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研究成果物


2.16 科学技術振興調整費による研究


1.総合研究


(1)生殖系列細胞を用いた希少動物種の維持・増殖法に関する基盤研究
 
@鳥類での子孫個体繁殖率の向上に関する遺伝的解析

〔担当者〕

地域環境研究グループ 高橋慎司
社会環境システム部 清水 明

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 野生鳥類の絶滅は,環境要因による個体数の減少に始まり,末期には近交退化による不可逆的で急激な繁殖能力の低下によって加速されると考えられる。国立環境研究所動物実験施設には,鳥類の実験動物としてニホンウズラの近交系が系統維持されており,しかも近交退化の絶滅型と回復型とに分離している。そこで,まず近交系ウズラを用いて鳥類の近交退化メカニズムを解明し,次に鳥類実験動物で近交退化の事例を解析し,最終的には絶滅が危惧されている野生鳥類を救済するための具体的方策を検討するのが,本研究の目的である。

〔内 容〕
 本年度は,実験用ウズラを用いて近交化に伴う繁殖能力の変化を把握するとともに,近交系ウズラ間での交雑試験を行い雑種強勢による繁殖能力の回復を図った。また,鳥類実験動物(ウズラ,ボブホワイト,ニワトリ)の卵形診断技術を開発し,種間・系統間比較を行った。以下に,主な成果を示す。
 1)近交系ウズラ(H2及びL2系)の53世代にわたる繁殖能力を解析した結果,H2系は絶滅型へL2系は周期的回復型へ分離したことがわかった。すなわち,L2系のふ化率は回復型ながら増減サイクルを示すことがわかった。これらのモデルは,希少野生鳥類の繁殖能力を改善させるために有用な情報を提供するが,今回は適応度指数(産卵率×受精率×ふ化率×育成率)の有用性を検討した。その結果,育成率を除いても近交退化現象が解析できることがわかった。
 2)ウズラ・ボブホワイト・ニワトリの卵形を画像処理し,卵形診断により種間・系統間比較が可能となった。また,H2系の平均卵形には絶滅の兆候が認められることが卵形不良の分析より明らかにされた。
 3)近交系ウズラ間で交雑した結果,特定の家系のみで繁殖能力が向上することが確認できた。希少種の増殖を有利に進めるためには相性(Nicking)が重要であることわかった。
 4)H2及びL2系のMHC構成を比較した結果,両系ウズラともサザン染色パターンが明確に分離しており,コンタミなく系統維持されていることが証明された。
 5)近交系ウズラの種卵は,卵形異常・卵殻不良などにより孵化率が低下している。そこで,ミネラル添加装置を考案し,カルシウムを強化したところ,孵化率が約10%改善された。
〔発 表〕B-55〜57,b-187〜193,C-10〜11


(2)植物の環境応答と形態形成の相互調節ネットワークの解明に関する研究
 
@大気汚染ガスによる障害発生及び耐性の分子機構

〔担当者〕

生物圏環境部 佐治 光・久保明弘・青野光子
地域環境研究グループ 中嶋信美・玉置雅紀

〔期 間〕

 平成12〜14年度(2000〜2002年度)

〔目 的〕
 植物の大気汚染ガスに対する反応及びそれに基づく耐性獲得機構の解明は,植物のストレス応答機構の解明に寄与するだけでなく,大気の浄化や汚染物質のモニタリングに植物を有効に活用していくための重要な情報となる。そのために,以下のような研究を行う。  植物の大気汚染ガス耐性獲得に関与すると考えられる遺伝子(エチレン合成系酵素の遺伝子,分子遺伝学的に同定される遺伝子等)を探索・単離し,その構造や機能を明らかにする。また,これらの遺伝子を操作することにより大気汚染ガス耐性植物を作成する。

〔内 容〕
 オゾンと接触させたタバコの葉から,エチレン合成系酵素の一つであるアミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素(ACS)のcDNAの単離を試み,オゾン耐性(エチレン低産生)品種(Bel-B)から2種類,オゾン感受性(エチレン高産生)品種(Bel-W3)から1種類,既知のACSと高い相同性を示すクローンを得た。またACSのアンチセンスDNAを導入した組換えタバコの3系統において,オゾン誘導性ACSの遺伝子発現,エチレン生成速度,オゾン感受性の低下が観察され,これらの低下の程度に相関がみられた。
 EMSまたは速中性子線処理を行ったシロイヌナズナ生態型Col,及びT-DNAを導入した生態型Wsから単離したオゾン感受性変異体のうち,それぞれ4系統,5系統について戻し交配を行い,純化した系統を得た。これらの系統のオゾン感受性は野生型に対し劣性あるいは半優性であった。またWsの突然変異体の1系統については,Inverse PCRによって得られたT-DNAの挿入部位の情報から,これまでに単離されていない新規の突然変異体であることが示唆された。
 シロイヌナズナの30種類のストレス誘導性遺伝子のcDNA断片を発現誘導シグナル因子(ジャスモン酸,サリチル酸,エチレン)ごとに分類してスポットしたミニマイクロアレイを作製し,これを用いてオゾン感受性変異体の解析ができるかどうかの検討を行った。オゾンと接触させた野生型シロイヌナズナより単離したRNAを用いたノーザン解析とマイクロアレイの結果を比較したところ,マイクロアレイの検出感度はノーザン解析に劣るものの,オゾンによる各シグナル下にある遺伝子の発現誘導性の違いは十分に確認できることが明らかになった。さらにこれを用いてオゾン感受性変異体における遺伝子発現パターンを解析したところ,ある系統ではエチレン誘導性遺伝子の発現誘導が抑制されていることがわかった。
〔発 表〕H-1,9,b-208〜210,h-1,26〜28



(3)高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究
 @全球・領域気候モデルの並列処理環境におけるネスティング技術に関する研究

〔担当者〕

大気圏環境部 江守正多・野沢 徹・神沢 博

〔期 間〕

 平成10〜14年度(1998〜2002年度)

〔目 的〕
 並列処理技術の本格的導入による計算機の高速化・大規模化に伴い,今後10年程度で全球気候モデルの水平解像度は現在の数百kmスケールから数十kmスケールまで向上することが考えられる。しかし,温室効果気体などの増加に伴う気候変動における地域スケールの気温や降水量などの変化を高精度で予測するためには,より小さいスケールの大気擾乱や雲活動,地形や土地被覆の影響などを表現できる水平解像度数km程度の領域気候モデルの活用が不可欠である。領域気候モデルでは計算範囲を関心のある領域に限定することで,全球モデルよりも高い解像度を実現する。全球モデルと領域モデルを結合(ネスティング)することによって,全球の整合性を持って計算された全球モデルの結果を領域モデルに境界条件として与え,領域(例えば日本域)内でより高い解像度で精密な計算を行うことができる。これにより,関心のある領域に関してより高精度の予測が可能となる。このような精密な気候モデル計算を十分な速度で行うことを目的として,本計画では並列計算機上で全球気候モデルと領域気候モデルを最適にネスティングする技術を開発するための研究を行う。

〔内 容〕
 本研究では,全球モデルと領域モデルを結合して実行する手法を開発し,結合したモデルの最適並列化を行う。領域モデルにはコロラド州立大学領域大気モデリングシステムCSU-RAMSを用いる。
 本年度は,領域気候モデルをベクトル並列計算機(NECSX4)上で4,8,16,24プロセッサを用いて実行し,プロセッサ数の増加に伴う実行速度の向上を調査した。また,並列化された全球気候モデル CCSR/NIES AGCMについても同様に4,8,16プロセッサを用いたテスト計算を行い,実行速度の向上を調査した。領域気候モデルを水平80×80グリッド,鉛直23層で用いた場合,8,16,24並列の実行速度は,4並列の場合を1として,それぞれ1.40倍,1.59倍,1.74倍であった。16並列以上では顕著な実行速度の伸びは見られないが,プロセッサ数の増加に伴って少しづつは実行速度が向上することがわかった。一方,全球気候モデルを水平分解能T42,鉛直20層で用いた場合8,16並列の実行速度は,4並列の場合を1として,それぞれ1.79倍と2.74倍であった。全球気候モデルは,16並列までではあるが,領域気候モデルと比較してプロセッサ数の増加に伴う実行速度の向上が顕著である。領域気候モデルの実行速度が顕著に向上しない原因は,通信時間の増加の他に,多数のプロセッサで計算領域を分割することによりベクトル長が短くなり,ベクトル演算の効率が低下したためと考えられる。
 また,並列化された全球モデルCCSR/NIES AGCMと並列化された領域モデルの同時実行を試みた。これによって,全球モデルの結果を逐次的に領域モデルの境界条件としながら,両モデルを別のノードを用いて並列同時実行することが可能になった。
〔発 表〕f-12,15,18


(4)炭素循環に関わるグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究
 1)衛星データを用いた海洋の炭素循環と一次生産及び関連諸量のマッピングに関する研究
 @気候変動の一次生産及び関連諸量への影響評価に関する研究

〔担当者〕

化学環境部 柴田康行・米田 穣

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 人間活動に伴う二酸化炭素等の放出による地球温暖化は,現代の地球環境問題の中でも重要な課題である。この解決のためには全球レベルの炭素収支の把握に基づく定量的な解析が不可欠であるが,現状では情報は極めて不十分であり,正確な収支の推定が難しい。本研究では,衛星観測データに基づいて炭素収支の解析のための基礎データの全球分布図を提出する(グローバルマッピング)ことを目的とし,そのための精査地域・海域として世界の熱源である西太平洋暖水塊(WPWP)周辺の精密測定と衛星データとの突き合わせをあわせて実施する。

〔内 容〕
 ローリーショールズの長尺コアのSr/Ca比の測定を約1000試料行い,詳細な季節変化のデータを蓄積した。オーストラリア西岸ルーウィン海流沿いのアブロロス諸島に水温・塩分濃度センサーを設置して,約11ヵ月にわたりデータを採取した。設置場所で採取したサンゴコアを薄切りしてX線写真を撮影した結果,以前近くで採取したものと比較して半分以下の年間7〜8ミリと比較的ゆっくりした速度で生長していたことがわかった。水深12m程度と比較的水深が深く,水温も表層付近に比べて低いことがその背景として考えられる。温度データについては信頼性の高いデータが得られたが,塩分データについては短周期の変動の他に年間を通してのバイアスが認められるなど長期無人モニタリングの問題も明らかとなった。このコアについて測定を行った結果,水温データとSr/Ca比,酸素同位体比には高い相関が認められ,これまで報告されている換算式の評価に十分使えるクオリティを持つと判断された。放射性炭素14C/12C比の微量精密測定のための試料処理法の開発並びに測定値の評価を進めた。その成果を生かして同じく炭酸塩鉱物からなる有孔虫の海洋堆積物中の分析を行ったところ,有機物年代とのずれを認めた。またサンゴコアについて予備的な分析を進めた結果,季節変化に応じて水温変化に類似した変動が認められ,その原因について解析を進めている。
〔発 表〕D-30,d-22,26,53


 2)衛星データを用いた陸域の炭素循環と一次生産および関連諸量のマッピングに関する研究
 @湿地域における二酸化炭素吸収量推定手法の高度化に関する研究

〔担当者〕

社会環境システム部 山形与志樹

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 リモートセンシングデータを用いた,湿原植生の現存植生量や純生産量を推定するための手法開発を目的として,湿原内に競合する2種類の植生の面積比率と気象因子の関係を解明した。

〔内 容〕
 湿原内には生育場所を同一として複数の草本植生種が競合して生育している。この競合状態は植生の生育面積比率として表現することが可能であり,比率には年毎の差異が存在している。湿原植生の生産量を推定する上でも,混合比率の推定手法の開発と,比率の変化要因を解明することが重要である。差異の一因としては気象因子が考えられることから,競合する代表的植生であるヨシ・スゲに関して,衛星画像から面積比率を求め,両者の成育期間の初期における積算気温と積算降水量との関係を求めた。用いたランドサットTM画像は空間分解能が30mであり,1画素内には複数種が混合した状態で観測されるため,一般的な分類画像では面積比率の推定には限界が生じていた。これを解決するために混合画素から比率を逆推定する手法を開発し,1画素内のヨシ,スゲ,開水面の三つのエンドメンバーの混合比率を算出した。対象植生の生育状況により,分光特性の相違が顕著である6月後半から7月全般までの1週間内に取得された5年分の画像を解析対象とした。次に気象因子として,4,5,6月のアメダスデータからテストサイト周辺の積算日射,降水量を求めた。ヨシの面積比率に対して成育期間中の積算降水量は強い負の相関が存在し,湿原内の水環境が両者の混合比率に大きな影響を及ぼしていることが判明した。一方で積算気温との関係は弱い負の相関が存在したが,特に90年の値が外れ値であった。積算降水量と積算気温との関係では負の相関が存在するものの90年が降水量,積算気温とも最大値であり,気象の特異年であった可能性が考えられる。本結果は植生の生産量と気象因子の関係を解釈する上で有用な知見となるであろう。


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