2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
8.砂漠化に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究センター |
: |
清水英幸 |
| 生物圏環境部 |
: |
戸部和夫・邱 国玉*・高 永* (*EFFフェロー) |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
砂漠化の影響は現在地球の全陸地の約1/4,世界人口の約1/6に及び,将来の地球環境や食糧供給に深刻な影響を及ぼすことが懸念されているが,この砂漠化問題は気候的要因と人為的要因に加えて社会経済的要因も絡まって,その解決を難しくしている。国際社会は,「砂漠化対処条約」を締結し,1996年12月に同条約は発効し,また,1997年10月には第1回締約国会議が開催された。先進締約国には砂漠化防止に対する資金的・技術的な支援が強く要請されており,また,砂漠化防止における我が国への期待も大きく,各種の砂漠化防止プロジェクト及び共同研究等を通した技術的支援活動を早急に推進する必要がある。しかし,これまでの砂漠化研究および砂漠化防止技術は,その技術・方法論,対象とする砂漠化プロセス,対象地域等の点で,それぞれ別個に独立して展開される傾向があり,その結果,研究成果や技術の総合化・普遍化が十分に行われていない。したがって,既往の砂漠化研究をレビューし,各研究の座標付けを与えるとともに,その総合化を図り,砂漠化防止技術については地域性を越えた共通性を抽出し,対象地域−問題プロセス−防止技術のマトリクスを作成することが必要である。その一方で,砂漠化は局地的な自然あるいは社会経済条件を反映して生じる現象であるという側面も持っている。このため,問題の解決に向けた一般化,普遍化が難しく,現地での実証的な研究に基づいた防止対策の確立を行うことも必要である。そこで,世界のいくつかの代表的な砂漠化地域の環境容量に基づいた適正な土地管理計画の策定と対策技術の適用のための体系化に関する研究も併せて行う必要がある。
〔内 容〕
(1)砂漠化の評価と防止技術に関する総合的研究
本研究では,砂漠化研究の総合化と地域固有の砂漠化対策の策定の両側面から砂漠化研究を行い,砂漠化対策のための実効性のある施策を提示することを目的とする。具体的な研究内容は以下のとおりである。
1)砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究
本サブテーマでは以下の2課題について取り組む。
(1)砂漠化研究の総合化に関する研究
砂漠化防止対策を展開していく上で,重要な砂漠化プロセスのモデル化に関して,下記のように最先端の研究成果をまとめる。
・一連の砂漠化プロセスを,背景となる自然環境条件と伝統的な土地利用システム,砂漠化の自然的人為的要因,フィジカルな砂漠化プロセス,砂漠化の人間生活への影響,砂漠化対策とその効果,周辺住民等へ及ぼす副次的影響という流れで整理し,全体を統合する数量的なモデルのフレームワークを考案する。
・上記のフレームワークをいくつかのモジュールにブレークダウンし,各モジュールの機能とモジュール間のリンケージについて考案する。
・このようなモデルの開発可能性を検討するために,対象地域を限定した上で,既往研究のレビューにより,既往研究によって,どの程度定量的または定性的に各プロセスを記述できるかを明らかにする。
(2)砂漠化防止技術の体系化に関する研究
既往の砂漠化防止プロジェクトに関する文献等のレビュー等により,情報を収集,整理し,以下の3点について検討を行う。
・対象地域−問題プロセス−防止技術とその評価に関するマトリクスを作成して,砂漠化防止技術の体系化を試みる。
・砂漠化防止に関する技術のうち,特に普及可能性の高い最新技術に着目して,その実現可能性等を検討する。
・地域の状況に適合した砂漠化防止技術の評価システムに関する検討を行う。
2)中国における砂漠化対策技術の評価に関する研究
中国においては,比較的早くから砂漠化対策の取り組みがなされており,これまでに多くの砂漠化対策が実施され,膨大な研究成果が蓄積されている。しかし,これらのプロジェクトに関する客観的評価はほとんどなされておらず,さらに,これまでに得られた研究成果も相互間の関連づけが十分になされていない。そこで,既往の中国の砂漠化対策プロジェクトの実効性や各種の砂漠化防止技術の有効性の評価を行う。
3)中国における砂漠化評価のための指標に関する研究
有効な砂漠化対策の実施のためには,適切な砂漠化指標を用いた砂漠化の評価が必要不可欠であり,砂漠化の進行に伴って敏感にその様相を変える植生や土壌の状態は,最も基本的な砂漠化指標として用いられるものと期待される。中国においては,これまでに,砂漠化の進行に伴う生育植物種の構成や土壌状態などの変化の態様に関し,多くの研究成果が蓄積されている。そこで,中国における砂漠化指標に関連した文献のレビューを行い,中国における砂漠化進行度の指標化に関する検討を行う。
なお,上記1)のサブテーマでは,本課題の他のサブテーマ,「中国における砂漠化防止技術の適用に基づく土地利用計画手法に関する研究」,「西オーストラリアにおける砂漠化防止・植生回復技術に関する研究」,「サブサハラアフリカの土壌扶養力の評価と維持・回復技術の開発」などにおける研究成果についても,整理・評価し,総合化・体系化を実施する。
〔成 果〕
(1)砂漠化の評価と防止技術に関する総合的研究
1)砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究
(1)砂漠化研究の総合化に関する研究
前年度に考案した砂漠化総合モデルのフレームワークをさらに発展させて,より具体的なモデルの構成を示すとともに,そのモデル化の可能性について検討した。すなわち,対象地域を中国北部の乾燥・半乾燥地域とし,そこでみられる一連の砂漠化現象を前提として,全体的な概念モデルを構築し,それをいくつかのモジュールに分け,モジュール毎に要因間の関係性を示した。このモデルの特徴は以下の諸点である。
A.モデルの全体像としては,地域における生物生産が,人口,経済,気候,土壌,地形,土地利用などの要素で支えられており,地域における生物生産が供給の一部として地域経済に投入される。地域経済において,供給に対して地域住民に対する効用を最大化するよう5つの生物資源利用形態(食料,飼料,建料,燃料,肥料)に対する資源配分量を決定する。この際,需要が生物生産量を上回った場合,土地の過剰利用を引き起こし,その負荷が土地荒廃や人口の移動を引き起こす。すなわち,人口増加が生物生産量の減少につながり,さらに需給バランスを崩すというサイクルが,慢性的な土地の過剰利用をもたらすという現象を再現しようとするものである。
B.作物生産モジュールでは,地域の土壌・地形などの土地自然条件をもとに,さらにその時々の気象条件を加味して,天水農地・かんがい農地等に応じて,生物生産量が計算される。このほか放牧地生産モジュール,森林生産モジュールでも同様に生物生産量が計算される。
C.作物生産モジュールは,需要/供給収支モジュールにつながり,土地資源・労働力資源・資本資源などから土地の生産を最大化する場合の土地利用のもとでの生産を計算し,それが人口,経済水準,ライフスタイル,市場での取引などから導かれる需要量と比較される。
D.需要が供給を大きく上回る場合には,土地利用強度が増し,過放牧・過耕作等を通じて,土地荒廃が進行(土地条件が劣化)し,土地生産力の減少へとフィードバックされる。
さらに,このモデルの開発可能性を検討するため,現在までに入手した研究論文を詳細にレビューし,論文ごとにその論文がモデルの全体像のなかでどの部分に関連するかを分析し,最終的にモデルのなかで定量的な記述が可能な部分,定量的ではないが定性的には記述される部分,これらの研究のなかでは記述されていない部分を明らかにした。その結果の概要は以下のとおりである。
A.レビューした論文は,主として中国北部を対象とする95編である。論文ごとに,対象地域,環境要素間のなんらかの関係性について論じている場合には,その入力・出力要素およびその関係性,要旨等を一覧表にまとめた。研究内容が類似すると思われるものを小グループとし,それらをさらに大きなグループへと統合していき,レビューした研究の見取り図を作成した。全体として,レビューした研究は,(1)砂漠化の原因を探る研究 (2)植生の維持・管理に関する研究 (3)土地生産力に関する研究 (4)環境変化に関する研究 (5)対処政策に関する研究,の5つに分類した。社会経済学的研究や,砂漠化現象を定量的に扱う研究は数少なかった。
B.前述の,砂漠化総合モデルの全体像において,それぞれの論文から導かれる結果をあてはめていくと,土地荒廃や環境要素間の関係,また環境要素と生物生産との関係については,比較的多くの研究がみられる一方,生物生産の需要供給バランスや,生産力変化の経済的評価に関する研究はほとんどみられなかった。
C.このことから,実際にモデル化を進めていく上では,生物資源の需給バランスや社会経済分野の研究論文をさらに丹念に検索していくことと同時に,必要ならばこのようなパラメータを得るような調査を実施しなければいけないことが判明した。ただし,現実的には,データの入手がきわめて困難なパラメータ部分については,モデル自身の改変も視野に入れて検討していくことが必要である。
(2)砂漠化防止技術の体系化に関する研究
A.対象地域−問題プロセス−防止技術とその評価に関するマトリクスを用いた砂漠化防止プロジェクトの分析
砂漠化・土地荒廃防止プロジェクトに関する文献等より,適用した技術の内容とその効果に関する何らかの評価がなされているものを選定してレビューを行い,マトリクスを作成した。技術的(物理的)対策と組織・制度的対策,及び人材育成(住民参加を含む)の各側面での対策が実施された場合,かつ,対象地域の気候特性や資源等を活用できた場合に,成功したと評価されているものが多くみられた。また,住民参加の実現,特に,対策の意義や内容の理解を伴う積極的な参加,もしくは所得の増加等の直接的利益の有無が,成否を左右したとみられる例が多かった。
B.普及可能性の高い最新技術の検討
地域レベルでの利用を想定した技術の例として,風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギー利用技術,及び,畜糞バイオガス発酵と燃料電池もしくはマイクロガスタービン等,最新技術との組み合わせに関する検討を行った。
風力発電は,欧州を中心に近年の技術革新が著しいものであり,対象地域における技術・人材・費用等の課題はあるものの,具体的な適用可能性が最も高い技術の一つと考えられる。畜糞バイオガスは,畜舎飼育と組み合わせての利用が想定されるが,肥料用途とのバランスを考慮する必要もあるため,地域の炭素・窒素・リンの循環に着目したケーススタディ等,さらに検討が必要とされる。燃料電池及びマイクロガスタービンは,中・小規模の熱電供給システムとして注目されている。特にマイクロガスタービンは,アメリカ等では分散型電源の主力としてすでに一般利用されており,燃料電池に関しても,実用化されているリン酸型に加えて,固体高分子型の研究が進んでいる。これらについては,発生する熱と電気の効率的な利用方法を検討する必要がある。
C.砂漠化防止技術の評価システムに関する検討
上記の結果を踏まえ,総合モデルのフレームワーク構築に資することを想定して,評価システムに適用する指標の検討を行った。技術の特性を評価するためにはさまざまな指標が必要とされる。しかし,砂漠化地域の多くが途上国であり,当面はデータの入手が急速に向上する可能性は低いことから,半定量的な情報も含めた入手可能なデータに基づく,砂漠化対策技術の評価のための総合指標の開発が有効と考え,検討を行った。
現段階で考え得る総合指標の一例は,「対策技術の普及可能性」であるが,これは対象地域の自然的・社会的特性により大きく異なる。そこで,前年度のマトリクスを発展させて,理想的な対策マトリクスを作成し,データの入手可能性を考慮して作成した半定量的な普及可能性の評価指標を用いて,代表的な砂漠化対策プロジェクト数例について,最も実践的な“コアセットメニュー”を抽出した。
2)中国における砂漠化対策技術の評価に関する研究
中国で実施されている代表的な砂漠化対策技術および砂漠化からの回復技術の整理を行った。その結果,以下のことが明らかとなった。
A.砂丘固定技術
中国において最も深刻な砂漠化の形態は砂の流動化である。砂地での植生の減少により,砂が風で移動しやすくなり,移動砂が農地や建造物,鉄道等に悪影響を及ぼす。そのため,中国では,砂の移動の防止や砂地での植被の回復のために多くの研究や技術開発がなされてきた。中国で適用されている代表的砂丘固定技術としては,植栽により砂の移動を防止する「植物防砂法」,草方格や防砂柵等を設置して砂の固定を行う「工程防砂法」,化学物質で砂表面を固定する「化学固砂法」などがある。
このうち「植物防砂法」は,有用植物の育成にもつながり,自然の力での土壌の改良が可能であるうえ,経済的効果も期待できる。この方法を成功させるためには,a)植物が生存できるか否かの事前調査を行う b)その地域固有の植物種(潅木)を用いる c)数種類の植物を混生させる d)現有植生を保護しつつ,新たな植生を付加するなどが重要である。
また,「工程防砂法」のうちの草方格(わらを格子状に砂地に埋め込み,砂の移動を止める設置物)技術は,主として道路や鉄道が砂に埋もれるのを防ぐために用いられる。草方格の利点として,a)防風・固砂効果が大きい b)容易に設置できる c)設置後速やかな効果を期待できる,d)環境に悪影響を及ぼさないなどがあげられる。一方,欠点としては,a)設置のために多くの資材(わら)と労働力を必要とする b)資材のわらの寿命が3〜5年程度であるため,防砂効果を維持するためには更新が必要であるなどがある。これらの欠点を克服するため,今後,草方格の設置作業の機械化や草方格の寿命を高めるための工夫などが必要である。
B.生態系回復技術
囲地(過放牧地などを囲い込んで自然植生の回復を図る)や自然保護区の設置等による自然生態系や植林生態系の保全や回復が図られている。また,防風林の設置,植物種子の飛行機散布による緑化,アグロフォレストリー技術などの環境保全や植生回復の技術が開発されている。このうち,種子の飛行機散布法は,大面積区域の緑化に有効であり,播種される植物は,主にその土地の固有種が用いられている。また,植物の定着率を高めるための播種前の種子処理として,種子を肥料や保水材を含む黄土粉でコーティングする技術などが開発されている。
C.持続的農牧業生産技術
農耕地を効果的かつ節約的にかんがいするために,様々なかんがい技術が開発されている。地表かんがい法は施設費が安価であるが,水の損失が大きく,過湿状態や塩類集積を防ぐために排水を含めた水管理を適切に行う必要がある。一方,マイクロかんがい法や散水かんがい法では,水の損失が少なく高度な技術といえるが,施設費や管理費が大きい。
また,農耕地への塩類集積を防止するとともに土壌の過湿状態を改善するために,排水設備の整備が重要であるが,そのためには,地域全体の広域的な排水システムを整備して,個々の圃場の排水を適正に行う必要がある。また,塩性化した土壌の改良のために,土壌表層に集積した塩類を削って取り除く技術や土壌表層部を水で洗い流す技術などが開発されている。さらに,根群域に集積した塩類をかんがい水で溶解し根群域から除去する技術や水稲作を取り入れた輪作体系の確立などが有効である。
3)中国における砂漠化評価のための指標に関する研究
中国を始め,世界各地域の砂漠化評価のための指標に関する文献のレビューを行い,既往の砂漠化指標に関する検討を行った。さらに,中国の半乾燥地域の典型的牧草地である羊草(Leymus chinensis)草原を対象として,砂漠化の進行に伴う植物種の構成やバイオマス量等の変化に関する既往の研究成果を整理するとともに,データの解析を行い,有効な砂漠化指標を探索した。ここでは,各種環境要因と植生の特徴をもとに,草原の砂漠化の程度を以下の4段階に分類して植生状態の検討を行った。a)非砂漠化段階 b)軽度砂漠化段階:優良牧草(L.chinensisおよびStipa grandis)の個体数が約15%減少し,バイオマス量が約30%減少 c)中度砂漠化段階:優良牧草の個体数が約30%減少し,バイオマス量が約50%減少 d)重度砂漠化段階:優良牧草の個体数が約50%減少し,バイオマス量が約70%減少。文献による調査とデータの解析の結果明らかになったことは,以下のとおりである。
A.砂漠化の進行による優良牧草の相対バイオマス量(特定の種のバイオマス量の全バイオマス量に対する比)は連続的に減少し,逆に,牧草に適さないArtemisia frigidaなどの植物種の相対バイオマス量が連続的に増加した。中度砂漠化段階では,放牧圧に強い抵抗性があると推測されたA. frigidaが優占種になった。
B.長期間にわたって過放牧を行えば,優占種の各個体の高さやサイズが小さくなることが明らかになった。優占種L. chinensisの平均高さは,重度砂漠化段階では,非砂漠化段階での高さの約50%であり,また,他の植物種に関しても同様な傾向が認められた。一方,砂漠化から回復しつつある草原においては,砂漠化からの回復とともに優占種の平均高さは徐々に増加することが判明した。
C.植物種の植被率やバイオマス量から算出した総合優勢度率(SDR)を指標として草原品質の変化を評価した。その結果,優良牧草と中質牧草のSDRは砂漠化の進行とともに減少し,劣質な牧草の占有割合が増加して,草原品質が劣化することが明らかとなった。また,各砂漠化の段階で,中質牧草のSDRの値は優良牧草に比べて大きかった。一方,砂漠化の進行により,低質牧草と劣質牧草のSDRは増加するが,劣質牧草のSDRは10%以下であり,その変化はこの草原に大きな影響を及ぼさないと判断された。
D.以上の結果から,低質牧草の代表植物であるA. frigidaは,中国の半乾燥地域の典型的牧草地である羊草草原における,砂漠化進行の指標植物として有効であることが判明した。
〔発 表〕H-12,13,15,17,h-10,11,14,i-18,19
|