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特別研究
7.空中浮遊微粒子(PM2.5)の心肺循環系に及ぼす障害作用機序の解明に関する実験的研究(初年度)
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
森田昌敏・鈴木 明 |
| 環境健康部 |
: |
小林隆弘・藤巻秀和・古山昭子 |
〔期 間〕
平成11〜13年度(1999〜2001年度)
〔目 的〕
今日,日本をはじめ世界中の大都市部の大気汚染は改善の兆しがみられず,特に,浮遊粒子状物質(SPM)の汚染は深刻である。このSPM中の大部分を占めるDEP(PM2.5粒子)が肺がんやアレルギー性鼻炎を起こすことはよく知られている。また,前の特別研究で,DEPが実験動物に気管支のぜん息様病態を引き起こすことを明らかにした。一方,最近になって,粒径が2.5μm以下のSPM,すなわちPM2.5と心疾患による死亡率との間に非常に高い相関性があることがアメリカやイギリスの多くの疫学研究によって示され,その健康影響の重大性がにわかにクローズアップされてきた。しかし,この両者間の因果関係の実験的証明はまだなされておらず,その証明はこれからの研究にかかっている。
そこで本研究では,日本の大都市部のPM2.5の大部分を占めるDEPを対象物質として,ディーゼル排気の暴露実験と組織培養等を含むin
vitroの実験を組み合わせることにより,その中のどのような物質がどのような機序で心血管系に傷害を及ぼしているかを明らかにし,これまで疫学的研究によって得られている両者の間の関連を実験的に証明し,環境保全のドライビングフォースとなることを目的とする。
〔内 容〕
課題1 心電図による心筋及び循環機能異常に関する電気生理学的解析に関する基礎的研究
(1)心電図による心筋および循環機能異常に関する電気生理学的解析
心電図は心臓の機能的変化を敏感に反映することができる。そこで,ディーゼル排気(DE)暴露による心筋や循環機能への影響を電気生理学的に明らかにするための基礎資料を収集する。心拍数の経時的変化,異常心電図の分析,心電図の波形成分の分析,心筋の電気刺激に対する閾値等を調べることにより,血管の収縮性,心臓全体あるいは心筋の活動性や心筋の興奮性等に及ぼす影響を分析する。
(2)心血管系の病理組織学的異常の解析
肺,心臓,血管の変化について光学顕微鏡レベル及び電子顕微鏡レベルで病理組織学的検索を行い,病変の同定を行う。
課題2 DEP血管内皮細胞および免疫担当細胞に及ぼす作用機序の解析に関する研究
(1)DEP(PM2.5)中の成分の過度の薬理学的作用による心血管系機能異常の解析
DEPの各化学成分を薬物特性から分画し,それぞれの成分を気管内や静脈に投与し,血圧や心電図異常から,どのような物質がどのように作用して循環器に影響するのか検索する。
(2)培養細胞系による血管内皮細胞に及ぼすDEPの傷害作用の解析
DEP中には血管の弛緩因子(NO)を合成する酵素(NOS)を阻害する物質が存在することが判明している。また,それらの物質はフリーラジカルや活性酸素を生成し,それによって心筋や血管内皮細胞を傷害していることが考えられる。そこで,DEP中のどのような画分が血管内皮細胞を傷害しているのかを調べ,心血管系に及ぼす影響評価のための基礎データを得る。
(3)免疫系に及ぼすDEPの作用機序の検討
DEP(PM2.5)はフリーラジカルや活性酸素の生成,NOS阻害などを介して免疫系にも様々な障害をもたらす。本年度は,肺や気道等の組織より単離した肥満細胞をDEP中の各化学成分とともに培養し,肥満細胞の増殖能や炎症性サイトカイン産生能,細胞表面抗原発現の変動について調べ,DEPの肥満細胞を介した免疫機能に及ぼす影響を解析する。
課題3 ディーゼル排気微粒子(DEP,PM2.5)の心肺機能障害の量−反応関係の解析に関する研究
課題1と課題2の各項目の中で最も影響が顕著で,評価指標としても重要な項目について各々量−反応関係のデーターをそろえて,ヒトの健康に及ぼす影響のリスク評価に資する基礎資料を得る。 〔成 果〕
課題1 心電図による心筋及び循環機能異常に関する電気生理学的解析に関する基礎的研究
心電図による心筋および循環機能異常に関する電気生理学的解析では,高脂肪食給餌の7.5カ月間暴露のラットで,心電図のP波の変化から右心房,右心室に負荷が高いことが推測され,いわゆる肺動脈高血圧の状態を示唆する所見であると考えられた。一方,DEPの静脈内投与により,用量に依存した一過性の血圧下降が認められた。また,DEP投与により,一時的な房室ブロックまたは断続的な心房性期外収縮および心室性期外収縮が出現し,これらの異常心電図は,副交感神経の遮断により消失した。よって,DEP作用は血圧下降作用および心筋の刺激伝導障害を主徴とし,その作用機序には,血管への直接作用および自律神経反射を介した間接作用があることが示唆された。さらに,マグヌス法による血管標本では,低濃度のDEPは軽い収縮反応を示し,高濃度のDEPは強い弛緩反応を示すことが判明した。
心血管系の病理組織学的異常の解析では,静脈にDEPを投与したラットの肺では,肺胞の毛細血管内には,DEPが多量に認められたが,沈着は認められなかった。また,高脂肪食で7.5カ月間暴露したラットの心臓血管系の病理標本を現在作成中である。
課題2 DEP血管内皮細胞および免疫担当細胞に及ぼす作用機序の解析に関する研究
DEP(PM2.5)中の成分の過度の薬理学的作用による心血管系機能異常の解析では,DEPをモルモットに静脈内投与すると,完全房室ブロックの後に心停止を起こすことが判明した。心停止は心臓の収縮力が減少するというもので,A-Vブロックは75.53mg/kgで起こり,その致死量(LD100)はDEP132mg/kgであることが判明した。
培養細胞系による心筋および血管内皮細胞等に及ぼす傷害作用の解析において,培養した肺動脈血管内皮細胞数の増加は,DEPの用量に依存して減少し,細胞毒性が証明された。その機序の解明のため行った試験で,SODおよびカタラーゼを単独あるいは複合して加えたDEPの細胞毒性はDEP単独よりも減少したので,スーパーオキサイドの関与が推測された。さらに,内皮細胞で合成され,血管平滑筋を弛緩させるNOの産生阻害が推測された。
免疫系を介した組織傷害作用の解析では,3mg/m3のDEPを7カ月暴露したマウスの肺胞マクロファージはサイトカイン産生,NO産生ともに低下し,DEPが感染抵抗性および免疫能を低下させ,感染による組織傷害を起こしやすくすることが判明した。
課題3 ディーゼル排気微粒子(DEP,PM2.5)の心肺機能傷害の量ー反応関係の解析に関する研究
本課題は,特別研究の期間中に行う予定であるので,本年度は資料の収集を行った。
その他の研究成果として,DEPの内分泌撹乱作用について,検討がされた。
〔発 表〕B-39,b-120,145〜155,217 |
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