<HOME  <Index of 年報(平成12年度)  <Index of 地球環境研究

研究成果物


2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)


6.熱帯林の減少に関する研究


〔担当者〕

地球環境研究グループ 奥田敏統・唐 艶鴻
社会環境システム部 森田恒幸
生物圏環境部 渡邊 信
地球環境研究センター 清水英幸
科学技術特別研究員 小沼明弘・西村 千
重点支援研究協力員 鈴木万里子
     下線は研究代表者を示す


〔目 的〕
過去20年の間に熱帯林は毎年約1500万ヘクタールの割合で消失したといわれている。熱帯林は地球上でもっとも多様な動植物を含む生態系であり,森林面積の急激な減少が遺伝子資源や生物生産資源へ多大な影響を与えるのみならず,炭酸ガスの吸収源,地球レベルでの気候の安定装置としての機能を喪失してしまうのではないかと危惧されている。熱帯林の減少の主な原因は,森林伐採やプランテーションなど他の土地利用形態への転換,および人為的起源による森林火災などがあげられるが,その根底に熱帯林を抱える地域の経済的貧困が存在することは確かである。またそれぞれの地域ごとの森林破壊や荒廃の背景も異なっており,各地域内ごとに自然破壊を必要最小限に食い止めるための環境プランニングや荒廃した生態系の修復などの対応策が迫られている。地球環境推進費による熱帯林の減少分野では,熱帯林の減少の背景,原因などを探るとともに,その結果発生している生態系変化の現況を把握し,森林を含む地域全体の持続的管理へむけた指針を提示するための調査・研究を行う。


〔成 果〕

(1)熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究
 近年,熱帯林保全へ向けた持続的管理の手法が様々な地域で模索されているにもかかわらず,森林の減少速度に歯止めがかからない。そのため,森林の持続管理に向けた的確な指針が与えられないばかりか,人類共通の遺産である森林資源の枯渇を招くことにつながりかねない。この原因として,森林の持つ生態的,社会的,文化的なサービス機能が客観的に評価されていないことが指摘されている。例えば,森林の炭酸ガス吸収機能が注目され,排出権売買が現実のものとなりつつあるが,そもそも熱帯雨林の炭素蓄積機能やその循環系に係わる要因についても十分な知見が得られているとは言いがたい。また豊富な熱帯雨林の動植物の生態に関する科学論文は数多く蓄積されたものの多様性が包括的に評価できる指標策定に対して十分な研究投資が行われたとは言い難い。そこで,本研究課題では熱帯林の保全管理のための手法を確立することを目的として 1)森林の荒廃が生物生産機能及び物質循環系に及ぼす影響 2)森林の荒廃が多様性の維持機能に及ぼす影響 3)森林の公益機能の環境経済的評価手法開発に関する研究を行った。なお,本課題はマレーシア森林研究所(代表:N.Manokaran氏),マレーシアプトラ大学(代表:M.Awang氏),島根大学(山下多聞氏),岐阜大学(代表:小泉博氏),都留文化大学(別宮由紀子氏),科学技術振興事業団(足立直樹,西村 干氏),自然環境研究センター(市河三英氏ら),神戸大学(鷲田豊明氏),早稲田大学(栗山浩一氏),東京都立大学(可知直毅,沼田真也氏),秋田県立大学(星崎和彦氏),日経リサーチ(代表:倉内敦史氏)などの協力を得て行った。

 1)森林の荒廃が生物生産機能及び物質循環系に及ぼす影響
 (1)低地熱帯林の林分動態と最近のバイオマス変動
パソ保護林内の天然生林分(6ha)で1994年から2年ごとに3度行われた毎木調査データに,同じ場所で1970年代に測定されたアロメトリー式を適用することにより,林分全体の地上部バイオマスを推定した。その結果,1973年に475Mg/haあったこの林分のバイオマスは1994年には431Mg/ha,1998年には403Mg/haに減少していた。1994年から4年間のバイオマス変動の内訳をみると,成長により22.6Mg/haが増加,死亡により51.9Mg/haが減少し,新規加入(0.88Mg/ha)も考慮すると結果28.4Mg/haの純減となった。この値は,1haあたりにして1年間に直径75cmの樹木1本分の炭素が生体から死体内へ移動するのとほぼ等価である。バイオマスの変動要因を解析した結果,新規加入と成長による増加分を死亡量が大きく上回っている原因は,死亡による個体あたりのバイオマス損失が大径木で大きいことや天然林に大径木が多いことと関連していると考えられた。一方,この4年間に合計26.1Mg/haの葉リターが供給された。倒木やリターはそれぞれ固有の速度で分解していくと考えられ,これらが分解して大気中に放出される二酸化炭素量を推定することが系の炭素吸収機能を評価する上で重要となる。実際に観測した値をもとに,この林分が炭素吸収系になる条件を満たす分解係数の範囲を推定した。今後分解速度を重点的に調べれば,このようなアプローチによって一定期間内に森林で吸収または放出された二酸化炭素量を推定することができる。
 (2)天然林および二次林における土壌呼吸速度の時空間変動とその要因
 土壌呼吸速度の空間的不均一性を評価するため,2000年3月に天然林と二次林内の2ha調査地内の50ヵ所で土壌呼吸速度の測定を行った。また,土壌呼吸速度の日変化や季節変化,環境要因に対する依存性を明らかにするために,天然林と二次林に設けた閉鎖林冠下ギャップ下に8m四方の調査区を設け,土壌呼吸速度および各種環境条件(土壌温度,土壌水分,土壌炭素・窒素濃度,植物根量,土壌微生物量)の測定を行った。その結果,土壌呼吸速度の平均値は,天然林,二次林においてそれぞれ4.8μmolCO2m-2s-1(CV=41%)と4.5μmolCO2m-2s-1(CV=43%)で,有意な差は見られなかった。また,両林分ともに,土壌呼吸速度の空間的不均一性が大きく,この分散の20〜50%は細根量と土壌水分によって説明された。一方,土壌呼吸速度の時間的な変化およびその要因は,天然林および二次林において,周期的ではないが季節変化が見られた。また,無降雨期間に,乾燥による土壌含水率の低下に伴う土壌呼吸の変化を測定した結果,多くの土壌において,土壌水分の減少に伴い土壌呼吸速度は直線的に増加した。林内では,地温は約25℃でほぼ一定であるが,土壌水分は降水に伴い15〜30%の間を変動していたことにより,年間土壌呼吸量推定は,閉鎖林内では土壌水分を変数とした単回帰モデルが有効であると考えられる。ただし,ギャップ環境では地温も3℃前後日変化するため,温度と土壌水分の両方を考慮した重回帰モデルを構築する必要があると思われる。
 (3)異なる森林形態下におけるさまざまな樹種の落葉分解速度の比較
 異なる森林形態下での炭素・窒素をはじめとする物質の循環機構を明らかにする目的で,マレーシア低地フタバガキ林の天然林,択伐後40年を経た二次林,択伐直後の二次林およびアブラヤシプランテーションにおいて,樹種ごとの落葉分解速度を推定するための調査を行った。調査は14種の樹木を対象にそれらの落葉と樹種の混合した小枝をリターバッグに詰めて林床に設置し,定期的に回収し乾燥重量,炭素窒素など化学分析を行った。また,各林分における林冠空隙の割合の違いが落葉落枝の分解速度にどのように影響するかを調査した。その結果,樹種ごとに分解速度が異なり,分解速度は初期のセルロース含有量および全窒素濃度により規定されていることが明らかになった。分解速度の速い樹種は,初期のセルロース含有量が少なく,初期の全窒素濃度が高かった。また,分解速度の速い樹種は各回収時における変動係数が大きく,シロアリによる摂食があったことを示唆するものでもあった。このことから調査地における重要な分解者であるリター食性のシロアリはセルロースが少なく窒素濃度の高い基質を選択的に摂食すると考えられる。土地利用形態が変化することにより,シロアリのバイオマスが減少したり,または食性の異なるシロアリが侵入してきた場合,分解過程そのものに変化が生じる可能性がある。
 (4)写真判読による低地熱帯雨林の地上部現存量推定の試み
 低地熱帯の天然林や択伐後の二次林の地上部現存量が衛星画像によってどの程度推定できるかを明らかにすることを目的として,マレーシア,パソ保護林内に設置したプロットで得られた毎木調査データ,航空機から撮影した空中写真判読による同プロットの樹冠高データ,及び同プロット上空で撮影されたランドサット画像データとの関連性について解析を行った。まず,毎木調査から得た直径データと樹冠部の高さデータとを対応づけることにより,相対成長式を求め,地上部の現存量を推定した。その相対成長式を用いて天然林,二次林の地上部現存量を推定したところ,それぞれ310Mg/ha,302Mg/haであった。これらの値はパソ保護林の皆伐調査から得られた相対成長式(Kato他1978)に基づいて推定した値353Mg/ha,333Mg/haよりも若干過小評価されるものの,ほぼ10%程度の誤差で地上部の現存量が林冠高データから広範囲に推定できることを示している。さらに,空中写真からデジタル化した林冠高の平均値のデータと一定エリア内での地上部現存量との関係について解析を行ったところ,両者の間に有意な相関関係が見られることもわかった。このことは林冠面の高さを衛星画像をもとに推定できればより広域レベルでの地上部の現存量やその変化が推定可能になるということを示唆している。^k 2)森林の荒廃が多様性の維持機能に及ぼす影響
 (1)択伐が林分の構造組成に及ぼす影響
 本研究では択伐を受けた低地フタバガキ林の森林構造・現存量・種構成が択伐施行後に量的・質的にどのように変化し,そこからどのような過程を経て原植生に近い状態まで回復するかを再現することを目的として,択伐直後の森林の林分構造,構成種,荒廃状況の調査を行った。まず2000年10月から12月に,択伐後1年半を経過した林分に約12haの調査区を設置しその中を20×20のメッシュに分割した。各メッシュは今後,撹乱の程度に沿って数段階に分類する予定である。調査区内にある胸高直径10cm以上の樹木を対象に毎木調査を行ったところ,1ha当たりの直径10cm以上の本数が435本,胸高断面積合計が18.5m2/haであることがわかった。これは天然林の約75〜80%の値である。今後,出現種の標本を採集し種構成を明らかにする予定である。また調査区内の樹木の伐採による損傷の度合いを目視による観察から調べた。その結果,全個体の約30%が幹折れや枝の破損などを被っていることが明らかになった。これらの個体の一部は近い将来に枯死するもの可能性が高いため,今後数年間は現存量がさらに減少していくものと推定した。
 (2)熱帯林林冠構成樹種稚樹の共存メカニズムのに関する研究
 多様性の高い熱帯雨林内での構成種の共存メカニズムを明らかにすることを目的として,フタバカキ科Shorea属の更新過程に影響する生物的,非生物的要因について種間比較調査を行い,更新過程に種特異性(更新ニッチの分割)がどの程度存在するかを検討した。まず,野外における更新様式の種特異性を検討するため,Shorea属6種の生存率,成長特性の指標である樹高成長速度と葉群動態,成長様式に密接に関連する葉の生理的・形態的な形質群について種間比較を行った。その結果,野外における実生の樹高成長は葉群動態と密接に関連し,樹高成長速度が高い樹種ほど展葉,落葉速度,及び林床環境下における光合成速度は高い傾向にあるものの,生存率が低い傾向にあったことから,極相林樹種の更新において成長よりも生存を重視する戦略と生存よりも成長を重視する戦略が存在することが示唆された。次に,物理的環境要因の空間的,時間的な変化に対する実生の成長反応をShorea属5種について検討した結果,光資源に対する成長反応は種間で異なるものの,野外に生育する実生の多くは光資源の制限により成長が抑制されていることが示唆された。
 (3)熱帯林林床稚樹の光合成の時間変動に及ぼす光環境の影響
熱帯林林内の異なる光環境下での林床植物の光合成特性を明らかにすることを目的として,林床とギャップ下で稚樹(Shoreamacrophylla;Rothmannniamacrophylla;Xerospermumnoronhianum)の光合成を測定し,光環境における瞬時変動が光合成反応に及ぼす影響を検討した。変動する光環境下での光合成生産と一定の光環境下での光合成生産を比較するため,一定の光条件下で測定した光・光合成反応の結果と葉に当たる光強度の平均値から日積算光合成(Aconst.)を推定し,変動する光環境下で測定した光合成からの日積算光合成(Ainst.)を求めた。その結果,Aconst./Ainst.の比は樹種,微環境及び光瞬時変動のパターンによって大きく異なることがわかった。とくに,サンフレックの多い微環境に比べ,サンフレックの少ない微環境のAconst./Ainst.の比は低く,サンフレックによる光環境の変動は光合成生産に大きな影響を与えていることが示唆された。一方,Post-illumination CO2 fixation(光強度が低下してからの光合成CO2 吸収)量もギャップより林床の方が高かった。このことから,林床植物の光合成生産を推定するためには,光環境の変動性の役割をさらに詳しく,定量的な評価を行う必要があると思われる。
 (4)熱帯林における林冠構成種の繁殖に関する研究
 熱帯多雨林の林冠を構成する樹種の遺伝的要素が種子散布後の実生定着能力にどのような影響を及ぼすかについて林冠構成種であるNeobalanocarpusheimii(Dipterocarpaceae)を対象にマイクロサテライトマーカーを用いて調査・分析を行った。調査区内で胸高直径30cm以上の繁殖可能個体5個体から分散時期の異なる(初期と後期)種子(20〜45個)および実生(39〜44個体)を採集し,その遺伝子型の決定および親子解析を行い,自殖率を種子と実生の間で比較し,近交弱勢の影響がみられるかどうかを検討した。さらに,自殖種子と他殖種子の間で種子重に有意な差があるか,検定した。その結果,実生では種子に比べて自殖個体が有意に少なく,また自殖種子の種子重は他殖のものに比べ有意に小さいことがわかった。これは,N.heimiiにおいて,種子から実生に至る段階で近交弱勢が働いていることを示唆するものである。
 3)森林の公益機能の環境経済的評価手法開発に関する研究
 熱帯林の経済価値を表明選好法という環境経済学的手法によって求めることを目的として本年度は前年度までのパイロット調査を踏まえて,熱帯林の経済的評価に関する本調査を実施し結果の分析を行った。1999年以来,マレーシアにおいて保護林,木材生産林,農地という三つの土地利用形態に着目して,それらの社会経済的価値の違いを,多属性評価手法であるコンジョイント分析によってとらえるための現地調査,フォーカスグループセッション,パイロット調査を進めてきた。最終的に,本年度は,マレーシアの4都市で総計1000サンプルの面接調査を実施した。調査のシナリオとしては,マレーシアの三つの土地利用形態の現況をどのように変化させる政策が望ましいかを,それにかかる税金の支出とともに回答者に尋ねることにした。最終調査の結果は,1ヘクタール当たりの社会全体としての支払い意思額として,保護林RM27(マレーシア通貨リンギット),生産林RM5.6,農業用地RM22.7であることがわかった。この結果は,保護林を1ヘクタール保護,ないしは増大させるために,RM27だけの支出を国民は許容することを意味している。逆に,1haの保護林を伐採するならば,何らかの形で税金がRM27だけ回収されることを国民が要求することを意味している。例えば,国が保護林を何か公共的に利用する場合はこれだけの国民にとっての便益の増加が要求されることを意味している。農業用地についても,同じように解釈可能である。生産林については,符号が逆になっているが,これは生産林を減少させるには,1ヘクタール当たりRM5.6だけの税金の支出が許容されることを意味している。今回の評価額が,過小評価されている可能性もありうるが,調査対象域を一地域ら世界的レベルにスケールアップすれば評価額は,はるかに大きなものとなるに考えられる。

(2)森林火災による自然資源への影響とその回復の評価に関する研究
 熱帯地域,特にインドネシアでは,森林火災が森林のバイオマス・物質生産性ばかりでなく,森林に生息する多くの生物の種や個体数,遺伝的多様性などに多大な影響を及ぼしている。そこで,本研究では,@森林火災の全体的な影響をレビューし,衛星データなどによる影響地域の把握と経時変化の基盤的情報を整備し,A森林火災および非火災地域の生態系や生物多様性調査から火災被害の影響と回復過程における熱帯林生態系の構成樹種や森林依存性の代表的分類群の種や個体数の変動,生息域の変化を明らかにし,B森林火災に敏感で,その影響と回復を評価するための指標となりえ,またモニタリングが容易な生物種や現象,その計測手法などを提案し,さらに,C先駆的リモートセンシングによる計測情報との相関性を検討することにより,リモートセンシングによる生態系や生物多様性評価の可視化を可能にし,その精度の検証や客観性の向上を促進する。
 1)リモートセンシングデータなどによる森林火災の影響と回復過程の解析と総合化
 本年度は,まず森林火災が自然資源に与える影響とその回復過程の評価に関する既存の研究及び情報を整理するため,森林火災及び熱帯林をキーワードとして151件の文献を収集し,これらの文献を項目別に分類し,検索を可能にするとともに,そのレビューを行った。次に,スマトラ島及びカリマンタン島において,1997年7月以降の毎日のNOAA衛星AVHRRデータから抽出されたホットスポット(火災が発生していると思われるポイント)のデータを,GIS(地理情報システム)上で同一地域の森林植生データと重ねて解析した結果,火災は農耕地及びその放棄地,さらにそこから遷移した二時林,灌木林といった森林としてのカテゴリの判然としない地域において集中的に発生していることが明らかになった。また,火災前後のLandsat衛星TMデータを用いた解析で,火災の被害程度を推定し,UTM座標に変換し,現地調査用の衛星地図を作製した。さらに,火災後の植生回復過程の検討のため,1998年4月から現在までのSPOT-4衛星VEGETATIONデータ(10日間合成)の対象地域切り出しを行い,データセットを作成した。JERS衛星SARデータに関しては,対象地周辺のデータを収集し,前処理を行うことにより火災前後でのバイオマスの変化を抽出することを可能とした。最後に,航空機SAR及び先駆的(超高分解能)センサを用いた解析では,すでに林分情報のある国内実験地において,バイオマスの評価手法を検討し,林分因子の抽出をほぼ可能とした。
 2)森林火災による生態系・生物多様性の影響と回復に関する調査解析
 東カリマンタンのBukitBangkiraiにおいて,火災の影響を受けた森林の状態を調査するため,非撹乱地,軽度撹乱地及び重度撹乱地に調査方形区(各々K-Plot:100×100m,LD-Plot:50×60m,HD-Plot:100×100m)を設定した。さらに,各調査区内を10mごとに格子状に区分けし,胸高幹周囲(GBH)が15cm以上の木の位置と種名を記録し,高さとGBHを計測した。その結果,森林火災の影響が大きくなるに従って,木本の密度と胸高断面積合計は減少した。K-PlotでShorea laevisが,LD-PlotでMadhuca magnigificaが,HD-PlotでMacaranga giganteaなどが特に多く,火災が森林の構造と種組成に影響していると考えられた。また,草本植物の種類と量にも明確な差異が認められた。各調査区内に,20×20mの小プロットを2カ所設定し,立木,倒木,落枝上に発生していた木材腐朽菌類の子実体を採集調査した。K-PlotとLD-Plotで採集した木材腐朽菌類には,担子菌類,子のう菌類とも種数・個体数に顕著な違いは認められなかった。HD-Plotでは木材腐朽菌類の種数・個体数とも少なく,高温乾燥環境を好む特定の種が出現した。子実体などから23菌株の木材腐朽菌類を分離培養した。各調査地に生息する地上性哺乳類の種の確認のため,金属製かごわなを設置し,捕獲を行った。コウモリはかすみ網を使用した。また赤外線センサーによるカメラトラップを使用し,調査地内での撮影を試みた。その結果,全調査期間内に19種の小型哺乳類(ツパイ3種,地上性リス3種,ネズミ9種,コウモリ4種)を捕獲した。調査地ごとの出現種に違いが認められ,特に地上性リス類と大型ネズミ類はK-Plotでのみ捕獲され,これらの種は火災の影響を大きく受けると考えられた。
 各調査区の外側にマレーズトラップとArtocarpusの枝を用いたベイトトラップを数個設置し,捕獲された昆虫類のカミキリムシ類を中心に調査した。ホソカミキリムシ科,ハナカミキリ亜科,ノコギリカミキリ亜科などのカミキリムシはK-Plotで多く捕獲されたが,そのほかのプロットでは少なく,森林火災地域では特定の種のカミキリムシが多数捕獲される傾向が認められた。森林内の微気象を調査するため各調査区内に温湿度計測装置を6台ずつ設置し,調査地域の近傍1カ所に雨量計1台,温湿度計測装置2台を設置して計測を開始した。
 3)森林火災の影響評価のための指標策定
 森林火災の影響を特に受けやすいと考えられる蘚苔類や地衣類,また,土壌微生物や菌根菌類の調査を行った。 蘚苔類及び地衣類の遷移を調査するため,前記の各調査区の地上および樹上に調査方形区(各々,10×10m,20×20cm)を設置し,出現する種を着生基物別に少量採取した。また,各調査地域近傍域においてインベントリー調査を行った。その結果,蘚苔類では,Calymperaceae,Leucobryaceae,Sematophyllaceaeなどの蘚類が多く出現したが,種数はK-Plotで最も多く,HD-Plotではわずかな種のみが出現していた。自然林(K-Plot)では高木層が密で林床は暗く,種の多様性はそれほど大きくはないが,倒木によるギャップ周辺では地上および腐木上に多くの種が認められた。HD-Plotは高木が消失したため林床は明るいが,シダなどの維管束植物が高密度で侵入しており,林床植生は限られていた。また,Sematophyllaceaeなどの匍匐性の蘚類はほとんど生育しておらず,小形直立性の乾燥耐性のあるCalymperaceaeの種が目立った。地衣類では,K-plotで現在38種を認めたが,LD-plotでは11種,HD-plotでは16種を確認した。森林火災の程度と地衣類の種数には相関があると推測された。なお,K-plotで採集されたPyrenula gigas Zahlbr.(オニサネゴケ)は,レッドデータブック(2000)でUV(絶滅危惧II類)にあげられている希産種(日本固有種)であり,国外では始めての報告である。各調査区の林床を調査し,菌根菌の子実体を採集した結果,K-plotからはHydnum sp.とRussula sp.を,LD-plotからはHydnum sp.とBoletus sp.を採集した。HD-plotには菌根性樹木がほとんど生存しておらず,菌根菌子実体の発生は認められなかった。なお,各調査区で森林土壌の化学性と微生物多様性および菌根菌多様性を比較・解析するための土壌採取等を行い,土壌分析及び微生物や菌根菌の培養・同定作業を現在進めている。
〔発 表〕A-5〜9,28〜31,a-8〜17,49〜53


HOME

Copyright(C) National Institute for Environmental Studies.
All Rights Reserved. www@nies.go.jp