2.14 国立機関公害防止等試験研究
1.生物間相互作用と湖沼の持続的利用を考慮した適切な湖沼保全のための基礎的研究
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
高村典子・加藤秀男* |
| 生物圏環境部 |
: |
野原精一・上野隆平 |
| (*科学技術特別研究員) |
〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕
湖沼の水質は窒素とリンの現存量や負荷量との関連で議論されてきた。一方で,魚類群集が食物連鎖の下位の動植物プランクトンの量や質を左右し,水質を変化させる事実も報告されている。しかし,日本の湖沼では,まだその実態は全く明らかにされていない。十和田湖は,近年COD値が環境基準値の1ppmを越え透明度が確実に減少し,ウログレナによる赤潮が発生している。また,名物であるヒメマスの漁獲量が著しく落ちこみ,ワカサギが増え,これが本湖の生態系を大きく変化させている。本研究では,十和田湖を日本の貧栄養湖沼の一つのモデルケースと考え,貧栄養湖沼の様々な利用を考慮した総合的な湖沼環境保全のあり方を提示するためのに,沖と沿岸域,おのおのの場での生物群集の相互の関係を解明し,生態系構造およびその機能を明らかにする。
〔内 容〕
十和田湖にヒメマスが支笏湖より移植されて100年近くが経過した。十和田湖のヒメマス資源は,1980年代前半までは安定した高い資源水準(10〜60トン)を維持していたが,ワカサギが本格的に漁獲されるようになった1984年以後,著しい資源変動を示すようになった。ワカサギ漁獲量のピークはヒメマス漁獲量のピークの翌年に出現する場合が多い。ワカサギが著しく増加したときに,ヒメマスが激減している。また,両種とも漁獲量の著しい増加の直後に個体群のクラッシュをおこしている場合が多い。1952年級群以降の再生産曲線から,十和田湖におけるヒメマスの親魚の環境収容力は約8,000尾と推定され,最大放流数は約160万尾と試算された。
十和田湖の透明度はミジンコの出現と密接に関係し,さらに,ミジンコの出現はヒメマス・ワカサギの捕食圧に関連している。ヒメマス・ワカサギの胃内容物解析では,1998年4〜5月にはDaphnia longispinaをおもな餌生物としていたが,D.longispinaが顕著に増加する直前の6月中旬には,ちょうどこの時期に底泥から羽化浮上するユスリカの蛹を多く食べていた。この事実はユスリカ蛹の浮上が魚の捕食からD.longispinaを開放し,間接的に透明度を上げている可能性を示す。一方,魚の捕食圧が増加すると動物プランクトンの体長・抱卵個体当たりの抱卵数が減少する。1998年十和田湖ではD. longispina個体群の平均体長,抱卵個体の平均体長および抱卵数は,すべて6月中に減少し,以後低いレベルで推移した。従って,ヒメマス・ワカサギの胃内容物にユスリカ蛹が多く含まれていた時期にもD.longispina個体群への捕食圧は上がっており,十和田湖で沿岸域のユスリカ個体群が間接的に動物プランクトンへの捕食圧を下げ,透明度を上げることはない,と結論された。
〔発 表〕b-194〜198,202
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