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研究成果物


2.10 環境修復技術開発研究


1.海域の油汚染に対する環境修復のためのバイオレメディエーション技術と生態系影響評価手法の開発


〔担当者〕
水土壌圏環境部 渡辺正孝・内山裕夫・越川 海・牧 秀明
地域環境研究グループ 木幡邦男・樋渡武彦・稲森悠平・水落元之
生物圏環境部 渡邊 信・野原精一・矢部 徹
共同研究機関
兵庫県公害研究所 古城方和
     下線は研究代表者を示す


〔期 間〕
平成10〜15年度(1998〜2003年度)


〔目 的〕
 平成9年のナホトカ号油流出事故は,我が国周辺海域における水産資源への被害のみならず,海岸部の貴重な生態系及び景観にも重大な影響をもたらし,このような被害は今後も生じる可能性がある。環境庁では,油漂着海岸における栄養剤散布による土着性分解微生物を用いた浄化技術に関して環境影響及び有効性の両面から調査を行った。海外では数例のバイオレメディエーション実施例があるが,現場状況により浄化効果が左右される。また,生態系に対する安全性の問題が解決されていない。それ故,生態系への影響評価についてモデル生態系による評価解析と現場における実際の生態系を用いた影響評価解析を行うことが重要である。適正なバイオレメディエーション技術の確立のためには,有効性,安全性についての問題を解決することが不可欠である。本研究では,油汚染により損傷をうけた海域の環境修復を図るために,有効なバイオレメディエーション技術の開発ならびに生態系影響評価手法の開発を行う。


〔内 容〕
 本年度は研究計画書に記載された課題のうち以下の研究を遂行した。
(1)底質を含む簡易モデル生態系(マイクロコズム)による重油分解と生態系影響評価手法の開発
 干潟底生動物であるゴカイ,細菌等からなるモデルマイクロコズムを作成し,潮間帯を再現して重油のゴカイ,アサリの生存に及ぼす影響について解析評価を行った。
(2)汚染現場生態系 (メソコズム) における原油の自然分解とバイオレメディエーションによる効果の総合評価
 兵庫県香住町海岸に多孔性アクリル容器を設置して栄養塩を添加し,土着細菌によるバイオスティミュレーションを行って原油各成分の変動により分解反応を評価した。また,甲殻類のヨコエビを用いた急性毒性試験及びAGP試験を行い安全性を評価した。さらに,栄養塩添加による土着細菌群集構造の時系列変化を分子生物学的手法を用いて解析した。


〔成 果〕

(1)底質を含む簡易モデル生態系(マイクロコズム)による重油分解と生態系影響評価手法の開発
 油流出事故による海洋汚染は深刻な環境問題となっている。流出油の到達する現場として浅海域,沿岸域等があるが,なかでも浄化の場として重要である干潟に及ぼす影響については,エコトーンの保全という意味でも重要である。しかし,このような場をモデルとした生態系影響評価手法については要望されているものの,研究成果は少ない。本研究では上記の点を鑑み,干潟の底生生物で重要な位置付けにある環形動物多毛類ゴカイNeanthes japonicaを用いて,ゴカイ,細菌類よりなる干潟生態系モデルマイクロコズムを作成した。また,これを用いて重油,分散剤等のゴカイに対する影響,干潟の浄化能力に及ぼす影響を明らかにし,流出油の生態影響評価を行った。添加重油濃度が1〜100mg・cm-2で干潟の各潮間帯を再現したアサリ,ゴカイからなるモデル生態系では,各系ともアルカン類の分解が顕著であったが,高濃度の系では底質の下層に蓄積されることが確認された。各系の生物の生存率は,ゴカイ,アサリともに重油の高濃度環境下で著しく減少したが,ゴカイよりアサリの方が重油に対して高い感受性を有していることが判明した。

(2) 兵庫県香住町佐古谷海岸におけるバイオレメディエーション実証試験
 1)原油の分解評価
 本年度も多孔性のアクリル容器を現場設置実験装置として用い,これに原油分解細菌を活性化するための農業用緩効(徐放)性合成窒素肥料(イソブチリデン二尿素)顆粒,及び我が国が中東より大量に輸入しているアラビアンライト原油をムース化して実験現場の海砂と混合したものを加え,現場実験を行った。実験場所として,干満によって装置が海水中に埋没したり露出したりする潮感帯,及び常に海水中に埋没している沖合の2ヵ所を設定した。それぞれに肥料添加区と非添加(対照)区を設け,試験期間は6〜9月の約3ヵ月間実施し,ほぼ3週間ごとに各種試料の採取を行った。すべての試験区において,アルカン,ナフタレン,フルオレン,ジベンゾチオフェン,フェナンスレンといった原油に含まれる代表的な半揮発性化合物の有意な分解がみられた。本年度は,添加肥料量を3段階に分け,最高で前年度の15倍量の窒素肥料を添加した。肥料添加区ではアクリル容器内海水中の栄養塩濃度が顕著に上昇し,実験に供した原油・海砂混合物に付着している土着菌数も添加肥料量に応じて増加した。原油中に含まれる各種化合物の分解初速度も添加肥料量の増加に伴って促進されたが,最終分解率は肥料添加区,無添加(対照)区のいずれにおいてもほぼ同等であった。
 2)野外試験区における安全性評価法の検討
 上述した海中に設置したアクリル容器内より海水試料を定期的に採取し,海岸部に広く分布するヨコエビ類(甲殻類)を用いて急性毒性試験を行った。この結果,肥料添加区・非添加区のいずれにおいても周辺域の海水と有意な差は認められなかった。また,実験室において現場実証試験に用いた合成窒素肥料と海水を混合・放置し,その窒素溶解液のヨコエビに対する毒性について検討したが,合成肥料無添加の海水と有意な差は見られなかった。以上より,原油の溶出,肥料の添加はヨコエビの生残に影響を及ぼさないことが明らかとなった。また,珪藻Skeletonema costatumを用いた藻類増殖潜在性(AGP)試験をアクリル容器内の海水を用いて行ったところ,増殖阻害は見られず,また,現場実証試験において大過剰に肥料を添加した区の海水中全窒素濃度が著しく上昇したにもかかわらず,それに見合った珪藻の増殖は見られなかった。以上の結果より,実験に使用した緩効(徐放)性合成窒素肥料は尿素を原料にしているため,海水中に放出される窒素は一定期間有機性窒素で,藻類には利用できない形態であるために,有機性窒素を利用できる土着性細菌を選択的に増殖させるのには合理的な方策であることが示された。
 3)栄養塩散布の微生物生態系に及ぼす影響評価手法の確立
 バイオスティミュレーションでは土着細菌による原油分解を促進するために現場に栄養塩を散布するが,これが微生物群集構造にいかなる変化を与えるかについて,遺伝子工学的手法を用いて解析した。自然界に存在する細菌の多くは培養が困難であるため,培養法によって微生物群集の変化を解析することは不適切である。したがって,環境試料中の細菌群のDNAを直接抽出して解析することにより,より現場環境に近い細菌群集構造の情報が得られるものと考えられる。実証試験現場の海水中に含まれる土着細菌群集の16S rRNA遺伝子をポリメラーゼチェーン反応(PCR)で増幅し,それぞれの遺伝子の塩基組成の相違に基づいて分離が可能な変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法で解析(PCR-DGGE法)した。これより実証試験現場の細菌群集について多様性指数を算出し,栄養塩散布による細菌群集構造の時系列変化を調べた結果,原油分解促進効果が見られた大過剰の肥料添加区では土着細菌群集の顕著な種変化や多様性の低下が見られ,ある特定細菌の優占化が観察された。また,添加肥料量の増加に伴って土着細菌群集の変化度合も大きくなった。以上より,土着細菌による原油分解を促進するための肥料添加は,現場の微生物群集構造を大きく変化させ,また,有効な浄化効果を得るためには特定微生物を優占化させるほどの添加量が必要であることも示された。

〔発 表〕B-20,G-4,b-45,50,51,71,76,100,102,g-8,9,11


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