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研究成果物



2.6 特別研究


5.沿岸域環境修復技術の生態系に与える影響及び修復効果に関する研究(初年度)


〔担当者〕
地域環境研究グループ 森田昌敏・木幡邦男・中村泰男・今井章雄・樋渡武彦*1・飯島明子*2
水土壌圏環境部 村上正吾・越川 海
社会環境システム部 大井 紘・須賀伸介
生物圏環境部 矢部 徹
(*1特別流動研究員,*2科学技術特別研究員)
客員研究員 6名
     下線は研究代表者を示す


〔期 間〕
平成12〜14年度(2000〜2002年度)


〔目 的〕
 失われた自然海岸の機能の回復を目的として,また,新たな沿岸開発による環境影響を軽減する措置として環境修復技術が盛んに開発されている。これらは独自に適用されたり,あるいは開発の際の環境に配慮した工法として行われる。しかし,これらを実際に適用する際に常に問題になるのは,その環境影響評価である。環境影響評価の対象となる項目は,地形や海水の流動等の物理因子,水質や汚染物質の化学因子,さらに生態系保全などの生物学的因子がある。平成11年6月に施行された環境影響評価法では,環境基準である水質などの変化予測の他に,生態系も評価項目として重要視されている。
 近年,上記のように生態系に対する研究の要請が強い状況を考慮して,本課題では,沿岸域生態系の中で重要と思われる水界生態系と底生生態系との相互関係や,底生生態系において代表的な生物種の生活史や個体群動態に着目した。それらを用いて現在行われつつある環境修復技術の有効と評価される点を抽出したり,その問題点を指摘し,環境修復技術の生態系に与える影響と修復効果を評価するための科学的な基礎を提供することを目的とする。


〔内 容〕
 自然に近い状態と考えられる東京湾三番瀬の船橋側の5地点で,アサリ,シオフキガイの個体群動態調査を行った。アサリ,シオフキガイについては,餌の大きさとろ過効率について検討した。また,アサリについて,増殖速度に見られる地点間の差を検討した。三番瀬内に生息する二枚貝の餌は,隣接する三番瀬外の海域からも供給されており,潮汐流による有機物の輸送と二枚貝の摂食との関連を解析した。
 環境修復技術による修復効果を評価するために,現場を特徴付ける生物の行動,生態を研究するのが効果的である。特に,生物にとっての生息場環境の良否を見るために,現場における成長速度が測定されている。そこで,二枚貝について,このような現場実験を行う手法を検討し,修復された海岸として大井埠頭中央海浜公園内の人口海岸を,および,自然に近い浅海域として東京湾三番瀬や福島県松川浦などを選定し,二枚貝の現場における摂食の機構や,増殖速度を調査した。
 干潟・浅海域の重要な機能に水質浄化や物質循環がある。二枚貝などによる水質浄化や,海草・海藻による栄養塩の吸収を,現場にて測定するための装置を,既報などを基に制作し,検討した。


〔成 果〕

(1)沿岸生態系機構の解明とその維持機構に関する研究
 浅海域における生態系を特徴付ける底生生物について,その維持機構を調査するため,水界で生成された有機物が底泥へ供給される過程,及び底泥で有機物が分解される過程を,平成12年7月半ばから約1ヵ月間,播磨灘の家島諸島における調査,現場実験で検討した。調査期間中の有機物フラックスの平均値は0.7gC/m2/日であった。一方,底泥での,バクテリアおよびメイオベントス(小型の底生生物)による酸素消費速度は,有機物フラックスの変化には追随せず,ほぼ一定の値(1.8mmolO2/m2/時)を示した。また,大形の底生生物による酸素消費量は0.1mmolO2/m2/時と見積もられた。
 底泥での酸素消費速度を有機物分解量に換算すると,その値は,底泥への有機物供給量の期間平均値とほぼ釣り合っていた。すなわち,水の中で生産される有機物のうち,底泥に供給されるものは,底泥で効果的に分解を受けていることが判明した。そして,播磨灘に広く存在する泥質の海底は,有力な「浄化」の場として機能していることが示された。
 播磨灘海底で主要な底生生物であるオカメブンブクの生活史,及び,有機物生産量を,平成12年8月半ばまでの2年間にわたり調査した。オカメブンブクは,温帯域の海底泥に棲む非食用のウニで,最近,播磨灘や伊勢湾で大量に発生し,漁網に絡んで漁業者の苦情の種となっている。オカメブンブクは12月に放卵・放精し,プランクトンとして幼生期を過ごした後,2月ごろ着底(2mm),一年後には20mm,2年後には30mmとなって成熟する。また,オカメブンブクによる有機物生産量は,豊富に存在する場合(20個体/m2)には,0.7gC/m2/年と見積もられた。これは,瀬戸内海での底生生物群集の有機物生産量の概算値のほぼ10%に相当し,物質循環を考える上で,オカメブンブクが,無視できない存在であることを示した。

(2)沿岸域における環境修復の生態系に与える影響に関する研究
 底生生物にとって,環境の善し悪しは,その成長速度で評価できるものと考えられる。ここでは,三番瀬におけるアサリの成長速度を中心に解析した例と,福島県松川浦でアサリ,カキの摂食機構について解析した例を示す。
 平成11年8月,江戸川放水路からの出水により,三番瀬のほとんどすべてのアサリの殻表面には,明瞭な「成長障害輪」が形成された。これを利用し,1個体ごとの成長速度の推定を行った。成長速度は,三番瀬の最も沖よりの地点で最大であった。また,軟体部重量についてコホート(同時出生集団)解析を行った結果,成長の最も活発な3月から9月にかけて,軟体部重量ベースでの成長速度は沖に行くほど高まり,最も沖側の地点での軟体部重量は,9月の時点(殻長3cm)で,岸よりの地点の1.5倍に達した。しかしながら,成長速度が地点によって異なる原因は特定できなかった。地点間での,なんらかの環境条件の小さな差が,アサリの成長を大きく左右するということは,埋め立て等によって予想される環境変化が軽微な場合でも,アサリなど二枚貝の成長が大きく影響を受ける可能性を示している。
 アサリのろ水速度についての報告例は多いが,エラでのこしわけ効率の,粒子サイズ依存性や,こしわけ可能な粒子サイズの下限についての情報は少ない。本課題では,飼育実験により上の諸点を検討した。その結果,1)アサリは,長さ2μm以上300μm以下の範囲のプランクトンをほぼ同一の効率でこしわけること,および2)1μm程度のピコ植物プランクトンに対するろ過効率は2μm以上のものの75%程度であり,バクテリア(約0.4μm)に対しては10%程度にまで低下することが明かとなった。
 懸濁物ろ過食二枚貝の摂餌様式には,潜砂し水管により餌を摂取する「潜砂性タイプ」(例えばアサリやシオフキガイなど)と砂上や岩などの基質に付着して殻の開放により餌を摂取する「表在性タイプ」(例えばカキやムラサキイガイなど)の2つがある。両タイプのろ過速度(摂餌速度)と流速の関係について,前者のろ過速度は流速が増すと低下するが,後者では流速の影響が見られないことが室内実験の結果から知られている。このような現象が実際,現場でも生じているかを検証するために,流速が速く,また「潜砂性タイプ」であるアサリと「表在性タイプ」のカキが混在している海域である福島県松川浦において平成12年7月に調査を行った。
 二枚貝の摂餌速度では,いずれの時間でもアサリの方がカキを上回っていた。また,両貝とも下げ潮時よりも上げ潮時の方が高い傾向にあり,16時にはアサリに顕著なピークが見られた。両貝ともに流速と摂餌速度との関係については,今回の流速範囲内(1〜25cm/秒)では明瞭な関係は認められなかった。
 懸濁物ろ過食二枚貝の摂餌速度と同化効率は潮汐変動に伴う水質変化の影響を受けることが知られている。そこで二枚貝の摂餌代謝活動が水質のどのような要因によって影響を受けているのかを明らかにする目的で,上述した松川浦において水質の経時調査と二枚貝の排糞速度試験を行った。摂餌速度と同化効率は,下記の,餌の灰分は二枚貝に消化されずに排糞されるものと仮定するConoverの式を用いて算出した。
摂餌速度=排糞速度・糞灰分量の割合/餌灰分量の割合
同化効率(%)={(餌の有機物割合−糞の有機物割合)/(1−糞の有機物割合)・(餌の有機物割合)}×100
 潮汐は午前中が下げ潮で正午が最干潮となり,午後に上げ潮となった。これに伴い流速は下げ潮時の10:00に最大19cm/秒を記録した。懸濁物量は下げ潮時に増加し,最干潮時の12:00に最大74.5mg/lを記録した。また,クロロフィル量も懸濁物量の変化と連動していた。一方,懸濁物に占める有機物量の割合は懸濁物量とは逆に下げ潮時に低下し,上げ潮時に増加した。これらのことから,下げ潮時では松川浦奥のシルト分の高い底質や底生性微細藻類などが巻き上がり浦口の方へ移動することや,上げ潮時には浦口から有機物に富んだ海水が浦奥へ進入することが明らかになった。両貝の同化効率は,有機物量の変化と同様な傾向を示し,上げ潮時に高い値を示した。この変化と有機物割合の変化とが類似しており,アサリ,カキの同化効率は懸濁物中の有機物の割合と高い正の相関を示すことが認められた。


〔発 表〕b-152〜154,232〜235


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