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特別研究


3.環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究(最終年度)


〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏・米元純三・高木博夫・曽根秀子
環境健康部 青木康展・松本 理・大迫誠一郎・石村隆太・藤巻秀和・野原恵子・宮原裕一・
石塚真由美
化学環境部 藤井敏博
 
     下線は研究代表者を示す

〔期 間〕

 平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
 脂溶性が高く難分解性の環境汚染化学物質は食物連鎖を通して生体内に蓄積するが,これらの中には,正常な性ホルモンの機能を乱すことにより様々な生殖影響を引き起こすものがあり,環境ホルモン様物質と呼ばれている。実際,鳥類,は虫類,海棲ほ乳類などの野生生物において生殖異常が認められ,これらの異常は野生生物の体内に蓄積された環境ホルモン様物質により引き起こされているとの指摘がある。先進国においても,近年,女性の乳がん,男性の睾丸腫瘍の発生増加及び精子数の減少が報告され,これらの現象と環境ホルモン様化学物質との関連が疑われている。特に周産期における暴露は,器官や機能の形成される時期だけに影響は不可逆的になる可能性が高く,また,感受性も高い。環境中のホルモン様化学物質の子(次世代)への影響,とりわけ生殖能力への影響は人類の存続にかかわる問題であり,これらの影響のリスク評価は,重要かつ緊急に対処すべき課題であると考えられる。本研究では,環境中のホルモン様化学物質の生殖・発生影響のリスク評価のための基礎的データを得ることを目的とする。

〔内 容〕
 本年度の研究は,計画書に記載された以下の2課題に沿って実施された。
課題1 定量的リスク評価のための環境中のホルモン様化学物質の生殖・発生影響に関する実験的研究
課題2 環境中のホルモン様化学物質のスクリーニング手法及び暴露量の推定に関する研究
 ホルモン様化学物質として,最近,ゴミ焼却場周辺の汚染,母乳汚染などで問題となっているダイオキシン(2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)を昨年に引き続きとりあげた。
 課題1では,1)TCDDの生殖・発生に及ぼす影響として,前年に引き続き,ラットを用いて,TCDDの妊娠期暴露による @胎盤機能への影響 A仔の雄性生殖機能への影響 B性ホルモン,甲状腺ホルモンへの影響
C免疫系への影響を検討した。さらに D用量−反応関係,母親から仔への移行動態を明らかにするためにTCDD投与動物,出生仔のダイオキシン濃度を測定した。また,2)TCDDの作用の機作に関する研究として,
@TCDDの毒性発現機序におけるprotein kinaseの関与A妊娠期TCDD投与ラットの仔の脳におけるホルモン,ホルモンレセプター,ホルモン代謝酵素への影響 B卵巣摘出ラットにおけるTCDDとエストロゲンの相互作用
Cダイオキシンの毒性と分子構造・電子状態の相関に関する研究を行った。
 課題2では @スクリーニング手法検討の一環として,ダイオキシン暴露によって鋭敏に誘導される薬物代謝酵素p450CYP1A1,1A2,1B1mRNAのヒト白血球における発現をリアルタイムRT-PCRにより定量する方法の開発を行った。また Aダイオキシンの暴露とそれによる健康影響との関連を検討するために,子宮内膜症患者の脂肪組織,乏精子症患者の血中のダイオキシン濃度を測定し,症状の程度との関連を検討した。

〔成 果〕
課題1 定量的リスク評価のための環境中のホルモン様 化学物質の生殖・発生影響に関する実験的研究
 1)TCDDの生殖・発生に及ぼす影響
 @ 胎盤機能への影響 妊娠15日のラットに800または1,600 ng/kg 体重のTCDDを一回経口投与し,妊娠16および20日目に解剖し胎盤への影響を検討した。胎盤は主に迷路部,結合部の2つの部位からなり,結合部は,栄養膜巨細胞,海綿状栄養膜細胞,グリコーゲン細胞から構成される。妊娠の進行とともにグリコーゲン細胞は海綿状栄養膜細胞によって置き換えられる。TCDDの投与はこれらの変化を阻害した。胎盤がTCDDの標的組織であり,胎盤を構成する細胞比の変化を伴った成熟過程を乱す可能性が示唆された。
 A生殖機能の発生過程に及ぼす影響
 妊娠15日にTCDDを一回経口投与したラットの雄性仔の49,120日齢において肛門−生殖突起間の距離の減少を50 ng/kg体重から,前立腺重量の減少を200 ng/kg体重から見いだしたが,精巣,精子形成への影響は見いだせなかった。肛門-生殖突起間の距離などに代表される外生殖器の発達,副生殖腺の中でも前立腺の発達はテストステロンの代謝物であるデヒドロテストステロン(DHT)に依存している。従ってDHT依存性の生殖器官においてTCDDへの感受性が高いことが示唆された。そこでDHTの産生を制御している5α-reductase mRNAおよびアンドロゲンレセプター(AR)の前立腺内での発現を検討した。その結果,49日齢において5α-reductase mRNA発現は用量依存的に増加しており,一方,ARの発現は用量依存的に減少していた。ARの発現の減少,すなわちアンドロゲンに対する反応性の低下が前立腺の発育不全の要因と考えられた。
 B甲状腺機能への影響 
 妊娠15日のラットに200 または 800ng/kg体重 のTCDDを一回経口投与し,生後21日および49日に解剖し甲状腺機能への影響を検討した。血清中甲状腺ホルモン(T4)は200 ng/kg投与群の雄および800 ng/kg投与群の雌雄で有意な減少が認められたが49日では対照群のレベルに回復した。T4を代謝する肝の酵素,UGT-1mRNAの発現は21日で有意な増加が認められた。T4の減少はTCDDによる肝UGT-1の誘導とそれによるT4の排泄促進によることが示唆された。仔のTCDD の体内負荷量は離乳時の21日に最高値を示すことから,甲状腺ホルモンの減少は,発生過程への影響というよりも体内負荷量に依存したTCDDの作用と考えられた。
 C免疫系への影響
 120日齢の800 ng/kg投与群の胸腺でp53陽性細胞の有意な増加が認められた。免疫組織化学的検索によりアポトーシスが認められ,胸腺においてp53依存的なアポトーシスが起きている可能性が示唆された。
 D体内負荷量,母体から仔への移行
 妊娠期間中のTCDD濃度は,母体肝臓>母体脂肪>母体血清>胎盤の順であり,特に母体肝臓に局在していることが確認された。800 ng/kg 体重投与群の母体から胎仔への移行量は,一腹あたり0.7から2.0 ngで,これは投与したTCDDの0.2から0.6%に相当した。離乳時の母体および雄性仔のTCDD濃度はほぼ脂肪>肝臓>血清の順であった。脂肪組織中のTCDD濃度は母親と仔で同程度であったが,肝臓,血漿中の濃度は仔の方が約10倍高かった。TCDDは妊娠期間よりも授乳期間に多く親から仔へ移行することが明らかとなった。離乳以降の仔の肝臓中でのTCDDの減少から,母体への200および800 ng/kg体重投与時の半減期は,それぞれ,14.1および8.4日と算定された。
 2)TCDDの作用機作に関する研究
 @TCDDの毒性発現機序におけるprotein kinaseの関与
 TCDD投与ラット肝の粗抽出液中において,分子量60,000のprotein kinase(60k-PK)の活性化を見いだした。細胞分画の結果,60k-PKはミクロゾーム分画に回収され,さらにこの分画から分子量120,000のprotein kinase(120k-PK)の活性化も見いだされた。60k-PKや120k-PKは極めて低用量のTCDDにより活性化されることから,これらはTCDD暴露の鋭敏な指標となることが示唆された。
 B卵巣摘出ラットにおけるTCDDとエストロゲンの相互作用
 卵巣摘出したラットにエストロゲン処理すると,TCDDによる肝のCYP1A1の誘導が増強された。核内のエストロゲンレセプターが,エストロゲンの存在下,TCDDによるCYP1A1の誘導に関与していることがin vivoで初めて示された。
 Cダイオキシンの毒性と分子構造・電子状態の相関に関する研究
 ダイオキシン類生成反応の主要経路について,化学量論的解析を行い,ダイオキシンの発生を抑制する反応条件を明らかにすることを試みた。また,パーセプトロン型ニューラルネットワーク法によるダイオキシン類の定量的構造活性相関の解析を行った。

課題2 環境中のホルモン様化学物質のスクリーニング手法及び暴露量の推定に関する研究
 Aダイオキシンの暴露とそれによる健康影響との関連 大学の産婦人科の協力を得て子宮内膜症患者の脂肪組織,乏精子症患者の血液中のダイオキシン濃度を測定し,症状の程度とダイオキシン濃度との関連を検討した。子宮内膜症患者では重症例のほうが軽症例よりも脂肪組織中ダイオキシン濃度が高い傾向が認められた。乏精子症患者では,35歳以下では対照群に比べ血液中ダイオキシン濃度が有意に高かったが,35歳以上ではこの差はなかった。さらに例数を増やして検討する必要がある
〔発 表〕B-43,44,124,125,D-45,E-22,34,b-280〜289,d-41,44,e-52〜55,64,65


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