2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
12.課題検討調査研究
(1)東アジア草原生態系における炭素収支の推定と指標生態系の策定に関する予備的研究
〔担当者〕
〔目 的〕東アジアの草原地帯は,この地域の陸地面積の約三分の一以上を占め,しかも生産性が高く,地球レベルの炭素収支に大きな貢献があると予想される。一方,草原生態系は地球環境変動に対してももっとも敏感に反応する生態系である。この東アジア草原生態系の大部分は気候変動に極めて脆弱な地域―ヒマラヤ山麓地帯・中国西部の山岳高原地帯と乾燥砂漠地帯に位置し,地球環境変動により,特に温度の上昇,紫外線の増加で影響を受けやすく,環境変動の「指標生態系」にもなる。このような「指標生態系」は地球環境変動とそれが生態系に及ぼす影響についての評価と予測することに対して,極めて貴重な「前兆」実験系である。しかし,様々な要因によって,当該地域に関する地球環境問題の研究が乏しく,炭素収支の推定,予測及び持続開発に関する詳しい情報が極めて不足している。そこで,本研究は,当該草原生態系における今までの研究情報を収集し,その整理と解析を行う。また,国際的な共同研究体制について検討し,東アジア草原生態系における炭素収支の推定と指標生態系の策定を本格的に展開するための予備的研究を行う。
〔内 容〕本研究では以下のような調査を行った。1)北京大学,内モンゴル大学,中国科学院北京植物研究所,中国科学院西北生物研究所,中国科学院地理学と資源研究所等の大学と研究機関から提供され,中国草原生態系における自然環境(大気放射・降水・気温・CO2濃度・土壌要因など)と生態系の生物学的特性(植物多様性・地上部のバイオマス・生産性など)に関する資料の収集・整理・解析を行った。これらの資料に基づき,さらに代表的な草原と研究サイトを選定し,事前調査を行った。2)中国の青海草原,中国科学院海北高山草原試験場,チベット草原,チベット農業試験場,内モンゴル草原,中国科学院シリンホト草原定位試験場などの草原と試験場について,植生と研究環境に関する初歩的な調査を行った。その結果に基づき,東アジア草原生態系における炭素収支の推定と指標生態系の策定に関する研究の実行可能性について検討し,青海・チベット高原草原生態系を中心として東アジア草原生態系の研究を展開する結論に至った。3)草地生態系の炭素収支と地球環境変動に対する反応についてスイス,中国と日本各国からの研究者によってワークショップを開催し,今までの研究成果とこれからの研究について活発な討議を行った。また,これらの研究調査から,まず,東アジア草原生態系における炭素の蓄積量は地球陸域全体の炭素蓄積量の3.4%以上,土壌中の炭素蓄積量が陸域土壌全体の約6%を占めることがわかり,地球全体の炭素収支を明らかにするための東アジア草原生態系の重要性を確認できた。次に,草原生態系は現在の地球炭素のシンクサイズの5%から40%を占め,温暖化条件下では,草原生態系のシンクサイズがさらに増大することが予測されている。しかし,東アジア草原生態系に関する基礎情報の不足するため,これらの予測の信憑性に大きな問題が残され,当該地域の草原生態系における炭素問題の研究を早急に開始する必要があることを新たに認識した。
(2)アジアにおける水資源域の水質評価と有毒アオコ発生モニタリング手法の開発に関する研究
〔担当者〕
| 化学環境部 |
: |
彼谷邦光・佐野友春 |
| 生物圏環境部 |
: |
渡邊 信・笠井文絵・河地正伸 |
| 地域環境研究グループ |
: |
今井章雄・松重一夫 |
| 運輸省港湾技術研究所海洋環境部 |
: |
中村由行 |
〔目 的〕国連環境計画は21世紀の大きな地球環境問題の一つとして,人口増加や経済発展に伴う水資源枯渇が深刻化すると予測している。特に人口増加と経済発展による土地利用変化の著しいアジアにおいて,窒素等栄養塩の流入による水資源域の富栄養化とそれに伴う有毒藻類の異常発生により,安全な水資源の確保が困難な状況になってくることが危惧されている。本予備的研究においては,協力要請があった中国とタイにおける湖沼・ダム貯水池等の水資源域の水質汚濁と有毒アオコ発生に関して,中国科学院水生生物研究所,タイ科学技術研究所,カセタート大学等と情報交換や現地予備調査等を実施し,研究分担等も含めた共同研究体制や具体的な研究内容・研究計画を構築することを目的とした。
〔内 容〕本予備的研究においては,中国雲南省昆明市郊外にある槙池とタイのバンコック南にあるバンプラー貯水池をモデル湖沼とし,水質汚濁と有毒アオコ発生に関して,中国科学院水生生物研究所,タイ科学技術研究所,カセタート大学等と情報交換や現地予備調査等を実施し,現地に蓄積されている水質データや流域の土地利用データを取得するルートを探すために現地研究者との協議を行った。研究分担等も含めた共同研究体制の予備協議を行った。
研究分担等も含めた共同研究体制の予備協議を昆明市内およびバンコック市内で行った。また,我が国と中国,タイの3カ国の関係者による水質汚濁と有毒アオコに関するワークショップを国立環境研究所で開催し,今後進める共同研究の共通認識の場とした。さらに,具体的な研究体制,研究分担などの細部の詰めを行った。
〔発 表〕D-2
(3)砂漠化のモニタリング及び評価手法の開発に関する予備的研究
〔担当者〕
〔目 的〕砂漠化の評価については,国連環境計画(UNEP)によって,1977,1984,1991年に報告が行われている。この間,砂漠化の定義自体の見直しも含めて,科学的・客観的な評価に徐々に近づいてきているが,国や地域ごとに評価の基準や尺度が異なるため,客観性・統一性を欠いている点など,評価手法の問題点が指摘されている。
本研究では砂漠化の定義に立ち返り,純一次生産力(NPP)に代表される生物生産力を正確に計測,算出し,その変化量に基づき砂漠化を評価する手法を開発する。使用するデータセットは,衛星データ(正規化差植生指数:NDVI),植生型,土性,月気温,月降水量,光合成有効放射(PAR)であり,さらに植生型ごとの光合成有効放射吸収率(fAPAR)−NDVIサブモデルおよび放射エネルギー変換効率(RUE)を用いる。
具体的な研究目標は以下の3点である。@NPP推定のためのモンティスモデルの改良 A精密輝度補正のための画像解析アルゴリズムの開発 B野外(中国北東部)でのNPP検証実験手法の確立。
〔内 容〕2000年5月上旬に,中国内蒙古自治区のフホホト,デンコウ,オルドスの3地域において,地上観測を開始した。各地域での観測の一つは光学センサを用いたfAPARおよびNDVIの観測であり,センサを植物上部と下部それぞれの位置で,上下に向きを変え,上から放射される光,および下から反射した光を計測した。また,各サイトにおいて,植物の地上部および地下部の乾物重量の計測を行った。草地ないしは農地等において,ある一定の区画を設けて,その中に生えている植物の種類,区画内の種の被覆率,および収穫した植物の生重と乾重を測定した。これらの調査は5〜10月の間,月に2〜3回行った。草地に関しては,動物による被食圧を考慮して,移動ケージ法を用いた。
解析方法としては,NPPを積み上げ法に基づいて計算した。これは,観測開始時と終了時のバイオマスの増分をNPPとする方法である。これによって得られた値を,光合成有効放射吸収量(APAR)で割ると,RUEが得られる。
以上の結果,3地域において,次のような結果を得た。
(1)月別NPPは7月および8月に急激に大きくなる傾向が認められ,フホホトを例にとると,小麦畑や草地では7月,ジャガイモ畑では8月のデータが,他の月に比べて大きい値をとった。デンコウ,オルドスでも同様な結果を得ており,7月のNPPがもっとも高い結果がほとんどであった。
(2)fAPARは植物の成長にともなって増大し,7月または8月に大きかった。フホホトの放牧地域では0.3が最大であった。
(3)RUEの算出については,現在のところPARデータのそろっているデンコウのみで行った。月別RUEは,6月が最も高く,5.121g/MJという結果を得た。他の月においては,おおむね 0.9〜1.1g/MJという値を得た。
〔発 表〕i-18,19
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