2.6 特別研究
6.湖沼・河川等,淡水環境の生態系保全と移行・周辺帯の環境管理に関する研究(初年度)
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
高村典子・福島路生 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成12〜14年度(2000〜2002年度)
〔目 的〕
湖沼・河川生態系は,汚染物質の希釈・浄化機能,水資源,水産資源,レクリエーション・教育の場,そして文化的価値の提供など,様々なサービスを保障している。これら生態系サービスは人類に不可欠であり,いったん破壊され喪失した生態系の機能を復元することは極めて困難である。将来の世代が今日と同様な生態系サービスを享受し,現有の生態系を持続的に利用するために,その維持・管理システムを確立することは急務である。
河畔や湖沼沿岸帯など水域から陸域への移行・周辺帯に生育する水生植物や河畔林,そして蛇行河道や淵瀬構造などの複雑な自然地形は,高い生物多様性を支え,前述のような生態系の機能的価値を高めていると考えられる。しかし,生物相の豊かな,移行・周辺帯は,土地開発や治水工事などに伴って急速にその自然環境が失われつつある。また,これらの人為改変に加えて,水質汚濁や外来種の侵入なども影響し,淡水の生物多様性は著しく低下し,水辺景観の劣化も顕在化している。本研究は,湖沼・河川の生物群集と生態系機能の維持機構における移行・周辺帯の植生と地形の機能を解明し,その管理手法の確立に資することを目的とする。
〔内 容〕
本年度は以下に示す課題を行った。
課題1 水生植物群落と水質,プランクトン群集との定量的な関係解明
湖沼内の異なった水生植物群落が形成する水環境の違いを把握するために,北海道釧路湿原にある植生と水質レベルの異なる3湖沼(シラルトロ湖,達古武沼,塘路湖)で,水生植物種の生育状況,水生植物群落内外の水質ならびに植物プランクトン組成を調べた。シラルトロ湖と達古武沼は沈水植物群落が湖の半分以上を占める。しかし,塘路湖には沈水植物群落がほとんどない。調査は2000年8月26〜28日,それぞれの湖沼に13から15の地点を設けて行った。
課題2 サケ科魚類の産卵床と河川地形との空間解析
自然河川に形成される瀬淵構造は,河川棲魚類の生息環境の基本単位と位置付けられる。本課題では,河川に自然産卵するサクラマスとカラフトマスの産卵床の配置が淵と瀬の配置とどのような関係にあるのかという空間解析を行った。現地調査では,北海道に設定した3本の河川において,ディファレンシャルGPSを用いて産卵床や瀬淵の位置を約1〜1.5kmの区間にわたって記録した。また得られた位置情報の統計解析にはモンテカルロ法を用いた。
〔成 果〕
課題1
沈水植物群落のあるシラルトロ湖・達古武沼とそれのない塘路湖で制限栄養塩濃度とクロロフィルa量の関係を比較するため,おのおのの湖沼で対数変換したクロロフィルa量(logChl)を同じく対数変換した制限栄養塩濃度(logLN)の一次回帰式で表した。
塘路湖
(1) logChl=0.116+0.983logLN(n=13,r2=0.798,P=0.000)
達古武沼・シラルトロ湖
(2) logChl=−0.821+1.339logLN(n=29,r2=0.782,P=0.000)
以上の回帰式から沈水植物群落のない塘路湖のクロロフィルa量は,沈水植物群落のある達古武沼・シラルトロ湖のそれよりも同じ制限栄養塩濃度でも高いということが分かる。沈水植物のない湖とある湖では制限栄養塩濃度とクロロフィルa量の関係式が異なる。水質環境から考えても沈水植物群落を保つような湖沼管理が望ましい。
植物プランクトン種の種類組成のデータを用い,植物プランクトンと地点の位置を対応分析によって図示した(図2)。横軸(1軸)と縦軸(2軸)により表される種組成の変動を予測する環境変数を,ステップワイズ重回帰分析を用いて推定した。植物プランクトンの分布に関係すると考えた候補環境変数は,pH,k(光量子の消散係数),DOC,Si,TN,TP,ammonium,nitrate+nitrite,SRPである。
(3)1軸:7.813+0.001TN−0.687DOC−0.016TP−0.248pH−0.097Si(F=15.2,P=0.000,r2=0.784)
(4)2軸:1.722+0.057SRP+0.085k−0.309pH+0.060Si−0.008TP(F=61.8,P=0.000,r2=0.900)
塘路湖では全地点でAphanizomenon flos-aquae(アオコ)が優占した。植物プランクトン群集構造は,沈水植物群落のない塘路湖と沈水植物群落のある2湖沼で,かなりの隔たりが認められた。沈水植物群落の存在が水質だけでなく植物プランクトンの組成にも大きく影響を及ぼすと考えられる。達古武沼では地点22〜29にかける沼北西部半分で,これもアオコ形成種であるAnabaena circinalis var. crassaが優占した。一方,達古武沼のその他の地点はシラルトロ湖の地点と混ざって,2軸の環境勾配に沿って上から下へと配置された。2軸の環境勾配はTP濃度やpHなど,いわゆる富栄養化の変数により良く説明された。このような植物プランクトン種の配置の結果は,今後の沈水植物群落のある湖沼の富栄養化に対する湖沼予測や診断に使えると考えられる。
課題2
3本の調査河川はA)日高幌別川,B)天塩川水系サンル川,C)猿払川である(図2)。AとBではサクラマス,またCではカラフトマスの産卵床を対象にした。図2はそれぞれの河川で個々の産卵床から一定の距離の区間に淵または瀬頭が存在する確立(実線)とランダムに発生させた河川上の点から同じ距離の区間に淵と瀬が存在する確立の平均値(点線)を横軸に距離をとって示したものである。距離は平均河道幅の何倍かで表示した。また点線は1,000回のシミュレーションの平均値であり,その標準偏差をエラーバーで表示した。
これらの図からわかることは,3河川に共通して見られる傾向として,産卵床の近隣に有意に高い確立で瀬頭が存在している,ということである。このことは,サケ科魚類の産卵環境の立地条件として瀬頭という地形が必須条件であることを意味し,また瀬と淵が繰り返されることの重要性を物語っている。
〔発 表〕b-203,238,239
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