたものと考えられる。樹種ごとの更新パターンの違いと多種の共存メカニズムとの関係の解析は今後の課題である。
〔備 考〕
研究代表者:甲山隆司(北海道大学)
共同研究者:小池孝良・大崎 満・日浦 勉・露崎史朗(北海道大学)・俵谷圭太郎(山形大学)・彦坂幸毅(東北大学)・久保拓弥(地球フロンティア)
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