2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
11.京都議定書対応研究
〔担当者〕
| 地球環境研究センター |
: |
山形与志樹 |
| 社会環境システム部 |
: |
川島康子 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
地球温暖化抑制を目的として1997年に採択された京都議定書では,先進国に2008年から2012年までの5年間における温室効果ガス排出量に関して数量目標が定められたが,排出量の算定には排出量のみならず吸収量を算定に含めることが決められた。また,排出量取引,共同実施,クリーン開発メカニズム(CDM)等新たな国際制度の設立が認められた。これらの算定方法や諸制度は,各国内の温暖化対策のみならず,2013年以降の先進国の排出量目標の設定方法や途上国の参加方法等,今後の国際的取組みの枠組みそのものを大きく変える可能性があることから,これらの諸制度に対する主要国の政策決定について十分な分析を行っておく必要がある。
本研究課題では,(1)陸域生態系の吸収源機能評価にかかわる研究課題として,1)人為活動による炭素収支の変動に関する研究と,2)京都議定書における吸収源アカウンティング方式に関する研究を実施する。
また,(2)地球温暖化対策のための京都議定書における国際制度に関する政策的・法的研究として,1)京都議定書における国際制度に関する政策決定の日・米・欧比較分析 2)京都議定書の吸収源活動評価にかかわる政策決定の日・米・欧比較研究 3)農村地域からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその効果の国際分析4)炭素クレディットの国際市場形成に関する数理モデル分析 5)CDMと排出量取引の相互作用に関するモデル分析,を中心に研究を進める。
〔内 容〕
(1)陸域生態系に関する研究は以下を実施した:広域でのバイオマス計測手法の研究;森林土壌の炭素固定能の評価;森林バイオマスの炭素固定能の評価;木材の炭素固定能の評価;東南アジアの土地利用変化・林業活動による炭素固定;都市緑地;土壌有機炭素の安定同位体存在比の変動からみた土壌炭素の動態評価;土壌セルロース分解の地域性と炭素蓄積分解過程との関連の評価;農耕地土壌における炭素収支の変動評価;日本およびタイ国農村地域における炭素収支評価;グローバル・カーボン・サイクル・モデルによる炭素収支評価;吸収源活動のグローバルポテンシャルに関する検討;JI/CDMプロジェクトに関する分析;吸収源活動のモニタリングに関する検討。
(2)国際制度の機能のあり方や効果に関する研究では,以下の研究を実施した。
京都議定書に規定された京都メカニズム等の制度が,日・米・欧にもたらす政治・経済・法的影響及び政策決定過程の調査・分析;米国を対象とした政策決定の調査;経済的観点から見た日本が京都議定書の排出量目標達成に必要な対策オプションの検討;炭素循環モデルを活用した京都議定書の吸収源活動評価にかかわる政策決定プロセスのシミュレーション;農村地域からの排出量抑制への対策の違いの比較・検討;京都メカニズムに関する各種国内・国際制度が国際的な市場形成に与える影響を分析するモデル開発のためのCDMと排出量取引との相互関係の調査。
〔成 果〕
(1)広域でのバイオマス計測手法の研究
若齢人工林ではまだ林冠の閉鎖が起こらず,植栽木の平均樹高がほぼ胸高直径に比例するので,林冠閉鎖率と予想平均樹高の階乗の積で蓄積が表された。
(2)森林土壌の炭素固定能の評価
苗畑跡地の調査では植林後5〜10年までは炭素量が急速に増加し,その後はゆるやかに蓄積量が増加していく傾向が見られた。御岳泥流跡地の土壌有機物動態モデルによる計算結果では10年間で0.4Mg/haの炭素蓄積増加となり,実測値から得られた7〜8Mg/haを大きく下回る過小評価で,地下部バイオマス評価法等を再検討する必要がある。
(3)森林バイオマスの炭素固定能の評価
成長曲線にはゴンペルツ曲線のあてはまりがよかったが,林業統計では1,2齢級の蓄積が過小評価されている傾向が見られた。地籍調査前後での森林面積の変化量から森林面積の精度について検討したところ,林班単位では平均−10%,字単位では−4%市町村単位では+4%であった。
(4)木材の炭素固定能の評価
1)木材・紙パルプ部門の炭素貯留量
1994年の固定資産台帳の調査による,その時点での建築物現存量を基準点として,1951年からの着工量と補正した滅失量を基に,全国の建築ストック量の推移を試算した。また1994年の人口一人あたりの建築面積を基に,将来の人口推計を掛け合わせることにより,今後の必要建築面積を試算した。第一約束期間の炭素固定効果は年間約18万t-Cのマイナスになるという結果となった。
2)木材の炭酸ガス排出軽減機能に関する研究
47年前の住宅に使用されていた樹種はスギ,ヒノキ,アカマツが主であり,使用木材の平均全乾密度は約450kg/m3であった。木材を多用する新たな試みの住宅では,1.5倍程度の投入量が可能であった。
3)木造住宅,木製品のリサイクル製造エネルギーと炭素貯蔵量及び耐用年数に関する研究
木材および関連分野の生産量とそれに要する製造エネルギーを各工場毎に炭素貯蔵量と放出量の関係を検討した。製材工場に関してみると生産量と製造エネルギーとの関係が見られるところと見られないところなどあり効率との関連が重要であることが認められた。ボード工場においては解体材などのリサイクル利用と製造エネルギーの実態が明確になった。
4)紙・パルプ部門のフローについての分析
生産・消費された紙・板紙が各種流通過程を経由する古紙リサイクルの全体図を作成した。その中で長期保存書籍及び廃棄物として焼却(埋立て)される紙類の実態が相当程度不正確であること及び紙類の貯蔵庫を考慮する必要性を明らかにした。
(5)東南アジアの土地利用変化・林業活動による炭素固定
1)アジア・太平洋地域の土地利用変化に伴う炭素収支の評価に関する研究
インドネシアの森林火災後の草地ベースラインの現存量は2年6〜19トンであった。また,タイの湿地林のシダ植物を主体とするベースラインは年間で9トン程度だった。湿地のメラルーカ林の現存量増加が年間10〜16トンで,この地域の森林保全は明らかに炭素固定を維持,増加させることが明らかとなった。
2)^t大規模造林が地域の社会経済に与える影響
地域住民は,その時々の状況に応じて土地利用/生産活動を変化させており,造林事業との土地競合が弱い生産活動からより強い活動へのシフトも見られた。リーケージが状況の変化を受けて変化することを示唆している。また,人口流入や改宗等により慣習法や慣習長の権威などの伝統的社会維持システム,また軍や警察などの国家社会維持システムも脆弱化しており,社会変化がドラスティックに起きる可能性も明らかになった。
(6)都市緑地
1)植栽樹木の木質部年間成長量推定式
シラカシ,クスノキ,マテバシイの常緑樹3樹種を対象に樹幹解析を行い,形状寸法とCO2 固定量,樹齢との関係式を作成した。その結果,3樹種とも胸高直径Xに,木質部年間成長量Y(乾重),樹齢との高い相関が見られ,3樹種すべてのデータを用いた関係式でも,高い精度でCO2固定量の算出が可能とされた。このような傾向は,11年度の落葉樹3樹種(ケヤキ,イチョウ,プラタナス)の解析結果と同様であり,6樹種すべてのデータを用いた場合でも相関がよく,共通の式Y=0.5298{(X+0.9210)1.8552−X1.8552}を用いて簡便に木質部年間成長量を算出することが可能と考えられる。
2)剪定管理により植栽樹木から排出される木質部量
剪定枝発生量の実測により緑化樹木3種の大きさと発生量の関係を,全国アンケートにより30種の形状寸法・剪定頻度・強度の実態を把握した。
(7)土壌有機炭素の安定同位体存在比の変動からみた土壌炭素の動態評価
本年度はタイの試料を中心に,土壌に含まれる有機炭素量とその安定同位体(δ13C)から,耕地化に伴う土壌の有機炭素の蓄積・分解過程を解析した結果,以下の知見を得た。
1)植物のδ13C値には同一種でも季節,地域によって差異が認められたが,全体としてC3植物で-31.4‰(-26.0‰,C4植物で-15.7‰(-10.9‰と光合成タイプで明瞭に分かれた。
2)土壌のδ13C値の分析にあたって,pHが7以上では無機炭素が含まれることがわかり,塩酸による前処理が必要であった。タイのほとんどの土壌はpHが7以上であった。
3)土壌有機炭素のδ13C値はその場の過去現在の植生(C3植物,C4植物)の影響をうけていた。タイ中央平原や東北地域の森林土壌のδ13C値は−28.5‰でサトウキビ(C4植物)の栽培年数とともに土壌有機炭素のδ13C値は上昇した。δ13C値を用いて森林由来の炭素量を計算すると,サトウキビ栽培年数が100年になっても,森林炭素の残留が認められた。
4)植物珪酸体に取り込まれた有機炭素のδ13C値もC3植物,C4植物で差異があることが確認された。土壌中の植物珪酸体は分解されることなく残留するので,過去の植生を知るのに有効な手段となることがわかった。
(8)土壌セルロース分解の地域性と炭素蓄積分解過程との関連の評価
本年度は土壌中におけるセルロース濾紙片の分解の温度特性と土壌試料採取地点の気温との関係を解析して,回帰直線の勾配から環境温度上昇がセルロース分解の温度特性に及ぼす影響を評価した。セルロース濾紙片をガラス繊維濾紙で作った袋に土壌試料とともに詰め,埋設し,温度の影響検討し,セルロース分解におけるQ10をガラス繊維濾紙内の紙片の分解速度から求めた。このQ10は石垣島の年平均気温23℃に対して3.3,藤枝16℃に対しては4.6,札幌8℃に対しては4.8であった。また,フミン酸塗布セルロース濾紙の分解のQ10はそれぞれ石垣,藤枝,札幌で5.2,6.2,6.6と無塗布セルロース濾紙の分解のQ10よりも高かった。これらの結果から温暖化の影響を北の地方の方がより大きく受けることが示唆された。
(9)農耕地土壌における炭素収支の変動評価
1)非黒ボク畑土壌での既存モデルの予測値は実測値とよく適合した。
2)水田土壌における既存モデルの予測値は実測値を大きく下回った。このモデルはもともと湛水状態にならない土壌が対象なので,予想通りであった。
3)黒ボク土の改良モデルにおけるFは,F=1.77Alp(%)+0.90(R2=0.52)の式で表された。藤坂におけるこの改良モデルにおける全炭素量の予測値は,既存モデルよりも実測値に近かった。
(10)日本およびタイ国農村地域における炭素収支評価
熱帯地域の農地において炭素循環を測定し,管理体系により農地が二酸化炭素の吸収源としてどれだけ機能するのかを明らかにした。試験はタイ国コンケンで行い,トウモロコシ畑において,慣行栽培,牛糞施用および不耕起栽培を1999年から行った。
(11)グローバル・カーボン・サイクル・モデルによる炭素収支評価
本研究では国連世界農業機関の統計データより,各国における農耕地土壌の炭素蓄積量の変化を推計した。結果によると,1970年から2000年の間でアメリカ,カナダの農耕地土壌における炭素蓄積量は増加しているが,日本,EUのそれは減少していることがわかる。今後の地球温暖化国際交渉会議において,農耕地土壌の炭酸ガス吸収能を算入すると,アメリカ,カナダは有利になるが,日本,EUは不利になる。よって,農耕地土壌の炭酸ガス吸収能をカウントするような戦略を日本はとるべきではない。
(12)吸収源活動のグローバルポテンシャルに関する検討
本研究では,土地利用変化を伴うARD活動によるグローバルな吸収量を推定することを目的として,土地利用変化の予測シナリオ,人工衛星画像による樹冠率の計測データ,森林生態系の炭素ストックシミュレーションモデルを組み合わせる分析を実施した。分析の結果,推定量が得られた。
(13)JI/CDMプロジェクトに関する分析
PCFが現在公式オフィシャルプロジェクトとしてホスト国にも承諾を得ているのは2件で,他に4件提案されている。これらのプロジェクトにはアジア諸国対象のものは1件もないのが現状である。オランダのEru-ptやEUのJOINTプロジェクトも同様である。一方,NEDO FSはアジアの途上国だけに限らず,東欧諸国対象のプロジェクトも提案されており,NEDOが地域的な限定をしておらず,JIおよびCDM両方を想定していることが伺える。
(14)吸収源活動のモニタリングに関する検討
対象とした森林の分光特性のみを既知とし,林床などの被覆には影響を受けずに樹冠率を推定するアルゴリズムの開発を行った。湿原内に生息するハンノキの樹冠率を推定し,実測値との精度検証の結果,良好な結果が得られた。
(15)米国の政策決定過程の調査
世界の二酸化炭素排出量の4分の1弱を占め,先進国の中でも温暖化対策に及ぼす影響がとりわけ大きい国である米国の政策決定の調査を行った。
当研究では,米国の地球温暖化問題に対する意思決定要因について,気候変動枠組条約交渉時期(1990〜92年)と京都議定書交渉時期(1995〜97年)とを比較することにより,同国の態度に影響を与えている要因を明らかにすることを目的とした。そして,時代ごとに変わり得る要因と,変化が困難な要因に分け,今後米国が積極的な態度に変わるための条件を提示した。
各時期の意思決定過程の関係者にインタビュー調査を実施し,国の決定に関係している要因を挙げてもらうと同時に要因ごとの関連性について自由に述べてもらった。また,当時の資料や新聞記事検索を行い,要因に関連した記載を抽出した。その結果,米国の温暖化への態度が常に積極化しない原因としては,地政学的要因が時期的要因に影響を与えていることが挙げられるが,その背景には,大統領制など同国の政治制度的要因が働いていることがわかった。米国が現状の政治制度を維持したまま積極的態度を取るためには,被害に関する明確な科学的知見の裏付けか,経済に負担を与えない,低コストの対策を可能とするような政策を講じる必要があるといえる。
(16)気候変動レジームの国際政治と国内政策決定に関するワークショップ開催
平成13年2月9日,国連大学高等研究所との共催で,「気候変動レジームの国際政治と国内政策決定に関するワークショップ」を開催した。本ワークショップの目的は,気候変動レジームの形成過程からそれが有効に機能するまでの評価につき,国際レベルの分析を中心とする国際政治学と,国内政治レベルの分析に焦点をあてる比較政治学の研究手法の統合の可能性を検討し,今後の研究課題について意見交換することであった。得られた知見を,今後の研究枠組に反映させていくこととなった。
(17)京都議定書の実施に必要な国内政策オプション評価
本年度は,京都議定書の批准と発効を前提として,同議定書で定められた排出削減目標(2008〜2012年の5年間の排出量を,1990年の排出量の6%少ない量に抑制する)を達成するために必要な国内政策のオプション評価を行った。取り上げたオプションは,直接規制,炭素税,排出量取引である。排出量取引については,一般的な下流型だけでなく,上流型も詳しく分析した。
直接規制は目標の確実な達成と効率性の観点から問題があり,また炭素税は産業の国際競争力に配慮すると税率の減免を行わざるを得ず,やはり目標達成と効率性の観点から問題がある。排出量取引は,効率性を保ちつつ,排出枠の初期配分方法によって,負担の軽減が可能なので,政治的にも有力なオプションである。また排出枠はすべてオークションして,同時に炭素税を導入して分配調整するという組み合わせも有力である。排出量取引について検討した各国の報告書はひととおりサーベイした。
(18)京都議定書における国際制度の規範的・実証的検討
京都議定書の国際制度の規範的分析については,(1)京都メカニズム (2)吸収源,(3)報告・審査制度(5,7,8条)を含む遵守制度について,2000年11月にハーグで開催されたCOP6までの,および,その後の,これら国際制度に関する合意の規範的検討の基礎となる交渉過程の分析,とりわけ,各国・グループのポジションの把握と検討,および,合意形成のためにCOP6議長が行った提案の分析を行った。
(19)土地利用からの温室効果ガス排出量の制御可能性とその効果の比較分析
オランダのワーゲニンゲン大学で開発された京都議定書3条3項および3条4項対応モデルであるACSDモデル(Access to Country Specific Data)を詳細に検討することによって,京都議定書3条3項および3条4項に関するアクティビティの農耕地土壌と大気間の炭酸ガス交換量,および速度に対する影響を推計し,地球温暖化に対する農耕地土壌の役割を検討した。
各アクティビティに対する炭酸ガス固定効果の計算は以下のように表すことができる。
炭酸ガス固定効果=各土地利用面積×アクティビティが実施される面積の割合×アクティビティの効果
結果によると,京都議定書3条3項,4項に基づいたアクティビティを実施するとアメリカ,カナダでは炭酸ガス削減目標をそれだけで達成してしまう。日本,EUについてはわずかではあるが,炭酸ガス削減目標が緩和されるという結果が出た。ACSDモデルおよび土地利用統計から推計した炭酸ガス固定量の両方とも同様の結果が出たことから,京都議定書3条3項,4項の各国への影響は上記のようになるものと推定される。
日本に関しては京都議定書3条3項,4項に基づいたアクティビティの中でも土壌流出,生産性に対するアクティビティの効果が最も大きい。泥炭土管理に関するアクティビティは逆に炭酸ガス排出量を増やしてしまう。アメリカ,EUでは耕作地管理に関するアクティビティが最も影響が大きいことがわかった。
(20)森林による吸収活動評価にかかわる日・米・欧比較研究
森林資源の分布は世界的に大きな偏りがあることから,各国の森林資源状況,そこでの樹種,林齢構成から求められる炭素吸収量を明らかにすれば,今後の各国の採用するであろう吸収源対策の持つ意味を分析することが容易になる。そこで,FAO/ECEに各国が1990年代後半に提出している統計を用いて京都議定書附属書Iの国の吸収源,とくに森林がもつ能力に焦点をあてて検討した。
今回の集計によれば附属書Iの国々で年当たり1.0Gtの炭素を吸収しており,この数値はIPCC第2次報告書のそれよりも0.1Gt多くなっている。国別にみた場合,日本の森林の炭素収支量は5位であるもののロシアの1/30,2位米国の1/15であり,上位4カ国との格差は大きい。
こうしたことから,北欧,日本を除けばEUとアンブレラグループの利害対立の構図やホットエアの危惧が,森林の持つ吸収能力にも大きな影響を受けていることが各国の森林資源構造から明らかになった。
〔発 表〕C-11〜14,I-4,5,10〜12,15,c-8
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