2.16 科学技術振興調整費による研究
6.重点基礎研究
(1)有機溶媒の代替としての界面活性剤ミセル溶液の利用に関する基礎的研究
〔担当者〕
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
環境試料中に含まれる有害物質を分離・回収したり分析したりする場合,有機溶媒を用いた抽出・濃縮操作を行うことが一般的である。しかしこの際に利用する有機溶媒は発ガン性や催奇形性などの毒性や引火性などの危険性を有していることが多く,使用の危険性が指摘されている。この問題の本質的な解決には有害な有機溶媒の代替となる『環境にやさしい』抽出系の開発が必須である。界面活性剤分子が凝集して生成するミセルはその中心部に疎水性の空間を持っているために,水溶液でありながら水に難溶な物質を溶解することが知られている。さらにミセルは温度変化や遠心分離あるいは限外ろ過により分離・濃縮操作を行えることから,危険性が危惧される有機溶媒の代替抽出系としての使用が期待できる。本研究ではこのような界面活性剤ミセルの持つ性質を環境汚染物質の分離・回収や分析に利用する新たな手法を開発することを最終目標として,ミセル溶液への物質の抽出量や抽出速度などを詳細に検討し,ミセル抽出系の持つ特徴や効率を明らかにすることで,有機溶媒の代替抽出系としての利用の可能性を基礎的に検討することを目的としている。
〔内 容〕
非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレングリコール-t-オクチルフェニルエーテルの作るミセルと水の間での一連の溶質の分配現象を測定した。溶質としては有機溶媒−水間の各種定数が既知で,重金属の抽出試薬として広く使用されているキレート試薬である6種のβ−ジケトンおよびその三価鉄イオンの錯体を用いた。
(1)ミセルへの分配平衡定数を測定し,ヘキサンおよびジエチルエーテルと水の間での値と比較した。フェニル基のようなかさ高い置換基を持つ試薬およびすべての錯体ではヘキサン−水系での分配定数とほぼ等しく,ミセル中心部のアルキル鎖に分布していること,置換基の小さい試薬や水素結合可能な官能基を持つ試薬では分配定数がジエチルエーテル−水系の値と近くなり,ミセル外殻部のオキシエチレン鎖の中に分布しているものと考えられた。このことから溶質のサイズと極性がミセル内の分布位置を支配する因子であると考えられた。またこれらの溶質分子はミセル1個におよそ30分子程度は平衡状態を変化させずに溶解することが明らかになった。
(2)4種類の錯体のバルク水相からミセル相へのミセル界面通過速度を測定した。通過速度はいずれもミセル濃度に1次で依存することから錯体とミセルとの衝突が関与すること,メチル基をフェニル基に置換すると界面通過速度は100倍程度上昇し,トリフルオロメチル基に置換すると1/20程度に減少することが明らかとなった。これは溶質分子がミセル内部に侵入する際に溶質表面に露出した官能基の性質の差異がミセル表面部との馴染み易さに影響するためと考えられた。
(3)ミセル相に抽出された溶質を分離するために限外ろ過膜での分離の可能性を検討した。今回使用したミセルは分子量が約80000であり,分画分子量10000の限外ろ過膜による1/2体積までの分離操作において,抽出された溶質のろ液への漏れだしは認められなかった。
〔発 表〕G-1〜3,g-1〜3
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(2)エアロゾルと雲の相互作用の解明のための新しいライダー手法の研究
〔代表者〕
〔分担者〕
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
エアロゾルは散乱,吸収を通じて大気の放射過程に直接寄与するだけでなく,雲の生成を通じた大きな間接効果を持つ。エアロゾルの間接効果は十分に解明されておらず,気候モデルによる地球温暖化予測の誤差の大きな要因となっている。エアロゾルの雲の雲生成における効果を定量的調べるためには雲中の水滴の粒径の測定が必要である。そこで本研究では,雲の分布と雲底付近の粒径分布,雲の周りのエアロゾルの分布と光学的性質を同時に測定することが可能な新しいライダー手法の基礎的研究を行った。
〔内 容〕
雲による散乱の角度依存性を多波長で測定することによって雲中の水滴の粒径を求める新しいライダー手法を提案し,理論的および実験的な研究を行った。この手法は,多波長のレーザー送信系と適当な散乱角となるように距離を置いて設置した受信系を用いるバイスタティック方式のライダーである。研究ではまず,ミー散乱理論を用いて最適な送受信系の検討を行った。2波長のレーザーと2台の受信系を用いる方法と,1台の受信系で散乱の偏光特性を用いる方法を検討した。この結果,後者の方法により簡便な装置を実現可能であることが示された。この方法について,原理検証実験を行い,低高度の積雲の雲底付近の粒径を測定するためのシステムを試作した。
〔発 表〕F-19,f-49,65
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(3)移行帯としての干潟生態系における藻場の機能解明に関する基礎的研究
〔代表者〕
〔分担者〕
| 生物圏環境部 |
: |
渡邉 信・野原精一・佐竹 潔・上野隆平・竹中明夫・名取俊樹・戸部和夫・吉田勝彦・笠井文絵・広木幹也・河地正伸 |
| 地球環境研究グループ |
: |
高村健二・永田尚志・五箇公一・志村純子 |
| 地域環境研究グループ |
: |
高村典子・福島路生 |
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
藻場は水の流動を緩和し有機物や底質をトラップするため,動物ベントスおよび稚魚稚貝の供給源として機能するといわれている。近年,沿岸漁獲回復の目的で,埋め立てなどで失われた藻場を回復する事業が主に干潟の沖帯でなされている。一方,干潟内部にもかつては藻場が広がっていた。しかし,水産の近代化に伴い干潟はアサリ類の養殖などの「海の畑」に変貌し,船外機や収穫用器具にからまる海草・海藻は干潟内から排除されている。昨今では養殖畑として収奪され続けてきた干潟の機能は低下し,同時に浸食も進んでいる。そこで,新たな干潟の保全および利用のあり方に資する基礎的知見を得る必要がある。本研究では,従来定性的に評価を行ってきた干潟内藻場が干潟生態系にもたらす効果のうち,有機物供給効果,底質のトラップ効果,地固め効果を対象とし,定量化することを目的とする。
〔内 容〕
本研究では,干潟内藻場の持つ機能に関する試験研究を行い,(1)枯死落葉による有機物供給効果(2)地上器官による底質のトラップ効果(3)地下器官の発達による地固め効果を検証することで,干潟の保全と活用方法に資する知見を提示する。
海草藻場が残存する東京湾の富津干潟,沖縄県西表島の古見干潟および干立干潟において,(1)干潟内藻場と干潟内裸地(以下,藻場,裸地)での底質の物理化学性の比較を行い,(2)藻場および裸地に沈殿ビンを設置し,藻場内外で採取された底質量と有機物量を定量し,(3)底質のトラップ効果を確認するために藻場および裸地に蛍光砂を撒き一定期間後に周辺から得られた蛍光砂量を計測するという実験を行った。実験の結果,藻場と裸地では底質の含水率や密度には有意な差が見られなかった。酸化還元電位は藻場において低かった。有機物,可給態窒素,可給態リンは藻場において有意に多く,これらの結果から藻場の有機物および栄養塩供給効果が示された。沈殿瓶実験の結果,裸地において底質の全沈降フラックスが高く,底質がよく流動していることが示された。一方植物遺骸は藻場内外で大きく変わらず,地上部のトラップ効果は明確でなかった。干潟における藻場構成種が小型海草であることが理由の一つと推測された。蛍光砂実験の結果,干潟内藻場では裸地に比べ底質が拡散せず,地固め効果が検証された。以上の結果,干潟内藻場は,干潟全体に植物遺骸などの有機物を供給していること,地固め効果があり藻場内部の底質の攪乱頻度を下げ,動・植物ベントスの住みこみの場としての機能を高めていること,干潟内に酸化的地域と還元的地域を混在させ多様な物質循環系を形成していることが明らかになった。
〔発 表〕h-29〜31
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(4)成層圏オゾン破壊に関する極域成層圏雲の特性評価に関する研究
〔担当者〕
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
1980年代以降,人工衛星からのリモートセンシングによって南極オゾンホールの水平構造の時間変動が明らかにされたように,数多くの重要な大気環境に関する観測がなされるようになってきた。一方,モントリオール議定書に始まる人為起源のフロンガスの放出規制によって大気中のフロン濃度は減少に転じようとしているが,いまだオゾンホールの規模は拡大を続けている。また今後温室効果気体の増加に伴い,成層圏気温の低下が予測され,さらなるオゾン破壊につながる危険性が指摘されている。最近の研究により冬期極域でのオゾン破壊には,極域成層圏雲(PSC)の存在が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきたが,PSCのタイプや特性に関してはまだ明らかにされていない点が多く残されている。このようなPSCの特性評価を行うことは,将来の成層圏オゾン破壊を予測する上で必須である。そこで,過去の衛星観測データや化学輸送モデルなどを用い,冬期成層圏におけるPSCの特性を明らかにしていき,ひいてはモデルによるオゾン全量の将来予測に貢献していくことを本研究の目的とする。
〔内 容〕
1996年8月に打ち上げられたADEOS衛星搭載の改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)による可視・及び赤外チャネルにおけるエアロゾル消散係数の高度分布データから,冬期低温の極域成層圏において,PSCによるものと思われる高い消散係数を観測した例を選び出した。そのデータについて,UKMOによる気温と消散係数との関係をプロットし,従来の熱平衡モデルによる各種PSC(NAT,NAD,STS,Ice)による関係と比較,検討を行った。その結果得られた,いくつかの代表的なタイプのPSCについて,後方流跡線解析を行った。その流跡線上での気温履歴が,PSCの生成にどのように影響しているかについて評価した。また一方,これら選び出されたPSC候補について,ILASの赤外窓チャンネルにおける消散係数スペクトルを,過去の実験室データと比較した。その結果得られたPSCのタイプを,前述の方法で得られたタイプと比較検討した結果,いい一致を見ることができた。
〔発 表〕A-38,40,F-6,7,12,I-16,a-61,69,77,f-26,38,i-34,36
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(5)成層圏オゾン破壊物質である塩化メチルの陸域発生源に関する研究
〔担当者〕
| 化学環境部 |
: |
横内陽子・相馬悠子 |
| 地球環境研究グループ |
: |
向井人史・秋吉英治 |
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
成層圏オゾン破壊については,人間活動によるフロン放出の他に塩化メチルなどの自然起源ハロカーボン類の寄与も大きい。今後の地球環境変動による生態系からのハロカーボン放出量の変化を予測するために,その発生源・発生機構を明らかにする必要がある。最近の観測結果では塩化メチル発生源として海洋よりむしろ熱帯・亜熱帯陸域の重要性が示されている。本研究では,陸域生態系における具体的な塩化メチル発生源を特定して,今後の濃度変動予測の足がかりとする。
〔内 容〕
熱帯陸域における塩化メチル発生源として熱帯植物の影響を評価するため,代表的な熱帯植物が多数生育する国立博物館筑波実験植物園・熱帯雨林温室内(20×25×16.2m)において大気中塩化メチル濃度の変動を調べた。温室内の空気を入れ換えた後の塩化メチル濃度の増加(夏期には1時間当たり150ppt以上)から,放出量を約5μg/m2・hと求めた。温室内の塩化メチル発生源が植物・土壌のいずれであるかを特定するために,数種の植物と土壌からの発生ガスをキュベット法によって調べた結果,土壌は塩化メチルを吸収しており,葉から塩化メチルが放出されていることが示された。亜熱帯の沖縄本島おいて数種類の植物について塩化メチル発生量を測定したところ,葉1g・1時間当たり1μg近い塩化メチルを放出するものが認められた。熱帯域の植物が塩化メチルの重要な発生源である可能性が高い。
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(6)含硫黄フリーラジカルの大気中での反応の研究−HO2,RO2との反応について
〔担当者〕
| 大気圏環境部 |
: |
猪俣 敏・畠山史郎・酒巻史郎・高見昭憲・佐藤 圭 |
| 地域環境研究グループ |
: |
今村隆史 |
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
燃焼,生物活動および火山などから大気中に放出される硫黄化合物は,大気中のエアロゾルや酸性雨に係わる化合物として大気化学において重要な物質である。代表的な化合物はSO2,DMS,H2S,CS2,COSなどである。これらの化合物は大気中では光解離やOHラジカル等の反応により含硫黄フリーラジカルを生成する。一般に大気中で生成したフリーラジカルの多くは大量に存在する酸素と反応してRO2ラジカルを生成するが,SO,CH3S,HSO,HS,CS,CH3SO等の含硫黄フリーラジカルはO2との反応速度は非常に遅いことが報告されている。よって,NO2,O3等と反応するか,またはHO2,RO2ラジカルと反応すると予想される。特にNOx,O3濃度の低い清浄大気中ではHO2,RO2との反応は重要である。したがって,含硫黄化合物とHO2,RO2との反応速度および反応機構の研究は極めて重要であるが,現在までこれらの反応に関する研究は全く行われていない。その理由は反応がラジカルとラジカルの反応であるため,実験が極めて困難であるからである。本研究は,新しい手法により,含硫黄ラジカルとHO2,RO2との反応速度の測定を行い,エアロゾル生成等に係わる大気化学のモデル構築に貢献するものである。
〔内 容〕
本研究では,含硫黄フリーラジカル,SO,HS,CS,CH3S,HSOとメチルパーオキシラジカル,CH3O2(あるいはメチルパーオキシラジカルの重水素置換体,CD3O2)との反応の室温での反応速度定数を光イオン化質量分析計を用いて決定した。測定はメチルパーオキシラジカル濃度過剰の条件で,含硫黄フリーラジカルの減衰の時間プロファイルを測定した。光イオン化にはKrの共鳴線:10.0,10.6eVを用いた。SO,HS,CS,CH3S,HSOラジカルはそれぞれSO2,H2S,CS2,
CH3SCH3の193nm光分解,HS+CH3O2の反応で生成し,メチルパーオキシラジカルはアセトンの193nm光分解で生成するCH3ラジカルと酸素分子の反応で生成した。メチルパーオキシラジカルの濃度はNOによる滴定反応:CH3O2+NO→CH3O+NO2で生成するNO2の量で決定した。室温での反応速度定数は以下のとおりで,かなり速い反応であることがわかった。SO+CD3O2:(6±2)×10-11cm3molecule-1s-1,HS+CH3O2:(1.1±0.3)×10-10cm3molecule-1s-1,HSO+CD3O2:(5±2)×10-11cm3molecule-1s-1,CH3S+CD3O2:(7±2)×10-11cm3molecule-1s-1。全圧を3〜7Torrで変化させても反応速度定数の有意な差はなかったことから,これらの反応は二体反応であることがわかった。CS+CH3O2の反応はCH3O2濃度を0〜1×1013個/cm3で変えても反応は見られなかった。大気中での含硫黄フリーラジカルの消失過程におけるパーオキシラジカルの寄与を他のこれまで重要であると考えられてきた酸化剤であるオゾン,二酸化窒素と比較すると,自由対流圏(オゾン濃度〜30ppbv,二酸化窒素濃度〜20pptv,パーオキシラジカル濃度〜25pptv)では,オゾン,二酸化窒素との反応による含硫黄フリーラジカルの反応の寿命がそれぞれ数〜十秒,数十〜百秒に対して,パーオキシラジカルとの反応による寿命は数十秒と見積もられた。例えば,SOの場合,オゾンとの反応寿命は13s,二酸化窒素との反応寿命は25sに対し,パーオキシラジカルとの反応寿命は15sであった。このことから大気中では含硫黄フリーラジカルの酸化剤として,オゾン,二酸化窒素だけでなく,パーオキシラジカルが重要な役割を果たしていることがわかった。
〔発 表〕a-128,f-2,5
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(7)新しい高感度NMR脳機能イメージング法の開発に関する研究
〔担当者〕
| 環境健康部 |
: |
三森文行・山根一祐・梅津豊司・石塚真由美・持立克身・古山昭子 |
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
21世紀は脳の世紀と呼ばれるように,脳の機能の発現の仕組みや,脳を標的とする疾病の病態,脳に対する薬物の作用発現の機序の解明等が希求されている。最近,ヘモグロビンの磁性変化を利用するNMR脳機能イメージング法がヒトにおいて盛んに用いられ始めてきている。しかし,当該法は機能発現に伴う信号変化が数%以下と小さく,実験動物に適用するには多大の困難が伴う。本研究は外因性の常磁性試薬を用いることにより脳機能検出の10倍以上の高感度化をはかり,動物脳において適用可能な高感度NMR脳機能イメージング法を構築することを目的とする。さらに,ヒトにおいては制約が大きく実現困難な,薬物や環境化学物質の脳機能への影響検索法を,実験動物を用いて構築することを目指す。
〔内 容〕
実験動物において,マンガンイオンを外因性のコントラスト試剤として用いる高感度脳機能イメージング法の開発を行った。従来法が機能発現に随伴する血行動態の変化を検出する間接法であるのに対し,本法は神経活動を直接観測する直接法であるという長所がある。しかし,本法には生体に対して毒性のあるマンガンの相当量の投与を要するという難点がある。我々はマンガン投与法を全身投与から頸動脈を介した脳への直接投与へと変更することにより,必要とされるマンガン量を150マイクロモルから14マイクロモルへと約10分の1に削減する方法を考案した。グルタミン酸,N-メチル-D-アスパラギン酸等の投与による脳賦活により,賦活部位のT1 強調NMR画像上で約50%の信号強度の増強を観測することができた。この方法により,実験動物を用いる神経伝達物質のリセプター分布のマッピング,脳において活性を有するさまざまな薬物や環境化学物質の投与実験等,ヒトでは実行不可能な実験的脳機能イメージング法の実現に道をひらくことが期待される。
〔発 表〕e-57,60
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(8)国内の炭素吸収源インベントリーの精度評価に関する研究
〔担当者〕
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
京都議定書において,温室効果ガス削減の数値目標の達成に,吸収源による吸収量を含めることが盛り込まれた。今後,IPCCのガイドラインの改訂が行われ,その改訂作業には吸収源による吸収量の推定精度の向上が必須となっている。さらに,議定書には温室効果ガスの排出量取引の項目も取り込まれた。2008年までには,日本は数値目標を達成しなければならず,目標達成のために取引相手となる東アジア・太平洋地域の森林による二酸化炭素吸収量把握が急務となっている。
本研究では,国内の炭素吸収源インベントリーの精度評価を実施することにより,今後,京都議定書の吸収源に関わる数値目標の達成の判定において必要となる測定精度を確保するためには,どの森林インベントリーの項目について,どのような調査方法で整備を進める必要があるかを明らかにする。
〔内 容〕
本研究では,森林等の温室効果ガス吸収源を評価することを目的として国土数値情報,農林業センサス等の統計情報を用いて構築された全国3次メッシュ単位の吸収源評価データベース(森林評価データベース及び土壌評価データベース)の精度評価を,各都道府県の収集・整備した森林関連インベントリデータ及びランドサット画像(TM)データを用いて行った。
(1)インベントリデータを用いての精度評価:各都道府県が森林法に基づき地域森林計画の樹立を目的とし,詳細な現地調査等を行うことにより収集・整備している森林関連インベントリデータ(林班・小林班境界線情報を含む)の整備状況について検討し,より精度の高い森林関連インベントリデータの入手が可能と判断された北海道・三重県・熊本県を対象に森林関連インベントリデータを入手し,統計解析等の手法を用い吸収源評価データベースとの整合性について検証した。
(2)ランドサット画像データを用いての精度評価:インベントリデータを用いての精度評価同様,北海道・三重県・熊本県を対象に,吸収源評価データベース構築に用いた統計情報等の整備対象年次である1990年前後の期間における雲量の少ないランドサット画像データを購入し,幾何補正・DEM補正等を行った後,統計解析等の手法を用い吸収源評価データベースとの整合性について検証した。
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(9)八景を中心とした風景評価と気象条件・地理情報に関する研究
〔担当者〕
| 社会環境システム部 |
: |
青木陽二・山野博哉・青柳みどり・趙 文経 |
| 地球環境研究センター |
: |
一ノ瀬俊明 |
| 神戸市 |
: |
田中誠雄 |
| 山梨大学 |
: |
北村真一 |
| 国立科学博物館 |
: |
近田文弘 |
| 修成建設専門学校 |
: |
飛田範夫 |
| 大成女子高校 |
: |
川崎建夫 |
| 韓国慶北大学 |
: |
李 基徹 |
| 韓国密陽大学 |
: |
金 東必 |
| 中国建設部 |
: |
陳 明松 |
| 中国清華大学 |
: |
章 俊華 |
| 中国北京林業大学 |
: |
烏 恩 |
〔期 間〕
平成12年度(2000年度)
〔目 的〕
国民の関心は公害の未然防止から,緑の多い都市造りや身近な地域の生物保護,地域の価値ある生態系の保全,さらには地球環境における生物多様性の管理にまで関心が広がっている。そして人々の環境に対する要望は,水や大気,生物,構造物などの多様な要素による複合的影響を扱う風景の問題にまで及んできた。一方ではコンピュータの開発が進み,高度で大容量のデータ蓄積や解析も可能となってきた。そして,複雑かつ不明確な現象を扱う風景にも,科学的な研究の光が当たるようになった。
風景という現象は人間の大脳の働きによる物的環境に対する反応である。よって,人間社会の環境変動とも結びつく現象である。
本研究では,風景の評価に対する既存の知見を整理し,既に評価され記録として残っている風景と現在評価されている風景について調査を行い,その物的条件や分布について明らかにすることを目的としている。
〔内 容〕
(1)風景評価に関する既存の知見の整理
人類の歴史と個人の成長の中で自然風景の評価がどのように変わったかを探った。絵画史では風景画の成立はかなり遅く,今のような評価になるまでに,長い時間がかかったことがわかった。また人によって自然の風景が思い出に残る年令が異なることがわかった。そして半数の人が風景を思い出して描けるのは15歳頃であることがわかった。現在の風景評価は歴史時代からも,個人の成長から見ても長い景観体験によって出来上がった概念である。
(2)八景の全国分布調査
中国の宋に始まった瀟湘八景画は,我が国に伝わり,日本人の風景観に大きな影響を与えた。室町時代に伝わって以来,近江八景など多くの八景が日本地形に見いだされた。これらの八景の分布を明らかにすることにより,風景観としての八景の影響を明らかにした。現在までに地方自治体により把握されている八景の分布と見いだされた年代を分析した。回答の得られない自治体があるので今後の調査により八景の数は増加すると思われるが,現在までの資料により八景の影響は多大なものであることがわかった。
日本における236の八景から2000に及ぶ視対象を記述する言語について分析を行った。その結果,瀟湘八景タイプの記述は1046語,75%に及んだ。地名を示す語は545語,28%であった。自然的な要素は40%,人工的なものは20%,人に関するものは3%であった。季節では冬が49%,秋が43%,春が7%,夏が2%であった。時間に関しては夜が多かった。五感では視覚が67%,聴覚が27%であった。
〔発 表〕C-1,5
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