2.6 特別研究
3.都市域におけるVOCの動態解明と大気質に及ぼす影響評価に関する研究(最終年度)
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
若松伸司・上原 清・田邊 潔・近藤美則・森口祐一・櫻井健郎・松橋啓介・松本幸雄 |
| 大気圏環境部 |
: |
菅田誠治・畠山史郎・酒巻史郎・杉本伸夫・松井一郎 |
| 化学環境部 |
: |
相馬悠子 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕
大気汚染防止法の改正によって有害大気汚染物質対策が本格化し,ベンゼン等のVOC(volatileorganic compounds:揮発性有機化合物)による汚染実態の把握とリスク評価が急がれている。一方,VOCは二次生成大気汚染に関してのキーとなる物質であり光化学大気汚染や粒子状物質の生成機構には最も重要な役割を果たしている。しかし,種々のVOCの発生量,濃度分布と変動,汚染メカニズムなどに関する体系的な研究がなされておらず,データの収集・蓄積ばかりでなく,適切なモニタリング頻度・地点数・配置などの判断や,発生源と汚染・リスクの関係の理解などに資するためのモデル解析などの研究が必要とされている。特に都市域における実態把握が緊急に必要となっている。
本研究においては環境大気中におけるVOC成分等の動態解明を発生源調査,フィールド測定,モデル評価等の様々な角度から行いVOC成分が大気環境質に及ぼす影響を評価することを目的とする。
〔内 容〕
本研究では,種々のVOCの正確な発生量の見積もり,NMHCに代わるVOC多成分分析法による環境モニタリング,二次生成大気汚染に関するモデルの適用と検証などを系統的に行い,VOC汚染と二次生成大気汚染の動態・実態を解明することによって,適切なモニタリングのあり方,VOC発生源対策の方向性などを明らかにするとともに,モニタリングを補う実態把握方法を提供する。
VOCの発生源として大きなウェイトを占める自動車について,我が国における発生量の見積もりと,諸外国での値の間に大きな開きがあり,排ガス以外のエバポエミッション等を含めた正確な排出実態の把握が必要とされている。そこで,自動車トンネル・沿道等でのVOC計測を行い,実走行状態での排出係数を正確に推定する。その他の発生源については,既存の排出係数の精査,地方自治体による化学物質使用実態調査結果,汚染物質排出・移動登録データなどに基づいてVOCの排出係数を確定する。VOCの空間分布発生量の推計に当たっては排出係数や道路交通量,工業生産統計などの社会・経済データを組み合わせてメッシュごとの発生量を推計するための「大気汚染物質発生量算定システム」を開発する。
環境モニタリングについては,VOC成分の中で重要な成分を40程度選び連続自動分析し測定値を評価する。これらのデータや特別観測による立体分布データ,気象観測データ等を利用して,大気汚染シミュレーションモデルによる解析とその検証・リファインを行い,VOC汚染と二次生成大気汚染のメカニズム・実態を明らかにする。得られた結果をもとにVOCモニタリングシステムの構築に関する検討,VOC対策シナリオの検討を行う。
本特研最終年度である本年度においては(1)VOC発生源調査 (2)フィールド観測による環境動態の把握 (3)モニタリング・モデリングの研究をとりまとめた。またPM2.5・DEP研究に向けての予備的な調査,解析を行った。本特研を進めるに当たっては,革新的・計測研究(H9-11),JCAP「大気質改善のための自動車・燃料等の技術開発プログラム」(H9-13)等の国立環境研究所内外の関連プロジェクトとの積極的な連携をとった。
〔成 果〕
(1)VOC発生量・組成の推計に関する研究
1)自動車からのVOC発生量・VOC組成の推計
自動車起源のVOCの比率は人為発生源全体のうち13%程度であると考えられていた。これまでは主に規制自動車のテールパイプからの発生量を中心に推計がなされていたが,これに加えてエバポ(走行中や駐車時の車からの蒸発による発生),アイドリング,コールドスタート時の発生量が考慮されなければならない。また二輪車等の未規制自動車の寄与も大きいため,自動車起源のVOCの推計値の修正が必要である。これらの要因を新たに追加し,自動車寄与の推計を行った。その結果,自動車起源のVOC の比率は22%程度であることが明らかとなった。自動車に関連するもう一つの発生源としては,給油や温度変化に伴うガソリン蒸気の大気への放出がある。これによる寄与分を自動車関連のVOCとして評価すると,総体としての自動車の比率は28%程度となることが明らかとなった。ガソリンの蒸発や排ガスは有害化学物質(ベンゼン等)汚染の動態把握の観点からも調査を進める必要がある。蒸発成分と量はガソリン組成や気温影響が大きいため,全国のガソリンスタンドからのサンプリングと成分分析を行った。この結果を基に蒸発ガソリンの環境負荷に関する検討を行い季節変化や地域分布を明らかにした。また自動車からのDEP発生量推計に関する予備的調査を実施した。
2)固定発生源・面源からのVOC発生量・VOC組成の推計
PRTR(汚染物質排出移動登録制度)の結果等をとりまとめ,固発生源(点源)からの有害化学物質の発生量は約35万トン/年/全国であること,主要成分はトルエン,キシレン,ジクロロメタン,ジクロロベンゼンであり,22万トン/年/全国で全体の63%程度を占めることを前年度明らかにした。これ以外にも塗装・溶剤の生産量から推計すれば,面源からのVOC発生が100万トン/年以上あると考えられる。固定発生源の中でも特に発生寄与率が大きい塗装・溶剤関連,印刷関連のVOC発生の現状を把握する為に関連業界のヒアリングを行い最新の知見を明らかにした。これとともに大気汚染予測モデルへの入力データベースを更新した。
3)トンネル調査による自動車からのVOC発生量・VOC組成の推計
実走行状態での自動車からのVOC発生量・発生組成の推計を行うために走行速度や車種構成が異なる二つのトンネル調査(トンネルA,B)データを詳細に解析・評価した。トンネルAは市街地における比較的短いトンネル(約350m)で,両側には信号がありラッシュ時には渋滞が発生する。トンネルBは高速道路のトンネル(約1,200m)である。Aトンネルでは車種構成がほぼ一定であったので,得られたエミッションファクター(EF)は,市街地における現実の車種構成の,比較的低速の走行に対応する値と考えた。Bトンネルでは車種構成に変化が見られたので,車種構成の変化とEFの関係を検討した。トンネルデータにより得られたEFを国内外の実験・観測結果と比較評価した。これとともにトンネル調査によりPM2.5・DEPの発生量を推定する手法の検討を行った。
(2)大気環境中におけるVOCの動態把握に関する研究
1)環境中のVOC濃度の連続測定
環境大気中におけるVOCの動態を把握するために独自の開発した自動分析システムを用いて,関東地域およびメキシコシティにおいてフィールド観測を実施した。関東地域における観測は夏季と冬季に実施したが,1999年の夏季は北太平洋の高気圧が北偏していたため大気汚染は低濃度で推移したが,モデル検証のためのデータセットを得た。冬季においては3日間にわたり大気汚染物質が蓄積し高濃度が出現する機構を立体的に把握することができた。本観測において初めてアルデヒド類や,ガス状硝酸などの立体分布を把握することができた。
2)大気汚染のトレンド解析
大気汚染濃度の20年間にわたるトレンド解析を行い,東京首都圏地域や近畿地域等の大都市域においては,都心地域に比べて郊外地域において大気汚染濃度が相対的に上昇していること,これとともにオキシダント濃度の年平均値が都市地域において,1ppb/年程度の割合で増加していることを明らかにした。この傾向は比較的空気が清浄な地域においても認められた。全国の国設局の大気汚染のトレンド解析を行い大陸方面からの移流の寄与を評価した。
(3)モニタリングシステムと予測モデル開発に関する研究
1)風洞実験による沿道大気汚染解析と最適測定システムの検討
モニタリングステーションの最適配置や地域代表性の評価に当たっては問題とする道路空間内部における大気汚染濃度分布を明らかにした。任意の道路条件にたいする予測手法を開発するために風洞実験を行い予測式ΔC=q/{Aexp(Bθ)Ur}を提案した。ここで,ΔCは自動車排ガスによる濃度増加,qは汚染ガスの排出量,Uは一般風速,rは汚染源から対象地点までの距離,θは汚染源から対象地点を見上げた仰角,AとBは実験的に定める係数である。この関係を一般化するための風洞実験を実施した。これとともに実市街地ならびに複雑な道路構造地域における拡散モデルを検証するための風洞実験を行った。モデル解析に関しては風洞実験によりストリートキャニオン内の大気汚染分布と気象条件,道路構造条件との関連性を明らかにした。本年度は,特に,ストリートキャニオン両側の建物高さによって道路内部の流れと拡散がどのように変化するかを詳しく調べ,さらに最終年度として,今まで行ってきた風洞模型実験の結果をまとめた。まず,ストリートキャニオン全体の換気性能を示す指標として通風率(AST=QST/(LxUH))を導入し,道路幅・建物高さ・大気安定度などの条件から通風率を介してストリートキャニオンの平均濃度を大まかに見積もる手法を提示した。ただしQST=q/Cav:ストリートキャニオンの実質換気量,Cav:ストリートキャニオン内部の平均濃度,q:汚染ガス排出量,L:道路幅,UH:上空風速である。また,ストリートキャニオン内部の濃度分布をそれ自身の平均濃度によって基準化すると,道路幅・建物高さ・大気安定度などのかなりの範囲にわたって分布形状が類似することがわかり,今後の沿道汚染濃度分布予測実用化への手がかりを得た。
2)予測モデルの検討
地域・広域汎用モデルの構築と応用に関する検討をJCAPグループ及び,米国EPAと共同で行った。本特研で主に利用したModels-3は,第三世代の大気質モデリングシステムである。モデルインターフェースの構築と基礎的なモデル検証作業を行い,このモデルを用いて,中国大陸及び日本を含むアジアスケールでの広域大気汚染の予測と観測データとの比較を行い,モデルの性能を検証した。また,VOCの発生源に関する感度解析を行った。これとともに冬季のオゾン濃度の計算を行い,松江国設局の測定結果と比較評価することにより大陸起源の発生源の寄与を検討した。
|