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環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
9.人間・社会的側面(分野)に関する研究
〔担当者〕
| 地域環境研究グループ |
: |
兜 眞徳 |
| 社会環境システム部 |
: |
森田恒幸・大井 紘・原沢英夫・青柳みどり・高橋 潔 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
大坪國順 |
〔目 的〕
推進費における本研究分野は,地球環境変化の人間・社会的側面の国際共同研究計画(International
Human Dimension Programme on Global EnvironmentalChange:
IHDP)に積極的に対応していくために,平成7年度に創設された。IHDPは地球環境変化の人為的要因とその地球環境変化が人間社会に及ぼす影響の2つの側面を研究するもので,具体的な研究分野として,土地利用・被覆変化,産業構造の変化とエネルギーの生産と消費,資源利用に関する人口・社会的側面,環境倫理や教育,資源利用や人口推移を決める各種制度及び環境の安全性と持続的発展が挙げられる。本分野においては5つの課題研究が進められている。
〔内 容〕
「環境に関する知識,関心,認識およびその相互疎通に関する国際比較研究」は,市民を社会の基礎単位の個人,および経済活動の一主体としての消費者および企業としてとらえ,それぞれの主体について厳密な無作為抽出による社会調査法による調査を実施することにより統計的に個人・消費者・企業の価値観,態度,行動を国際的な比較調査を通じてとらえることを目的とする。
「アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ(QOL),環境リスク認知・行動に関する研究」は,アジア地域の開発途上国を対象に環境汚染や破壊によるリスクに関する知識・認知の実態を調査し,別途,それを規定すると考えられる伝統的な環境要因による健康リスク(“伝統的環境リスク”と呼ばれる)の客観的評価,環境汚染・破壊による現代的な環境リスクの大きさと今後の予測評価,生活の豊かさ(QOL)の評価等を行い,環境リスク管理型社会への移行を促進するための方法を,生態学的な視点から考察することを目的としている。
「中国における土地利用長期変化のメカニズムとその影響に関する研究」は,LU/GEC(Land
Use for GlobalEnvironment Conservation)プロジェクトの第U期(3年間の予定)として,以下の三つを研究の目的に掲げて平成10年度から開始された。(1)中国の沿岸地域(特に華東地域)と北部,東北部地域に対象を絞り,二つの地域の何処でどのような土地利用変化が起こったか,それは何故かを定量的に解析する。(2)二つの地域において中長期的にどのような持続性を阻む現象が起こるかを予測し,2kmメッシュのデジタル地図として表示する。(3)土壌荒廃,砂漠化等の環境破壊を回避し持続性のある土地利用を模索した場合のグローバルな食糧需給への影響を検討する。
「アジア地域における環境安全保障の評価手法の開発と適用に関する研究」は,アジア地域において,持続可能な発展の基盤となる人口,食糧,水,環境の現状や相互関連性を把握した上で指標やモデルによる定量化を行う。これらを用いて2050年までの将来予測を行い,人口の爆発的増加,急速な経済成長がもたらす食糧不足・水不足・環境悪化の可能性及びそれらを回避するための方策について環境安全保障の視点から評価する手法を開発し,具体的な対応策について検討することを目標とする。
「環境リスク管理にかかるコミュニケーションと対策決定過程に関する研究」は,環境安全保障を達成する必要性の認識が広まりつつあるが,気候変動問題に見るように,その不確実性と国家利害の対立のもとで,国際交渉の帰趨への展望を求めようとする。また,アジアにおける経済発展による酸性雨問題の深刻化が憂慮されるが,国際的な協力により対策を講じるために,問題の推移の政治的,社会的,経済的な要因の構造を分析する。さらに,世論形成におけるこれら不確実性にかかわるコミュニケーションの在り方を示すことを目的としている。
〔成 果〕
(1)環境に関する知識,関心,認識およびその相互疎通に関する国際比較研究
環境に関する包括的調査(GOES)では,オランダなどとの比較分析を行った。また,アジアの都市調査では,上海において調査を実施した。企業戦略と消費者行動については,日本における消費者調査を実施し,前年度実施のドイツ消費者調査との比較分析を実施した。この調査結果について述べる。調査は,ドイツでは旧西ドイツに在住する18〜74歳の男女を対象に個人面接で行い,標本数は2101,回収数は1166サンプル(回収率55.5%)であった。一方,日本では,全国の18〜74歳の男女を対象に郵送配布・郵送回収で実施し,標本数は4986,回収数は2551サンプル(回収率51.2%)であった。調査結果から,1)日本の消費者はドイツの消費者に比べて環境意識は高いが環境行動が伴わない傾向がはっきりと観察されたこと 2)環境に関する情報について,日本の消費者は,自ら専門書にあたったりして積極的に収集しようとするよりは,マスコミ等の受動的な情報に支配される傾向にあること 3)環境に配慮していると表明する企業に対して,ドイツでは「その企業の製品やサービスを優先して買いたい」「親近感を感じる」「信頼できる」といったプラスの評価をしている一方,日本の消費者は「当然の行為である」と考える割合が6割にも上り,「環境を宣伝に利用している」といったマイナス評価の割合が高いこと 4)環境問題の解決者として日本の消費者は「行政」とする割合が非常に高いのに対してドイツでは,行政との回答も多いが企業,個人への期待も大きく,日本の消費者はドイツに比べると行政依存である傾向にあるなどの結果が得られた(図1)。
〔発 表〕C-6〜8,c-4〜11,36,38
(2)アジア諸国における開発水準と生活の豊かさ(QOL),環境リスク認知・行動に関する研究
1)中国では,北京市,成都市,上海市および重慶市で行ってきた調査結果をとりまとめるためのワークショップを上海で開催したほか,大連市でもこれまで同様の調査を追加実施した。インドネシアでも,ジャカルタ,バンドン及びランポンの調査結果についてのワークショップを開いた。中国3都市(データクリーニングに時間を要している北京市を除く)では,大気汚染,水質汚濁などの地域レベルの環境問題がなお深刻であるが,乳児死亡率や感染症サーベイランスの結果などに示されるように,伝統的リスクはかなり改善されている。また,全体的に環境意識は高く,家庭内燃料のガス化や水道の普及も進んでいる。しかし,地球温暖化や水銀,ダイオキシン等の健康リスクについては,全体的に知識もリスク認知も低い傾向がある。一方,インドネシア3都市の一般住民(大学卒集団を除く)では,環境問題全般に対する知識や意識あるいはリスク認知は,極端に低い傾向が明らかである。しかし,大卒者集団では,知識や意識あるいはリスク認知は中国の地域住民より高いことも示された(図2)。教育レベルによる差異について,中国3都市の地域住民の結果を解析してみると,同様に,教育レベルによる上昇傾向が明らかであった。
2)南アジアの農村調査では,すでにバングラデシュとネパールの全国レベルの調査とインドのマリア・プラデシュ州とタミル・ナドゥ州での調査を完了させると同時に,調査データの解析を行い,とくに土地劣化,自然環境破壊,水資源劣化などの途上国農村地域の環境問題とその規定要因との関連分析における問題点やまとめ方について,全体会議で議論した。なお,バングラデシュでは48の2,000〜3,000人規模の村落調査と各村男女各10名計1,000名の個人調査を,また,ネパールでは,51の75〜2,800人規模の村落調査と82名の個人調査を行った。インドのタミル・ナドゥ州では,500〜5,000人規模の12村落についての調査を終えている。これらの調査結果について,各村落の生態学的位置づけ,農業開発の現状,人口規模と増加,水資源とその経年変化,森林資源と破壊の現状,健康関連サービスの現状と変化などを総合的に解析し,南アジアの農村村落の特徴と今後の展望について最終的に解析整理した。ただし,バングラデシュの農村調査結果では,過去10年間で悪化したと答えている農村は,水質汚染20%,土地劣化29%,森林破壊58%,低栄養48%,疫病8%,失業35%であった。
(3)中国における土地利用長期変化のメカニズムとその影響に関する研究
LU/GECプロジェクトの第U期となる本テーマは4つのサブテーマからなり,各サブテーマの成果は以下のとおりである。
1)地図化手法による中国土地利用長期変化予測に関する研究
中国全土を対象として,20kmメッシュ精度で,自然条件のみで規定される土地生産性を求めた。使用したデータは月平均気温,降水量,雲量,標高,土壌および水文条件で,技術条件や社会経済条件などを考慮しない状態での米,小麦,トウモロコシ,豆類,芋類の潜在的な生産量を地図化した(地図A)。メッシュごとの各穀物の生産量は,所与の自然条件下での単位当たり生産量×該当する農地面積により算出した。次に,上記5種の1990年時の実生産量マップを作成し(地図B),オーバーレイ解析により,(地図A−地図B)=地図Cを求めた。地図Cで値が+(プラス)であるメッシュについて,@なぜ実際の生産量が低いのか? A今後,生産量増大が可能か?
一方,地図Cで値が−(マイナス)であるメッシュについて,@なぜ実際の生産量が高くなっているのか? A今後とも高い生産量を維持できるか?を検討した。
2)衛星画像とGIS手法を用いた華東地域の土地拡大に伴う土地利用変化の解析に関する研究
人口の移動に伴う都市の拡大を熱移動過程のアナロジーとしてとらえ,都市拡大現象に拡散モデルを適用した。すなわち,拡散する実体として都市人口を取り上げ,その拡がりを支配する拡散係数を地域の工業生産高と県(中国の行政レベル)の広さの関数として与えた。過去4時点のリモート・センシング・データと社会経済的データを用いて最適の拡散係数を決め,2025年次の華東地域の都市拡大を予測した。
3)北部・東北部地域における土地利用が環境に及ぼす影響に関する研究
河北平原の地下水流動特性と地下水収支の原理に基づいて,浅層と深層の帯水層について準3次元地下水流動数学モデルを構築した。1985年から1995年の11年間の地下水揚水量,潅がい水量,降水量,蒸発量,浅層および深層地下水位に関するデータを収集し,時間ステップ1年,空間精度2kmで浅層と深層の地下水位の2次元的変化を再現した。
4)中国北部・東北部地域の持続性可能診断用デジタル地図セット構築に関する研究
中国北部・東北部地域の土地生産性を評価するための地理情報システム(GIS)を開発した。このGISを用い,種々の制限因子下での潜在生産性,例えば,光合成生産性,光温生産性,気候生産性,および土地生産性などを評価し,それらの1kmメッシュデジタルマップを作成した。土地生産性マップを1996年の実生産高マップと比較した結果,ほぼ全域で土地潜在生産性が1996年の実生産高より高いという結果を得た(図3)。この結果は以下の2つの可能性を示すものである。一つは,農業に適用可能な未開発地がまだ存在する,もう一つは,本地域の実質生産性が,熱,水,および栄養分のより効率的な使用により向上する可能性である。これを踏まえて,未開発地の合理的な開墾,水使用効率の改良,土壌栄養の保持法などについていくつかの提案を行った。
〔発 表〕g-25〜28
(4)アジア地域における環境安全保障の評価手法の開発と適用に関する研究
1)アジア地域における水資源面の現状把握と評価
水資源は,人間活動,生存に欠くことのできない環境資源であり,再生が可能な資源であるが,地域によって存在量は偏在している。このため水需要の増加(水供給量が追いつかず水不足),水質の悪化(人口増加,都市化による水質汚濁),安全な水の確保(途上国,経済移行国,島嶼国)が問題となっており,さらに温暖化や異常気象は水需給のバランスを崩すと考えられる。アジア地域は,水資源,水供給が非常に脆弱な地域の一つであり,現在でも水質および水供給面で脆弱な地域として低地沿岸地域,デルタ地域,さらに利用可能な水量が渇水基準以下の中東や乾燥西アジア諸国を含んでいる。とくに中国における水資源の問題としては,北部の黄河の断流が発生し水不足が発生しているとともに,南部では洪水により大きな被害が発生するにいたっている。中国の共同研究者と中国における水需給の現状及び将来予測について流域単位での分析評価を行い水需給モデル化に当たっての諸条件を考察した。
2)インドネシアの森林火災などの社会・経済影響
1997/98年のエルニーニョ現象がインドネシアに干ばつをもたらし,極度に乾燥状態になったところに農業のための開伐や開墾によって火災が発生し,熱帯雨林を焼き,オラウータン,鳥類など絶滅危惧種が危険にさらされた。97年に発生した森林火災は,人為的な農地の開伐や開墾が主要因とされる。アブラ椰子や木材の商業プランテーション,政府が進める人口移動計画,自然発生的な移住者,地域の零細農業従事者がインドネシアとその周辺地域に煙害を拡大した。約7000万人が影響を受けたと推定されており,インドネシアでは,健康被害(10億ドル),観光収入,航空機のキャンセル,空港の閉鎖による損害(90百万ドル)など他の国の被害も併せると,合計で13.84億ドルと膨大な被害額となっている。加えて火災による森林資源の焼失と生物多様性への損失,森林生態系の健全性の損失は,非常に大きいが,被害の見積もりは困難である。森林火災を例として気候変化と人間活動がもたらす環境変化の社会経済影響について検討し,一部は地球環境研究センターが開催したインドネシアの森林火災のワークショップで報告した。
〔発 表〕C-30,32,c-23,32
(5)環境リスク管理にかかるコミュニケーションと対策決定過程に関する研究
気候変動について:1)IPCCの資料その他によって,地球気候変動の影響を環境難民のような間接的・社会経済的なものまで調査した。また,総合安全保障概念がいかにして地域の安全保障につながるか,また,安全保障において,気候その他の環境価値における保障がいかにしてエネルギーや軍事力などの他の価値の保障を強化しうるかについて検討した。2)気候変動のリスク管理にかかわる,各国の交渉当事者間のコミュニケーションについて資料を調査・収集した。また,二酸化炭素削減において,省エネルギーのような削減コストに対する対策費用のでるWin‐winアプローチ,さらには植林活動のような他の環境保全活動にも役立つものなど,温暖化リスクが予想ほどでなかったとしても,削減コストが意味をもつものを検討した。3)京都会議の結果をうけたローカルアジェンダ21の市町村などの基礎自治体における形成過程を明らかにするために,リスクの認識形式の類型分析を行い地球環境リスクにおける有効な二つの新たな類型を指摘した。また,自治体における特にボトムアップとなった形成事例に着目して,具体的に3市における形成過程を調査して比較分析し,リスクの把握における市民間のコミュニケーションの役割をキーパーソンの位置とリスク認識の類型との対応などについて検討した。4)近年の気候変動関係の新聞記事等にかかる資料を検索し,記事内容を検討した。また,専門家である地球科学者などの言説が,ジャーナリズムによる言説を介して,一般市民に伝達されるときの,これらセクターの知識の授受による相互作用についてモデル化を進めた。5)気候変動における科学的認識と政治的意志との関係が,科学者・行政・ジャーナリズム・市民のあいだでの知識の解釈を伝え合う社会的相互作用とそれぞれのセクターにおける社会的・政治的認識のもとに形成される過程についての科学論的な理論体系にかかる知見を検討し,気候問題への適応性を考察した。
酸性雨について:1)欧米の酸性雨対策国際レジームとしてLRTAP(Convention
on Long‐Range TransboundaryAir Pollution)(1979年)とMOI(Memorandum
of Intent)(1980年)との歴史的経緯を調査し,この二つのレジームのそれぞれの特徴とそれらの間の相違点を検討し,各国のレジームに対する対応とこれらが各国の政策に及ぼした影響について考察した。このとき,東側諸国,特にソビエト連邦がLRTAPに参加した動機が酸性雨問題の枠外にあったことは,国際条約の成立メカニズムを見るうえで重要である。これらレジームは特にイギリスとアメリカのコントロールシフトを促し,酸性物質排出量削減の国際的な合意を実現させた。2)アジアにおける酸性雨問題の推移と国際協力の可能性検討のため,中国の経済開発と環境対策の歴史と実態を調査した。中国における環境問題は,世界の20%を排出しているといわれる二酸化硫黄と大気中の総浮遊粒子状物質とによる酸性雨と,森林減少による農地疲弊が代表的なものである。そうしてその南部の雨量の多い地域では,重工業都市である重慶を中心に酸性雨によると見られる被害も報告され,それは石炭に依存したエネルギー需給構造に起因する。中国の導入している市場経済政策が「成長してから分配する」であるので,これから生じる所得格差に関する問題が重要で,環境保全コストを負担するにしても環境税のような平坦化して負担をするか,経済開発主体が負担するかの問題が生じる。汚染質排出抑制のための法整備や対策技術も特に近年進んでいるが,社会主義市場経済の下での経済成長優先の政策,情報公開に対する規制,および民間レベルの活動があまりないことが国際協力による環境対策を行う上で困難な問題である。
〔発 表〕C-14,I-20,c-15
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