アジアフラックスネットワークの確立による東アジア生態系の炭素固定量把握に関する研究
(7) 生態系における安定同位体比の測定による物質フローの解明に関する研究
〔区分名〕環境-地球推進B-3
〔研究課題コード〕0002BA100
〔重点特別研究プロジェクト名,政策対応型調査・研究名〕
V.1.1.1 炭素循環と吸収源変動要因の解明
〔担当者〕高橋善幸(大気圏環境研究領域)・町田敏暢・遠嶋康徳
〔期 間〕平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕生態系内において大気,土壌,植物各相の炭素などの安定同位体比の測定を行い,炭素循環や移動を把握するとともに,大気起源の二酸化炭素(CO2)と生態系呼吸起源のCO2との分離評価を試みる。また生態系呼吸起源のCO2の安定同位体比の季節的な変動性について,環境要因との関連を明らかにするとともに,生態系の持つ同位体分別効果を定量的に評価し,大気・陸上生態系間のCO2交換が大気中のCO2の安定同位体比へ与える影響を明らかにする。
〔内容および成果〕
北海道のカラマツ林内に大気試料自動採取装置を設置し,一定の時間間隔で大気試料を採取し,CO2濃度とその炭素安定同位体比(δ13C)及び酸素安定同位体比(δ18O)の日変動を観察した。この観測をおよそ1ヵ月ごとに行った。夏季の森林内でのCO2濃度が日中に低下し夜間に上昇するのに対して,δ13C及びδ18Oは日中に上昇し夜間に低下する様子が観測された。これは,夜間は地表付近に逆転層と呼ばれる層状の安定な大気構造が形成され,その下層に呼吸により放出された大気よりも低い同位体比を持つCO2が蓄積することにより生じると考えられる。また,日中は光合成活動によるCO2の吸収が呼吸による放出に卓越し,植物体により低い同位体比を持つCO2が固定されるので,大気中に残ったCO2の同位体比は高くなる。また,日中の濃度の低下は対流による大気の上下混合も大きく関与している。陸上生態系においては光合成により固定されるCO2のδ13Cは呼吸により放出されるCO2のδ13Cに近い値を持っているため,森林内で観測されるCO2の同位体比の変動はCO2濃度の変動と強い逆相関を示したものと考えられる。一方,CO2のδ18Oは植物の活動が小さな晩秋から春先にかけての時期については,あまり顕著な変動が得られなかった。これは植物体内などでの水との同位体交換によってδ13Cと異なるプロセスで変動するためと推測される。
森林内で観測されたCO2濃度と同位体比の夜間の時間変動から二成分系単純混合モデルを用いてこの生態系内で呼吸により放出されたCO2のδ13C及びδ18Oを推定した。2000年7月から2001年9月までの観測データから,呼吸起源CO2のδ13Cは-26.7permilPDBから-28.9permilPDBの範囲で優位に変化していることが明らかとなった。一方,呼吸起源CO2のδ18Oは−17.6permilPDBから−39.6permilPDBという大きな範囲で変動していた。
観測データを用いてカラマツ林生態系の呼吸起源CO2のδ13Cと大気CO2のδ13Cの差から,同位体分別効果を計算したところ,およそ19permilという値が得られた。これは,北米などの常緑針葉樹林で観測されている値に比べ大きい。カラマツ林生態系はシベリア周辺の広大な森林を特徴付けている代表的な植生であり,この生態系では同様な観測例がほとんどないため貴重な情報であると言える。
〔備 考〕
課題代表者:林 陽生(農業環境技術研究所)
サブテーマ代表者:村山昌平(産業技術総合研究所)
共同研究機関:産業技術総合研究所,農業環境技術研究所
当課題は重点研究分野W.1.1(2)にも関連
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