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研究成果物


2.16 科学技術振興調整費による研究


2.生活・社会基盤研究


(1)内分泌撹乱物質による生殖への影響とその作用機構に関する研究
 1)内分泌撹乱化学物質の計測手法及び評価手法の開発
 @内分泌撹乱物質の高感度分析手法の開発と環境中濃度の把握

〔担当者〕

化学環境部 白石寛明

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 人畜由来の物質であるエストラジオールのように,非常に微量でもその影響が現れると考えられる物質の分析には,活性に応じた分析法の高感度化が必須である。ELISA法は,感度が良好で(検出下限0.002〜0.0002μg/l)あるが,他の類似した物質に応答する交差反応性に注意が必要である。現在,エストラジオールの測定に採用されているELISA法は検出感度,測定値の信頼性などにおいて改善の余地があると思われる。このため標準法となりうる他の機器による分析法の開発が必要であるが,通常のGC/MS法では検出下限値を低くすることが難しい。負イオン化学イオン化(NCI)質量分析法などの手法を用い,さらにエストラジオールを誘導体化して,分析しやすい物質に変化させるなど前処理に若干の工夫をすることで,この目的は達成可能であり,広く普及している四重極質量分析計で高感度な分析をできるようにすることは重要である。また,環境中での挙動を把握するためには,ステロイドホルモンの抱合体を含めて高感度に測定する必要がある。代謝産物の分析には,近年,著しく性能が向上した,高速液体クロマトグラフ質量分析計の利用が適している。高速液体クロマトグラフ質量分析計の環境分析への応用例は少なく,実際に環境試料へ適用し,その可能性を検証する必要がある。

〔内 容〕
 エストラジオールはグルクロン酸および硫酸抱合体などの代謝産物として体外に排泄される。下水にはグルクロニダーゼ活性があると報告されており,グルクロン酸抱合体などは環境中で分解し再びエストラジオールを産生する可能性が指摘されている。前年度,GC/NCI-MSによる環境中のエストラジオールの高感度な分析法を報告したが,GC/MSで代謝産物である硫酸抱合体やグルクロン酸抱合体を個別に分析することは極めて困難である。環境水中のこれら代謝産物は固相カラムなどによる濃縮が可能ならば,高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いれば誘導体化せずとも測定が可能である。そこで,エストラジオール(E2)とその代謝産物であるエストロン(E1),エストリオール(E3),およびそれらの抱合体のあわせて13化合物(E2-3-Glucuronide-17-Sulfate,E2-3-Sulfate-17-Glucuronide,E3-3-Glucuronide,E2-3,17-Disulfate,E3-3-Sulfate,E2-Glucuronide(3-と17-),E1-3-Sulfate,E1-3-Glucuronide,E2-3-Sulfate)の固相カラムによる水からの濃縮法とHPLC/MS/MSによる分析条件を検討した。まず,抱合体の水中から市販の固相カラムによる吸着を検討した結果,EDS-1,OASISなどスチレンジビニルベンゼン系の樹脂にアミド基などの親水基を持たせた吸着剤を用い,酢酸で酸性にすることで,低濃度(10ng/l)でも60〜100%の回収率を得ることができた。LC/MS/MSでは,耐塩基性の高分子系の分離カラムとして用い,20mMトリエチルアミン存在下,水とアセトニトリルのグラジエントによる分離条件を検討したところ,良好なクロマトグラムが得られた。この条件下での検出下限は約4pg程度となった。
〔発 表〕D-20,d-39


 A魚等の生物に対する内分泌撹乱作用の生物検定法の開発

〔担当者〕

化学環境部 白石寛明

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 内分泌撹乱作用の検定生物として魚類などの水生生物を選び,生態影響を評価する試験としての新しい生物検定法を作成することを目的とした。エストロジェンのスクリーニング試験法では,魚を用いるビテロゲニンの誘導は優先順位が高い指標の一つである。OECDの魚類試験法では,試験魚にはメダカ(Oryzias latipes),ファットヘッドミノー,ゼブラフィッシュなどを用いる方向で検討が進められている。日本では,コイのビテロゲニン測定キットが市販され,環境の生物モニタリングに広く用いられているが,メダカのビテロゲニン誘導を指標とした内分泌作用のスクリーニング試験の開発は遅れ,いくつかのビテロゲニン抗体の作成は報告されつつあるものの試験系の確定までには至っていない。メダカは他の魚種にない特徴を有しており,雌雄の判別が孵化以前に判別できる系統の開発や遺伝的に雌雄で体色の異なるd-rRメダカを用いる性転換アッセイが開発されるなど重要な試験生物である。しかしながら,メダカビテロゲニンの測定法は十分なバリデーションはなされておらず,メダカを用いたビテロゲニン誘導試験法の開発は急務である。そこで,魚類では,メダカを中心に,雌に特異的なタンパク質であるビテロゲニンやコリオゲニンに焦点を当て,指標タンパク質のELISA測定法や関連する遺伝子(ビテロゲニン,コリオゲニンLとH,エストロゲンレセプターのmRNA)の定量法についても検討をくわえ,内分泌攪乱物質により,雄にこれらバイオマーカーが誘導されるかどうかを検討することとした。

〔内 容〕
 1)メダカビテロゲニン塩基配列の決定
 メダカビテロゲニン塩基配列の決定とReal time RT-PCR法によるmRNAの定量を行った。つい最近になりIslingerら(Gene Bank AF268284)により不完全ながら部分配列が報告されはじめているが,メダカビテロゲニンcDNAの配列は全く報告されていなかった。そこでcDNAの配列が既知のマミチョグ(U07055)やニジマス(X92804)を参考にプライマーを設計しエストロゲン曝露したメダカの肝臓中のビテロゲニンmRNAをPCRにより増幅しその配列を決定した。さらに3’および5’RACE法により決定したcDNA配列を継ぎ合わせて全cDNA配列とした。他の生物と同様にポリセリンが存在し,BLASTPによる判定ではアミノ酸配列の一致はマミチョグとは62%,ニジマスとは47%であった。
 2)Multiplex RT-PCRによる2種の遺伝子の同時定量
 ビテロゲニン,コリオゲニンH,コリオゲニンL,エストロゲンレセプター及びβ-アクチンのForwardとReverse Primerの濃度を変化させ,一定の蛍光強度を与えるPCRのサイクル数が変化せず,かつ遺伝子の増幅量が低く抑えられる領域を決定した。この条件下で,Multiplex RT-PCRによる2種のmRNAの同時定量を行った。エストラジオール,エストロン,エストリオール,エチニルエストラジオール,ゲニスチンなどをメダカに3日間暴露した。これらのmRNAの発現量は,エストロゲンの濃度に応じて変化した。雄メダカ成魚に3日間の曝露でビテロゲニンを誘導する水中のエストラジオール濃度は10ng/L前後であり,ニジマス幼魚,ゼブラフィッシュを試験魚にした場合とほぼ同等の感度であった。3日間の曝露によるメダカ肝での遺伝子によるエストロゲン活性の評価はビテロゲンアッセイよりも1桁高感度であった。
〔発 表〕D-49,d-35,37,38


 B内分泌撹乱物質の情報科学的研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
  @文献学的に報告されている内分泌攪乱物質を拾い出し,その物質についての国内外の情報を収集整理する。このための情報データベース化のためのフォーマットを確定し,また本研究で実施する各研究からの研究成果情報のフィードバックを可能とする。
 Aアルキルフェノール類及び塩素化フェノール類をモデル物質群とし,魚の生物試験系を用いてその内分泌攪乱作用を定量的に測定する。また,これらの物質群におけるエストロジェン分子との分子構造類似性を指数化する方法を検討し,内分泌攪乱作用との相関性を調べる。

〔内 容〕
 @情報データベースについては,物質の物理化学的性状,生産量用途,環境ホルモン作用,一般的な毒性,法律的規制等の項目について情報を収集整理することとし,そのフォーマットを確立した。約80物質について試験的な入力を行った。
 Ain vitroのハイスループットアッセイ系として蛍光偏光度を用いたスクリーニング法を用いて内分泌撹乱作用の指数化を行った。いくつかの芳香性化合物について競合結合性試験を行った。その結果ほとんど総てのフェノール性化合物は弱いながらエストラジオールと結合競合することが明らかとなった。
 B他のin vitroのアッセイ系としてELISA法との比較を行った。両方法はほぼ同じような化学特性を示していた。また酵母を用いたレポータージーン試験結果との比較も行った。これらの結果とin vivoの結果とを結びつけて考える上で,代謝の役割を考慮することが重要と思われた。
〔発 表〕B-105,b-248,249,252


 2)内分泌撹乱の発現メカニズムの解明に関する研究
 @性ホルモンレセプターと結合する化学物質の内分泌撹乱のメカニズム

〔担当者〕

環境健康部 遠山千春・大迫誠一郎

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 内分泌撹乱物質がいかなる作用機序でほ乳類の生殖機能に異常を発生させるのかを明らかにするために,精子形成にかかわる遺伝子の発現やホルモン産生能の変化を解析する。とくに性ホルモンレセプター(ER・AR)を介した影響がどのように精子形成に影響を及ぼすのかその機構を解明する。前年度に続き性ホルモン受容体への結合および内分泌撹乱作用の報告されている物質であるBisphenol-A(BPA,エストロゲン作用あるいは抗エストロゲン作用)およびVinclozolin(VCZ,抗アンドロゲン作用)を成熟雄ラットに投与し,精子発生への影響を解析した。本年度は特に精巣テストステロン(T)産生に対する影響に焦点を当てた。

〔内 容〕
 1)エストロゲン(Estradiol-benzoate)による精巣T産生抑制のBPAによる影響
 13週齢のSDラット(n=5)にEBを200mg/kg処理後,24時間目にコーンオイル懸濁したBPA2mg/kgあるいは2mg/kgを経口投与し,1,2,3時間後に精巣を摘出してホモジナイズ,EIAでT値を測定した。その結果,BPAは投与後2時間目にEBが抑制していたT値を上昇させることがわかった。一方,陽性対照として使用した既知の抗エストロゲン剤であるTamoxifenはEBが抑制していたT値を上昇させる効果を示さなかった。正常な成熟雄ラットにエストロゲンを投与すると精巣T合成が抑制される事は古くから知られている。BPA単独投与ではこのような効果を示さないが,EB存在下でその抑制効果を阻害したことは,BPAが抗エストロゲン作用を持つことを強く示唆するものである。
 2)VCZの精巣内遺伝子発現への影響の経時変化
 VCZによる精巣内T値の上昇に関して,VCZの代謝スピードを考慮して,測定した48時間以前にどのような動態をとっているか検討するため,経時的変化を追った。コーンオイルに懸濁したVCZ(100mg/kg)を投与し,投与1,3,6,12,24,48時間目に精巣を摘出して,トータルRNAを調製,半定量的RT-PCRにより,4種のステロイド合成酵素(P450scc,P450c17,3β-HSD-I,17β-HSD-III)のmRNAレベルの変化を比較検討した。また,血清および精巣T,およびゴナドトロピン(LH)をEIAで測定した。その結果,血清および精巣内テストステロン値は既に投与後1時間で対照群の約2倍(1200pg/ml,200ng/ml)に上昇し,3時間目に若干減少するが,6時間目から再び上昇を開始し,24時間以降は減少することが確認された。しかし,血清LHレベルの上昇は投与後3時間目まで見られず,6時間より有意差が確認され以後48時間目まで投与初期より有意に高い(約1.5倍)に推移した。精巣内ステロイド合成酵素mRNAのうち,投与後1時間で著しい上昇を示したのは,P450c17であった。これらの観察結果から,VCZ(抗アンドロゲン剤)は投与初期にP450c17遺伝子を発現亢進させる作用を持ち,その後視床下部下垂体系に働いてLH分泌を亢進させること,すなわち,視床下部下垂体系に作用する以前に精巣に直接短時間で作用して精巣テストステロン合成を促進させる効力を持つことが示唆された。
〔発 表〕E-8,33,e-37


 A内分泌撹乱物質による器官形成不全の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 曽根秀子

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 内分泌撹乱物質の妊娠中暴露による胎生期のホルモン変化が,胎仔の器官形成に影響を及ぼしその後の生殖器や脳の発達過程に影響を及ぼすと考えられている。
 エストロゲンの生理活性は,エストロゲンがエストロゲン受容体と結合し,その複合体がDNA遺伝子上の特定部位に結合して様々なmRNAの発現変動を誘発することによって示される。このことから,内分泌撹乱物質による影響はエストロゲン受容体(ER)を介するか,もしくはDNA遺伝子上のERE(エストロゲン応答配列)との相互作用を介して転写される遺伝子の変動によって誘発されると推察できる。そこで本研究では,発生過程における器官形成に関与するエストロゲン応答遺伝子を検索及び同定し,それにより内分泌撹乱物質によって影響される分子の解析を行った。

〔内 容〕
 ヒト乳がん細胞MCF-7からのゲノム・フラグメントプールの作成及びそれを材料とした新規エストロゲン受容体応答遺伝子のスクリーニングも試みた。estradiol処理したMCF7から核を単離し,制限酵素処理などでgenome DNAを断片化して溶出した。その後,ER alphaのモノクロ抗体でER alphaと結合しているDNA断片を共沈した。このDNA断片を上記と同様に増幅し遺伝子の配列を解析した。その結果,480クローンが得られ,このすべてに関して塩基配列とERE様配列の検索を行った。このうちERE様配列を有するか,もしくは生理的に意義のある遺伝子を15選出し,エストロゲン応答遺伝子の候補とした。なかでも,発生において重要な遺伝子activin receptor typeIIB(actRIIB)に着目し,actRIIBの発現をマウス子宮で調べたところエストロゲンの曝露によって抑制性に制御されることが明らかとなった。このことは,内分泌撹乱物質のうちERに結合能を有する物質がactRIIBと相互作用する可能性のあることを示唆している。また,エストロゲン応答遺伝子と考えられる15の候補遺伝子のうち,フタル酸エステルが作用することが知られているPPAR alphaが含まれていたので,フタル酸エステル類の一つDEHPを継世代曝露したマウスの精巣,卵巣及び肝臓におけるERのmRNAの発現応答を調べた。その結果,卵巣組織においてDEHPによるERの発現の低下が認められたが,PPAR alpha を発現していないマウスではその影響が見られなかった。このことは,DEHPによるERへの影響はPPAR alphaを介していることが示唆された。結論として,本研究の成果はERE様配列を含む遺伝子の情報を提供した。この情報は,内分泌撹乱物質は多様な遺伝子と相互作用する可能性があることを示唆している。
〔発 表〕b-143, 303


 B巻貝の性転換の機構の解明

〔担当者〕

化学環境部 堀口敏宏・白石寛明

〔期 間〕
 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 船底塗料などとして使用されてきた有機スズ化合物がごく低濃度で巻貝類に特異的にインポセックスと呼ばれる生殖器異常/生殖機能障害を引き起こすことが明らかにされている。しかしながら,その誘導・発現機構の詳細は明らかでない。これは巻貝類におけるステロイドホルモンやペプチドホルモンとその代謝,性分化や外部生殖器の発達あるいは性成熟に及ぼすこれらホルモンの影響などの生殖生理・生化学に関する基礎的な知見が不足しているためである。本研究では,こうした基礎的知見の獲得に努め,インポセックスと呼ばれる巻貝類の性転換(雌の雄性化)の機構解明に資することを目的とする。すなわち,巻貝類のステロイドホルモンの分析手法を確立することを通じてそれらを明らかにし,比較内分泌学的検討を加える。また雌の巻貝へのペニス形成に深く関与するとされる神経節の構造や機能についても検討する。さらに有機スズ化合物などの内分泌撹乱化学物質がステロイドホルモンやインポセックスに及ぼす影響をin vivo 並びにin vitro試験により観察して検討する。

〔内 容〕
 本研究では,性ホルモンの可能性があるステロイドホルモンと,神経ペプチド分泌器官であり,神経中枢と考えられている神経節に特に注目して研究を進めた。その結果,1)高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計により,巻貝類(イボニシ,レイシガイ及びバイ)から検出された複数のステロイドが,雄性ホルモンとしてテストステロン及びアンドロステロン,並びに雌性ホルモンとして17β-エストラジオール,エストロン及びエチニルエストラジオールであると同定された。2)しかしながら,合成ホルモン剤であるエチニルエストラジオールが併せて検出されたため,巻貝類がこれらのステロイドホルモンを固有に持つのか,環境中からの汚染を示す結果であるのかについてさらに検討が必要である。3)これらのうち,テストステロンと17β-エストラジオールについて,内部標準法によって繁殖期である夏季のイボニシ及びバイの精巣及び卵巣中の濃度がそれぞれ定量され,いずれもおよそ1μg/g 湿重であった。4)酵素免疫法による巻貝類の個体別ステロイドホルモンの測定が可能となり,予備的に測定を行ったところ,有機スズ汚染域で採集された重症のインポセックスであるイボニシの生殖巣中テストステロン濃度が対照域で採集された雌の卵巣中テストステロン濃度よりも高かった。5)イボニシの神経節の組織学的な構造の概要が明らかとなった。6)神経節及び右触覚後部に位置するペニス形成部位の器官(組織)培養手法を確立した。7) 雌のペニス形成部位を雌雄の神経節及び触覚,雄のペニスとの各種組み合わせで器官(組織)培養する実験を実施した結果,ペニスの形成や発達は観察されなかった。8)さらに7)の各種組み合わせによる器官(組織)培養に対してトリブチルスズとテストステロンの曝露を同時に行った結果,ペニス形成は観察されず,輸精管の発達も不明瞭であった。
〔発 表〕D-44,47,48,51, d-64,67,72,77,81


 3)生物界における内分泌撹乱物質の実態の解明に関する研究
 @淡水水生生物における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

化学環境部 白石寛明
岡崎国立共同研究機構・統合バイオサイエンスセンター 井口泰泉

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 野生の淡水魚類調査及び水槽実験を行い,内分泌撹乱物質の影響を解析する。野外調査では内分泌撹乱物質が淡水魚類の生殖に与える影響を知るため,野生のコイを一般河川及び汚染の少ない河川でサンプリングし,生殖腺を摘出して組織切片の作製と生殖細胞や生殖腺付属器官に異常が認められるかの観察を行う。また生化学的手法による解析も行う。一方,水槽実験では,海産メダカ科のマミチョグ及び淡水魚としてゼブラフィッシュを用いて内分泌撹乱化学物質の魚類への影響を調べる。既往知見による河川水中の化学物質の濃度をもとに両魚種を用いた曝露実験を行う。ゼブラッフィッシュに関しては性分化に対する影響を主に調べ,マミチョグに関してはエストロゲン受容体のクローニングおよびビテロゲニン抗体を作成する。この系を利用し,エストロゲン様作用を持つ内分泌撹乱物質の魚類への影響調査を行う。さらにエストロゲン受容体ベータ型及びほ乳類において性分化に重要な働きをするSteroidgenic Factor -1(FTZF1)遺伝子のクローニングを行う。全雄系統のコイを用いてエストロゲンおよびエストロゲン様物質の発生影響を調べることも目的とした。

〔内 容〕
 コイのビテロゲニンを簡便に測定するために,抗体を用いたELISAのキットを作成した。これを用いて,都市河川の代表例として,多摩川で雄のコイを1年間にわたって捕獲し,血液中のビテロゲニン,アンドロゲンおよびエストロゲンを定量するとともに,生殖腺の組織学的な解析を行った結果,多摩川における雄のコイの約50%で,10 μg/ml以上のビテロゲニン産生が認められた。また,ビテロゲニン量と内在性のエストロゲン量には相関が認められなかったことから,環境中の要因が強いことが示唆された。さらに,神奈川県の河川でも雄のコイのビテロゲニン調査を行ったところ,ビテロゲニンはほとんど認められなかった。多摩川の調査地点には下水処理水が流入していることから,下水由来のエストロゲン様物質の関与が考えられる。北海道の河川で実施したウグイの調査においても,下水処理水の流入部位で雄のビテロゲニン誘導が認められた。全雄系統のコイの発生に対するノニルフェノールの影響を調べ,高濃度のノニルフェノールを含む餌を与えることにより,雌への分化が起こった。ゼブラフィッシュの性分化過程では,ふ化後3週目までは雌として発生するが,その後の1週間で,半数の個体の卵母細胞がアポトーシスを起こし,その後精巣へと分化することを見出した。また,マミチョグのビテロゲニンの抗体を作成してELISAキットを作成した。エストロゲン受容体(ER)αの配列を決定し,ERβ,FTZF1の部分配列を決定した。


 A巻貝等における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

化学環境部 堀口敏宏・白石寛明

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 船底防汚塗料などとして使用されてきた有機スズ化合物(TBT及びTPT)が,ごく低濃度で特異的にインポセックスと呼ばれる雌の雄性化現象を巻貝類に引き起こすことが知られている。本研究では,日本の巻貝類におけるインポセックスの現状を明らかにし,1980年代以降,欧米諸国を中心に使用規制が実施されてきた有機スズ化合物(日本での法及び行政指導による規制開始は1990年)による海洋汚染の最近の動向を踏まえて,今後の推移に関して考察を加えることを目的とした。なお,こうした検討は,有機スズ化合物とインポセックスとの間の因果関係などに関する知見が蓄積されているイボニシと,漁獲量の激減が全国的に観察されてきたバイを中心に実施することとした。併せて,イボニシなどと同じ巻貝類に属していながら,ペニスを持たないためインポセックスが観察されず,有機スズ汚染による影響が不明であったアワビ類を対象とした内分泌撹乱に関する実態調査の実施も目的の一つとして位置付けた。

〔内 容〕
 有機スズ汚染海域のイボニシ定期調査の結果,近年の生息数増加はインポセックス症状の改善に伴う産卵能力回復のためでなく,海水中有機スズ濃度の低減による周辺からの流入幼生(ベリジャー)の生残率改善が主要因と推察された。またイボニシの全国調査の結果,なお広範にインポセックス(産卵障害を有する重症個体を含む)が観察された。体内有機スズ(ブチルスズ及びフェニルスズ)濃度は概して低かったが,比較的高い地点もなお観察された。
 対照海域Aと漁獲量激減海域Bのバイ(1999〜2000年)のインポセックス出現率は,それぞれ,14.6%及び97.6%であった。またBのバイ生殖巣組織(1988年12月〜1989年11月)を検鏡した結果,雄では夏季に成熟盛期を迎える明瞭な生殖周期が観察されたのに対し,雌ではそれが不明瞭であり,92検体中6検体(約7%)で精子形成が認められた。インポセックスに付随して卵巣の成熟が抑制され産卵量が減少したと推察された。また卵巣から高濃度のTPTが検出され,インポセックス個体の卵巣中有機スズ(TBT及びTPT)濃度とペニス長とが正相関した。
 対照海域Cと漁獲量激減海域Dからマダカアワビを定期サンプリングして生殖巣を病理組織学的に観察した結果,Cでは雌雄が同時期に性成熟盛期に達する生殖周期が観察されたのに対し,Dでは雌雄間での生殖周期のずれと雌の約20%(54検体中11検体)で精子形成などの雄性化が観察された。またDの筋肉中有機スズ濃度がCよりも有意に高かった。メガイアワビに関してもマダカアワビと同様の知見が得られた。C産メガイアワビをDの造船所近傍(有機スズ汚染海域)に移植して7ヶ月後に取り上げた結果,体内有機スズ濃度の増加とともに約90%(17検体中15検体)の雌で精子形成などの雄性化が観察され,有機スズが雌アワビ類にインポセックスと類似の雄性化を引き起こすことが示唆された。
〔発 表〕D-43〜49,51,d-64,65,67,69,70,72〜74,75,79〜81


 B長寿命生物における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

化学環境部 柴田康行

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 環境中に放出された内分泌撹乱物質による野生生物の生殖影響が懸念されている。中でも鳥類は寿命が長く,また生態系の上位に位置し食物連鎖過程で各種有機汚染物質を高濃度に蓄積しやすいため,影響を受けやすいと考えられ,実際に欧米を中心として多くの研究が報告されている。本研究では鳥類に対する各種内分泌撹乱物質の汚染実態を明らかにし,その生体影響を探ることを目的として,各地の営巣地の実態調査,特定の営巣地における詳細な生態調査,有機塩素系化合物,有機スズ,鉛,プラスチック添加剤等内分泌撹乱物質の汚染実態などの解明に関する研究を行う。

〔内 容〕
 有機スズの蓄積状況に関する研究を継続し,沿岸域のウミネコより沖合のウトウ,さらに外洋のミズナギドリと,陸から離れるに従ってトリフェニルスズの濃度が増加することを明らかにした。PAHについてのデータの蓄積を継続し,昨年見いだした3桁に及ぶ個体間の大きな変動を再確認するとともに,卵への移行が認められず,有機スズ同様母子移行が重要でないことを確認した。ウトウの組織を分析した結果,湿重量あたり70〜100pg/gTEQレベルのダイオキシン類が蓄積されていることがわかり,日本周辺海域のダイオキシン類汚染の進行の様子が改めて浮き彫りにされた。山階鳥類研究所の共同研究者が見いだしたオナガガモにおけるオスメス比の偏りの原因を探るために,宮内庁カモ場で生態学的調査並びに血液採取等を実施し,化学分析を進めている。
〔発 表〕D-11,14,d-14,16,17,19,27,29,32,33


 C性腺・精巣組織における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 精巣中に残留する各種内分泌撹乱物質の測定を高分解能質量分析法を用いた分析法を確立し,それを用いて,その濃度についての予備的な知見を得る。また脂肪組織に残留する内分泌撹乱物質についても高分解能質量分析法を用いて分析する手法を確立し,その濃度についての予備的な知見を得る。
 一方で,環境ホルモンの影響により発生しうると考えられる精子数の減少,精巣の組織学的変化,子宮内膜症等について実態を明らかとするとともに内分泌撹乱物質との関連を明らかとする。

〔内 容〕
 脂肪組織中の内分泌撹乱物質濃度の測定法について検討を行った。代表的な物質として,ビスフェノールA,ノニルフェノールがあるが,これらの物質の脂肪からの分離精製は困難であり,アルカリ分解法等,新たな精製法を行った。また有機塩素化合物に関する測定値を求めた。
 精巣中の有機スズをスズに特異的に応答する検出原子発光検出器を用いて測定する手法を確立した。本法はスズに特異的であり,そのガスクロマトグラフ上の応答はほとんどスズ化合物であることが明らかとなった。予備的な測定では,魚介類に蓄積して生殖阻害を引き起こすとされるトリブチルスズ及びトリフェニルスズは検出されなかったが,その代謝物と考えられるジブチルスズが数ppbのレベルで存在することが示された。これの持つ意味は現在の段階では不明である。また昨年未知のピークが見られ別種の有機スズの汚染を暗示する結果となったが,ジオクチルスズと推定された。
 脂肪組織中の残留化学物質をガスクロマトグラフ(ECD)及びガスクロマトグラフ質量分析法により分析した。有機塩素化合物として,DDE,BHC,PCB,エンドサルファンが検出された。ダイオキシン類についての定量を行った。また,ECD応答性物質として分子状硫黄の存在が明らかとなった。
〔発 表〕b-251,273,275,276


(2)環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究
 1)家庭排水由来の有機物資源の有効利用等による流域負荷低減技術に関する研究
 @窒素・リン・COD等の簡易モニタリングと資源リサイクル高度処理システムの開発に関する研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 稲森悠平

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 生活排水,廃棄物等による水質汚濁を防止し,閉鎖性水域を持つ地域を中心とした環境保全と資源の持続的利用に資する汎用的な地域エコシステムを構築するため,生活排水等における窒素,リン等の除去技術の高度・簡易化手法の開発および開発された技術の技術面,効果面,コスト面での評価手法の開発を目的として研究を行う。具体的には,し尿排水を含有する液状廃棄物の窒素,リン,有機物等の高度除去を目指し,蛍光遺伝子プローブを用いた迅速な検出・定量化手法および微生物群集構造を定性的に評価することが可能なPCR-DGGE法等を活用し,硝化細菌等の有用細菌を高度に保持しうる最適操作条件を検討する。また,生活排水の処理水の資源化再利用システムを開発すると同時に窒素,リン,COD等の簡易モニタリングシステムの開発を行い,水処理施設等の排出口におけるBOD10r・l-1以下,T-N10r・l-1以下,T-P1r・l-1以下の目標水質の確保の有無の評価および維持管理の適正化のための開発研究を目標とし,推進することとする。

〔内 容〕
 生物学的排水処理プロセスの高度効率化を図る上で重要な硝化細菌の個体数および微生物群集構造の変遷を評価する手法の実用化を目的としてアンモニア酸化細菌の16SrDNAおよびアンモニアモノオキシゲナーゼをコードした遺伝子を特異的に増幅するPCRプライマーを用いたPCR-DGGE法により家庭排水処理を行っている高度合併処理浄化槽より採取した汚泥,生物膜内部の硝化細菌群集構造の評価・解析を行った。16SrDNAの多様性評価に基づく結果より,高度合併処理浄化槽において硝化反応が速やかに進行している状態ではNitrosomonas属のアンモニア酸化細菌群が優占的に存在していることが明らかとなった。さらに尿素の添加により窒素負荷が一時的に高まった状態ではNitrosomonas ureaの近縁種が多く存在し,負荷の変動によりアンモニア酸化細菌の優占種に変化が見られることがわかった。さらに,アンモニアの酸化活性を司るアンモニアモノオキシゲナーゼをコードした遺伝子の多様性評価の結果からも,本浄化槽においてはNitrosomonasに属するアンモニア酸化細菌群が主としてアンモニア酸化活性を担っていることが明らかとなった。これらのことから本浄化槽の処理性能を高度に維持する上では優占種となっているNitorosomonas属のアンモニア酸化細菌群を反応槽内に集積することが重要であることがわかった。簡易水質試験紙による生活排水処理水の評価に関しては,実浄化槽処理水を用いた公定法と試験紙法との測定結果の比較を行った。その結果,公定法と試験紙法との測定結果はほぼ一致し,実用的な水質モニタリング手法として実際の現場へ適用可能なことが明らかとなった。本手法は簡易かつ迅速な水質検査手法であることから,個別家庭における高度合併処理浄化槽等の維持管理への適用においては非常に有用なツールとなることが示唆された。
〔発 表〕B-10,11,15,22,b-13,15,16,19,24〜26,39,40,66,72,85〜87


(3)生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究
 @電磁界及び交絡因子の暴露研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 新田裕史

〔期 間〕

 平成11〜13年度(1999〜2001年度)

〔目 的〕
 本研究では,我が国において生活環境中の商用周波領域の電磁界と小児がん,とくに白血病と脳腫瘍について健康リスクとの関係を明らかにするための疫学研究において,対象者世帯の磁界レベルの測定,交絡因子の可能性がある大気汚染や室内汚染,自然放射線・ラドンなど測定を行う。

〔内 容〕
 磁界の測定については,対象者の寝室,居間における1週間連続測定を基本として,対象世帯の居住家屋内外におけるスポット測定,特に対象世帯が送電線近傍にあった場合の測定方法,送電線・配電線・変圧器と対象家屋との位置関係,配線経路に関する記録方法についても定めた。自然放射線レベルはスポット測定により行い,ラドン濃度の測定については6カ月間対象者の寝室にパッシブ型測定器を設置し,測定する方法を採用した。さらに,キャニスターを用いて一部の対象者の寝室の空気を捕集し,ベンゼン等のVOC成分の分析を行うこととした。
 これらの環境測定プロトコルに基づいて対象者世帯の環境測定を実施して,測定データを収集して逐次データベースの更新を行った。


 A総合解析・評価

〔担当者〕

地域環境研究グループ 兜 真徳

〔期 間〕

 平成11〜13年度(1999〜2001年度)

〔目 的〕
 日常生活環境中の電磁界の健康リスク(とくに発がんリスク)については,現在なお決定的な科学的根拠が不足しているため,異なる解釈や対立が続いている。21世紀に向けて,各種医療機器の開発,電気機器利用の増加・多様化,携帯電話の爆発的普及,リニアモーターカー利用の超高速新幹線計画等々,日常生活中の電磁界はさらに増加することが予想されることから,発がんリスク評価の論争点となっている小児白血病の疫学調査を進め,国際的な協調を計りつつ評価作業を推進することを計画した。環境要因の発がん性評価を巡る全国規模の疫学調査は,我が国ではこれまで前例がなく,その意味でも本研究は,今後の環境疫学の先駆けとなるものとして位置づけられる。

〔内 容〕
 全国規模の小児白血病の疫学調査を推進するため,本研究は4つの小課題研究から構成されている。(1)小児白血病の症例・対照研究 (2)小児の脳腫瘍の症例・対照研究 (3)電磁界と交絡要因への曝露評価,及び(4)総括と総合解析・評価である。(1)と(2)の研究では,全国の小児がんおよび脳腫瘍の治療を行っている関連病院のネットワークを構築し,それぞれの病院で新たに発生する症例情報を国立がんセンターに集約すると同時に,性・年齢・居住地域をマッチングさせた対照者をランダム抽出して,症例対照のセットをつくり,調査協力依頼して承諾を得た後に,訪問調査あるいは郵送調査を行うことにした。目標症例数は,小児白血病1,000例,脳腫瘍500例,対照者は訪問調査の場合には症例1につき3例,郵送調査の場合には症例1につき1例を対応させることにした。最後の小課題研究である「総括と総合解析・評価」においては,研究全体の立ち上げ,共同研究の調整,対外的な交渉などを行うほか,小課題研究(1),(2)により得られる問診調査と測定調査結果を,症例毎に対応させて整理・統合し,総合的な解析・評価を行う。ただし,解析評価のためには,疫学,曝露評価,がん(白血病,脳腫瘍),大気汚染・放射線など各種交絡因子などを考慮して多方面から解析する必要があり,それぞれの専門家からなる小委員会を設けてこれを実行している。すでに,国立がんセンター研究所を中心とする問診調査と患者調査,国立環境研究所を中心とする磁界を初めとする各種測定調査を円滑に進めるため,適宜小委員会を開催してパンフレット,マニュアルおよび調査票等の作成作業,調査者及び測定者の任用を行うほか,彼らの教育訓練を「小児がんの症例対照研究」班および「電磁界及び交絡要因の曝露研究」班と共同して行っている。なお,上記作業は,本調査研究結果を国際的に比較可能とするため,これまで先行研究を進めている国際的機関の研究者とも連絡を密にとりながら進めている。また,適宜,関連病院ネットワーク構築のための協力依頼等を地域ブロック担当者等と共同して進めるほか,調査に関連する担当者全員からなる全体会議を開催し相互の情報交換を図っている。また,調査の進捗に係る全体の管理・運営を強化するため,適宜調査地を訪問して相談を受け,監督している。年度途中及び年度末には,国立がんセンター研究所で集計された問診調査データ,国立環境研究所で集計された測定データの全体について,小委員会を開催して検討吟味している。また,とくに暴露調査結果については,中間解析を試みて測定値の妥当性等についてチェックしている。
〔発 表〕B-33,34,37,39,b-141,142


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