2.15 国立機関原子力試験研究費による研究(原子力利用研究)
2.富栄養化が水圏生態系における有害藻類の増殖および気候変動気体の代謝に及ぼす影響に関する研究
〔担当者〕
〔期 間〕
平成10〜14年度(1998〜2002年度)
〔目 的〕
水圏生態系の遷移により引き起こされるアオコ,赤潮藻類等の異常増殖を伴う湖沼・内湾等の富栄養化は,重要な地球的環境問題である。これらの藻類は温室効果ガスとしてのCO2を吸収する重要な微生物であるが,有毒物質を生産する藻類が水域の栄養塩濃度の増大により顕在化していることを鑑みると,藻類による温室効果ガスの吸収固定化には望ましいとしても藻類種の組成の制御が重要な位置づけにあると考えられる。また,気候変動気体であるジメチルサルファイドは大気中で温度低下に寄与し,硝化反応で発生するN2Oは温度上昇に寄与する。これらの水圏生態系における物質フラックスを定量的に解析評価することが健全な生態系創造のために必要不可欠であり,水圏,土壌圏,大気圏の各メディアを統合したクロスメディアの観点からの検討が重要な位置づけにある。このことから,水圏生態系における富栄養化の温室効果ガスの代謝過程および生物の遷移機構に及ぼす影響を水圏モデル生態系としてのマイクロコズムおよび安定同位体・放射性同位体を用いて個体群動態および物質フラックスの両側面から明らかにし,生態系保全および地球温暖化対策に資する生態系モデルの開発を試み,健全な水圏生態系を構築することを目的とする。
〔内 容〕
水圏生態系内の炭素循環機構を解析するために,その重要なコンパートメントである微生物ループの基本構造を再現したモデル生態系であるマイクロコズムを構築した。このマイクロコズムは一次生産者であるChlorella vulgaris,細菌類としてPseudomonas putida,捕食者としてCyclidium glaucomaの3種の既知の生物種を組み合わせた3種系を基本とし,このほかに,一次生産者のみの系,一次生産者と細菌類が共存した系等の組み合わせを,より詳細な機構解明のために構築した。これらの系において,水域において最も重要な栄養塩である窒素濃度や,窒素形態の違いによる炭素移動特性について,トレーサーとして放射性炭素(14C)を用い,本研究で確立したフィルター分画法の実験結果に基づく数理的・統計的解析を行い,一次生産者と細菌類との間での窒素獲得競争と炭素循環の関係についての基礎的知見を得た。すなわち,藻類による炭素吸収は栄養塩濃度やその形態等の影響を受けると同時に藻類の放出する代謝産物の質や量が変化し,微生物ループの生物間の相互作用と物質循環に影響が及ぶことが示唆された。また,細菌の存在や原生動物の存在は,藻類の光合成活性に影響を与えることがわかった。
また,開発した新たなマイクロコズム系において,安定同位体による炭素・窒素の両方の物質循環速度を定量化するために必要な精密計測手法について検討した。実験条件を詳細に検討することで測定精度の高い放射性同位体を用いた計測手法との間の誤差を小さくすることができた。
さらに,富栄養化湖沼に固有な特性を解析するために,富栄養化湖沼の代表種である,藍藻類Microcystis aeruginosa(生産者),原生動物繊毛虫類Monas guttula(捕食者)および細菌類(分解者)からなる系,すなわち,富栄養化湖沼マイクロコズム系をフラスコスケールで確立できた。
〔発 表〕b-17,44,74,75
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