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研究成果物



 

(9) 太平洋域の人為起源二酸化炭素の海洋吸収量解明に関する研究

 
〔区分名〕環境-地球推進 B-9
〔研究課題コード〕0103BA152
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕V.1.1.1 炭素循環と吸収源変動要因の解明
〔担当者〕野尻幸宏(地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクトグループ)・向井人史・町田敏暢・藤井賢彦
〔期 間〕平成13〜15年度(2001〜2003年度)
〔目 的〕海洋は大気中に放出された人為起源二酸化炭素の吸収源として働いているが,その吸収が将来どう変動するか予測することは,二酸化炭素の排出規制を決める上できわめて重要である。現在の海洋の二酸化炭素吸収を定量化し,予測モデルを正確にするために,現在までに得られている国内外機関の海洋表層二酸化炭素データを活用して,特に北太平洋の二酸化炭素正味吸収量を解明することを目標とする。また,海洋表層二酸化炭素分圧と海水中の全炭酸・アルカリ度など炭酸系物質の化学分析の正確さを保証し,国内的,国際的なデータの統一利用を可能にするための,分析標準化を行う。
〔内容および成果〕
 本年度は,国立環境研究所の北太平洋表層海洋二酸化炭素データを利用し,北太平洋中高緯度域の二酸化炭素吸収とその吸収プロセスの解明に関する研究を行った。
 国立環境研究所では,1999年11月から2001年5月にかけての商船三井株式会社所属コンテナ貨物船,アリゲータホープ号の東京−シアトル・バンクーバー航路で,北太平洋表層海洋二酸化炭素の観測を行った。船上観測で得た気象要素(気温・湿度・日射・風向・風速・気圧),大気観測で得た大気二酸化炭素濃度,オゾン濃度,表層海洋観測で得た水温,塩分,二酸化炭素分圧,栄養塩,植物色素などについて,データ確定を行った。風向,風速の相対観測値は,航海データ(船速・船位)によって補正し,絶対風向・風速とした。船上に搭載した非分散赤外分光光度計による大気・海洋二酸化炭素測定値は,国立環境研究所の標準ガススケールに基づく分率値に換算した。海洋の二酸化炭素分圧値は,二酸化炭素分率値と気圧,水蒸気圧,船内配管による水温上昇などの測定値による補正をかけて算出した。これらのデータセットは,インターネット上で閲覧・利用可能とした。
 また,アリゲータホープの日豪航路への航路替えに伴い,北太平洋海域での海洋表層二酸化炭素測定継続のために,トヨフジ海運所属ピクシス号への設備移設を一部について行った。本年度は,その二酸化炭素観測データ解析・確定の準備作業を行った。
 観測済みデータ解析によると,2000年夏に,東部北太平洋亜寒帯域(アラスカ湾海域)で発生した例年にない植物プランクトンの急速な増加プロセスが明らかになった。アラスカ湾海域にはカナダの海洋観測定点ステーションP(北緯50度,西経145度)があるが,その定点の北である北緯55−51度の海域で,2000年6−7月に植物プランクトンの例年にない増殖がみられた。この海域では,1995年からの国立環境研究所とカナダ海洋研究所の共同研究による表層二酸化炭素分圧観測データが継続的に得られており,二酸化炭素分圧の季節変化は小さく,海洋−大気の分圧差が±20μatmに維持されることがわかっていた。これは,春から夏に起こる海域の生物生産により無機炭素が固定されて起こる表層海水の二酸化炭素分圧低下と,その季節の水温の上昇による分圧上昇がつりあっていることと,秋から冬にかけて起こる亜表層海水と表層海水の混合による分圧上昇と,水温低下による分圧低下がつりあっていることによる。
 しかしながら,2000年6月の貨物船(アリゲータホープ号)観測,東西相方向航海データで,−52および−67μatmが記録されるという観測開始以来始めての現象が見られ,海域の二酸化炭素分圧が例年になく低下したことを示した。衛星観測によると,2000年には5月10日頃に,アラスカ湾にダストが及ぶ大きなイベントがあり,それ以降はイベントがない。二酸化炭素分圧の低下は,貨物船で観測している植物プランクトン蛍光光度の高まりと一致しており,植物プランクトン増大が原因であると推測された。その大きさは,東西に600kmほどの大きなスケールであった。植物プランクトン量の指標であるクロロフィル量は最大値が3〜4μg/Lまで高まった。この例年にない植物プランクトンの増殖に伴う栄養塩類の変化を,貨物船観測,カナダ海洋研究所観測船Tully(6月),北海道大学おしょろ丸(7月)の海洋観測データから総合的に解析すると,ステーションPより北の海域が応答した海域で,南北スケールもほぼ600kmであった。この応答した海域では,硝酸の濃度低下は例年の夏の生物生産とそれほど違わないのに対して,ケイ酸が枯渇するような濃度低下であり,ケイ藻が増殖したことを示している。通常の年のアラスカ湾海域は,海水中の鉄濃度が低く,鉄を必要な栄養とするケイ藻の増殖がその制限によって高まらないと考えられている。二酸化炭素と栄養塩の観測値から推定される表層海水の無機炭素固定量は,6〜7月の期間では1000mgC/m2/day程度かそれ以上と推定され外洋域ではまれな大きさであるといえる。見られた現象は5月のダストイベントが及ぼす効果であると考えられ,鉄制限海域における大気経由の栄養供給が重要であることが示された。貨物船による観測は,一定の海域の繰り返し測定を続けるので,このようなイベントが生じた時の事後の解析に極めて有効である。
 ステーションPでは1970年代に定点気象観測船が常に観測を続けていた時代に,10年間に3回のケイ酸枯渇現象が見られた。しかしながら,1981年以降,定点観測船が廃止され,年3回程度の定点観測となって以来,このようなイベント現象の把握が困難になっていたが,1995年からの貨物船観測により,現象把握が可能となった。1995年から1999年におけるアラスカ湾海域は,比較的年々変動が小さかったが,2000年にイベントが起こった。海域の二酸化炭素吸収・放出の年々変動の評価には,エルニーニョ・ラニーニャのような大規模な海洋循環変化現象との関係評価が求めらているが,微量栄養塩制限がある亜寒帯海域には大気経由ダストのような別のコントロール要因がありうることを示唆した観測結果であった。
 国際的な海洋表層二酸化炭素観測のネットワーク化活動が,政府間海洋学委員会二酸化炭素諮問委員会で行われている。その一貫として,ヨーロッパの研究グループとの研究協力を行った。ドイツキール大学海洋研究所では,欧州−北米間の北大西洋の貨物船で観測を開始することになり,国立環境研究所と観測の技術交換を行った。2001年11月から観測装置の設置作業を開始し,2002年2月に観測を開始した。観測機器の一部に,国立環境研究所開発機器を採用し,今後のデータ解析の共同利用を行うこととした。これにより,次年度から,北大西洋の表層二酸化炭素分圧データと太平洋データの比較解析が行える体制とした。
 また,政府間海洋学委員会二酸化炭素諮問委員会で,国際的な海洋表層二酸化炭素分圧測定の測定精度を高める目的で,相互比較実験を計画し,その準備を行った。国内機関で提供する二酸化炭素測定装置として,国立環境研究所開発機器の整備を行った。
〔備 考〕


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