ここからページ本文です
環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
3.地球の温暖化影響・対策に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
甲斐沼美紀子・増井利彦 |
| 地域環境研究グループ |
: |
近藤美則・稲森悠平・水落元之・安藤 満・山元昭二 |
| 社会環境システム部 |
: |
後藤典弘・森田恒幸・日引 聡・青柳みどり・川島康子・乙間末広・森口祐一・森 保文・
寺園 淳・原沢英夫・高橋 潔 |
| 環境健康部 |
: |
小野雅司 |
| 生物圏環境部 |
: |
名取俊樹・戸部和夫 |
| 地球環境研究センター |
: |
藤沼康実・清水英幸 |
〔目 的〕
地球温暖化問題の未解明点は大きく3つある。第一は,地球温暖化のメカニズムであり,大気中の温室効果ガス濃度の変化とそれによる地球の気候変動の仕組みについて,多くの不確実な点が残されている。第二は,地球温暖化の防止対策についてであり,各種の対策技術や政策の有効性を評価する上で,関連する技術システムや社会経済システムの体系的解明とそのモデル化が必要不可欠になってきている。第三は,地球温暖化の影響であり,気候変動やそれに伴う自然条件の変化によって,自然環境や社会経済にどのような影響が生じるかについて,不解明な点が多く残されている。本研究プロジェクトは,地球温暖化の影響と対策,すなわち,第二と第三の未解明点について,現地調査,実験,データ解析,モデリング,具体的なシステム設計等を通じて,総合的に明らかにすることを目的としている。
〔内 容〕
本年度においては,次の6つの研究を実施した。
(1)地球温暖化の防止対策に関する研究
1)予測モデルの開発:IPCC対策シナリオを作成するとともに,中国,インド,韓国の研究所と共同して,温暖化対策の効果を分析し,アジア太平洋地域の温暖化対策のあり方を検討した。
2)メタン等の対策技術の開発:メタンガスや亜酸化窒素の排出を削減するため,生活廃水対策及び湿地帯からのCH4発生抑制手法について検討した。
3)都市圏の温暖化防止対策技術の研究:未利用廃熱の利用を図るため,未利用エネルギー(利用可能量,位置など)と需要地区のデータから省エネ効果,LCエネルギー,LCCO2を推定する手法を開発し,東京全域での試算を行った。
4)低環境負荷型都市交通手段の研究:次世代型電気駆動車の普及を図る際の問題点の解明とその対応策の実現可能性の検討を行うとともに,低環境負荷型の都市交通システムを実現するための各種施策についてモデルによる評価を行った。
(2)地球温暖化の影響に関する研究
1)地球温暖化による生物圏の脆弱性の評価に関する研究:陸域生態系の脆弱性評価は,温暖化の影響予測や,COP3の森林のシンクの問題とも関連する重要な課題である。本研究は,生物圏,特に,高山生態系,自然林・人工林生態系,農業生態系,及び関連する水資源システムを対象として,地域レベルでの脆弱性評価を行うこと,脆弱性を指標とした温暖化モニタリングの可能性を検討することを目的とする。
2)健康影響の研究:温暖化により疾病や死亡の増加,生存環境の変化による影響,動物媒介性感染症の流行域の拡大による影響が予測されている。このため,温暖化と環境劣化による健康影響について定量的予測を行い,社会の脆弱性を評価するとともに,適応策や人の適応能の向上により健康影響を抑制するため,他研究機関と協力して研究を行った。
〔成 果〕
(1)地球温暖化防止対策技術の総合評価に関する研究
1)アジア太平洋地域における温暖化対策統合評価モデル(AIM)の適用と改良に関する途上国等共同研究
AIMは,温室効果ガスの排出・気候変化・その影響といった一連のプロセスを統合して分析できる「統合評価モデル」である。この統合モデルは,各国や地域の経済と地球規模の気候変化を結びつけて検討できるだけでなく,地球規模の気候変化が国や地域の社会経済にどのような影響を及ぼすかについても検討できるため,各種の対策を総合的に評価することが可能である。
本年度はアジア太平洋地域において設計した省エネ技術の普及促進,環境保全型交通システムの構築,低炭素電力源へのシフトなどの各種の対策のメニューをもとに,これらの対策の組み合わせによる温室効果ガス削減効果を中国エネルギー研究所,韓国エネルギー経済研究院及びサンミュン大学,及びインド経営研究所とともにシミュレーションモデルにより分析し,アジア太平洋地域の温暖化対策のあり方を検討した。
また,京都会議で提案された排出量取引,共同実施,CDMなどの柔軟性メカニズムを実施した場合の費用効果を分析するためにモデルを改良するとともに,中国とのCDMを実施した場合の温暖化対策効果と中国における大気汚染等の国内環境問題への複合効果を分析した。 さらに,長期的な温室効果ガスの対策シナリオを作成するため,土地利用や産業プロセスも含めた統合排出モデルの改良を行い,IPCCの対策シナリオを作成するとともに,中長期の適応対策を分析するために温暖化影響モデルを改良し,中長期的な温暖化への適応対策が,水資源あるいは農業影響などに与える効果について分析した。これまで開発してきたAIMモデルによる分析を容易にするために普及版AIMモデルを改良するとともに,温暖化対策の波及効果分析モジュールを追加した。
温室効果ガス排出量推定のための土地利用変化モデルについて,引き続き国際応用システム研究所と共同開発を進めた。また,世界経済モデル,温室効果ガス排出モデル,温暖化影響モデルについて,IPCC,EMF,GMFを通じてモデル比較を行うとともに,UNEP/GEO,エコ・アジアプロジェクトなどの国際プロジェクトに対して分析結果を提供した。
2)地球温暖化抑制のためのCH4,N2Oの対策技術開発と評価に関する研究
CH4,N2O抑制のための生活系排水のバイオ・エコエンジニアリングシステムによる対策技術および東北アジア地域におけるCH4,N2O抑制のための汚水・汚泥の適正処理技術の確立を目的として,小規模生活排水処理施設への対応,畜産排水などの高濃度排水処理施設等のバイオエンジニアリングシステムおよび生活系排水等の汚濁水の流入する湿地帯をはじめとするエコエンジニアリングシステムの最適システム化の検討を推進した。また,各分野におけるインベントリーの充実と対策の重点化を図るために,効率的評価手法の確立に関して基盤的な検討を推進した。
生活排水対策としてはこれまでの知見をもとに生活排水のみならず畜産排水等での生物学的窒素除去に対する操作条件の最適化のために検討を行った結果,処理水質を良好とする運転操作条件と,N2Oガスの発生を抑制する運転操作条件は広い範囲では一致しないものの酸素利用速度で評価したアンモニア酸化活性と亜硝酸酸化活性の差と,N2Oガス放出量には正の相関が認められ,これを指標として活用することで,処理水質の確保とN2Oガス放出を抑制する運転操作の両立がが可能であることが示された。これらの検討結果を基に既存の生物学的窒素除去に関する動力学的モデルに対してN2O発生を考慮したモデルの構築を図るためのパラメーターが明らかになった。また,湿地帯からのCH4,発生抑制手法については,実際の湿地から単離し,集積培養したメタン酸化細菌の生態系での挙動を明らかにした。東北アジア地域での対応として,これらの地域に広く用いられている土壌,植栽浄化手法について検討し,土壌については微量な空気の吹き込み,植栽については負荷調整が有効であることを明らかにした。
人為的排出源からのCH4,N2O排出・吸収量インベントリーの精緻化を図るために,各排出源におけるインベントリーの精度評価手法を検討し,効率的なGHG削減に資する削減アクションプランの作成のために,開発されつつある削減対策技術に関して削減効果を排水処理なら処理効率といった本来目的を考慮し,コストを基準にする評価手法を検討し,試算を行った。
3)都市圏の資源・エネルギー循環と都市構造にかかわる温暖化防止対策技術に関する研究
本調査の目的は,都市静脈系未利用エネルギーのうち,賦存熱量等の観点から有望と考えられる河川水,下水の温度差エネルギーおよび清掃工場廃熱の未利用エネルギーを対象にその利用可能量と省エネルギー性をライフサイクル的視点から明らかにすることにある。このため未利用エネルギーの導入対象域として東京都23区を想定して,総合的な省エネルギー効果の推計を試みた。
東京都23区全域を対象に,GISデータを駆使して,土地・建物状況,人口・産業構成などの基本データを作成するとともに,同エリアにおけるエネルギー需要に関して,利用用途別・月別・時間帯別の推計を行った。23区を500m四方の地域メッシュに分割し,これらのメッシュについて,東京都土地利用現況調査によるGISデータを用いて,建物種類別床面積のデータベースを構築した。これに,別途作成した冷房,暖房,給湯,厨房および照明・機器動力用の一般電力需要の原単位をかけることで,月および時刻による時間変動を含む需要データを推計した。
同じく東京都23区全域を対象に,ごみや下水の排出量等について調査し,未利用エネルギーの賦存量(ごみの焼却廃熱の賦存熱量,下水・河川水温度差エネルギーの利用可能熱量)を推計した。河川については東京都区部に流入している河川を対象に位置ごとの流量および水温,下水については下水処理場の位置と排水量および水温,ごみについてはごみ焼却場の位置と焼却量のデータベースを構築した。
未利用エネルギーの需要・供給分布に係わる基礎データの対比に基づき,省エネルギー性の観点から両者の最適な地理的マッチングを探索する手法を開発し,同手法により,東京23区全体での総合的な省エネルギー効果と二酸化炭素排出削減量の推計を行った。
4)低環境負荷型都市交通手段に関する研究
次世代型電気自動車に関する研究においては,平成8年度に一応の開発を完了した電気自動車を一つの試験車として取り上げ,次世代型電気駆動車の普及を図る上で将来生じるであろう様々な問題点を明らかにするとともにその対応策を提示することを目的としている。エンジン車に比べて航続距離の短い電気自動車の普及を図るためには,車の実利用時の走行性能を明らかにすること,その用途に合致した利用実態に導入すること,導入するための方策を経済性を含めて検討すること等が必要である。本年度は,前年度開発した計測機器により車両の走行データを取得し,実験車両の特性の把握とともに技術評価を行った。また,走行用電池の寿命延伸と効率向上を目指して採用した個別電池管理方式の問題点を解決するとともに,自動車の利用実態把握のための計測システムの検討を行った。一方,低環境負荷目標達成のための都市交通システムの再構築に関する研究では,前年度に行ったモデル設計結果に基づき,交通機関分担モデル,機関別人km・トンkmの推計モデル,施策別実施度合の割り出しモデルを開発するとともに個別施策別の環境負荷低減量の計算を行った。また排出目標水準に基づく施策組み合わせパッケージ及び施策実施財源方策の提示を行った。
(2)地球温暖化の影響に関する研究
1)地球温暖化による生物圏の脆弱性の評価に関する研究
現在,我が国をはじめとするアジア地域では地域レベルに適用しうる感受性や適応性の評価手法の開発と総合的な脆弱性評価の問題が緊急課題となっている。特に,陸域生態系の脆弱性評価の問題は,COP3の森林のシンクの問題とも関連する重要な課題である。また,水資源の問題は,生態系の脆弱性や農林業を含む人間の経済活動とも密接に関連しており,生物圏の存続に悪影響を及ぼす可能性が高い問題である。本年度は,環境研究所で担当している高山生態系および水資源システムを対象に,気候シナリオ・データベースの作成,影響評価手法の検討,および現地調査と実験研究によるモデルパラメータの整理を行った。また各サブシステム共通の地域気候シナリオ等を作成した。
・高山生態系の脆弱性評価と指標性の検討
高山帯植生に及ぼす温暖化影響予測図作成のための多変量植生モデルを構築するため,本年度は,植生,気象,自然地理についてのメッシュデータを用い,高山帯植生の分布と環境要因との関係を調べた。環境要因としては従来からの温量指数に加え,新たに積雪深や土壌タイプ,降水量,地形特性なども加えた。その結果,高山帯植生とそれに隣接する亜高山帯植生とを判別する主要因として,3月の積雪深および春季から夏季の最高気温が選出された。気象要因以外では,高山帯植生は未熟な土壌と有機物が少ない土壌に,亜高山帯植生は有機物が多い土壌に分布していた。さらに高山帯植生を細分し,メッシュ数が100以上であった高山低木群落,コケモモ−ハイマツ群落,高山ハイデ及び風衝草原,雪田草原の4つについて検討し,コケモモ−ハイマツ群落が他の3つと比較して温量指数と降水量で特徴的な分布を示し,高山ハイデ及び風衝草原が北側から南東側斜面に,雪田草原が東側斜面に多く分布していることがわかった。
・水資源システムへの影響
影響評価のための気候シナリオについての検討を行った。大気海洋結合モデル(A-O
GCM)の計算結果を地域気候シナリオとして影響評価に用いるためには,より小規模な空間スケールで,現在の気候(1961年から1990年の30年間の平年値)を実用上再現できているかを定量的に評価することが必要である。そこで,一連のA-O
GCMの再現性を評価するために,海面圧力,日間最大気温,夜間最小気温,地表面気温と降水量の月別・季節別平均値を取り上げ,日本を含めたアジア地域について現在の気候を再現しているかどうかを分析した。IPCCが開設したデータ提供センター(DDC)に記録,提供している7つのA-O
GCMの漸増数値実験結果を用いた。A-O
GCMの大気の水平及び垂直方向の分解能は,地域気候の再現の良否に強く関係しているが,アジア地域では,温暖化の影響分析にもっとも関連する地表面の気候要素の現状値の再現性は,NCAR,CCCma,GFDLモデルが他のA-O
GCMに比べて相対的に劣っていることがわかった。またHadCM2,ECHAM4,CSIRO,CCSRモデルはアジア大陸では,観測された現状の気候要素として,空間平均した月平均海面気圧,地表面気温,降水量の現在値を十分な精度で再現していることがわかった。今後はこれら4つのA-O
GCMの結果を共通した気候シナリオとして利用する予定である。
また水資源システムの影響評価では,降水量や気温の現状評価を踏まえたうえで,上記したGCMの将来予測値をダウンスケーリングすることが必要となる。このため,降水量,気温の現状評価を容易に実施するためにアメダス気象データを地理情報システム(GIS)を有機的にリンクさせた,水資源影響評価のためのデータベースを作成した。併せて統計的ダウンスケーリングによる地域気候シナリオの作成手法及びアジア地域における水資源影響の評価に用いられる影響評価モデルについて既存の研究,調査結果について整理した。
2)温暖化による健康影響と環境変化による社会の脆弱性の予測と適応によるリスク低減化に関する研究
社会が地球温暖化によって受ける影響を軽減化していくためには,健康に対する温暖化の影響を予測し最適な適応対策を確立する必要がある。現在,温暖化により疾病や死亡の増加,水資源や大気の変化による影響,動物媒介性感染症の流行域の拡大による影響が予測されている。このため,温暖化と環境劣化による健康影響について定量的予測を行い,社会の脆弱性を評価するとともに,適応策や人の適応能の向上により健康影響を抑制するため,他研究機関と協力して研究を行った。
温暖化による健康影響と社会適応に向けた総合的リスク評価のため,日本および中国において,気候・気象変化と疾病罹患率との関連について疫学調査を実施した。同時に疾病の罹患率に関与する大気汚染との相互作用についても,調査と実験の両面から解析を進めた。東京については,救急搬送患者症例のデータを収集し,成人のリスクの高い呼吸器系疾患,心疾患,循環器系疾患について解析した。呼吸器系疾患ではぜん息と肺炎について,心疾患については心不全,狭心症,心筋梗塞について,夏季の気温と各疾患の罹患率について検討した。気温との関連では,特に肺炎の罹患率が,夏季の気温の上昇につれ顕著に上昇していた。この調査結果は,モデル実験の結果得られた高温環境下における肺の殺菌活性の低下と良く一致していた。
温暖化による夏季気温の上昇は,光化学オキシダントのオゾン生成を促進すると予測されているため,都市近郊においては高温による健康影響とオゾンによる影響が複合して現れることが予想される。特に呼吸器へのリスクは重大と考えられるため,肺の感染防御能に対する高温とオゾンの複合影響を明らかにするモデル実験を行った。その結果,高温とオゾン暴露による相加作用が認められた。さらに気管肺胞洗浄液成分の解析では,高温環境飼育群で殺菌活性の主体となる肺胞マクロファージ数が有意に減少した。しかしながら,高温とオゾン暴露の複合による肺胞マクロファージ数への相加的な影響は観察されなかった。これらの結果から,高温とオゾンの複合暴露による肺の殺菌活性低下の原因として,肺胞マクロファージの減少とともにその機能の低下が示唆された。
東京に比べ平均気温の高い福岡県と中国武漢市において症例データを収集し,夏季の気温と熱中症関連症状の罹患率の関連について比較評価を進めた。調査はすべての救急搬送事例を対象に,救急患者の症例データを収集し,熱中症関連の主傷病名を抽出し解析した。
温暖化による動物媒介性感染症の増加の予測に関しては,影響予測モデルを構築するための調査と実験を実施した。中国南部における調査により,感染症媒介蚊の実態,非常在性動物媒介感染症の把握,媒介蚊の侵入実態の把握を行った。また中国の海南省において,過去の疾病統計の調査と媒介蚊の生存期間に関する実験を行い,野外調査結果と比較した。その結果,両者の生存期間の間には有意な差が認められ,今後実験条件と野外条件についての詳細な解析が必要なことが判明した。
〔発 表〕A-14〜21,54,55,B-1,3,4,6,7,10,78〜80,C-10,31,36,39〜44,H-9,10,
a-13〜19,50〜53,b-7,11〜13,26,27,51,54,57〜59,141,225〜229,c-22,37,
43〜58,h−8
|
|