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研究成果物



 

(12) リスク評価のためダイオキシンによる内分泌かく乱作用の解明


〔区分名〕戦略基礎
〔研究課題コード〕9904KB076
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕

〔担当者〕遠山千春(環境健康研究領域)・野原恵子・大迫誠一郎・石村隆太・青木康展・藤巻秀和・掛山正心・米元純三・ 曽根秀子・宮原裕一・西村典子
〔期 間〕平成11〜16年度(1999〜2004年度)
〔目 的〕比較的低濃度のダイオキシン類への曝露によって,精子形成能の低下,子宮内膜症の発生,性比の異常,内分泌・免疫系の揺らぎ,脳機能・行動への影響など,内分泌攪乱作用を示唆する報告が蓄積しつつあるが,ダイオキシンの内分泌攪乱作用メカニズムについては,ほとんど解明が進んでいない。そこで,我々は,生殖機能,脳機能・行動,免疫機能の面から研究を行うこととし,3つの研究グループを編成した。さらに,これらの3分野の研究を縦糸とすると,横糸の関係にあるリスク評価を第4グループとして位置づけた。
 具体的には,マウスやラットなどの実験動物を用いて,受精卵から出生までの期間にダイオキシンに曝露させ,内分泌攪乱作用を把握するとともに,そのメカニズムの解明を行うことを目指している。本研究により,感受性が高い妊娠から出生までの時期におけるダイオキシンの作用メカニズムの解明とそのリスクアセスメントへの適用が大きく進展するものと確信している。
〔内容および成果〕
 (1)生殖機能への影響:マウス受精卵の体外培養系で発育段階ごとにTCDDの影響を調べた。その結果,発生段階ごとにAh受容体(AhR)の発現レベルとCYP1A1の発現レベルが必ずしも一致しないこと,初期胚発生の各段階でTCDDに対する感受性が異なる可能性が示唆された。ダイオキシン類の新生仔の精巣への作用は小さいが,ステロイド合成に影響を及ぼす可能性が示唆された。妊娠13日目のAhR欠損マウスにTCDDを1回投与することにより,生後14日目に雄マウスの肛門生殖突起間距離の短縮と Probasin の消失が観察されたことから,TCDDによりこれまでに観察された雄性生殖器に対する影響は,AhR 依存性であることが示唆された。妊娠ラットにおいて,TCDDが母体血液から胎盤へのグルコース輸送を担うトランスポーター遺伝子GLUT3の発現量を増加させることにより,糖代謝の変調を起こすことが示された。
 (2)脳機能・行動への影響:これまでTCDDは膣の開口時期を遅延させることが報告されていたが,200ng/kgのTCDDをLong-Evans系ラットに投与することにより,卵巣重量増加,膣開口,性周期開始時期が用量依存的に早くなっていることが確認された。このメカニズムとして,視床下部・下垂体のエストロゲン・フィードバック機構の成熟が早まることが示唆された。
 妊娠15日目のHoltzman系ラットに200ng/kgのTCDD を経口投与したところ,雄の仔の脳におけるSDN-POAの体積の有意な減少が認められた。これまでの甘味嗜好試験におけるTCDD曝露による雄性化の阻害や,新生仔期の脳aromatase活性の変化の結果を併せて考慮すると,胎生仔及び新生仔脳でestradiolの産生量が低下した結果,SDN-POAの発達が阻害されて雄性行動に変化が生じたと考えられた。
 C57BL/6系マウスを用いてTCDDを胎生期に曝露し,胎仔脳及び頭部から抽出した mRNAをマイクロアレイ法で解析した。その結果,唾液腺で発現しているuncoupling protein 1 (UCP-1),demilune cell-specific proteinやsalivary alpha-amylaseの変動を新たに見いだした。
 TCDDの血清T4および肝レチノイド低下におけるAhRの関与を明らかにする目的で,妊娠12.5日の雌AhR(+/−)マウスにTCDD 10μg/kgを経口投与し生後21日目に仔を解剖した。AhR(+/−)雌雄マウスでは血清TT4および FT4レベルの有意な低下,肝臓中レチノイド量の有意な減少,肝臓UGT1A6,CYP1A1 およびCYP1A2 mRNAの有意な誘導が認められたが,AhR(−/−)マウスではこれらの影響は認められなかったことから,TCDD曝露による甲状腺機能障害およびレチノイド代謝異常にAhRが関与していることが明らかとなった。
 (3)免疫機能への影響:抗原と反応したB細胞が抗体産生細胞に分化するためには,T細胞から分化したTh2細胞との相互作用や,Th2細胞が分泌するサイトカインの働きが不可欠である。TCDDはTh2細胞由来のIL-4,IL-5,IL-6の産生を抑制し,IL-5産生量を指標としたところ1μg/kgと低用量から用量依存的な作用が見られた。さらにin vitro再構成実験から,TCDDは抗原提示細胞ではなく,主にT細胞に影響を及ぼすことが明らかとなった。
 外来異物により活性化されたB細胞は,増殖して胚中心を形成し,抗体産生細胞に分化して異物に対する抗体を産生する。この一連の反応に及ぼすTCDDの影響について検討した。C57BL/6系マウスを卵白アルブミン(OVA)で免疫すると同時に20μg/kgのTCDDを単回経口投与し,血中のOVA特異的IgG1値,脾臓のリンパ球亜集団の変動および胚中心形成について解析した。その結果TCDDがB細胞の活性化および胚中心におけるB細胞の増殖を抑制して胚中心形成を抑制し,その結果血中の抗OVA IgG1量が減少することが示唆された。
 (4)内分泌攪乱作用に基づいたダイオキシンのリスク評価手法の提示:TCDDの母親から仔への移行および体内分布におけるAhRの関与を明らかにする目的で,妊娠12.5日のAhR(+/−)マウスに10μgTCDD/kgを経口投与した。その結果,胎盤中のTCDD濃度は,遺伝型による差は認められなかったが,胎仔のTCDD濃度は,AhR(−/−)ではAhR(+/−)やAhR(+/+)に比べ有意に低かった。
 TCDDの体内負荷量と各種エンドポイントとの関係を検討した。用量尺度として,妊娠ラットの投与1日後の脂肪組織中TCDD濃度をGC/MSで測定し,体内負荷量の代替用量(surrogate dose)として用いた。ダイオキシン濃度が実測できなかった場合には,投与量から体内負荷量を推定した。推定値は,実測値よりも約45%低い値を示した。今後さらにデータを蓄積し,血清濃度と各組織中濃度との関係,標的組織の濃度とエンドポイントとの関係を検討し,LOAELやLOELをもっともよく反映する用量尺度を検討する予定である。
〔備 考〕
所内共同研究者(H13以降):本田徳穂・呉  慶・座波ひろ子・九十九伸一・井上 薫・伊藤智彦・西村典子・横井千沙子・竹内陽子


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