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研究成果物



 

(16) サクラソウ個体群の個体ベースモデルの開発に関する研究


〔区分名〕環境-環境技術
〔研究課題コード〕0002BD203
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.4 生物多様性の減少機構の解明と保全
〔担当者〕竹中明夫(生物多様性研究プロジェクトグループ)・吉田勝彦
〔期 間〕平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕野生生物の個体群における遺伝子の流動,自然選択,遺伝的浮動およびそれらが個体群の空間構造などとの相互作用のもとに適応的な遺伝形質の変異に及ぼす影響を量的に把握することは,生物多様性を進めるうえで重要な課題である。特に,遺伝子の多様性を考慮した生物多様性の保全戦略や環境影響評価,実効性のある環境緩和策の立案における個体群や種の存続性の分析や予測などにおいてはこうした研究が欠かせない。しかし,これまで野生植物を対象とした遺伝子流動や集団の遺伝的変異の評価においては,もっぱら分析の容易な中立遺伝子がマーカーとして用いられてきており,生物の生存と直接かかわる適応的形質の遺伝子についての研究はきわめて不十分な段階にある。
 本研究では,日本の野生植物の中でも特に多くの生物学的・生態学的な研究成果の蓄積があるサクラソウを他殖性植物のモデルとしてとりあげる。遺伝子地図と個体ベースモデルを活用して,個体群の存続可能性と深くかかわる量的形質を支配する遺伝子群の動態や,個体群の存続性などを詳細に分析する。その成果に基づいて,遺伝子の多様性と個体群の存続に必要な条件,保全のありかたや指針を検討する。本研究所では,特にサクラソウの個体群・遺伝子動態モデルの開発を担当する。
〔内容および成果〕
 前年度はサクラソウの個体群・遺伝子動態モデルの単純なプロトタイプを作成した。本年度は,このプロトタイプを下敷きとして,他サブテーマの現在の成果を参考にしながら,サクラソウの株の集中斑(パッチ)の拡大速度と部分的な死亡,種子の散布,新個体の定着,送粉者による花粉の散布,染色体上の遺伝子地図などを組み込める形でモデルの実装を行った。
 サクラソウは地下に作られる芽が伸びることで無性的に株を増やす(クローン成長)とともに,種子による繁殖も行う。このモデルでは,サクラソウの生育地を二次元の格子で表現する。格子の各小区画にはたかだか一株のサクラソウが生育可能とする。ただし種子由来の未熟株は複数が生存できる。クローン成長を表現するために,成熟株は隣接する小区画にその複製を配置することができるとした。
 サクラソウの花にはめしべが長いものと短いものの2タイプがあり,そのどちらのタイプの花を作るかは遺伝的に決まっている。種子を作るには,その花とは別タイプの花の花粉が必要である。花粉の運搬はマルハナバチなどの昆虫に依存している。モデルでは,ハチの訪問を確率過程として明示的に取り扱っている。一日ごとに決められた数のハチがサクラソウ個体群に飛来し,ランダムに決められた出発点から,これもランダムに決められた飛行の方向に沿って花を訪れていく。
 モデルの中で,すべての株はそれぞれの遺伝子型の情報を持っている。どの遺伝子座にどのタイプの遺伝子が載っているかという情報に基づき,それぞれの株の表現型(どのタイプの花をつけるのか,花の数はいくつか,いつごろから開花するのか,など)が決まる。異なるタイプの花からの花粉を受けとって作られた種子は,種子親と花粉親との遺伝子を組み合わせた新しい遺伝子型を持つ。
 このモデルが含むさまざまなパラメータにとりあえずの値を与えてシミュレーションを行った。サクラソウ個体群はクローン成長と種子繁殖により拡大する一方で,撹乱による死亡がおこり,定常的な個体群サイズへと近づいていった。また,送粉昆虫の多寡により集団内の遺伝的な多様性が大きく変化する様子などが見られた。
 モデル中のパラメータの値の一部はこれまでの研究成果から推定することができる。さらに次年度の成果により,必要なパラメータは一通り推定できる予定である。
〔備 考〕
研究代表者:鷲谷いづみ(東京大学)
共同研究者:津村義彦(森林総合研究所)・大澤 良(筑 波大学)・岸野洋久(東京大学)


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