(10) ダイオキシン類・PCBの分解処理とバイオアッセイモニタリング
〔区分名〕文科-革新的技術
〔研究課題コード〕0002CE280
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.2.1.3 資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究
〔担当者〕酒井伸一(循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)・野馬幸生・滝上英孝
〔期 間〕平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕難分解性の残留性有機汚染物質(POPs)の代表的物質であるダイオキシン類やPCBに対して,分解処理技術の機構解明と包括的・簡易モニタリング手法の確立を目的としている。具体的には,(1)毒性発現機構とリンクした指標の確立 (2)分解処理機構の解明 (3)分析の簡易迅速化と制御指標の検討を主たる目標としている。
〔内容および成果〕
本年度は,以下の(1)〜(3)を中心に研究を進めた。
(1)薬物代謝酵素誘導によるダイオキシン類縁化合物のバイオアッセイ手法の開発と評価:バイオアッセイ手法として,ラット肝臓ガン培養細胞にレポーター遺伝子を導入した細胞を利用し,ルシフェラーゼ活性を測定するCALUX(Chemical-Activated
Luciferase GeneExpression)とEROD(7-ethoxyresorufin
O-deethy-lase)バイオアッセイをさまざまな廃棄物や環境試料に適用し,両者の比較検討とダイオキシン関連物質標準体の評価を行う。
(2)ダイオキシン類含有フライアッシュの脱塩素化処理過程の機構解明とモニタリング:脱塩素化処理におけるフライアッシュ性状の変動と処理物の性状変化をみるため,脱塩素化実処理装置の処理前原灰と処理灰の採取と,ラボ装置による脱塩素化試料の作成を実施する。これらの試料に対して,ERODやCALUXを適用して毒性等量値を求め,ダイオキシン類の化学分析値と比較を行う。さらに,フライアッシュ試料をバイオアッセイで分析する際の妨害成分除去法を確立し,それを組み込んだ前処理法で処理したフライアッシュについてデータを得る。
(3)廃PCBの化学分解処理機構の解明とモニタリング手法の開発:廃PCBの安定的な分解処理手法の確立に資するため,パラジウム/カーボン触媒(Pd/C)を用いた水素化化学分解などによる廃PCBの化学処理実験を行い,分解処理前後の化学性状,種々のバイオアッセイによる情報を獲得し,分解メカニズムに対する知見を得る。重要な問題はPAHsなどの共存成分の前処理方法であり,この課題に取り組む。
これらの研究・技術開発の本年度実績として以下の知見を得た。
(1)CALUX-TEQが化学分析-TEQと比べて高めの値を示す化学分析対象外の原因物質として,臭素化ダイオキシン/フラン[PBDD/Fs,PXDD/Fs(X=Br
or C1)],臭素系難燃剤(PBBs,TBBP-A,PBDEs等),ポリ塩化ナフタレン(PCNs)およびニトロ化または塩素化PAHsについてCALUXでダイオキシン様活性を求めた。OBDDを除く16種の臭素化ダイオキシン/フランは塩素化ダイオキシン/フランに近い活性(CALUX-TEF)を示した。臭素系難燃剤23種ではPBBsでPCBsと同等の活性が検出されているが他の難燃剤の活性は弱い(CALUX-TEF:2.5E-6〜1.3E-4)か検出限界以下であった。ポリ塩化ナフタレン16種の活性も弱いか検出限界以下であり,最も活性の強かった1,2,3,4,6,7-PCNのCALUX-TEFは2,3,7,8-TCDDの約1/1000であった。また,4種のニトロ化または塩素化PAHsの活性は検出限界以下であった。
バイカル湖生態系の化学物質汚染に関して,バイカルアザラシはダイオキシン類の曝露を受けており,その体内残留濃度は肝臓中のCYP1ファミリーやUDPGTの発現レベルを変化させるほどであった。このことはアザラシのAhR信号伝達系や異物代謝酵素系がダイオキシン類やPCBsによって攪乱されていたことを示唆しており,バイカル湖でみられた本種の大量死および奇形などの異常がこれら化学物質の蓄積により生じた可能性は否定できなかった。また,UDPGT(UGT1)の誘導がみられたことから,血中T4レベルを減少させ,脳や神経系などに影響を及ぼしている可能性も示唆された。
(2)フライアッシュ中のダイオキシン類は,窒素雰囲気下の加熱処理により高塩素化物から低塩素化物になり,脱塩素化していくことが,同族体や異性体の分布の変化から確認された。化学分析値とバイオアッセイ値は相関性が認められ,バイオアッセイ値は化学分析値に比べて高めの値であるが,1.1〜5.5倍の範囲に収まっており,脱塩素化処理でのモニタリング手段としての有効性が認められた。また,PAHs標準品およびフライアッシュ実試料を用い,バイアッセイ用前処理法について検討した結果,44%硫酸シリカゲル加熱還流法がバイオアッセイにおいて測定を妨害するPAHsの除去法としての有効であることを示す結果が得られた。
(3)廃PCBの安定的な分解処理手法の確立に資するため,Pd/C触媒を用いた水素化化学処理,及び紫外線分解法による脱塩素化処理により,PCB各異性体を出発物質として分解処理実験を行い,時間経過と共に中間体や生成物を特定することにより,結合位置別の反応速度の比較と脱塩素化の経路の解明を行った。その結果,Pd/C触媒分解法では,一般にオルト位の塩素を残す形で反応が進んだ。オルト位の塩素はベンゼン環による立体的な障害のため,パラ位,メタ位に比べて反応速度は遅く分解過程の最後までオルト位の塩素は残ったためと考えられた。また,両側を塩素ではさまれた位置にある塩素も立体障害を受け,その脱離速度は遅く,立体障害の少ない塩素から順に脱離していった。紫外線分解法では,2,3'4,4',5-ペンタクロロビフェニルではオルト位から塩素が脱離する一方,デカクロロビフェニルでは3位または4位の塩素が脱離するなど一様ではなかった。また,2つのベンゼン環からの塩素脱離はバランスよく脱離する傾向にあり,どちらかのベンゼン環に塩素が偏って残留することはなかった。
廃PCB油の化学処理過程における分解挙動をバイオアッセイにて簡易,適切に測定を行うために,試料前処理法の検討を行った。PCB絶縁油中の鉱物油に含まれるAhR活性物質の除去を目的として,PAHs除去に効果のみられた44%硫酸シリカゲル加熱還流法を適用し,また,非ダイオキシン様PCB除去のために活性炭分散シリカゲルカラムによる分画実験を行い,ダイオキシン様PCBと塩素化ダイオキシン/フランを選択的に分取できる条件を見出した。この2方法をつなげた前処理を組み,PCB(化学処理)試料のバイオアッセイを行った。バイオアッセイはCALUXに加えて,同じくAhR結合活性を測定するAhイムノアッセイとPCB主要異性体(PCB
118)を測定するイムノアッセイについて,PCB標準品等の検出特性の把握を行い,3手法でのクロスチェックを化学処理試料とPCB油の鉱物油希釈試料について実施した。その結果,適用したバイオアッセイでは,最適化を試みた前処理を行うと,調査試料ではPCB総濃度ベースで5ppm程度までのモニタリングが十分可能であった。
〔備 考〕
研究代表者:酒井伸一(循環型社会形成推進・廃棄物研究センター)
共同研究機関:京都大学・愛媛大学他12機関
共同研究者:高月 紘(京都大学)・田辺信介(愛媛大学)他
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