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研究成果物



 

(14) 地理的スケールにおける生物多様性の動態と保全に関する研究


〔区分名〕環境-地球推進 F-1
〔研究課題コード〕9901BA194
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.4 生物多様性の減少機構の解明と保全
〔担当者〕椿 宜高(生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクトグループ)・高村健二・永田尚志・五箇公一
〔期 間〕平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕地球上には様々な生物が生存しており,学術的に記録されているだけでも140万種,実際には1000〜3000万種の生物が存在しているとも言われている。このような生物多様性は生命の誕生以来,40億年をかけた進化によって形成されたものであり,人類の生存の基盤をなす重要なものである。生物多様性を保全し,また適正に利用するために,1992年6月の地球サミットにおいて署名された生物多様性条約が1993年12月に発効された。我が国も1993年3月に条約を批准し,締約国となった。さらに,我が国では1995年10月に地球環境保全に関する関係閣僚会議において生物多様性国家戦略が決定され生物多様性保全の取組が方向付けられて,生物多様性の保全に一層の努力が傾けられるようになった。
 生物多様性の実体についてはそれを構成する生物と環境との関係の複雑さから未解明の部分が多かったが,最近の自然・社会科学の発展に由来する新しい研究方法論・技術が取り入れられて,従来想像の域を出なかった分野においても検証可能な推論が実現されてきた。本研究では,生物多様性の地理的な構造の把握とそれに基づいた生物多様性の動態解明を進め,生物多様性の保全を体系的に進めるための研究を行う。
〔内容および成果〕
 野生生物が絶滅に至る主要な原因は人間の開発行為による生息地の縮小と分断化である。縮小の影響に関しては,これまでの研究(国内外および過去の地球推進費による研究)によって知見が蓄積されてきた。しかし,分断化の影響については未解明の部分が多かったため,生物と生息環境の両者の分布を地理情報システム(GIS)に載せて両者の関連を解析した。生物の分布は環境省緑の国勢調査を初めとする既成の調査試料と我々が独自に調査した資料に基づき,生息環境については国土地理院の地図情報・航空写真や環境省の植生図等から植生・土地利用の状態に従って景観分布を判別した。これらの資料を基礎として,各種生物の生息適地判別・生物群集分布の地域内統合度算定・生息分布機構の解明を行い,同時に調査・解析手法の開発を進めた。
(1)野生動物の潜在生息地を推定する手法の開発
 野生生物の保全に必要不可欠な基礎情報は,その生物が何処にどれだけいるかという網羅的な分布地図であるが,現に入手可能な情報のほとんどは点情報でしかなく,しかも断片的である。点情報を集めて面に近い分布情報にすることは膨大な時間と労力がかかるので,点情報を面情報に翻訳する装置(モデル)を作成することが現実的である。その理論基盤となるのは生物の分布要因論である。既成の分布要因論には,気候適応や地理的バリアーを拠り所に大スケールの分布を議論する生物地理学と,物理的環境条件や種間関係を拠り所に小スケールの分布を議論する生態学とがあるが,保全生態学の分野では両者を統合するような分布要因論が重要となる。本年度は生物の潜在生息地を大スケールで推定する簡単な手法の開発を行った。前年度開発したカワトンボ類の生息地の好適性評価モデルを用いて,その分布可能域を広域地図化した。用いたパラメータは,国土地理院の1キロメッシュを単位に計算した各メッシュの年間積算温量,森林の割合,河川(1/25000地形図に記載されているもの)の有無で,その総合評価を好適性の評価基準とした。栃木と茨城を流れる那珂川流域についてのフィールド調査により,その結果の検証(好適と評価された地点に実際にカワトンボが生息するかどうか)も行ったが,きわめてよい合致をみた。しかし,同じパラメータを使って他地区(石川県)への当てはめを試みたところ,モデル予測と実際の分布に微妙な食い違いが生じた(気候適応の地域差が原因かも知れない)。この問題は,地域ごとにパラメータの微修正をすることで,ある程度解決可能である。
(2)バイオトープの地理的分布と野生生物個体群サイズとの連関の解析
 霞ヶ浦周辺ではヨシ原の分断化が進み,ヨシ原で繁殖するオオヨシキリの生息数が減少していることが予測される。そこで,ヨシ原の地理的分布がオオヨシキリのヨシ原選択に与える影響を解析するために,霞ヶ浦の周辺のおよそ1000km2の地域において,航空写真から識別した820箇所のヨシ原を踏査して,オオヨシキリの生息状況を調査した。オオヨシキリが繁殖するためにはヨシ原は必須であるが,38.8%のヨシ原で生息が確認されただけであった。調査地域のヨシ原はほとんどが標高25mまで分布していたが,オオヨシキリが生息していたヨシ原の平均標高は1.25±2.5m(182ヵ所)であり,標高10m以上のヨシ原にはほとんど生息していなかった。オオヨシキリの生息を予測するために,ロジスティック回帰モデルを変数増減法で構築したところ,ヨシ原の標高とオオヨシキリの生息するヨシ原の中でも大きなヨシ原からの距離との2つの変数が選択された。大きいヨシ原は,個体群サイズが大きく,繁殖成功度が高いので,ソース個体群として機能していると予測された。このことは,オオヨシキリの生息するヨシ原の予測には,標高という地形的条件だけではなく,ソース個体群からの距離という個体群生態学的な要因が重要な影響を与えていることを意味している。オオヨシキリの生息予測モデルの開発過程を通して,植生や標高などの生息環境条件から生物の生息予測がある程度可能となるが,モデルのさらなる向上には生物の個体群構造に関する情報が重要であることがわかった。
(3)農耕地河川流域に生息するトンボ類の生息場所利用
 農耕地を流下する河川の周辺には水田・畑地・果樹林・草地・植林地・雑木林といった野生生物にとっての様々な生息場所が河川を挟み込むように位置している。これらの生息場所を利用する野生生物は多くの場合,季節や生物自身の生活史段階に応じて複数の生息場所を使い分けて利用している。この利用様式はそれぞれの生息場所で利用可能な資源が季節とともに変化することに応じていると考えられるが,その資源の存在様式がこれらの生息場所における生物多様性の動態の鍵になると考えられる。本研究は,これらの生息場所を横断的に利用することの多いトンボ類成虫についてその分布の季節変動を観測し,生息場所の資源動態との関連やトンボ種によるその利用特性を明らかにするために進めているものである。本研究の実施によって,農耕地河川周辺の環境の生物多様性保全の観点からの評価が可能になるものと考えられる。
 本年度も前年度に続いて,河川周辺の生息場所を横断する径路にそってトンボ成虫の個体数計数を種毎に行なった。またトンボ成虫の餌となる昆虫類について捕虫網によるすくい取り採集を行った。この方法で採集された昆虫の中から,ハエ・カなどの双翅目昆虫の採集量に着目して,トンボ成虫の分布量との関係を生息場所ごとに区分しながら分析した。もっとも生息密度の高いノシメトンボは森林内にとどまる初夏の頃に双翅目昆虫量との相関が高くなり,餌資源量に対応して分布していることが示唆された。しかし,他の高密度生息種については必ずしも同様の傾向が認められなかった。トンボ種間には体サイズの違いなど餌利用に差異をもたらす形質の違いが存在するので,種による餌選択性の違いを明らかにする必要があると考えられた。
〔備 考〕


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