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研究成果物


2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)


5.海洋汚染に関する研究


〔担当者〕

地球環境研究グループ 原島 省・功刀正行
地域環境研究グループ 木幡邦男・中村泰男
水土壌圏環境部 渡辺正孝・村上正吾・牧 秀明・内山裕夫
徐 開欽・越川 海・高松武次郎・越川昌美
生物圏環境部 渡邉 信・広木幹也・河地正伸
     下線は研究代表者を示す


〔目 的〕
 人間活動の増大の環境への影響は,最終的にすべて海洋への負荷となる。これらの影響は,近年内分泌撹乱物質として問題になっている有害化学物質の流入,本来は生物にとって必須であるリンや窒素などの過剰負荷など非常に多岐にわたり,海洋生態系に環境ストレスを与える。このような傾向は世界の成長センターといわれるアジア各国の沿岸帯で顕著であり,さらにその外縁をなす東シナ海・南シナ海などの海域帯への拡がりが懸念される。アジア海域は,生物生産の高い河口域やサンゴ礁,マングローブ帯などの豊富な生態系を内包している。本来これらの場が地球環境を安定化する役割を果たしていたのであるが,近年それらが喪失されつつある。また,汚染物質が大気運動によって遠隔地に運ばれて顕在化する現象(グラスホッパー効果)に代表されるように地球規模への広がりがみられる。
 これらの問題は本来的に国際間の問題であるため,アジアの他の国との協同による海洋環境保全策を確立することが課題となっている。ただし,欧米諸国において行われているような海洋の共同研究は,アジア域においては,国情の違いや研究課題が非常に多様なことから,短期間で達成されるものではなく,今後長期的な展望のもとに立案・実行する必要がある。
 このような背景から,アジア大陸に隣接した海域の有害化学物質の動態や海洋生態系の機能への人為的影響を把握し,海洋環境管理体制の基礎を作ることために,長江河口域・東シナ海における海洋汚染過程の研究と,定期航路船舶によってアジア縁辺海域帯からさらには地球規模の海洋汚染の検知を行うことを軸にしつつ,関係各国との連携を保ちながら海洋環境保全に資する知見を得る。


〔内 容〕
 上記のような研究ニーズや国際的な動向を考慮し,以下のような3つの研究課題のもとに,他の国立研究所,大学との省庁横断的・学際的な体制を組み,研究を遂行した。
(1)「東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響に関する研究」(平成11〜13年度)では,長江から東シナ海への汚濁負荷の把握を目的として,長江本流全域,すなわち上流部の大都市重慶から河口域の上海に至る流域について採水調査を日中共同で実施した。長江の河川水中に高濃度で存在する懸濁態粒子に着目し,三峡ダム建設後のダム湖における土砂保留によって起こると考えられる下流−河口域へのリン供給具合の変化を予想する。このために,懸濁態粒子に含まれるリンの分析を行った。水圏環境中の炭素循環過程や食物連鎖過程などの生態学的見地からすると,ケイ藻類は一次生産という主要な役割を担っている。この過程で生ずる有害化学物質の取り込み様式を調べるために室内実験を行った。またこれまで実施してきた長江河口域の微生物群集構造の遺伝子工学的解析法を進展させ,季節間の細菌群の関係について検討した。さらに東シナ海の流動について長江からの淡水流入,潮汐,風等の因子を反映させた3次元流動モデル解析を行い,長期的な流動の変化の把握を行った。
(2)「有害化学物質による地球規模の海洋汚染評価手法の構築に関する研究」(平成12〜14年度)では,有害化学物質による地球規模での海洋汚染の実態を把握する手法として,商船を利用した有害化学物質の濃縮捕集システム,海水採取システムおよび連続観測システムを検討した。本年度はタンカーに搭載するシステムを製作し,ペルシャ湾往復の50日弱の航海において,試運転および往路63地点92サンプル,復路50地点92サンプルの試料採取を行い,回収率の把握,最適な捕集条件等の検討を行った。また,環境問題の多様化に対処するためには広範な化学物質を対象とする必要があり,極微量物質の分析法の検討および多成分・多元素同時分析手法に関する検討を行った。
(3)「アジア縁辺海域帯における海洋健康度の持続的監視・評価手法と国際協力体制の樹立に関する研究」(平成11〜13年度)では,「人為影響によってリン(P)・窒素(N)負荷が増大,ケイ素(Si)が減少し,このため海洋生態系の基盤がケイ藻類→非ケイ藻類へと変質する」という仮説(シリカ減少仮説)に基づき,日本沿岸・近海〜東シナ海〜南シナ海を航行する長距離航路コンテナ船に設置した取水装置と船員依頼にの採水により,栄養塩と植物プランクトンのサンプル海水を採取し,(N,P)/Si比とケイ藻類/非ケイ藻類のバイオマス比に重点をおいた解析を行った。また,アジア各国との協力により上記調査を継続し,かつ海洋環境の変質を評価するために,関連各国の海洋研究者を招聘してワークショップを開催した。


〔成 果〕

(1)東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響に関する研究
 東シナ海長江河口域の底質に含まれるリンの一大供給源として,長江河川水中の懸濁態粒子に着目し,調査・分析を行った。その結果,次の2点の結果が得られた。
 1)現在,長江本流に唯一存在する葛洲覇ダムの前後で,リン濃度が大きく減少していることから,ダムによる土砂保留の影響が示される。
 2)懸濁態粒子の濃度は下流方向に向かって減少しているのにもかかわらず,粒子に含まれるリン濃度は増大傾向にあり,下流方向に向かって懸濁態リンの供給が続いている。
 また溶存態重金属濃度を長江と東シナ海(同江河口域)と比較したところ,アルミニウムと銅は長江の方が東シナ海より高濃度であり,カドミウムは長江の方が低濃度であり,マンガン・ニッケル・鉛・亜鉛はどちらも同じ濃度レベルであった。
 長江河口域で優占する藻類種によるDDTの生物濃縮,取り込み速度の評価を行うために,放射性同位体を用いた手法を開発した。ケイ藻によるDDTの生物濃縮係数(BCF)の常用対数値,すなわちLog BCFは4.0ないし4.2であった。細胞当たりのDDT取り込み速度は,海水中のDDT残留率,もしくは海水中DDT濃度に依存し,1細胞中のDDT含量や1細胞中のDDTと海水中DDTとの濃度差には依存しなかった。
 遺伝子工学的手法を用いて春季及び秋季の河口域海水について微生物群集の組成比較及び検討を行った。海水試料より全DNAを抽出してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により一般細菌の16SrRNA遺伝子を増幅し,変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)に供した。この結果,両季節間ではほぼ同程度の多様性が得られたが,菌相には明らかな相違が認められ,ケイ藻類の大発生との何らかの関連性があることが示唆された。
 渤海・東シナ海の流動は,黒潮,潮汐,長江や黄河からの淡水流入,風や海面での熱移動等により影響を受け複雑な流況を呈する。177oE-131oE,24oN-41.5oNで囲まれた領域に,8×8kmグリッド,鉛直10層の差分化による3次元流動モデルを適用して数値シミュレーションを行った。台湾から九州にいたる境界においては,沿岸潮汐観測点で得られている実測潮汐データの振幅・位相を与え,さらに黒潮の流れによる平均的水位を与えた。また日本海洋データセンターの海流データにより得られている黒潮の流路から,屋久島・種子島の近傍を黒潮が通過するように平均流量を与えた。黄河,鴨緑江,遼江等の河川については,月平均の流入量値を与え,長江の流量としては日平均値を与えた。当該海域は大陸からの風が卓越する海域であり,吹送流の影響を受ける。このため,全球GCMモデルにより計算されている3時間ごとの風向・風速値を海面境界条件として全計算領域に与えた。海面への降雨量は衛星TRMMより日平均降雨量として全計算領域に与えた。1997年1月1日〜1998年12月31日の2年間を対象として計算を行い,東シナ海で計測されている塩分及び水温との比較を行った。この結果,年間を通しての塩分・水温変動については良好な再現性が得られた。
〔発 表〕G-6,7,13,14

(2)有害化学物質による地球規模の海洋汚染評価手法の構築に関する研究
 本年度は海水濃縮捕集・採取および連続観測システムは,三つのブロックから構成されるシステムを開発・製作した。濃縮捕集および連続観測システムはノートパソコンにより自動制御およびデータ収録を行う。また,海水採水システムはシーケンス制御により最大12サンプルをあらかじめ設定した条件で採取することが可能である。濃縮捕集には従来から使用してきた固相抽出法を採用し,捕集剤には多数使用する必要があることから,当初米国EPAのマニュアルにそって前処理が施されたSKC社のポリウレタンフォーム(PUF)No.226-131を使用することとした。しかし,本捕集剤の回収率が明確でないことから,本研究で当面対象とする残留性有機汚染物質(POPs)であるHCHs,DDTs,クロルデン,ノナクロルおよびPCBsの標準溶液添加法による回収率を検討した。その結果,α-,β-,γ-HCHの回収率が他の物質と比較して低かった。特に,α-,γ-HCHは,60%程度と最も低く,β-HCHも70%程度であった。そこで,より回収率が高いと思われるSKC社の捕集剤No.226-129の回収率を検討した。No.226-129は,PUFの間に粒子状の固相吸着剤であるイオン交換樹脂XAD-2をサンドイッチ状に入れたものである。結果は,それぞれ10%程度の改善をみたもののまだ十分であるとは言えない。今後,固相抽出剤は上記POPs以外の物質を観測する必要も出てくると考えられることから,より回収率のよいものを検討する必要がある。本年度は,観測航海のスケジュールの都合で新しい抽出剤の検討ができなかったので,復路の濃縮捕集試料採取の際には,上記固相抽出剤を2セット直列に設置し,回収率の改善を図るとともにフィールドでの回収率の把握を行った。本年度の観測航海では,日本からペルシャ湾間のほぼすべての航路上(南シナ海の一部を除く)で試料を採取できた。
 航路上での主な特徴は,シンガポール海峡では塩分濃度がかなり低く,雨期ということもあり陸水の影響が考えられ,POPsにもその影響がうかがえる。一方,ペルシャ湾では塩分濃度が40psuを超えており,周囲からの陸水の影響はないものと思われる。しかしながら,一部で植物プランクトンによる海水の異常着色がみられ,富栄養化が懸念される。
〔発 表〕K-141,142,a-25〜27

(3)アジア縁辺海域帯における海洋健康度の持続的監視・評価手法と国際協力体制の樹立に関する研究
 コンテナ船「ACX-LILY」(東京船舶所属,日本−基隆−香港−シンガポール−ジャカルタ−ポートケラン往復航路)に協力を依頼し,隔月に年間計6回,各6測点(ポートケラン沖,マラッカ海峡,シンガポール沖,ベトナム沖,香港沖,東シナ海)における海水サンプリングを行った。
 ベトナム沖(南シナ海)および東シナ海の測点においては,溶存無機窒素(DIN),溶存無機リン(DIP),溶存態ケイ素(DSi)の各栄養塩とも通年で低かった。また,DSiよりもDINのほうが枯渇しているようであった。このことは,これらの測点で,大気起源の窒素ガスを固定して窒素源としているトリコデスミウム(糸状のシアノバクテリア)がみられたことと符合している。
 マラッカ海峡では,各無機栄養塩の濃度が高かった。これは浅海域であるために,沈降した有機物が分解してできた無機態栄養塩が上層に回帰しやすいためと考えられる。
 香港沖では,他の海域に比べてDSiに対するDINの相対比が高く,特に10月のサンプルではDSiが非常に少なかった。同様の傾向は,別途実施している国内でのフェリー調査による大阪湾の栄養塩比にも現れる。したがって,上述の「シリカ減少仮説」が香港や大阪の近傍,すなわち人為影響が強い海域で顕在化したものと考えられる。
 また,植物プランクトン分類群別の炭素バイオマス濃度から,香港近傍海域で,卓越する種類が,季節に依存してケイ藻から渦ベン毛藻類,微小ベン毛藻類などの非ケイ藻類に変わることが確認され,この海域における(N,P)/Si相対比の増大の影響が推定される。
 ポートケラン沖,マラッカ海峡,シンガポール沖ではほぼどの季節においてもケイ藻類が卓越していた。
 上記のような多国の排他的経済水域(EEZ)にまたがる海域においては,当該沿岸国との協力のもとにモニタリングを行う必要がある。このため,11月に,マレーシア,シンガポール,ベトナム,中国,フィリピン,韓国の海洋環境研究者を招へいして第2回CoMEMAMS会合(2nd Meeting for Cooperative Marine Environmental Monitoring in the Asian Marginal Seas)を開催した。各国の海域における海洋環境問題の現況についての報告が行われるとともに,国立環境研究所で開始された海洋モニタリングを基礎にして,今後どのような協力体制を作ってゆくかの議論がとりまとめられる。
〔発 表〕K-130〜144,A-45〜47,a-85〜87,89〜100


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