温暖化による健康影響と環境変化による社会の脆弱性の予測と適応によるリスク低減化に関する研究
(13) 温暖化による健康影響と社会適応に向けた総合的リスク評価に関する研究
〔区分名〕環境-地球推進 B-10
〔研究課題コード〕9901BA075
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
〔担当者〕山元昭二(環境健康研究領域)・藤巻秀和
〔期 間〕平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕日本及び中国・インド等の東アジア地域について,気候条件と各種疾患の発生率との相関について,国内外の研究グループと協力して疫学調査を実施する。同時に疾病・死亡に関連する大気汚染の状況についてモニタリングデータを用い,その相互関係について解析する。温暖化のシナリオに基づく気候変化と適応能の評価を組み込んだ健康影響と環境変化によるリスクを総合し,アジアの社会における温暖化影響の総合的リスクの低減化策を確定する。
〔内容および成果〕
地球温暖化による気温上昇と都市化によるヒートアイランドの増強により,世界各地において夏季の高温が頻繁に観測され,都市域においては夏季の熱ストレスによる健康影響が深刻化すると考えられる。夏季気温がヒトの気候順化能の閾値温度を超えて上昇したときに健康に対する種々のリスクの増加がみられるため,疾病データと気象データを収集し気温と健康影響の相互関係について検討した。代表的熱ストレス疾患である熱中症は全国的に発症し死亡例も観察されるため,熱中症発症のリスク因子について解析した。本年度は性・年齢階級別に熱中症発症と地域の気温条件との関連を解析し,相互比較することにより,熱中症発生の閾値温度を明確にする研究を実施した。東京において1980年から1995年の16年間(リスク人口:約1億9千万人)の救急搬送の熱中症患者データを解析した結果,30℃を超える日最高気温より熱中症の発生がみられ,日最高気温が35℃を超えると熱中症の発生が急増した。神戸市(1996〜2000年)では,7月と8月に発生数の急激な増加がみられたが,年齢階級別の発生数は65歳以上が最も多く,気温と発生数の関係では,東京と同様に日最高気温が30℃を超えると発症の増加がみられ,35℃を超えるとその増加はより顕著であった。また,連続して気温の高い日が続くと,症例数は次第に低下する傾向がみられた。福岡県と沖縄県(1997〜1999年)での各年の発生率(10万対・日)の性差は,両県ともに女性に比べ男性が高く,日最高気温の熱中症発生に対する統計的に有意な影響が,福岡市では男女ともに認められたのに対し,那覇市では男性でのみに認められた。また,この影響を,平日(月〜金曜)と週末(土,日曜)とに分けて検討したところ,福岡市では男女とも平日でより強い影響があったのに対し,那覇市では男女とも週末でより強い影響があった。なお,これらのうち,福岡市の男性で平日における影響が最も強いと考えられた。以上,熱中症関連疾患で救急搬送患者症例のデータを収集し解析した結果,熱中症の急増する気温には東京,神戸市,福岡市では明確な地域差がみられなかったが,那覇市の女性においては閾値気温に関する適応があることを窺わせる。また熱中症は男性のリスクが女性に比べ著しく高い一方,65歳以上の高齢者のリスクが相対的に高い。その一方で,中国南部武漢においては,日最高気温が37℃を超えると熱中症の発生が急増するため,日本に比べ暑熱への適応がみられる。閾値温度を超える猛暑日においては,熱中症リスク低減化のため熱中症への警戒が必要と考えられた。
一方,温暖化による夏季気温の上昇は,オゾン生成を促進すると予測されているため,都市近郊においては高温による健康影響とオゾンによる影響が複合して現れることが予想される。特に呼吸器へのリスクは重大と考えられるため,肺の感染防御能に対する高温とオゾンの複合影響を明らかにするモデル実験を引き続き行った。その結果,マウスに対する高温とオゾンとの複合暴露によって肺の抗細菌防御能への相加的な抑制影響が認められた。熱ストレスは感染症や脳・心血管系疾患等広く健康状態に影響するため,夏季の気温と種々の疾病との関連について要因解析が重要と考えられる。社会の高齢化が進行する中で,今後夏季気温の上昇により予想される疾病増加に関しては,発生予測に基づき,性・年齢別のリスク低減化の予測,環境改善によるリスク低減化に関して研究を遂行する必要がある。
〔備 考〕
研究代表者:安藤 満(富山国際大学地域学部)
共同研究者:彼末一之(大阪大学医学部)・高橋 謙(産業医科大学)・浅沼信治(日本農村医学研究所)
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