〔期 間〕
平成8〜13年度(1996〜2001年度)
〔目 的〕
世界各地でトリクロロエチレン(TCE),テトラクロロエチレン(PCE),1,1,1-トリクロロエタン(TCA)およびPCB等の有機塩素化合物や水銀,6価クロム等の重金属による土壌・地下水汚染が顕在化し大きな問題となっている。これらの汚染の浄化に,より安価でかつ無害化処理技術である微生物を活用して汚染を修復するバイオレメディエーション技術の開発が期待されている。本研究では,有機塩素化合物や重金属の中で問題となっているTCE,PCBや水銀等で汚染した土壌・地下水の修復をケーススタディとして取り上げ,バイオレメディエーション技術の実用化に際しブレークスルーすべき (1)分解能強化微生物の開発 (2)土壌中における微生物の挙動解析 (3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発 (4)分子生態学的手法を用いる生態影響評価システムの開発(5)大型土壌・地下水シミュレータおよび現場における修復技術の適応性の評価の5課題に関する基盤研究を実施する。
〔内 容〕
(1)分解能強化微生物の開発
汚染物質分解菌の探索・分離を行い,次いで分解酵素遺伝子の単離,機能解析を行い,これらの結果をもとに,遺伝子操作等により分解能強化微生物の開発を行う。汚染物質として,TCE,PCE,TCA,PCB,水銀等に着目する。
(2)土壌中における微生物の挙動解析
土壌中の微生物DNAを直接抽出する方法を開発する。ついで,特異的なプライマーを用いて増幅,解析するPCR-MPN法による微生物の迅速計数法を開発し,土壌中での微生物の挙動解析を行う。
(3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発
運動性を有する微生物は外界からの化学物質等の刺激に応答して,その物質に集積したり,忌避したりする性質を有することが明らかにされつつある。この運動性に着目し様々な細菌を選抜し,画像処理による迅速高感度毒性試験法を開発する。
(4)分子生態学的手法を用いる生態影響評システムの開発
生態系への影響評価方法として微生物生態系に着目し,特に,エネルギー代謝,窒素代謝に関する微生物相等に着目し,これらの微生物の種類と量を,培養法およびDNA法を活用して計数し,土壌生態系への影響を評価する。
(5)土壌・地下水シミュレーターにおける修復技術の適応性の評価
フラスコ・カラムレベルの基礎データを踏まえて,シミュレータを用いて,汚染物質,浄化微生物の消長を明らかにするとともに,汚染現場でのバイオレメディエーションの有効性と安全性を評価する手法を開発する。
〔備 考〕
| 共同研究グループ |
: |
九州大学農学部・広島大学工学部・国立水俣病総合研究センター・
株式会社荏原製作所・秋田県立大学 |
〔成 果〕
(1)分解能強化微生物の開発
TCE, PCE,TCA,トリクロロ酢酸,PCB及び水銀化合物を分解する各種の微生物を単離・同定するとともに分解機構及び分解酵素の諸性質を調べた。好気的TCA分解菌Mycobacterium
sp. TA27株は,エタン,プロパン及びブタノールを炭素源として増殖し,種々の有機塩素化合物を分解でき,特にブタノールで培養したときに高いTCE分解活性を示した。分解酵素は,ヒドロキシラーゼとリダクターゼからなるマルチコンポーネントの新しい種類の酵素であった。好気的トリクロロ酢酸分解菌SS-1株は,Pseudomonas属の細菌であり,100mg/lのトリクロロ酢酸を9日間でほぼ完全に分解した。環境中から水銀除去能の高い新規微生物のスクリーニングを行い水銀耐性菌を129株分離した。水銀除去試験を行い,水銀除去能の高い株Bacillus
sp. D5を得た。本菌株は,チオールとしてチオグリコール酸ナトリウムを用いた場合,蒸留水中からの水銀除去はほとんどみられないが,河川水からは水銀除去が認められ,さらに沖積土壌から最も高い水銀除去活性を示した。自然界には有害物質を分解できる多くの未知の微生物が存在していることが示唆された。
(2)土壌中における微生物の挙動解析
汚染環境中に導入された微生物の安全性の評価項目として,環境中における生残・増殖性は重要である。それゆえ,培養を必要とせず,かつ短期間で検出が可能な導入微生物の検出法を検討した。TCE分解能を有するメタン資化性菌Methylocystis
sp. M(M株)M株の酸素添加酵素メタンモノオキシゲナーゼ(MMO)は,TCE分解のキーエンザイムである。そこで,このMMO遺伝子の一部をPCRで増幅することによるM株の検出を試みた。PCR産物を定量できるPRISM7700を用いた検出法を検討し,プライマー,プローブ濃度等のPCR反応条件の検討を行い最適化した結果,検出限界はPCR反応液当たり1.5細胞となった。PCR法は地下水中のフミン物質により妨害され感度が低下するため,フィルター洗浄法を開発することにより,反応液中に5細胞までの検出が可能となった。従来の計数法では1カ月を要したものが数時間で計数が可能となった。
(3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発
バイオレメディエーションによる有害代謝生産物の生成の有無を明らかにするため,運動性を有する微生物のセンサー機能に着目し,迅速高感度毒性試験法の開発を試みた。Pseudomonas
aeruginosa PAO1株は,TCE,PCE,クロロホルムを忌避物質として認識すること,さらにこれらの物質に対する閾値は,0.15,3,10mMであることが判明した。また,緑色蛍光を発する大腸菌を用いて,化学物質対する細菌の挙動を簡便に計測できる蛍光プレートリーダ法を開発した。運動性細菌を活用する迅速簡便有害性試験法を確立することができた。
(4)分子生態学的手法を用いる生態影響評価システムの開発
バイオレメディエーション技術の土壌生態系への影響を評価するため,微生物生態系に着目し,生態系の保全に関与する微生物のポピュレーションダイナミックスによる生態系影響評価法を検討した。アンモニア酸化細菌,亜硝酸酸化細菌,メタノール資化性菌,メタン酸化細菌,タンパク質分解細菌,脱窒菌を簡便で再現性よく計数できるマイクロプレートMPN法を開発した。本手法を用いてTCEの微生物相への影響を調べた。TCEが100mg/l以上で微生物相への影響が認められたが,TCEの除去により微生物相は元の状態に戻ることが確認された。
(5)土壌・地下水シミュレータおよび現場における修復技術の適応性の評価
ステンレス製カラムからなるモデル土壌・地下水系を作成し,TCE汚染地下水を通水し,M株の浄化能を調べた。M株は,メタン,酸素,窒素,リン添加により土壌・地下水中で増殖できること,M株の添加量の増大に伴い,TCEの除去率が向上すること,メタン濃度が浄化能に大きく関与していることが明らかとなった。大型土壌シュミュレータを用いて,水不飽和帯土壌におけるM株のTCE除去効果を調べた。TCE1mg/lの汚染土壌へM株を添加すると,数時間で浄化されることが判明した。M株の有効性が確認された。
水銀還元酵素遺伝子群(merオペロン)を組み込んだ組換え微生物Pseudomonas
putida PpY101/pSR134を用いて水銀除去実験を行った。これまで40ppmの塩化第二水銀を24時間で蒸留水中から完全に除去できること,さらに自然水中からも水銀除去できることが示された。次いで,土壌スラリー中からの水銀除去条件を検討した。チオール及び塩化ナトリウムの添加が,土壌粒子に吸着した水銀の遊離に効果があることが認められ,添加した水銀の約70%の除去が可能となった。また,土壌スラリーのように水で飽和していない不飽和土壌について除去試験を試みたところ,5mg-Hg/kgの塩化第二水銀で汚染させた土壌から最大で添加量の50%の水銀除去が認められた。
〔発 表〕B-25,26,103〜109,111,112,b-107〜117,252,254〜262,g-45,46
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