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研究成果物



 

(15) 侵入生物による生物多様性影響機構に関する研究


〔区分名〕環境-地球推進 F-3
〔研究課題コード〕0105BA205
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.4 生物多様性の減少機構の解明と保全
〔担当者〕五箇公一(生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクトグループ)・椿 宜高・高村健二・永田尚志
〔期 間〕平成13〜17年度(2001〜2005年度)
〔目 的〕生物多様性を脅かす要因として,開発による生息地の破壊,環境汚染物質による生息環境の悪化のほかに,本来の生息地以外に生物種が人為的要因により運ばれ,定着する生物学的侵入があげらる。前二者はダイレクトに生物の死滅を招く要因であり,一般にもインパクトが強いが,生物学的侵入については社会的関心は相対的に低い。しかし,生物学的侵入は一度起こると生物間相互作用により生態系に不可逆的な変化をもたらし,回復を非常に困難にする。生物種の移動・定着は,無論,人間が誕生する遥か過去より,生物進化の歴史の中で繰り返されてきた自然現象であるが,現代の人為的要因による生物種の移動は,生物本来の移動・分散能力をはるかに超えた,地史的プロセスを無視したものであり,生物進化の歴史を否定する行為といえる。我が国においても,一部の病害生物種を除き,何ら法的規制もないまま,様々な種類の動植物が輸入されており,侵入生物による生物多様性の浸食の激化が危ぶまれる。生物およびその遺伝子は,半減期がある化学物質とは異なり,一度定着すると増加を続け,生態系を大きく変容させる。従って,一日も早く,有効な対策をたてる必要があり,そのための科学的データの蓄積は生物多様性保全の戦略上の急務である。
 本研究では日本における侵入種の実態を把握し,それらがもたらす在来生態系への影響を様々な角度から検証し,得られたデータをもとに侵入種による生物多様性への影響機構を解明することを目的とする。
〔内容および成果〕
(1)侵入種の生物学的特性に関する研究
 本研究では,今後の侵入生物研究で活用できる侵入生物種リストおよび生態情報の体系的整理を目標として,様々な侵入生物種の文献情報を収集し,侵入起源,現在の分布状況,生態的特性に関する情報を整理しデータベースを構築する。侵入種の生活史や増殖能力,耐寒性,移動能力などの生態的特性,侵入源,分布域,在来種への影響の仕方などの情報を論文・資料などから収集してデータベースを構築し,侵入種の特性を類型化し各侵入種の生態系にあたえる影響の大きさを評価し,特に危険度の高い侵入種のランキングを行う。
 本年度の成果として,まず,データベース掲載対象の選定を行った。脊椎動物のうち,哺乳類・鳥類・は虫類・両生類・魚類,無脊椎動物のうち昆虫類・陸産貝類,植物のうち維管束植物について選定作業を実施した。続いて,データベースの設計を行った。設計に際し,データベースの基本構造,記載項目および様式を検討した。この基本構造をもとに脊椎動物・昆虫類・維管束植物について侵入事例に関する文献情報の多い種のデータベースを試作し,運用試験を行った。
(2)侵入種が種多様性に及ぼす影響機構の解明に関する研究
 代表的な侵入種について在来生物相に及ぼす影響を競合・捕食,遺伝子浸透,寄生生物の持ち込みの各要因に分けて解析した。野外における侵入種および在来種の分布を時間的・空間的に把握し,分布規定要因および種間相互作用を検証する。また,侵入種と在来種の交雑の実態を分子遺伝学的手法(DNA変異など)を用いて解明する。侵入種による寄生生物の持ち込み状況を調べる。本年度の成果は以下のとおりである。
・在来魚種モツゴへの外来魚の影響:オオクチバスおよびブルーギルによる捕食効果が在来魚モツゴ集団の遺伝的変異に及ぼす影響評価を行うために,モツゴのマイクロサテライトDNAマーカーの探索を行った。
・交雑による外来マスの侵入:上高地梓川上流域における在来種イワナと侵入種カワマスおよびブラウントラウトの種間相互作用を交雑による遺伝的浸食,餌および繁殖空間を巡る種間競争に焦点を当てて,分子遺伝学的調査および野外生態調査を行った。その結果,種間交雑とともに餌や繁殖をめぐる競争によって外来種が在来種の存続を脅かしている実態が明らかになった。
・ 東海地方におけるメダカとカダヤシの分布とその実態:東海地方における在来種メダカと侵入種カダヤシの分布実態を明らかにし,両種が同所的に分布している地点についてはその種間相互作用を調査した。その結果,侵入種は在来種に対して攻撃を仕掛ける性質があり,競争的排除を招く恐れが示唆されたが,両種には塩分耐性に差があり,それによって分布域に差が生じている可能性が示された。
・ 輸入鳥類による日本産鳥類へのマラリアの感染:ペット用輸入鳥類によって鳥マラリアが持ち込まれ野外の鳥類に感染している可能性を検証するために,日本の野外鳥類についてマラリア特異的DNAプライマーを用いて感染状況を調査した。その結果,メジロ,ホオジロ,ウチヤマセンチュウ,オオヨシキリで高い感染率が認められた。
・ ソウシチョウと在来鳥類の餌利用空間分離:九州えびの高原における侵入種ソウシチョウと在来鳥類の種間相互作用を明らかにするために,採餌空間利用状況を調査した。その結果,侵入種は在来種が利用していない餌空間を利用することによって,定着・野生化に成功したことが示唆された。
・カメ類の雑種個体の形態的・遺伝的特性:由来が不詳とされてきたクサガメについて在来種イシガメとの遺伝的関係を明らかにするために,交雑実験および形態精査,分子遺伝学的マーカーによる遺伝解析を行った。その結果,雑種は両種どちらとも大きく異なる形態的特徴を示し,独立した別種として記載される危険性すらはらむものであることが判明した。また分子遺伝学的解析により,日本に古くから馴染みのクサガメも実は侵入種である可能性が高いことが判明した。
・輸入昆虫がもたらす生態影響:農業用セイヨウオオマルハナバチおよびペット用クワガタの野生化の実態と在来種への生態影響評価を目的として,野外調査および交雑実験,寄生生物の持ち込み状況調査を行った。その結果,セイヨウオオマルハナバチについては北海道を中心に野生化が進行していることが判明し,交雑実験により精子競争による交尾攪乱が起こる可能性が示された。輸入クワガタについては野外での捕獲例があることが判明し,在来種との種間交雑によって妊性のある雑種が生成することも判明した。またマルハナバチおよびクワガタとも,寄生性ダニをはじめとする外来寄生生物を持ち込んでいることが判明した。
・外来牧草が絶滅危惧植物に及ぼす影響:鬼怒川流域の河原における侵入雑草(牧草)であるシナダレスズメガヤが絶滅危惧種カワラノギクに及ぼす生態影響評価を目的として,野外調査を行った。その結果,侵入種が河原資源を独占することにより,カワラノギク集団を圧迫し,分布を拡大していることが明らかになった。
 これらの結果から,侵入種は野生化・分布拡大の過程で,在来種との間に餌資源および繁殖空間という生態ニッチェをめぐって競争が生じた場合,在来種の存続を脅かす可能性が高いことが示された。一方,微妙に生態ニッチェが異なることにより,在来種が利用していない空間に侵入種が入り込み,定着に成功するパターンも示された。侵入種の起源や侵入種と在来種の種間交雑による遺伝的浸食の実態を明らかにする上で分子遺伝マーカーが非常に有用であることが判明した。様々な寄生生物が侵入種とともに持ち込まれている実態も明らかになった。
〔備 考〕
 遺伝子地図と個体ベースモデルにもとづく野生植物保全戦略の研究


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