2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
2.地球の温暖化現象解明に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
鷲田伸明・野尻幸宏・向井人史・町田敏暢・今村隆史 |
| 化学環境部 |
: |
横内陽子・田中 敦 |
| 大気圏環境部 |
: |
神沢 博・高薮 縁・菅田誠治・江守正多 野沢 徹・日暮明子・畠山史郎・酒巻史郎 猪俣 敏・遠嶋康徳・高橋善幸 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
内山裕夫 |
| 生物圏環境部 |
: |
竹中明夫・広木幹也 |
| 地球環境研究センター |
: |
井上 元・藤沼康実 |
| 科学技術特別研究員 2名,客員研究員 20名,共同研究員 4名 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
地球の温暖化,あるいは,人間活動による気候変動が,人間活動に起因する温室効果気体の放出量の増加によって引き起こされることが予測されている。温暖化現象は,地表気温上昇のみならず,降水量変動,海氷,陸氷の減少,海面上昇,生態系の破壊などの現象が,同時に引き起こされる可能性を含む。
温暖化現象解明研究は
(1)温室効果気体の研究
(2)大気成分変化でもたらされる気候変動の研究
(3)気候変動フィードバックの研究
のような大分類カテゴリーに分けられ,温暖化対策に必要な科学的知識を与えることを目的とするものである。温室効果気体の大気濃度が人為的,あるいは,自然的要因によって変動し,それが気候変動と密接に関係しているという事実は,既に認められているものである。従って,そのような温室効果気体の大気濃度を規定する広義の地球物質循環全般の解明研究が,温暖化現象解明研究の範囲と認めることができる。
地球環境研究推進費では,このような温暖化現象解明研究のうち,わが国がアジア・太平洋地域にあることを踏まえたフィールド研究,グローバルスケールの現象解明に対する知見を与える研究,グローバルスケールのモデリングを行なう研究に重点をおいて課題設定された。
〔内 容〕
大気成分変化でもたらされる気候変動の研究にあたるものが課題(1)の「気候変動の将来の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の過程のモデル化に関する研究」であり,その手法は,グローバルスケールのモデル化である。気候モデルの精密化のための諸過程のモデル化を向上させる研究を行った。気候変動フィードバックの研究にあたるものが課題(2)の「西シベリアにおける温室効果気体の収支推定と将来予測に関する研究」である。アジア地域でのフィールド観測による物質循環プロセス研究でもある。シベリアの自然湿地におけるメタンフラックスの通年観測と土壌プロセスに関する研究から気候変動応答予測研究を行なった。
主たる温室効果気体である二酸化炭素循環過程の研究に3つの課題がある。(3)の「アジアフラックスネットワーク確立による東アジア生態系の炭素固定量把握に関する研究」は,アジア地域でのフィールド観測による物質循環プロセス研究でもあり,主として安定同位体比を利用する物質循環を解明するサブテーマを担当した。森林の機能を明らかにするのが(4)の「森林の二酸化炭素吸収の評価手法確立のための大気・森林相互作用に関する研究」である。ここでは,主として天然林における炭素フラックスを定量的に観測し解析する手法を開発する。二酸化炭素の大気・海洋間移動プロセスを扱う研究が課題(5)の「北太平洋の海洋表層過程による二酸化炭素の吸収と生物生産に関する研究」であり,地球環境モニタリングと連携して,北太平洋高緯度海域での二酸化炭素の交換過程を解析する研究,および,大気中の酸素/窒素比と二酸化炭素安定同位体比の測定から海洋の吸収量を推定する研究を行った。これは,太平洋地域の地域研究にもあたる。温室効果気体研究として反応性がある温室効果気体を扱う研究が課題(6)の「大気の酸化能と温室効果ガスの消滅過程をコントロールする反応性大気微量気体の大気質へのインパクトに関する研究」である。ここでは,東アジア・北西太平洋地域に焦点をおいて,大気の酸化能の変動と温室効果気体である対流圏オゾンの輸送過程を明らかにすることを目的として研究を行った。
〔成 果〕
(1)気候変動の将来の見通しの向上を目指したエアロゾル・水・植生等の過程のモデル化に関する研究
地球温暖化に伴う気候変化・気候変動の将来の見通しが,影響評価・対策に活かせるものとするには,気候変動評価の不確定性の幅を明らかにする必要がある。また,地球環境変動の研究推進には,現在の気候モデルに欠けている物質循環や生態系との相互作用を取り入れて総合化した気候モデルを開発して用いる必要がある。本研究課題では,(1)人為起源の対流圏エアロゾルと対流圏オゾンによる気候変化の不確定性を明らかにすること,(2)水蒸気,雲,地表水文過程などによってもたらされる気候変化・気候変動の不確定性を明らかにすること,(3)気候変化・気候変動と対流圏物質循環,森林生態系間のフィードバックを含めた総合的なモデルの基礎を確立すること,さらに,それらの知見を統合し,総合的な気候・物質循環モデルの開発改良とその応用を目指す。
気候モデルに対流圏エアロゾルの要因を組み込む開発,対流圏オゾンモデル開発,および,衛星データによる対流圏エアロゾル光学特性の長期変動の解析を行った。また,水蒸気・雲・降水の地域特性および時間変動特性の比較解析のための様々な衛星観測データおよびモデル実験データの収集・整理,および,水蒸気の力学的輸送スキームの改良を行った。さらに,開発した気候モデルを用い,いくつかの温室効果ガス・エアロゾルの排出シナリオを与えて,将来100年にわたる気候変化の見通し実験を行い,その結果をIPCC へ報告した。
〔発 表〕F-27,50-54,f-12-22,90,113-118
(2)西シベリアにおける温室効果気体の収支推定と将来予測に関する研究
シベリアは温室効果気体の発生・吸収源として量的に大きな存在である。高緯度であるため地球温暖化に伴う温度上昇がとくに顕著に現れる可能性が高く,その脆弱な生態系への影響も大きいと予測される。そのため,温暖化を含む地球規模の環境問題における重要な研究対象である.本課題では,西シベリア地域をフィールドとして,メタンの収支に関連するプロセスの研究を行った。
メタン発生量をシミュレートするモデルを開発するため,湿原に生息するメタン生成菌の培養特性解析及び単離を行うと共に植物遺骸分解活性の深度分布を測定して,メタン発生との関連を検討した。湿原に生息するメタン生成菌には15℃あるいは30℃にそれぞれメタン生成活性を持つ2つの群集があり,温度上昇に伴うメタン発生量推定にはそれぞれの群集の関与を考慮する必要性が示された。また,セルロース分解活性の深度分布は地表の植生の違いによって顕著に異なるとともに,単離したセルロース分解菌の培養特性より,現場の地温より高い温度でより強い活性が見られた。将来的に現地の温度が上昇すると,植物遺骸分解活性が促進され,その結果,高温側にメタン生成活性を有すメタン生成菌が活性化されて加速度的にメタンの発生が増加することが示唆された。
(3)アジアフラックスネットワーク確立による東アジア生態系の炭素固定量把握に関する研究
大気試料を自動的にサンプリングする装置を開発し,北海道内のカラマツ林内に設置し,動作を確認するとともに,現地の大気試料のサンプリングを開始し,試料中の二酸化炭素濃度とその炭素および酸素の安定同位体比を測定した。夏期の森林の樹冠内では,二酸化炭素の濃度は昼間に低く,夜間に上昇する様子が観察された。これは夜間に呼吸により放出された二酸化炭素が逆転層の形成により地表付近に滞留することにより地表付近の濃度が上昇し,日中には光合成が活発となるとともに大気の上下混合が起こるため濃度が低下することによる。
二酸化炭素中の炭素安定同位体比の日変化は濃度の日変化に対して明らかな逆相関を示した。これは生態系の呼吸により放出された二酸化炭素が大気二酸化炭素に比べて低い同位体比を持つことによる。また,二酸化炭素中の酸素安定同位体比の日変化についても,炭素安定同位体比同様に濃度との明らかな逆相関が観察された。
夜間の森林樹冠内での二酸化炭素濃度の上昇は,昼間の鉛直混合により樹冠内に輸送された大気起源二酸化炭素に生態系呼吸起源の二酸化炭素が徐々に付加されていくことによるので,大気起源二酸化炭素と生態系呼吸起源二酸化炭素の2成分系単純混合モデルを用いて,夜間の濃度と安定同位体比の変化から生態系呼吸起源二酸化炭素の安定同位体比を推定した。生態系呼吸起源二酸化炭素の炭素安定同位体比は2000年7月下旬では-28.1±0.1パーミルPDB,2000年8月下旬では-26.7±0.1パーミルPDBであり,観測期間により差があることが分かった。これは生態系呼吸起源二酸化炭素に占める植物体呼吸と土壌呼吸の寄与率の季節変動によるものであると推測される。また生態系呼吸起源二酸化炭素の酸素安定同位体比については,2000年7月下旬には-29.1±0.3パーミルPDBであったが,2000年8月下旬の観測では-17.6±0.2パーミルPDBと大きな変化があることが観察された。これは,植物や土壌内部での二酸化炭素と水の同位体交換により,生態系内の水の酸素安定同位体比の季節変動が二酸化炭素中の酸素の安定同位体比に反映されたものと推測できる。
これら観測データの収集と同時に,国内外のアジアフラックス観測サイトで得られる観測データのモデル研究等への利用を推進するため,データの品質制御の高度化とデータ公開を目的としたデータベースシステムの構築を行った。
(4)森林の二酸化炭素吸収の評価手法確立のための大気・森林相互作用に関する研究
化石燃料消費,森林伐採により大気中に放出される二酸化炭素は,大気・海洋・森林に吸収・蓄積されるが,特に森林の吸収の大きさ,吸収強度の分布の定量的評価が出来ていない。それにもかかわらず,気候変動枠組条約締約国会議(COP3)では,植林など二酸化炭素吸収量の増大のための対策を定量的に評価する事が決まり,IPCCが森林等の吸収量評価について報告書を作成することになった。今後もこの問題に絡む国際的な取り決めが決定・改訂されていくと予想され,わが国がこの問題に対して科学的な裏付けをもって対処することが必要になる。このため透明かつ検証可能な吸収量評価の方法を確立する事を目的として,大気・森林相互作用に関する研究を行う。更に,ここで開発した二酸化炭素評価手法を中国東北地方の森林に適用するための試験観測を行う。
「森林生態系炭素循環の観測とそのモデル化」のサブテーマでは,苫小牧のフラックス観測サイトにおいて,土壌の呼吸速度を通気法およびチャンバー法で測定すると共に,その,空間的,時間的変動をモデル化するために必要な環境パラメーター(温度,水分,土壌有機物量,土壌微生物バイオマスなど)の測定を行った。その結果,土壌呼吸速度は顕著な日変化及び季節変化を示し,その傾向は地表面温度の変化と一致した。一方,測定点9地点の間で空間的変動が見られたが,この変動は測定点の土壌層の厚さに関係し,土壌層の薄い地点で高く,厚い地点で低い傾向にあった。未熟土である観測サイトでは,土壌有機物及び微生物バイオマスが十数cmの土壌層に集中しており,こうした土壌の特性が土壌呼吸速度の空間分布に結びついていることが示唆された。また,開放型のオープントップチャンバー法で降雨中の連続測定を可能とした。降雨直後に土壌呼吸速度は上昇し,その後,安定した低い値をとることが観察された。
「二酸化炭素高度分布測定とデータ解析による吸収源強度の推定」のサブテーマでは,二酸化炭素の吸収源強度の推定を目的として,対流圏下部における二酸化炭素や同位体,酸素/窒素比などを高頻度で観測するシステムを開発した。苫小牧のフラックス観測サイト上空で,ハングライダー方式の推力付の無人模型飛行機で,約 2400 m までの二酸化炭素等の高度分布の日変化の観測に成功し,熱対流による鉛直輸送に関する知見を得た。
「インバース・フォワードモデルによる炭素吸収源分布の推定」のサブテーマでは,大陸規模での二酸化炭素観測データと気象データから,物質輸送モデルを用いて,炭素吸収源分布を推定する方法の開発を進めた。それに関連し,長期的全球トレーサー輸送を調べるのに有用なデータ解析法を開発した。
〔発 表〕F-17,h-25,i-20,22
(5)北太平洋の海洋表層過程による二酸化炭素の吸収と生物生産に関する研究
海水/大気の二酸化炭素濃度(分圧)差と気象要素からは,海域の二酸化炭素吸収量が算定できる。この研究課題では,海洋表層の二酸化炭素分圧測定法の標準化と観測データのデータベース化のために,測定方法の高度化,観測データのモデル化の方法論とその応用,さらには,同位体地球化学的手法による大気・海洋・陸域生態系間の二酸化炭素交換収支推定に関する研究を進めた。
海洋の二酸化炭素吸収過程の解析に関しては,地球環境モニタリング協力船舶が北米航路コンテナ船に変更になったことから,本課題の成果を踏まえて製作・設置した船上計測システムのデータ処理に関する研究を行った。タンデム式気液平衡器を2式備えてその偏差から測定の正確さを管理した。偏差はおおむね0.5ppm以下であり,室内プール実験と差のないものであった。このことは,システムが厳密に運転されているとともに平衡器の温度管理が良いことをも示すものである。また,データを高頻度で収録していることから,北太平洋航路貨物船での観測の測定精度が極めて高くなったことを確認した。
二酸化炭素の同位体比測定に関して国際ワークショップを開催し,オーストラリア,ニュージーランド,アメリカ,カナダ,中国,韓国,フランスから研究者を招聘し,国内合わせて39名の参加者を得た。本ワークショップで研究の最新情報や現在の国際的な共同同位体比分析プログラムに関しての発表がなされ,これを踏まえ今後の方策について議論した。ヨーロッパではすでに地域的な共同観測計画が進んでおり,アジア−太平洋地域でも今後国際共同がさらに必要と考えられた。同位体比分析技術に関しては,大気用の新しい二酸化炭素の参照物質(1500本)を製作しこれを用いて共同分析実験などを開始した。これまで8機関からの結果が得られているが,炭素同位体比に関しては0.05パーミル程度の差の範囲で一致していた。酸素同位体比に関してはいくつかの外れるグループがあるものの,それぞれの理由に関しては同位体比分析の際の参照物質と装置条件に関係している事が分かってきた。
これまで,波照間や落石で二酸化炭素同位体比や酸素濃度変化が調査され経年変動が明らかになってきた。特に1998年のエルニーニョ時には同位体比や酸素の減少とその後の両者の増加が観測された。これらの現象から,二酸化炭素はエルニーニョの際に地上から正味の放出を受けており,その後吸収に転じたことなどがわかった。同時に,酸素濃度の長期の減少速度から海洋への二酸化炭素吸収量などを知る手がかりを得た。両者の傾向は概略一致しており,それぞれの測定の有効性が示された。
(6)大気の酸化能と温室効果ガスの消滅過程をコントロールする反応性大気微量気体の大気質へのインパクトに関する研究
前年度明らかになったトルエンの大気光酸化過程における光化学オゾン生成の温度依存性に関し,光化学反応モデルを用いた解析を行った。その結果,反応実験で得られた温度依存性−すなわち,温度が高くなるに従い最大オゾン濃度が減少する事−はトルエン-OH付加ラジカルとO2との反応によって生成するパーオキシラジカルの熱力学的安定性を化学モデルに取り入れる事で再現出来る事が分かった。この事から,トルエンを始めとした芳香族炭化水素類の光酸化による光化学オゾン生成に関しては,光酸化初期反応で生成するシクロヘキサジエニルパーオキシラジカルの熱力学的安定性とその反応性生物のオゾン生成能に支配される事が明らかとなった。
更に,芳香族炭化水素の光酸化における光化学有機エアロゾル生成としてトルエンからのエアロゾル生成に関する予備的研究も行った。その結果,エアロゾル生成とトルエンの消失の間に時間的ずれが存在する事が確認された。この事はエアロゾル生成が,トルエンの光酸化生成物から直接生成するものではなく,二次的反応によっていることを示唆している。一方,エアロゾル生成量に対する温度依存性は光化学オゾン生成量に対する温度依存性にのみ依存するとする考え方では説明できない事が示唆された。
光化学オゾン生成に対する塩素分子添加効果に関するクロリンナイトレートの反応の寄与を確かめるために,O3/NO2/Cl2/光照射系での実験を行った。その結果,NO2とCl2共存下では,それぞれのオゾン分解から予想されるより大きい分解速度が認められた。更に,ClONO2とオゾン共存下での反応実験から,高NOx条件下でクロリンナイトレート生成を通した新たなオゾン分解過程が存在する事が明らかとなった。
大気中のNOyと炭化水素類は大気光化学反応の主要な原因物質であり,その一連の光化学反応によって生成する光化学オゾンを主成分とする酸化性物質の生成を通じて大気の酸化能を制御する物質である。本研究では東アジア・北西太平洋地域に特有の大気化学過程を解明し,対流圏大気環境の現状を把握することを目的として沖縄本島最北部の辺戸岬において大気光化学反応の原因物質のひとつである炭化水素類と,その大気化学反応によって生成する,温室効果ガスの一種であるオゾンの測定を行った。この炭化水素類の測定にあたっては年間の変動をできるだけ詳細に明らかにできるように4時間毎に大気採取する観測システムを構築し,平成12年3月より辺戸岬において観測を開始した。その平成12年3月から6月までの測定結果を解析したところ,エタンやプロパン等の比較的長寿命の飽和炭化水素類は数日周期で大きな濃度変動を示しながらも冬から夏に向かって漸次,濃度が低下していく傾向があることがわかった。この数日周期での大きな変動は同時に観測しているオゾン濃度においても認められた。辺戸岬への流入大気の後方流跡線解析から,数日周期での大きな濃度変動を示した高濃度時には大陸から直接的に大気が流入しており,一方,低濃度時には大気は海洋側から吹き戻されていることがわかった。また,冬から夏にかけて濃度が減少した季節変動の傾向は,太陽光強度の増加によって光化学反応が促進されて炭化水素類の大気中での寿命が短くなっている結果を示したものであると考えられる。
〔発 表〕A-70,71,a-128,f-1,2,3,4,5,30,41,112
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