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研究成果物



2.6 特別研究


4.空中浮遊微粒子(PM2.5)の心肺循環系に及ぼす障害作用機序の解明に関する実験的研究


〔担当者〕
地域環境研究グループ 高野裕久・鈴木 明・古山昭子
環境健康部 小林隆弘・藤巻秀和
     下線は研究代表者を示す


〔期 間〕
平成11〜13年度(1999〜2001年度)


〔目 的〕
 今日,日本をはじめ世界中の大都市部の大気汚染は改善の兆しがみられず,特に,浮遊粒子状物質(SPM)の汚染は深刻である。このSPM中の大部分を占めるDEP(PM2.5粒子)が肺がんやアレルギー性鼻炎を起こすことはよく知られている。また,前の特別研究で,DEPが実験動物に気管支のぜん息様病態を引き起こすことを明らかにした。一方,最近になって,粒径が2.5μm以下のSPM,すなわちPM2.5と心疾患による死亡率との間に非常に高い相関性があることがアメリカやイギリスの多くの疫学研究によって示され,その健康影響の重大性がにわかにクローズアップされてきた。しかし,この両者間の因果関係の実験的証明はまだなされておらず,その証明はこれからの研究にかかっている。
 そこで本研究では,日本の大都市部のPM2.5の大部分を占めるDEPを対象物質として,ディーゼル排気の暴露実験と組織培養等を含むinvitroの実験を組み合わせることにより,その中のどのような物質がどのような機序で心血管系に傷害を及ぼしているかを明らかにし,これまで疫学的研究によって得られている両者の間の関連を実験的に証明し,環境保全のドライビングフォースとなることを目的とする。


〔内 容〕
課題1 心電図による心筋及び循環機能異常に関する電気生理学的解析に関する基礎的研究
(1)心電図による心筋および循環機能異常に関する電気生理学的解析
 心電図は心臓の機能的変化を敏感に反映することができる。そこで,ディーゼル排気(DE)暴露による心筋や循環機能への影響を電気生理学的に明らかにするための基礎資料を収集する。心拍数の経時的変化,異常心電図の分析,心電図の波形成分の分析,心筋の電気刺激に対する閾値等を調べることにより,血管の収縮性,心臓全体あるいは心筋活動性や心筋の興奮性等に及ぼす影響を分析する。
(2)心血管系の病理組織学的異常の解析
 肺,心臓,血管の変化について光学顕微鏡レベル及び電子顕微鏡レベルで病理組織学的検索を行い,病変の同定を行う。
課題2 DEP血管内皮細胞および免疫担当細胞に及ぼす作用機序の解析に関する研究
(1)DEP(PM2.5)中の成分の過度の薬理学的作用による心血管系機能異常の解析
 DEPの各化学成分を薬物特性から分画し,それぞれの成分を気管内や静脈に投与し,血圧や心電図異常から,どのような物質がどのように作用して循環器に影響するのか検索する。
(2)培養細胞系による血管内皮細胞に及ぼすDEPの傷害作用の解析
 DEP中には血管の弛緩因子(NO)を合成する酵素(NOS)を阻害する物質が存在することが判明している。また,それらの物質はフリーラジカルや活性酸素を生成し,それによって心筋や血管内皮細胞を傷害していることが考えられる。そこで,DEP中のどのような画分が血管内皮細胞を傷害しているのかを調べ,心血管系に及ぼす影響評価のための基礎データを得る。
(3)免疫系に及ぼすDEPの作用機序の検討
 DEP(PM2.5)はフリーラジカルや活性酸素の生成,NOS阻害などを介して免疫系にも様々な障害をもたらす。今年度は,肺より単離したマクロファージの増殖能や炎症性サイトカイン産生能,フリーラジカル産生能,細胞表面抗原発現の変動について調べ,DEPのマクロファージを介した免疫機能に及ぼす影響を解析する。また,細菌由来毒素に関連する肺傷害に及ぼすDEPの影響を検討する。


〔成 果〕

課題1 心電図による心筋及び循環機能異常に関する電気生理学的解析に関する基礎的研究
(1)心電図による心筋および循環機能異常に関する電気生理学的解析では,9ヵ月曝露では,対照群で7%,0.3mg/m3で40%,1.0mg/m3群で27%,3.0mg/m3 曝露で27%の異常心電図が出現することがわかった。12ヵ月曝露群では,対照群で20%,0.3mg/m3で60%,1.0mg/m3 群で47%,3.0mg/m3 曝露で47%と,異常心電図の出現の増加を認め,18ヵ月曝露群では,対照群で40%,0.3mg/m3で47%,1.0mg/m3群で60%,3.0mg/m3曝露で33%となった。異常心電図の多くは単発性の心室性期外収縮であったが,12ヵ月曝露の3.0mg/m3の群で,連続的な房室ブロックおよび心室性期外収縮の両方を示す個体を1例認めた。12ヵ月曝露後の各個体の体重は,3.0mg/m3 で対照群と比べて有意に減少していた。また臓器重量(体重比)は曝露群で増加傾向にあり,心臓,肝臓,腎臓において対照群と比較して有意な増加が認められた。12ヵ月曝露の著しい体重の減少,および心臓,肝臓,腎臓などの臓器重量(体重比)の増加などから,全身的な循環不全や心臓負荷による心臓の形態的変化(肥大など)が推測された。
 18ヵ月曝露のラットでは呼吸機能検査を行い肺における呼吸ガス交換の変化を調べた。その結果,3.0mg/m3 曝露群では,肺によるガス交換機能の有意な低下が起こることが判明し,その原因の一因として換気能の低下が推測された。
(2)心血管系の病理組織学的異常の解析では,DEPを長期間吸入曝露(6ヵ月以上)したラットの肺では肺気管支や肺胞リンパ節に吸入微粒子の集簇が光学顕微鏡レベルで観察された。また,肺胞マクロファージによる貪食作用も認められた。しかしながら,顕著な炎症性の疾患は現在のところ観察されていない。
 前年度,DEP抽出液は,マグヌス法による血管標本で,低濃度で軽い収縮反応を示し,高濃度で強い弛緩反応を示すことを明かにしたが,さらに,本年度は,DEP抽出液の細分画,細々分画の心臓と動脈血管に対する作用の実験も進み,化学分析とバイオアッセイを結びつけることによって,これらの作用化学物質が,DEP抽出液に存在することを初めて確認した。

課題2 DEP血管内皮細胞および免疫担当細胞に及ぼす作用機序の解析に関する研究
(1)DEP(PM2.5)中の成分の過度の薬理学的作用による心血管系機能異常の解析では,DEP抽出溶液をモルモットにジギタリス法に則って静脈内投与すると,完全房室ブロックの後に心停止を起こすことが判明した。心停止は心臓の負の変時作用に伴い,収縮力が減少するというもので,この変化はジギタリス中毒の変化と似ていることを発見し,血中のジギタリス様物質が僅かながら増加することを見いだした。
(2)培養細胞系による心筋および血管内皮細胞等に及ぼす傷害作用の解析において,培養した肺動脈血管内皮細胞数の増加は,DEPの用量に依存して減少し,細胞毒性が証明された。その機序解明のため,SODおよびカタラーゼを単独あるいは複合して加えたDEPの細胞毒性はDEP単独よりも減少したので,スーパーオキサイドの関与が推測された。また,平滑筋を弛緩させるNOの産生阻害が推測された。
(3)免疫系を介した組織傷害作用の解析では,3mg/m3のDEPを7ヵ月暴露したマウスの肺胞マクロファージはサイトカイン産生,NO産生ともに低下し,DEPが感染抵抗性および免疫能を低下させ,細菌等による感染による組織傷害を起こしやすくすることが確認された。
 また,細菌毒素による肺傷害はDEP により顕著に増悪し,この効果は肺における炎症性サイトカイン及びケモカインの発現と良く並行した。

課題3 ディーゼル排気微粒子(DEP,PM2.5)の心肺機能傷害の量ー反応関係の解析に関する研究
 本課題は,特別研究の13年度中に行う予定であるので,本年度は資料の収集を行った。
 その他の研究成果として,DEPの内分泌撹乱作用について検討がされ,DEP抽出溶液中から,2〜5個のエストロゲン作用物質と抗エストロゲン作用物質と見られる物質が発見され,現在,これらの物質の作用を動物実験で確認試験を行っている。


〔発 表〕B-47〜53,b-167〜179,185,186,236,237,240,241


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