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研究成果物



2.8 重点共同研究


1.流域環境管理に関する国際共同研究(最終年度)


〔担当者〕
水土壌圏環境部 渡辺正孝・大坪国順・村上正吾・牧 秀明・中山忠暢・
亀山 哲・高松武次郎・越川昌美・林 誠二・内山裕夫・
徐 開欽・越川 海
生物圏環境部 渡辺 信・広木幹也・河地正伸
社会環境システム部 田村正行・山形与志樹
共同研究機関
中国水利部 長江水利委員会 Prof. WENG Lida
Prof. XIUZHEN Zhang
Prof. LI Antian
中国科学院地理科学与資源研究所 Prof. LIU Jiyuan
中国科学院遥感応用研究所 Dr. ZHUANG Dafang
    Dr. WU Qiuhua
中国水利部・交通部・電力工業部
南京水利科学研究院
Dr. DOU Xiping
中国科学院植物研究所生態センター Dr. WANG Quan
米国マサチューセッツ工科大学 Prof. ADAMS Eric
     下線は研究代表者を示す


〔期 間〕
平成8〜12年(1996〜2000年度)


〔目 的〕
 近年の長江流域の社会経済活動の目覚ましい発展は,水資源・エネルギー開発を希求するとともに,産業構造変化に伴う土地利用形態の変化,都市部への人口集中等の現象は流域内での水循環に大きく影響を与え,汚濁物質や有害物質の生産・排出負荷量を著しく増大させるため,水質汚濁,塩害や酸性雨による土壌劣化,風食・水食による土壌流失,洪水,灌漑用水・飲料水不足等々の流域の持続的発展を妨げる要因が顕在化しつつある。また,長江流域からの排出負荷は必然的に東シナ海の海洋生態系に大きな影響をもたらすため,その正確な算定と適切な管理が必要とされている。本研究は中国関連研究機関との共同により,水界・陸上生態系に影響を与える物質循環の全体像の理解を進め,水・物質・エネルギーの効率的な配分と生態系機能の適切な管理を可能にする流域環境手法の開発を目的としている。


〔内 容〕
 本年度は,次の課題を実施した。
(1)長江河川水中のリン・窒素の流域内動態の解析
(2)長江における細菌群集構造の遺伝学的解析
(3)流域内での微細土砂動態のモデル化に関する検討
(4)湿原域での洪水氾濫現象のモデル化に関する検討


〔成 果〕

(1)長江河川水中のリン・窒素の流域内動態の解析
 調査対象区間は,長江本川の重慶から上海(河川延長約2,300km)間とした。現地調査は1998年10月28日〜11月14日及び1999年10月18日〜11月1日の二回にわたって実施し,重慶から上海間における栄養塩(リン・窒素)の変動の傾向を把握した。
 全リン濃度に対して懸濁態リン濃度が占める割合は2回の調査とも,武漢より上流では,80〜90%を占め,その下流では60〜80%であった。全域にわたり全リンの濃度が高く,烏江流入後から三峡の入口まで急激な増加がみられ,溶存性リン濃度は,烏江流入後宜昌まで増加し続けることがわかった。これは,この区間で最近汚濁負荷が増大していることと,烏江上流に中国三大リン鉱石工場の一つが存在することが主原因と考えられた。窒素については,硝酸性窒素濃度の占める割合が大きく,重慶から葛州覇ダム下流まで硝酸性窒素濃度が流下方向に比例して増加しており,硝化反応が活発であることが示唆された。99年の硝酸性窒素負荷量は,重慶から三峡入口の奉節までの間で一日当たり約1,071t増加したと推定された。98年では大洪水の後で調査前後に降雨も無く,同期間の硝酸性窒素負荷量が約166t増加した分を硝化由来のものと仮定すると,降雨と面源負荷からの硝酸性窒素が約905tと推定された。温度条件がほぼ同じ(すなわち硝化活性も同程度と考えて)99年では,調査開始前に先行降雨があり,河川水位は1m以上高く,流量は1.5倍多かった。以上の条件を考慮に入れ,重慶地域からの降雨の影響と,その他の面源負荷や生活排水等由来の硝酸性窒素負荷の推定を試みた。過去の重慶地域の雨水の水質データをみると,硝酸性窒素,アンモニア性窒素濃度がそれぞれ0.39mg-N/L,2.1mg-N/Lと非常に高い。硫酸/硝酸濃度比の平均は11.7(重量換算では40.1)であるため,調査時期の硫酸イオンの増加量(主に雨由来と仮定する)から逆算すると,雨由来の硝酸性窒素負荷量は約766tと推定された。したがって,そのほかの面源負荷由来の硝酸性窒素負荷量は約139tと推定された。以上の結果から,重慶から三峡間の窒素負荷への寄与率は降雨と面源負荷の影響が大きいことがわかった。また重慶,武漢,南京,上海といった大都市と,洞庭湖合流地点直下流部においては,アンモニア態窒素の負荷量が顕著に増加する傾向がみられた。これは洞庭湖周辺の農業に使用される窒素肥料の流入,都市部における下水処理の基盤整備が未熟なため,大量のアンモニア態窒素が硝化されずに,そのまま長江に流入しているためと思われた。また大都市直下流部,並びに次下流点では亜硝酸態窒素の負荷量の明確な増加がみられ,これは大都市部において流入負荷されたアンモニア態窒素が長江本流内で硝化反応を受け,その中間生成物として検出されているものと考えられた。溶存性無機窒素/無機リンの比は宜昌までは76〜100程度であり,宜昌より下流では100〜160(平均125)であった。この値は海洋生物の構成元素比率を表すレッドフィールド比の16より遥かに高く,植物プランクトン増殖のリン制限値22よりも大きな値であり,長江河口域,東シナ海の植物プランクトンの増殖と生物生産の主制限因子が,リンであることと一致している。今後,長江流域からの溶存性リンの負荷増大,三峡ダム建設による土砂流出の減少が,長江河口域,東シナ海の窒素/リン比の変化と,それに伴う生態系への影響をもたらす可能性が示唆された。

(2)長江における細菌群集構造の遺伝学的解析
 本研究では,三峡ダム建設に伴う一連の開発が長江流域の生態系に及ぼす影響を調べることを目的とし,そのベースラインとして現時点における細菌群集構造の解析を行った。長江本流の重慶から上海にかけて行われた1998年と1999年の調査において採取した河川水試料を用い,変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法および16S rRNA遺伝子のクローンライブラリー法による細菌群集構造の解析を行った結果,以下のことが判明した。
(a)DGGEバンドパターンのクラスター解析より,長江の細菌群集構造は中流域に位置する 陽湖の影響を受けていることが示唆され,1998年,1999年ともに観察されたことから,恒常的なものと考えられた。さらに,長江の細菌群集構造は上流から下流にかけて序々に,かつ連続的に変遷していることが判明した。
(b)16SrDNAクローンライブラリー法では多くのbeta-Proteobacteriaが検出されたが,DGGEバンドでは見出されず,手法によって得られる結果が異なった。
(c)16SrDNAクローンライブラリー法において,beta-Proteobacteriaは上流で優占したが,中流と下流では大幅に減少した.この中には窒素循環に関与するAlcaligenesやNitorosomonasと系統的に同じクローンが多く含まれており,上流域で亜硝酸濃度の変化が大きいことと関連していると考えられた。

(3)流域内での微細土砂動態のモデル化に関する検討
 長江上流域は土壌流出が激しく,山腹は急斜面で伐採・裸地状態に近く,急斜面以外は農地に利用され,降雨流による面状侵食及び表層すべりが年間を通じて生起,融雪時には凍結融解により強度低下した土壌が流出しており,これらの点を考慮した微細土砂の動態の推定モデル開発を行った。土砂生産場としては流域斜面と河岸を想定した。山腹斜面の面状侵食については,植生被覆による侵食軽減効果を考慮することで現実的な輸送量式を導出した。斜面表層のすべりによる生産・輸送量については,斜面の傾斜角の変動を考慮することで,斜面上での分布特性の記述を可能とした。また,河岸侵食は河道を被覆する砂礫の粒径分布を考慮することで,流量変化に対する侵食速度の変化を記述した。提案したモデルは北海道の寒冷な農林地域(釧路川支川久著呂川流域)に適用され,その結果は流域全体での土砂生産量と輸送量の傾向を再現していた。

(4)湿原域での洪水氾濫現象のモデル化に関する検討
 釧路湿原内を対象領域として,浅水長波の式を支配方程式とした2次元氾濫数値モデル適用を試みた。融雪出水時を対象とした計算結果は,衛星データから検出された冠水域との比較から,全体的な氾濫水の面的な広がり・分布についてモデルはある程度の再現性を有することを示した。一方,春期から秋期の6ヶ月間を対象とした長期計算は,現地水位観測から得られた氾濫時における詳細な水位変動特性に対して,ピーク水位は再現できたが,高周波変動の再現性は低い結果となった。局地的な水位変動には植生の種類と密度とともに微細な地形変化の影響が大きく,再現性の向上のためには,新たな技術の導入等により対象領域の数値標高データの精度を検討し修正を行う必要があることが示唆された。


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