(2) 新しい抽出媒体を用いた汚染物質の回収に関する基礎的研究
〔区分名〕奨励
〔研究課題コード〕0101AF121
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕稲葉一穂(水土壌圏環境研究領域)・越川昌美
〔期 間〕平成13年度(2001年度)
〔目 的〕環境試料中に含まれる汚染物質の分析では,クロロホルムやヘキサンなどの有毒で危険な有機溶媒による抽出操作が広く使用されている。このような危険な有機溶媒の代替となる抽出システムを開発することを最終目的として,本課題では加熱することで固化・析出する高分子や界面活性剤の作るミセルを主要な検討対象とし,抽出能力がどの程度あるのか,代替抽出媒体として使用に耐えるだけの操作性を有するのか,新たな機能の付加や用途の拡大などの可能性があるのか,といった点を具体的な環境汚染化学物質の抽出挙動を測定して検討した。本課題では研究の第一歩として実験室での環境試料の分析時に行う抽出・濃縮操作のレベルを想定し,幾つかの環境汚染に関与している化学物質の平衡時の抽出率,濃縮率,最大抽出量,最適抽出条件などを測定した。
〔内容および成果〕
新規抽出媒体として熱固化性高分子(ポリビニルメチルエーテル:PVME)と非イオン性界面活性剤ミセル(ポリエチレングリコールt-オクチルフェニルエーテル:TX),陰イオン性界面活性剤ミセル(ドデシル硫酸ナトリウム:SDS)の2種のミセル系を用いた。従来から使用されている有機溶媒(ジクロロメタン:DCM,ヘキサン:HEX)についても同様の測定を行った。対象とする汚染物質は水に溶けにくい有機化合物とし,環境ホルモン物質(ビスフェノールA:BA,β-エストラジオール:ES)およびそれに類似する有機化合物(トリクロサン:TC)の3種とした。分配平衡に達した後の水相および抽出媒体相中の化学物質濃度は高速液体クロマトグラフィまたはガスクロマトグラフ質量分析計で測定した。
熱固化性高分子および2種類のミセルを抽出媒体として3種の化学物質の抽出率を測定したところ,抽出率は媒体の濃度の上昇と共に増加し,PVME系では溶液中のPVME濃度が0.03%(TC),0.2%(BA),0.3%(ES)以上で抽出率が90%以上となり,濃縮効率が高いことが明らかになった。一方,TX系では0.2%(BA,TC),1%(ES)以上で90%以上の抽出率となったが,SDS系では抽出率は低く,SDS濃度が1.2%でもBAは50%,ESは67%程度しか抽出されなかった。DCMでは体積比1:1で97%(BA),99.6%(ES),99.9%(TC)が抽出されるが,HEXでは体積比1:1では3%(BA),61%(ES),99.9%(TC)と対象物質により大きな差が見られた。最大抽出量はPVME系では試料溶液に0.3%のPVMEを添加することで1×10−4M以上の対象物質を90%以上の抽出率で回収でき,かなり高濃度の試料の抽出にも利用可能であると考えられた。
一方,試料中の共存物として塩化ナトリウムとフミン酸を添加して抽出率の変化を測定したところ,PVME系,TX系,DCM系,HEX系では抽出率に大きな影響は見られなかったが,SDS系では塩化ナトリウムの添加で抽出率が急激に上昇した。一方,溶液の水素イオン濃度をpH0.5から11まで変化させて測定したところ,PVME系ではpH3以上ではPVMEの固化が起こりにくくなるために回収率が急激に低下し,pH4.5以上では全く抽出できないことが分かった。この現象は溶液に塩化ナトリウムを添加することで防ぐことが可能で,0.4Mの塩化ナトリウム添加でpH8程度まで抽出率の低下を防ぐことが可能であった。
以上のように熱固化性高分子など新規抽出媒体は抽出率が高く,取り扱いも簡便で抽出時の振り混ぜによる不純物混入の心配がないことなどの利点があり,従来からの有機溶媒と比較しても利用を検討するに値する媒体であることが分かった。今後は媒体相からの目的物質の回収などの操作条件を詳細に検討していくことで,有機溶媒の代替としての使用が可能と考えられる。またこれらの媒体による抽出操作にサイズや官能基による分子認識機能や発色・発光機能を導入することでセンサーとしての使用ができるなど,簡便で『環境にやさしい』新たな環境分析手法の開発が期待できることも分かった。
〔備 考〕
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