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研究成果物



2.8 重点共同研究


2.干潟等湿地生態系の管理に関する国際共同研究


〔担当者〕
生物圏環境部 渡邉 信・広木幹也・河地正伸・野原精一
上野隆平・矢部 徹・佐竹 潔・笠井文絵・
高村典子・福島路生
社会環境システム部 山形与志樹
水土壌圏環境部 村上正吾・林 誠二・木幡邦男・樋渡武彦
地域環境研究グループ 稲森悠平
地球環境研究センター 山形与志樹
共同研究機関
ロシア科学アカデミー生物土壌科学研究所 Eugenyi Makarchenko
中国科学院北京動物研究所 何 芬奇(He Fen-qi)
中国科学院長春地理研究所 楊 永興(Yang Yongxing)
中国吉林省自然保護研究所 干 宏兵(Yu Hongbing)
米国スミソニアン環境研究センター Dennis F. Whigham
オランダ・ウトレヒト大学 Jos T.A. Verhoeven
客員研究員 7名,共同研究員 1名
     下線は研究代表者を示す


〔期 間〕
平成10〜14年(1998〜2002年度)


〔目 的〕
 干潟等湿地生態系は鳥類の生息地,越冬地あるいは中継地として国際的にも重要な生態系であるとともに,独特の生物相を有し,生物多様性に富む生態系である。しかしながら,人間の開発行為は湿地生態系に大きなダメージを与えてきたことから,1975年には国際的に重要な湿地及びその動植物の保全を進め,湿地の賢明な利用を進めることを目的にラムサール条約が締結された。このような湿地生態系を保全し,持続的利用のために維持管理していくために,欧米では湿地生態系の実態調査研究での知見に基づく評価手法にしたがって,湿地生態系ミティゲーションのためのプロジェクトが実施されている。しかし,このような評価手法は地域性が強く,我が国を含む東アジア地域の干潟,湿地に関しては未だに適切な評価手法が確立していない。そこで本研究では,東アジア地域における干潟・湿地の実態調査研究に基づいて,干潟・湿地生態系の適切な総合評価手法を確立することを目的としている。


〔内 容〕
 渡り鳥類の繁殖地ー越冬地の関係にあるロシアのハンカ湖,中国のアムール・ウスリ川上流域の湿原と日本の代表的湿原である釧路湿原,赤井谷地,戦場ヶ原,尾瀬ヶ原の湿原,北海道東部・東京湾・伊勢湾・有明海・沖縄の干潟などを調査研究フィールドとし,各湿地の非撹乱生息地において研究を実施し,新湿地生態系評価手法(JHGM)を開発する。まず水の存在状態から大分類として干潟・湿地・河川の湿地生態系を区分し,ケーススタディとして既存評価手法及びJHGMの比較検討を行う。以下の2課題に沿って研究を実施する。
(1)干潟等湿地生態系の特性と生物種の存続機構に関する研究
 干潟等湿地生態系の基本的な環境特性と生物種の存続機構を解明し,各種生物の存続に不可欠な生物的,物理的パラメータを明らかにするとともに,各種生物の収容力を算定する。
(2)湿地生態系の変動予測と管理計画の構築に関する研究
 上記研究で得られたパラメータをもとに米国で開発された湿地生態系の評価モデル(HEP,BEST,WET,HGM手法等)を比較し,変動の評価あるいは変動予測・評価を行い,湿地生態系の回避あるいは最小化ミティゲーション手法を提言する。また,湿地生態系の食物連鎖網の研究データや湿地生態系物質循環データを解析し,周辺水域水質保全への役割を評価する。以上の成果を踏まえて,自然保護と水質保全の双方の立場での湿地生態系の評価基準となる手法を開発する。


〔成 果〕

 湿地国際学会(8月カナダ)や,米国で開催された日米CESTパネル(沿岸環境科学技術専門部会)の第1回沿岸域湿地修復ワークショップで干潟の機能比較について発表した。11月には中国吉林省自然保護研究所(IEPJPC)を訪問し,「湿地生態系の管理についての共同研究」に関する覚書を交わし今後の共同研究(NIES-IEPJPCプロジェクト)の調査地を視察し,関係する地方自然保護管理官と交流を行った。3月にはロシア科学アカデミー生物土壌科学研究所のE. Makarchenko室長を招へいして,第2回NIES-IBSSプロジェクト会議を実施した。中国科学院長春地理研究所の楊永興(Yang Yongxing)教授を招へいして,中国の湿地の講演会を行った。3月には日本生態学会でシンポジュウム「ウェットランドの生態系評価」を主催し,新生態系評価手法(JHGM)の干潟への適用例を紹介した。12年度は重点的に干潟機能の空間的不均一性を明らかにする調査を実施した。

(1)リモートセンシングによる干潟調査手法に関する研究
 多段階リモートセンシングによる干潟調査手法の検討を行った。東京湾富津干潟を研究対象域として,干潟全体の大領域・現地調査を集中して行う中領域・10m方形区の小領域の3段階で干潟情報の抽出の可能性について検討した。プラットホームはSPOT衛星及びヘリコプターを,センサーはマルチスペクトル・リアルカラー・熱画像センサーを使用した。データ取得高度によって抽出できる情報を整理した。

(2)干潟生態系の変動予測と管理計画の構築に関する研究
 干潟における空間的不均一性を把握するため,東京湾富津干潟の中領域に100×100mの方形区に49ヵ所の採集地点を設定し,生物活性や環境データを収集して干潟全体の機能を把握する手法及び適切な調査地点数の検討を行った。地形測量の結果,岸から約200m沖合いまでに6ヵ所の凸部凹部が繰り返し干潟の比高差は約1mあった。コアマモなどの海産大型植物の被度は方形区内の半分に多く,裸地と藻場の比較を行った。その植生の違いは底質の堅さ,沈殿量などの性質と相関が高く,植生被度と有機物含量は相関が高かった。干潟の生態系機能ユニットとして裸地と藻場に区別して評価する必要性を実証した。

(3)干潟の特性の比較と類型化に関する研究
 全国の干潟を評価するために次の8つの測定項目から類型化を行い干潟生態系のサブクラス区分方法を検討した。 
 1)粒度分析 各干潟において表層から深度10cmまでの底質を塩ビコアによって採取した。Wentworthの区分にしたがって磯,砂,シルト,粘土に分けた。有明海のNAN及びTAGの干潟はシルトや粘土成分が多い泥干潟であったが,他の11ヵ所はほとんど砂画分の砂干潟であった。
 2)含水率 有明海の泥干潟であるTAG,NANと北海道のピートが多いBIWでは含水率60%程度あるのに対して,ほかは20%程度であった。
 3)灼熱減量 有明海の泥干潟であるTAG,NANと北海道のピートが多いBIWでは灼熱減量が10%程度であるのに対して,ほかは5%以下であった。
 4)底質流動性 園芸用のポールの突出部の長さを設置直後と4週間後に測定して底質流動性を計測した。その結果有明海のNANでは1.3mmday-1の底質の堆積があり,HOSとSHUではやや堆積があり,有明海のTAGでは逆に侵食されていた。それ以外の変化は小さかった。
 5)一次生産 コアサンプラーで底質表層の0〜1cmと1〜10cmの2層で2回採取して表層のクロロフィルa含有量を測定した。ほとんど表層1cmの層に藻類は生息しており,伊勢湾のFUJ,CHIや北海道のFUU,BIW,SHUで高かった。蛍光による量子収率も似た傾向であった。
 6)分解活性 セルラーゼは植物体を構成するセルロースの分解に関与する酵素であり,β-アセチルグルコサミニダーゼは節足動物や菌類が持つキチンを分解する酵素である。セルラーゼ活性とβ-アセチルグルコサミニダーゼ活性は10倍以上の差が見られたが,2種類の酵素活性の間には正の相関関係が見られた。
 7)綿布の分解 分解機能を評価する手法として湿地生態系の評価で用いられている綿布の分解性を干潟でも実施した。異なる生態系で同じ手法で分解性が評価でき,相互の生態系の比較が可能である。湿原では6週間現場放置後に引っ張り試験をするが,干潟では分解活性が高いため,4週間と短縮しさらに重量による分解率を求めた。有明海のNAN,TAG及び東京湾のSAN,YAT,FUTで比較的高かった。沖縄では温度が高いが分解速度はANPを除けば比較的低かった。
 8)可給態窒素とリン 底質に含まれる生物が利用できる窒素とリンの量を比較するため,湿原で測定される方法で可給態の窒素とリンを分析した。可給態のアンモニアは北海道のFUU,BIWに高く,沖縄ではやや高かった。可給態のリンは伊勢湾のFUJで高く,東京湾と北海道で比較的高かった。
 一次生産の指標と考えられる底質表層のクロロフィルa濃度と分解速度の指標と考えられるセルラーゼ活性との関係を見てみると,3つのグループに分かれた。第1のグループは底質のクロロフィルa濃度とセルラーゼ活性が低い干潟で,東京湾のFUT,YAT,SANと沖縄のKOM,HOS,ANPである。このグループは一次生産も分解も低い生態系であろうと推定される。第2のグループは底質のクロロフィルa濃度は低いがセルロース分解活性が高い有明海のTAG,NANと北海道のBIWである。このグループは分解過程が卓越している物質循環システムが機能しており,栄養分や有機物は外部から供給されていることが予想される。第3のグループはクロロフィルa濃度が高くセルラーゼ活性が低い伊勢湾のFUJ,CHIと北海道のFUUである。このグループは内部生産が高く,一次生産者が作り出した有機物から始まる物質循環系であると推定される。一次生産が高くかつ分解活性も高い干潟のタイプ(第4のグループ)は今回の調査からは見出せなかった。日本各地の多様な干潟を調査したことによって生産と分解から干潟生態系が類型化された。


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