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環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)


12.京都議定書対応研究


〔担当者〕

地球環境研究センター 山形与志樹
社会環境システム部 川島康子
 
客員研究員 4名
     下線は研究代表者を示す

〔目 的〕

 京都議定書において,吸収源を利用する仕組みが取り入れられた。しかし,吸収源の取り扱いと吸収量の評価について,さまざまな問題点が検討課題として積み残されているのが実状である。本研究課題では,陸域生態系の吸収源機能評価にかかわる研究課題として,(1)人為活動による炭素収支の変動に関する研究(2)京都議定書における吸収源アカウンティング方式に関する研究を実施する。

〔内 容〕
 本年度においては下記の研究を実施した。
 (1)現状の日本の森林バイオマス中に貯留している炭素量を明らかにするため,各種林業統計を用いて炭素貯留量の分布図を国土数値情報3次メッシュで作成した。
 (2)森林資源基本計画に用いているモデルを使用し,第一約束期間である2008年から2012年の間における全森林の炭素吸収量は0.093〜0.064Gtの幅を持つことがわかった。
 (3)広域森林資源の3次元データと森林バイオマス量の関係を検討するため,レーザースキャナデータを収集し,林冠疎密度,樹高の推定精度を調べた。
 (4)人為インパクトによる森林土壌中の炭素貯留量の変動を評価するモデルを検討し,伐採後の土壌中炭素貯留量の変化を追跡した。
 (5)グローバルな植林活動のポテンシャル量を,土地利用変化シナリオから計算した。
 (6)CDM/JIなどのプロジェクトが実施される場合の環境的な追加性について検討した。
 (7)シンクによる吸収量増大と排出削減のプロジェクトの関係についての検討を実施した。

〔成 果〕
 (1)陸域生態系の吸収源機能評価に関する研究
 1)人為的活動による森林における炭素収支の把握
 現状の日本の森林バイオマス中に貯留している炭素量を明らかにするため,各種林業統計を用いて炭素貯留量の分布図を国土数値情報3次メッシュで作成した。バイオマス量の算定や炭素への換算に必要なパラメータについては,文献等で入手可能なものを用いたが,今後は当プロジェクトで科学的に算出されるパラメータに変え,推定精度を向上させる予定である。また,地球温暖化による気候変動が林分成長に与える影響を評価するためのモデル構造を検討し,立地条件を適宜仮定し林分成長を予測するハイブリッド・モデルが望ましいとの結論を得た。京都議定書に関連した我が国の吸収源機能を評価するため,林野庁が森林資源基本計画に用いているモデルを使用し,第一約束期間である2008年から2012年の間における全森林の炭素吸収量を計算したところ,シナリオによって吸収量は0.093〜0.064Gtの幅を持つことが明らかになった。また,3条3項に対応した吸収量を算出するため,土地利用変化を伴う植林面積,森林減少面積の推定に必要な情報の収集を行った。
 リモートセンシングデータを用いた広域での森林バイオマス量の推定手法を開発する上で,森林バイオマス量のグランドトゥルースデータを効率的に取得する手段の開発が急がれる。そこで,赤外線レーザー測距儀による広域森林資源の3次元データと森林バイオマス量の関係を検討するため,苫小牧を対象にレーザースキャナデータを収集し,林冠疎密度,樹高の推定精度を調べた。
 人為インパクトによる森林土壌中の炭素貯留量の変動を評価するモデルを既存のものを中心として検討するとともに,新植した場合の土壌中への炭素貯留量の増加を見るため,御岳岩屑流堆積地における緑化木植栽後や伐採後の土壌中の炭素貯留量の変化を追跡している。
 実際に住宅に用いられている木材量を把握するには木拾い表と,組立図の2つのデータ源がある。今回の研究によって組立図から算出した木材使用量がほぼ現実に近いことが判明した。これをもとに推定した木造住宅の木材使用量は0.105〜0.150m3であり,単位面積当たりの木材使用量は年々増加傾向にあることがわかった。我が国で使用されている木材中の炭素貯留量を推定するには住宅ストックの推移を推定できるモデルの開発と木材の絶乾比重値を求めることが不可欠である。前者についてはまだ検討段階であるが,後者についてはおおよそ国産材が0.46,北米材が0.41,南洋材が0.53,北洋材が0.42,ニュージーランド材が0.48であることが調査により判明した。なお,木造住宅のライフサイクルにおける炭素排出量についても検討をし,木造住宅の使用段階において冷暖房,給湯,照明・動力等の運用による炭素排出量の多いことがわかった。
 2)人為的活動による農耕地土壌における炭素変化の把握
 グローバルな炭素循環モデルによるシミュレーションにより,農業形態の変化や土壌劣化は土壌炭素収支を大きく変える可能性があると予測された。また,地球温暖化による気候変動の各農耕地土壌中炭素蓄積量への影響を検討した。地域規模の土壌をめぐる炭素収支の評価・予測モデル(Roth-Cモデル)に,炭素蓄積能力の高い火山灰土壌の特性を導入するため,有機物の長期連用試験の情報を活用しモデルの改良を行った結果,我が国の火山灰土壌における炭素の分解・蓄積過程をかなり良く再現できた。我が国,タイおよびフィリピンの火山灰・非火山灰土壌について,モデルに導入するためのデータの整備を行い,特にタイの土壌有機物13C自然存在比と作物の種類,栽培歴との関係が深いことが明らかとなり,それら情報のモデル化への活用を検討した。また,浜頓別から石垣島に至る我が国の土壌酵素(セルラーゼ)活性と気温等の環境条件とは密接に関係していることが明らかとなり,それら情報のモデル化への活用を検討した。タイにおけるケーススタディーから年間の炭素収支のデータが得られたが,保全耕起法によりCO2発生量が減少するが収量も減少する結果となり,不耕起により増収するための方策が検討される必要があると考えられた。
 3)吸収源アカウンティング手法に関する検討
 温室効果ガスの排出削減コストを考える際には,「そのプロジェクトがなかりせば…」の状況で行われたプロジェクト(ベースライン・プロジェクト)との比較を考えることになる。したがって,世界銀行などは,具体的なベースライン・シナリオを考えて,その場合の排出削減量と排出削減コストとの差分(インクリメンタル・コスト=増分コスト)を排出削減コストとして定義している。これを式で表すと以下のようになる。

温室効果ガス排出削減プロジェクトの排出削減コスト=排出削減プロジェクト総コストの現在価値−ベースラインプロジェクト総コストの現在価値/排出削減プロジェクト総排出量の現在価値−ベースラインプロジェクト総排出量の現在価値

 この排出削減コストの大きさが,温室効果ガスの排出削減プロジェクトによって発生するカーボン・クレジットの「原価」であり,これに「利益」を加えたものが「価格」となる。この価格が,他のAIJ/JI/CDMプロジェクトによって発生したり排出権市場によって取り引きされるカーボンクレジットの価格と比較する際の最も重要な指標となる。実際には,プロジェクトのホスト側も投資側も,実際の削減量よりも大きな削減量の数字を算出する(水増しする)インセンティブをもつ。また,投資側はクレジットを安価に入手するためにできるだけ削減コストの小さいプロジェクトに投資を行う。一方のホスト側は,カーボン・クレジットを高く売却したいものの,他のJI/CDMプロジェクトとの間の競争などが激しくなれば,「市場の圧力」によって価格を下げざるを得なくなる。
 4)吸収源活動のグローバルポテンシャルに関する検討
 京都議定書の3条3項,いわゆる「京都フォレスト」に関して,温室効果ガス(GHG)の吸収源はどのようにアカウントされるべきだろうか?という討論には,「新規植林(Afforestation)」,「再植林(Reforestation)」,「森林減少(Deforestation)」(ARD)を議定書の範囲内に適用することが含まれる。しかしこれらの項の定義は明白には確立しておらず,「新規植林」の定義に着目すると,森林管理活動の炭素吸収源アカウンティングは国によって非常に異なる。吸収源の制度的な取り決めにおけるこの定義は,京都議定書に関する国々に対する政治的示唆を含む。我々は,ARD活動による森林生体系での炭素変化をシミュレーションすることにより,これら京都フォレストの示唆を分析している。我々のシミュレーションは,以下の結論を導いた。
 @1990〜2007年の期間での森林減少は,約束期間内のネット放出の原因となるが,約束期間以前の放出を計算する方法はない。Aいくつかの場合において,新規植林は,森林減少地での有機物残渣が分解するときに発生する二酸化炭素の放出を即座に補うわけではない。B土地被覆境界は,京都議定書に対する透明かつ検証可能な基準であるが,ARD活動による地球規模の炭素放出及び吸収の概算は,その境界に敏感である。
 5)吸収源とエネルギー部門との関係に関する検討
 京都合意の枠組みの中で,森林のシンク機能が注目されつつあり,京都会議において合意された柔軟性措置においてもシンク機能の活用が焦点となっている。エネルギー産業においては,膨大な排出権の確保が必要であり,すでに世界的なエネルギー産業の一角がその必要な確保の一部としてシンクを活用する動きを見せている。
 森林資源は生態系,地域社会等様々な要因の微妙なバランスのもとに成り立っており,エネルギー産業が確保すべき排出権の一部であっても,シンクの活用は世界的な森林資源管理の動きに大きな影響を与える可能性がある。現在,シンクの活用についてこうした観点からの考察は少ないが,注目度の高いエネルギー産業の京都議定書対応の中で見逃すことのできない側面であると考えられる。国際的な森林資源の管理といった視点からエネルギー産業のシンク対策をどう考えるべきかについて,シンク(森林)管理・利用の国際的な動向とGHG削減(持続可能なエネルギ−利用)の関係の総合的な整理,シンク利用の阻害要因,エネルギー産業におけるシンクの位置づけに関する調査・検討を行い,シンク利用と生態系の多様等を中心とした持続的森林管理の統合的戦略が必要であるが,エネルギー産業においてもこうした視点からの取り組みが求められる可能性が高いことが明らかとなった。
 6)JI/CDMプロジェクトリスクの整理・検討
 京都議定書によるJI/CDMスキームに従った,シンクプロジェクトのリスクの整理・検討およびアジア開発銀行によるALGAS(Asia Least‐Cost Greenhouse Gas Abatement)プロジェクトの整理・分析を行った。リスクの種類としては,政策リスク,市場リスク,技術リスクについて検討を実施した。また,これらのリスク回避の方法として,下記の方法を検討した。
 ・プロジェクトの課程での回避(厳密なベースラインの設定,幅をもたせたカーボンアカウンティング,リーケージの管理)
 ・金融ツールの利用(多様性の確保,ヘッジング,保証・保険)
リスクの定量化については,簡易的なモデルを構築した。モデルのパラメーターは,イベントの発生確率,イベントが発生した場合のインパクトの2つの基本的な要素以外に,リスク対応状態,リスク管理システムを加えた。また,アジア地域における温暖化対策プロジェクトである,ALGASプロジェクトの整理・分析を実施した。プロジェクト対象アジア11カ国の情報をもとに,森林セクターでの吸収可能量とGreen House Gas(GHG)排出量1トン削減当たりのコストを算出した。その結果,インドや中国ではコストが比較的安く,GHG吸収可能量が高いと判明した。
 7)吸収源プロジェクトリスクの定量的評価に関する検討
 京都議定書の吸収源を用いて数値目標を達成することに貢献する吸収源プロジェクトを実施する際のリスクを評価する方法論を開発した。目標期間(2008〜2012年)における生態系の炭素ストック変化量がプロジェクトによる成果として用いられることになるので,この期間におけるこの炭素蓄積の減少量の期待値を環境リスクとして定義することが可能になる。森林生態系を取り扱うプロジェクトの一般的なリスク分析の枠組みがこのリスクの取り扱いにおいても利用可能である。このプロジェクトの結果として得られた炭素ストックの参照曲線からプロジェクト・デザインの背後に隠された生態系炭素ストックの推計変動値が導き出されるが,参照曲線に対する不足分が典型的ストレス要因による影響と考えられる。森林生態系のストレス要因を単独で考えることはできないので,ストレス要因間の相互作用の質的パターンを定式化して,ストレス要因のさまざまなシナリオについて確率分布を定量化するためにグラフ理論技術を用いた。いずれの炭素吸収源プロジェクトについてもその時間的尺度から生態系の影響を無視することができるので,炭素ストックの変動は気候,すなわち気候を含む生態系のストレス要因の組み合わせによって異なるものと思われるが,強い相関関係を想定するわけには行かない。このことは,ストレス要因に相互関係が存在すると想定したシナリオによるリスク計算のためのモンテカルロ・シミュレーションのアルゴリズム案を統一する基盤になる。
 8)吸収源を用いたCDMの可能性に関する検討
 タイ国において,土地利用変化と森林部門は,温室効果ガスの主な排出源となっている。国家経済社会開発計画(第1期〜8期,1961〜2001年)によれば,国民の知識ベースを多かれ少なかれ無視して,産業化の方向に発展の方向性が置かれている。直接的な木材の伐採や他の土地利用への転用によって,森林は著しくダメージを受けている。クリーン開発メカニズム(CDM)は京都議定書の12条に記載された新たなアプローチであり,先進国と発展途上国との温室効果ガスの排出をバランスすることを目的とし,「森林クレジット」によって森林面積を増大させることが可能である。しかしながらCDMは,このプロジェクトに関心がある組織や,森林政策の促進にとっては外部要因である。ほとんどの発展途上国において,森林開拓は多くの専門分野にまたがる問題である。タイにおいても,将来の森林面積をどの程度回復させるかに関する見通しをたて,実践的な行動計画を作成するための自然資源政策に関する現実的な観点が必要である。森林減少には極めて多くの要因が関与している。この問題を真剣に取り扱うための,時間と人の確保が必要である。
 9)吸収源活動のモニタリングに関する検討
 京都議定書への対応において,樹冠率の推定はARD活動抽出の基準となるほか,森林成長量のモニタリングのために非常に重要な項目である。そこでリモートセンシングによる広域な樹冠率推定を目的として様々なアプローチについて検討した。樹冠率のグラウンドトゥルースとして,航空写真を用いた図化作業により,200×200mの領域内における森林の樹冠をポリゴン化し,樹冠面積を算出した。これを疎密状態が異なる2カ所について行った。これと比較するリモートセンシングデータとして航空機センサのデータを用いた。衛星センサに比較して多数の分光バンドを有しており,各衛星センサのシミュレーションが可能である。前述のテストエリア内に衛星センサの1画素に相当する30×30mの集計メッシュを設定し,この中での樹冠率とメッシュ内すべての航空機センサの平均出力を求め,分光スペクトルによる樹冠率推定を試みた。樹冠率は概ね可視域のバンド出力値と負の相関関係にあり,逆に近赤外域との相関は低いものとなった。最も樹冠率の推定精度が高かったのは465nmと700nmの比演算値であった。ここで航空機センサの波長分解能は約10nmであるが,LANDSATを始めとする衛星センサは波長分解能が100nm程度である。波長分解能の劣化が樹冠率推定に及ぼす影響を調べる目的で,航空機センサの連続分光バンドの出力をLANDSAT等の衛星センサが持つ分光感度特性に合わせ込み,衛星観測シミュレーションを行ったところ,航空機センサの結果と同様に可視域で高い負の相関関係が存在し,相関係数も同程度であった。樹冠率推定に有効とされた波長や推定式は,対象森林の樹種,林床植生種,データ取得時期,さらに林床の土壌色や湿潤性などがスペクトル情報に大きな影響を与えることが予想され,状況に応じた有効な推定手法・係数等を求めていく必要があると考えらる。
〔発 表〕I-19〜21


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