2.3 環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
10.総合化研究
〔担当者〕
| 地球環境研究センター |
: |
井上 元・清水英幸 |
| 地球環境研究グループ |
: |
甲斐沼美紀子・増井利彦 |
| 社会環境システム部 |
: |
森田恒幸・原沢英夫・森口祐一・日引 聡・川島康子 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
地球環境研究センターにおいては地球環境研究総合推進費による総合化研究を実施している。この「総合化研究」という特殊な研究領域は,分野別に実施されている個々の研究プロジェクトと異なり,(1)個々の研究プロジェクトの成果を集約しつつ,経済学,社会工学的手法を含む観点から総合的かつ体系的に検討を行い,政策の具体的な展開に資する知見を提供する「政策研究」,(2)「課題別研究」として分野ごとに研究プロジェクトが推進される地球環境研究に対し,これら個々の分野にまたがる研究領域や共通する研究領域を体系的かつ集中的に解析する「横断的研究」,(3)個々の研究領域の重要性を地球環境問題の解決という観点から総合的に評価する「リサーチ・オン・リサーチ」の3つの役割を有しており,本年度においては以下の3つの研究を実施している。
〔内 容〕
(1)持続可能な発展において,環境保全と経済発展の両立は最も重要な要素であり,地球環境政策の世界共通の基本的目標である。その具体的目標の設定と達成方法の検討には環境と経済を同じ枠組みの中で分析できる手法の開発が急務であることから,環境経済モデルと環境勘定を中心に,手法開発を進めてきた。これまで,日本をはじめとする先進国の問題を主な研究対象としてきたが,持続的な国際社会の実現には,発展途上国の問題やそれを含めた国際関係にも視野を広げることが不可欠である。このため,平成10年度から,これまでの成果の地区制を基礎として,持続可能な発展の重要な鍵のひとつと考えられる国際公共財や,発展途上国を含む多国間の経済の連関にかかわる問題を中心にとりあげ,環境経済モデルおよび環境勘定の手法を適用することにより,環境と経済の統合に係る政策決定の支援に資する分析手法の開発を進めた。
〔成 果〕
(1)持続的な国際社会に向けた環境経済統合分析手法の開発に関する研究
本年度は昨年度に引き続き,これまで開発してきた各種経済モデルを発展途上国に適用すべく,モデルの改良と基礎的データの収集ならびにこれを用いたパラメータの設定に取り組むとともに,地球温暖化問題を中心にしてその対応可能性についてシミュレーション分析を実施した。また,国際公共財の評価方法についての基礎調査を完了させ,投入産出モデルを用いた物的勘定の開発のため,廃物の総量フローに関する国際比較のためのデータ整備および拡張された投入産出表へのデータ登録を行った。
以下,サブテーマごとに成果を記す。
1)国際経済モデルの開発とアジア地域への適用に関する研究
本サブテーマは,今までに開発してきた各種の経済モデルを発展途上国に適用できるように改良し,さらに国際的な相互作用を再現できるように世界モデルに拡張することによって,地球環境問題と経済発展とのかかわり合いをより体系的に分析することを目的とする。このため,次の3種類の経済モデルを基礎にして,国際経済モデルへの改良作業を進めた。
(1)動学的最適化モデル:スタンフォード大学で開発されたMERGEモデル,イェール大学で開発されたDICEモデル,東京理科大学で開発されたMARIAモデル,東京大学で開発されたGDMEEMモデル
(2)一般均衡モデル:国立太平洋北西研究所(PNNL)で開発されたSGMモデル,パデュー大学で開発されたGTAPモデル
(3)ボトムアップ・モデル:横浜国立大学等で開発されたNE21モデル
今年度は,昨年度に引き続き,これらのモデルの開発者の参加により改良作業を進めた。特に,SGMモデルの改良についてはPNNLと当研究所との間で国際共同研究として実施した。そして,これらの改良モデルを用いて以下の分析を実施した。
動学的最適化モデルを用いた分析では,アジア地域におけるクリーン開発メカニズムの効果を分析するとともに,不確実性を考慮した場合の温暖化対策の産業部門への影響について分析した。さらに,わが国の二酸化炭素排出抑制に伴う経済影響について推計した。
また,一般均衡モデルを用いた分析では,京都議定書の数値目標達成に伴って,貿易を通じた国際的な経済影響をシミュレーションにより分析するとともに,わが国の二酸化炭素排出抑制に伴う経済影響について推計した。
さらに,ボトムアップ・モデルを用いた分析では,排出量取引やクリーン開発メカニズムが効果を発揮する情景を検討するとともに,わが国の二酸化炭素排出抑制に伴う経済影響について推計した。
2)国際公共財の貨幣的価値を計測するための方法論の確立に関する研究
現実の市場が存在しない国際公共財としての環境財については,人々の価値を貨幣タームで計測する手法に仮想市場法(Contingent Valuation Method,CVM)があり,米国を中心に用いられている。本研究は,CVMの中核である仮想的な市場の設定に際して提案されている代表的な回答形式の比較を行い,各国の文化を前提とした上で望ましい回答形式を選び出すことを目的としている。
本年度は,次の仮説を検討した。(1)財に関して適切な量の情報を与えるとCVMにおけるWTP回答の信頼性が向上する。(2)(情報量とは関係なく)調査参加自体から効用を得た被験者の信頼性が向上する。なお,信頼性の指標として,杉並区居住世帯に対する2回の調査におけるWTP一致率と2回目返信状況を用いた。また,温暖化問題小冊子のある組(A型)とない組(B型)を設けた。第一の仮説に関しては,調査で得られた主観的な情報量の適不適と回収率,WTP一致率の間には明確な関連が見いだされなかった。むしろ,物理的な情報量の多いA型で主観的な情報量に関わらず2回目返信確率が低下した。第二の仮説に関しては,特にA型で調査の効用と信頼性指標の間に関連が見られた。「調査全体に対する満足感」「1回目調査の所要時間」と2回目返信状況,調査の「社会的意義」とWTP一致率に予測どおりの関係がみられた。一方,B型では「調査全体に対する満足感」の高い者の返信確率が増大したが,WTP一致率に対して有意な変数はみられなかった。最初の結果とあわせると,長大な調査票,小冊子による高負荷のもとで,調査の効用の程度が信頼性に影響を与えやすいと解釈できる。^k 3)投入産出モデルを用いた資源・環境負荷フロー勘定の確立に関する研究
本サブテーマでは,物量単位の環境勘定,特に資源および環境負荷のフローを中心に扱う。すなわち,自然環境から人間活動への資源のインプットのフローおよび人間活動から自然環境への廃物のアウトプットのフローについて,その総量の把握および経済活動部門への分解を行うとともに,資源が生産活動を経て製品に形をかえ,消費の後廃棄されたり,インフラストラクチュアとして蓄積されたりするまでの過程を物量単位の投入・産出表の形式で表現することにより,さまざまな経済活動が直接・間接にもたらす資源の消費量や環境負荷の発生量を算定しようとするものである。
本年度は,前年度までに設計を進めてきた環境部門を拡張した物量単位の投入・産出表について,廃棄物・リサイクルフローや副産物の記述方法などについて改良を加え,「多次元物量投入産出表(MDPIOT: Multi-Dimensional Physical Input Output Tables)」の枠組みを提案した。MDPIOTの有用性を実証するため,化石燃料,金属,建設原料材の3分野を対象として既存データの収集,整理をもとに勘定表の試作を行うとともに,スプレッドシート形式の汎用ソフトウエア上で,部門の分割/集約など柔軟な表現形式によって勘定表を表示する機能の開発を行った。また,1995年産業連関表を用いた化石燃料起源の大気環境負荷推計について,他の統計資料との比較分析によって前年度に行った二酸化炭素排出量推計の精度向上を行うとともに,SOx,NOxの排出推計を新たに行って,部門別最終需要金額あたりの直接・間接排出量に関するデータ整備を行った。
一方,資源の総量のフローに関して,平成7年度以来,日本,米国,ドイツ,オランダの4ヵ国の共同研究を進め,第1段階では資源の総投入量の国際比較を行ってきた。第2段階として,人間活動から自然環境へのアウトプットフローについて,上記4ヶ国にオーストラリアを加えた5ヶ国の間で平成9年度から国際共同研究を進め,二酸化炭素をはじめとする大気への環境負荷,溶剤・肥料など使用段階で環境へ散逸する物質など,環境への排出形態別の内訳をとらえながら,人間活動から環境への排出フローの総量の国際比較を行ってきたが,本年度はその成果をとりまとめ,国際共同研究報告書を出版した。
一方,カリフォルニア大学(米国)やライデン大学(オランダ)など欧米の研究機関との間で, 投入産出分析(産業連関分析)の環境問題への応用についてこれまでの研究成果の交換や今後の共同研究の可能性について意見交換を行ってきたが,今年度は,豪州などより多くの機関との間で,ライフサイクル分析や技術評価への利用を念頭においた手法開発とデータベース構築を目指した共同研究の進め方について意見交換を行った。
〔発 表〕C-29,30,38〜40,42,44,45,52,c-36,43,45,48〜52,54,55,61
(2)温室効果ガスインベントリーシステム構築の方法論に関する研究
本年度はまず,アジア地域における各種温室効果ガス(GHG)排出係数データの開発・利用状況を把握するため,既存の文献から関連データを抽出し,アジア地域GHGインベントリー排出係数データの一覧表を作成した。この際,使用した既存文献は,主に次の3種類である。(1)国別温室効果ガスインベントリーのための1996年改訂版IPCCガイドライン (2)ALGAS(アジア地域における最少費用での温室効果ガス削減戦略プロジェクト)レポート:同プロジェクトは,GEF(地球環境ファシリティー)やアジア銀行などから資金を受け,アジア銀行が実施しているものである。(3)日本作成の国別温室効果ガスインベントリー この一覧表の作成を通し,アジア地域では各種GHG排出係数として利用できるデータが乏しく,多くの場合はIPCCガイドラインに示されているデフォルト値(各国独自のデータがない場合に用いるべく提案されている便宜的な数値)が用いられている現状が確認された。不確実性が低く信頼性の高いGHGインベントリーを作成するためには,各種排出係数について地域特性を反映した各国独自の値を用いることが望ましい。多くをIPCCデフォルト値に頼るアジア地域の現状は,同地域において独自排出係数データの研究・整備を推進する必要性が高いことを明らかにした。
次に,こうした認識のもと,同研究推進のためアジア地域の研究者ネットワーク構築を図り,国内検討会及び国際ワークショップを開催した。これらを通して国内外の専門家ロスター(名簿)を作成するとともに,農業,土地利用変化及び森林,廃棄物の各分野において,優先順位が高いと思われる今後の研究課題を以下のように整理した。(1)農業セクター:「家畜反芻活動におけるメタン排出係数の決定ための簡易かつ安価な手法の開発」,「GIS(地理情報システム)を利用した,農地起源メタン・亜酸化窒素排出量推計モデルの開発」 (2)土地利用変化及び林業セクター:「森林の分類方法の改善」,「森林タイプごとの成長率データの整備(GISの有効利用)」,「森林タイプごとの伐採面積データの整備(GISの有効利用)」 (3)廃棄物セクター:「DOC(Degradable Organic Carbon:分解性有機炭素)の地域ごとのデータ整備」,「廃棄物の野焼きの割合の把握と排出量推計式への反映」
なお,この研究課題の検討にあたっては,IPCCインベントリープログラム(技術支援ユニットはIGES内に設置されている)の動きも踏まえ,同プログラムに資する成果を目指すことを意識している。
今後の研究協力・情報交換を促進するための研究者ネットワークのあり方については,今回の国際ワークショップ参加者によるネットワークをもとに情報交換とデータ蓄積を進め,将来,各国政府の協力を得た強力なネットワークへと発展させる案などが提示された。
農業部門からの温室効果ガス排出の精度管理に関しては,IPCCガイドラインのTier2を一部修正した手法(メタン転換計数の決定を含む)を開発した。それにより,中国の動物系肥料管理システムからのメタン及び亜酸化窒素排出量を地域ごとに計量し,全体量の推計を実施した。推計に対し肥料管理システムの使用実態に関するデータ(MS%)が最も重要な影響を及ぼすことを検証した。温室効果ガス推計の改善のためには,MS%に加え,重視すべきいくつかのファクターを提示し,優先すべき地域等を提案した。
森林・土壌部門からの温室効果ガス排出の精度管理に関しては,不確実性の問題が大きい土地利用,土地利用変化及び森林(LULUCF)からの温室効果ガスの推計を改善するため,当該分野のインベントリーの実態の評価,活動データ及び排出係数のデータベースの収集・改善,問題の検出及び改善のための方針の策定を目的として,フィリピン,インドネシア及びタイの国別インベントリー及び関連文献を調査した結果,関連データの収集及びデータベースの改善が必要との結論を得た。このためには,関係する研究者や研究所のネットワークが必要である。特に,GISの利用等によるバイオマス量及びその経年変化の把握に関する手法の改善を提案した。
陸域生態系におけるCH4,N2O等のインベントリーシステム構築手法の高度化に関しては,農耕地を含む陸域生態系からのメタン・亜酸化窒素の発生・吸収量とそれらの制御要因について,日本とアジアの研究の現状と今後の課題についてまとめた。
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