(6) 非制御燃焼過程におけるダイオキシン類等の残留性有機汚染物質の生成と挙動
〔区分名〕環境-廃棄物処理
〔研究課題コード〕0002BE276
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.2.1.3 資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究
〔担当者〕酒井伸一(循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)・安原昭夫・橋本俊次・鈴木規之
〔期 間〕平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕非意図的副生成物としての残留性有機汚染物質(POPs)の代表例である塩素化ダイオキシン類については,既知の発生源インベントリーに基づいた削減方策が推進されつつある。このダイオキシン類の既知の発生源に対して,正確に発生量を見積もることが困難で,かつ場合によっては大きな発生源負荷となる可能性があるのが,非制御下の燃焼過程である。具体的には,廃棄物埋立場の自然発火現象や建築構造物の火災といった非制御下の燃焼過程からの発生であり,日本や米国におけるごみの裏庭燃焼のみならず,アジア諸国ではこうした発生源が多くあるものと考えられる。そこで,廃棄物埋立場の自然発火現象に伴うPOPsの発生と影響の実態に関し,フィールド研究を行う。これに並行して,非制御燃焼過程からのPOPs発生源単位を燃焼試験から推定する手法を検討し,発生量の見積もりを行う。こうした発生源からのPOPs生成と環境蓄積との関係を把握するため,底質コアと海棲哺乳動物を用いた時系列トレンド解析も研究目的の一つとする。
〔内容および成果〕
本年度は下記の5つのサブテーマについて研究を進めた。
1)途上国都市ゴミ集積場における有害物質の汚染と影響
アジアの途上国に遍在する都市ゴミ集積場の土壌および周辺住民を対象に,ダイオキシン類を含む有機塩素化合物による汚染の実態解明を試みた。その結果,カンボジアのゴミ集積場内の一部土壌から日本の環境基準値1000pg-TEQs/gを超えるダイオキシン類が検出され,ゴミの燃焼にともなうダイオキシン類の生成が明らかとなった。ゴミ集積場周辺と対照地域住民の母乳を分析したところ,インドの住民はHCHsが,ベトナム,カンボジア,フィリピン住民はDDTsが相対的に高濃度を示し,インドのゴミ集積場周辺住民のダイオキシン類濃度(TEQs)には,先進諸国の一般人に匹敵する値がみられた。インドとカンボジアの母親から採取した母乳のダイオキシン類濃度と血清のビタミンAレベルの間には負の相関関係がみられ,ヒト体内のビタミンAホメオスタシスはダイオキシン類に対して敏感であることが推察された。
2)非制御燃焼過程と有機臭素化合物の排出係数
TBBP-A,PBDEsなどの有機臭素系難燃剤およびPBDDs/DFsなど有機臭素化合物の,非制御燃焼過程を中心とした挙動を把握するため,一次燃焼,二次燃焼,廃ガス冷却,排ガス処理の各機能を有するラボスケールシステムを用いて燃焼試験を行い,非制御燃焼過程からの排出係数の見積もりを行った。非制御燃焼過程を模擬した燃焼条件での有機臭素化合物の排出係数値は,PBDEsでは2〜4オーダー程度,TBBP-Aでは3〜6オーダー程度,PBDDs/DFsでは2〜7オーダー程度,制御下燃焼過程を模擬した場合に比べて,大きな値を示した。非制御燃焼過程に伴う有機臭素化合物の排出量は,二次燃焼やガス冷却,集塵,ガス吸着などの過程を経ることによって,大きく減少することが考えられた。
3)湖沼および沿岸堆積物中に記録された環境汚染の歴史トレンドの解明に関する研究
過去百数十年間の環境変遷の歴史トレンドを記録していると考えられる湖沼および沿岸堆積物を解析することで,過去の環境汚染の歴史的変遷を明らかにした。大阪市内のため池,大阪湾,広島湾の堆積物を採取し,堆積物試料の堆積年代は210Pb法及び137Cs法を併用して特定した.堆積物中の主成分,微量成分の22元素を分析した結果,重金属元素のクロム,ニッケル,銅,亜鉛,ヒ素,水銀,鉛が人為的に環境に排出され,堆積物を汚染していることが明らかになった。大阪湾では,これら重金属元素の汚染は1900年代当初から進行していることが明らかになった。また,ため池(長池)堆積物の解析からも,大阪においては顕著な重金属汚染が第二次大戦前から発生していたことが明らかになった。
4)残留性有機汚染物質(PBDEs,PCDD/Fs,PCBs)の底質中歴史トレンド
大阪湾および琵琶湖南湖において採取された底質コアの各層中のPBDEs濃度を分析し,底質中におけるPBDEsの垂直方向の濃度分布について検討を行った。大阪湾底質コア中のPBDEs濃度については,1957年以前の層では検出されず,1984年の層で検出され,その後表層に向かい一貫して増加し,最表層では90ng/g-dwであった。PBDEsの濃度トレンドについては,濃度ピークがPCBsより表層側で見られた。また大阪湾の河口部,沖および湾央において採取された表層底質試料中のPBDEs濃度を分析し,表層底質中PBDEs濃度の水平分布について検討を行った。大阪湾表層底質中のPBDEsについては,ほぼすべての試料でD10BDEが非常に高い割合を示す分布を示した。またD10BDE濃度については,河口部は910〜120ng/gであり,沖に向かい濃度は減少し,もっとも河口から離れた地点ではNDであった。D10BDE以外の同族体については,河口部でのみ検出された。
5)鰭脚類および鯨類における有機塩素化合物蓄積の経年変動
南氷洋のミンククジラ,ロシアのバイカル湖およびカスピ海のアザラシに注目して,有機塩素化合物の過去の汚染を復元することにより,地球規模での汚染変動の究明を試みた。バイカルアザラシ(1992年から1998年),カスピカイアザラシ(1993年から1998年)における有機塩素化合物蓄積濃度はいずれも経時的に減少し,その組成も代謝物や残留性の高い物質の割合が増加した。さらに,魚中残留濃度も減少傾向を示したことから,バイカル湖とカスピ海では,ほとんどの有機塩素化合物の流入量が減少していると考えられた。しかし,1993年と1998年の間でカスピカイアザラシのPCB蓄積濃度に有意な差はなく,カスピ海へのPCBsの流入は今なお続いているものと推察された。南氷洋のミンククジラにおけるDDTs蓄積濃度は,1990年代初頭から1999年にかけて緩やかな減少傾向を示したが,PCBsは1990年代中頃まで増加傾向を示し,以後やや減少する傾向が認められた。しかしながら,バイカルアザラシ,カスピカイアザラシなどの陸水種や沿岸性の海棲哺乳類に比べると,ミンククジラの1990年代における有機塩素化合物低減率は極めて小さく,外洋などの遠隔地における汚染の長期化が懸念された。
〔備 考〕
共同研究者:高月 紘(京都大学)・山崎秀夫(近畿大学)・田辺信介(愛媛大学)
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