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特殊法人等による公募型研究


(1)リスク評価のためのダイオキシンによる内分泌撹乱作用の解明

〔代表者〕
環境健康部 遠山千春
〔分担者〕
環境健康部 野原恵子・藤巻秀和・小林隆弘・大迫誠一郎・石村隆太・青木康展・
石塚真由美・梅津豊司・宮原裕一
地域環境研究グループ 米元純三・曽根秀子
特別流動研究員 西村典子
科学技術特別研究員 高永博実
共同研究員 掛山正心・九十九伸一・久寿米木幸寛・鈴木智尋
〔期 間〕
 平成10〜14年度(1998〜2002年度)

〔目 的〕
 比較的低濃度のダイオキシン類への暴露によって精子形成能の低下,子宮内膜症の発生,性比の異常,内分泌・免疫系(甲状腺ホルモン・リンパ球サブセットなど)の揺らぎ,脳機能・行動への影響など,内分泌攪乱作用を示唆する報告が蓄積しつつある。しかし,ダイオキシンの内分泌攪乱作用の実態とそのメカニズムについては,ほとんど解明が進んでいない。そこで,我々は,今回の研究を,単に学術的関心のみの基礎研究ではなく,現実に求められているリスク評価へつながる研究として位置づけた。具体的には,マウスやラットなどの実験動物を用いて,受精卵から出生までの最も感受性が高い時期にダイオキシンに暴露させ,生殖機能,脳機能・行動,免疫機能にどのような影響がいかなるメカニズムで生じるのかを解明することを目指している。

〔内 容〕
 生殖機能に及ぼす影響の研究においては,(1)受精卵から胚盤胞にいたるまでの各段階の初期胚の発生過程や雌雄の受精卵の生存率及び着床率への影響(2)雄の外部生殖器および副生殖腺の発達阻害,及び精子形成への影響(3)胎盤機能への影響に関してメカニズムの解明を行う。
 脳機能・行動に及ぼす影響の研究においては,(1)脳の性分化,及び性行動に関係する遺伝子の解析,並びに神経細胞における情報伝達系への影響 (2)ダイオキシン類の生体内動態に関与する甲状腺ホルモン輸送タンパクと甲状腺ホルモン系への影響 (3)行動毒性学的影響について研究を進める。
 免疫機能への影響の研究においては,(1)T細胞をはじめとする免疫細胞の分化や機能 (2)アトピー性皮膚炎自然発症マウス(NC/Nga)におけるアレルギーの発症・増悪(3)自己免疫疾患モデルマウスにおける自己免疫疾患の発症・増悪に関して影響およびメカニズムを解明する。
 リスク評価に関する研究においては,上記のサブテーマに関連して,(1)標的臓器,肝,血液,脂肪組織中ダイオキシン濃度の測定,経胎盤暴露による胎仔へのダイオキシンの移行 (2)標的臓器を中心とした病理組織学的検索 (3)暴露量と影響指標(エンドポイント)との関係の整理を通して総合的なリスク評価を行う。

〔成 果〕
 生殖機能グループにおいては,妊娠15日目に暴露した母親から生まれた雄のマウスにおいて,肛門生殖突起間距離の減少,副生殖腺重量の減少が,50ngTCDD/kgという低用量で観察された。また,ラットの胎盤細胞にダイオキシンを暴露し,特定のタンパク質の発現の抑制及び上昇が観察された。脳機能・行動グループにおいては,ダイオキシンを投与したラットから生まれた雌ラットの膣開口が早くなる傾向が認められ,またアロマターゼの活性が阻害される傾向があるとの示唆的データも得られた。免疫機能グループにおいては,低用量ダイオキシン暴露によって,ラット胸腺重量の減少と胸腺細胞の分化の偏りが生ずることが示され,また胸腺から末梢へ供給されるT細胞が減少することが示唆された。アトピー性皮膚炎自然発症マウスでは,ダイオキシン暴露によりサイトカインや抗体産生に変化がみられたが,発症に対する影響は認められなかった。リスク評価グループにおいては,GC/MSを用いて,妊娠時期に暴露したダイオキシンの胎児への移行量などを解析した。また,ダイオキシンの暴露とバイオマーカーとの検討を行い,酸化的ストレスの亢進について新たな知見が得られた。
〔発 表〕B-43〜45,124,125,E-1,5,21,22,34,b-280〜289,e-42〜46,52〜56


(2)微生物を活用する汚染土壌修復の基盤研究

〔代表者〕
地域環境研究グループ 矢木修身
〔担当者〕
地域環境研究グループ 岩崎一弘・兜 眞徳・森田昌敏
水土壌圏環境部 内山裕夫・冨岡典子・向井 哲
〔期 間〕
 平成8〜13年度(1996〜2001年度)

〔目 的〕
 世界各地でトリクロロエチレン(TCE),テトラクロロエチレン(PCE),1,1,1-トリクロロエタン(TCA)およびPCB等の有機塩素化合物や水銀,6価クロム等の重金属による土壌・地下水汚染が顕在化し大きな問題となっている。これらの汚染の浄化に,より安価でかつ無害化処理技術である微生物を活用して汚染を修復するバイオレメディエーション技術の開発が期待されている。本研究では,有機塩素化合物や重金属の中で問題となっているTCE,PCBや水銀等で汚染した土壌・地下水の修復をケーススタディとして取り上げ,バイオレメディエーション技術の実用化に際しブレークスルーすべき (1)分解能強化微生物の開発 (2)土壌中における微生物の挙動解析 (3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発 (4)分子生態学的手法を用いる生態影響評価システムの開発(5)大型土壌・地下水シミュレータおよび現場における修復技術の適応性の評価の5課題に関する基盤研究を実施する。

〔内 容〕
 (1)分解能強化微生物の開発
 汚染物質分解菌の探索・分離を行い,次いで分解酵素遺伝子の単離,機能解析を行い,これらの結果をもとに,遺伝子操作等により分解能強化微生物の開発を行う。汚染物質として,TCE,PCE,TCA,PCB,水銀等に着目する。
 (2)土壌中における微生物の挙動解析
 土壌中の微生物DNAを直接抽出する方法を開発する。ついで,特異的なプライマーを用いて増幅,解析するPCR-MPN法による微生物の迅速計数法を開発し,土壌中での微生物の挙動解析を行う。
 (3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発
 運動性を有する微生物は外界からの化学物質等の刺激に応答して,その物質に集積したり,忌避したりする性質を有することが明らかにされつつある。この運動性に着目し様々な細菌を選抜し,画像処理による迅速高感度毒性試験法を開発する。
 (4)分子生態学的手法を用いる生態影響評システムの開発
 生態系への影響評価方法として微生物生態系に着目し,特に,エネルギー代謝,窒素代謝に関する微生物相等に着目し,これらの微生物の種類と量を,培養法およびDNA法を活用して計数し,土壌生態系への影響を評価する。
 (5)土壌・地下水シミュレーターにおける修復技術の適応性の評価
 フラスコ・カラムレベルの基礎データを踏まえて,シミュレータを用いて,汚染物質,浄化微生物の消長を明らかにするとともに,汚染現場でのバイオレメディエーションの有効性と安全性を評価する手法を開発する。

〔備 考〕

共同研究グループ 九州大学農学部・広島大学工学部・国立水俣病総合研究センター・
株式会社荏原製作所・秋田県立大学

〔成 果〕
 (1)分解能強化微生物の開発
 TCE, PCE,TCA,トリクロロ酢酸,PCB及び水銀化合物を分解する各種の微生物を単離・同定するとともに分解機構及び分解酵素の諸性質を調べた。好気的TCA分解菌Mycobacterium sp. TA27株は,エタン,プロパン及びブタノールを炭素源として増殖し,種々の有機塩素化合物を分解でき,特にブタノールで培養したときに高いTCE分解活性を示した。分解酵素は,ヒドロキシラーゼとリダクターゼからなるマルチコンポーネントの新しい種類の酵素であった。好気的トリクロロ酢酸分解菌SS-1株は,Pseudomonas属の細菌であり,100mg/lのトリクロロ酢酸を9日間でほぼ完全に分解した。環境中から水銀除去能の高い新規微生物のスクリーニングを行い水銀耐性菌を129株分離した。水銀除去試験を行い,水銀除去能の高い株Bacillus sp. D5を得た。本菌株は,チオールとしてチオグリコール酸ナトリウムを用いた場合,蒸留水中からの水銀除去はほとんどみられないが,河川水からは水銀除去が認められ,さらに沖積土壌から最も高い水銀除去活性を示した。自然界には有害物質を分解できる多くの未知の微生物が存在していることが示唆された。
 (2)土壌中における微生物の挙動解析
 汚染環境中に導入された微生物の安全性の評価項目として,環境中における生残・増殖性は重要である。それゆえ,培養を必要とせず,かつ短期間で検出が可能な導入微生物の検出法を検討した。TCE分解能を有するメタン資化性菌Methylocystis sp. M(M株)M株の酸素添加酵素メタンモノオキシゲナーゼ(MMO)は,TCE分解のキーエンザイムである。そこで,このMMO遺伝子の一部をPCRで増幅することによるM株の検出を試みた。PCR産物を定量できるPRISM7700を用いた検出法を検討し,プライマー,プローブ濃度等のPCR反応条件の検討を行い最適化した結果,検出限界はPCR反応液当たり1.5細胞となった。PCR法は地下水中のフミン物質により妨害され感度が低下するため,フィルター洗浄法を開発することにより,反応液中に5細胞までの検出が可能となった。従来の計数法では1カ月を要したものが数時間で計数が可能となった。
 (3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発
 バイオレメディエーションによる有害代謝生産物の生成の有無を明らかにするため,運動性を有する微生物のセンサー機能に着目し,迅速高感度毒性試験法の開発を試みた。Pseudomonas aeruginosa PAO1株は,TCE,PCE,クロロホルムを忌避物質として認識すること,さらにこれらの物質に対する閾値は,0.15,3,10mMであることが判明した。また,緑色蛍光を発する大腸菌を用いて,化学物質対する細菌の挙動を簡便に計測できる蛍光プレートリーダ法を開発した。運動性細菌を活用する迅速簡便有害性試験法を確立することができた。
 (4)分子生態学的手法を用いる生態影響評価システムの開発
 バイオレメディエーション技術の土壌生態系への影響を評価するため,微生物生態系に着目し,生態系の保全に関与する微生物のポピュレーションダイナミックスによる生態系影響評価法を検討した。アンモニア酸化細菌,亜硝酸酸化細菌,メタノール資化性菌,メタン酸化細菌,タンパク質分解細菌,脱窒菌を簡便で再現性よく計数できるマイクロプレートMPN法を開発した。本手法を用いてTCEの微生物相への影響を調べた。TCEが100mg/l以上で微生物相への影響が認められたが,TCEの除去により微生物相は元の状態に戻ることが確認された。
 (5)土壌・地下水シミュレータおよび現場における修復技術の適応性の評価
 ステンレス製カラムからなるモデル土壌・地下水系を作成し,TCE汚染地下水を通水し,M株の浄化能を調べた。M株は,メタン,酸素,窒素,リン添加により土壌・地下水中で増殖できること,M株の添加量の増大に伴い,TCEの除去率が向上すること,メタン濃度が浄化能に大きく関与していることが明らかとなった。大型土壌シュミュレータを用いて,水不飽和帯土壌におけるM株のTCE除去効果を調べた。TCE1mg/lの汚染土壌へM株を添加すると,数時間で浄化されることが判明した。M株の有効性が確認された。
 水銀還元酵素遺伝子群(merオペロン)を組み込んだ組換え微生物Pseudomonas putida PpY101/pSR134を用いて水銀除去実験を行った。これまで40ppmの塩化第二水銀を24時間で蒸留水中から完全に除去できること,さらに自然水中からも水銀除去できることが示された。次いで,土壌スラリー中からの水銀除去条件を検討した。チオール及び塩化ナトリウムの添加が,土壌粒子に吸着した水銀の遊離に効果があることが認められ,添加した水銀の約70%の除去が可能となった。また,土壌スラリーのように水で飽和していない不飽和土壌について除去試験を試みたところ,5mg-Hg/kgの塩化第二水銀で汚染させた土壌から最大で添加量の50%の水銀除去が認められた。
〔発 表〕B-25,26,103〜109,111,112,b-107〜117,252,254〜262,g-45,46


(3)北西太平洋の海洋生物科学過程の時系列観測


〔代表者〕
地球環境研究グループ 野尻幸宏
〔分担者〕
地球環境研究グループ 向井人史
化学環境部 横内陽子
〔期 間〕
 平成9〜14年度(1997〜2002年度)

〔目 的〕
 本研究は,国際共同研究であるJGOFS(Joint Global Ocean Flux Study)の枠組みの中で,北西太平洋高緯度海域の定点時系列観測を行う。高緯度海域の特徴である季節的な水温変化,混合層深度変化によってもたらされる海洋構造の変化を理解した上で,物質循環の季節変化の全体把握を行う。特に海域のCO2の交換(吸収・放出)にかかわる生物生産の規定要因を解明するために,炭酸系の精密観測,生物生産量と関連因子の解明に重点を置く。既存時系列観測である定期貨物船観測,衛星観測で得られる表面水情報と,この時系列観測で得られる鉛直プロファイルの情報を総合解析することによって,季節的に変動する現象を正確に把握することができる。北太平洋では,亜寒帯のアラスカ湾(ステーションP,カナダ)と亜熱帯のハワイ(HOT,米国)の2点で時系列物質循環観測が継続されているが,我が国では外洋定点での時系列観測が行われていなかった。本研究課題によって,北緯44°,東経155°に定めた亜寒帯北西太平洋定点(KNOT: Kyodo North pacific Ocean Time series)で観測を行う。観測によって海洋物質循環の東西太平洋比較,亜寒帯・亜熱帯比較を行い,太平洋全域の物質循環理解を助ける結果を得ることを目的とする。

〔内 容〕
 北西太平洋亜寒帯域では,CO2の吸収・放出に大きな季節変化があり,3月にはCO2分圧の最大値がみられCO2放出域として作用する。春の植物生産で無機炭酸が固定されCO2分圧は低下し吸収域に変わる。秋にCO2分圧は最低値となった後,混合層深度が増して,亜表層からの無機炭酸の回帰で冬季のCO2分圧上昇が起こる。栄養塩類も,同様な季節変化を示す。これは,国立環境研究所とカナダ海洋科学研究所の共同プロジェクトによる貨物船観測で確かめられた。一方,東部太平洋ではCO2分圧,栄養塩類の季節振幅が比較的小さい。このことは,西部太平洋の生物生産性の高さを示している。この機構の解明には,表層に限られる商船による観測では不十分で,海洋の鉛直構造と関連物質の分布を計測できる研究船の観測が必要である。特に一定点での季節変化の観測は,その支配要因解明のために,重要な手法である。
 本研究では,国内研究機関所属研究船の北西太平洋高緯度海域航海の中で,一定点で質の揃った化学・生物観測を行い,時系列的にデータを集めて解析する。1998年6月から定点での本格的観測を開始した。1999年度はその2年目の観測を行った。

〔成 果〕
 (1)定点時系列観測
 1998年は6月から12月にかけて8回の本格的観測を行った。1999年は海洋科学技術センター「みらい」により5月に2回,北海道大学「北星丸」により6月に2回,7・8月に各1回,東京大学「白鳳丸」により6・8月各1回,東海大学「望星丸」により10月に2回の計10回の本格的観測を行った。また,2000年に入り「みらい」によって1・2月に各1回の冬季観測を行うことができた。短い場合1昼夜,長い場合は4日の定点保持を行い,その間に表層から深層までの採水,漂流系での沈降粒子捕集実験,培養による植物プランクトン生産量の測定,長期係留系の設置回収,プランクトン試料採取,海水の光学特性測定など,多くの項目の観測を行った。
 このうち,炭酸系(全炭酸,アルカリ度,CO2分圧),栄養塩,溶存酸素,植物プランクトンの一次生産量は,本プロジェクト担当者で厳密に精度管理した船上測定を行った。
 (2)炭酸系の観測
 KNOT定点では,冬から春に表層海水の全炭酸濃度が最大となり,春から夏の生物生産で減少する明瞭な季節性が見られる。KNOT定点は,亜寒帯フロントの南の縁に位置するので,表層海水は33.2より低塩分であることが多いが,混合域の海水の北上が見られると,黒潮海水の影響を受けた高塩分・低栄養塩の表層海水に覆われることがある。1998年の時系列では6月下旬の1回がそれであったが,1999年は5月中旬,6月上旬,7月下旬と3回の観測時に,黒潮の影響のある表面水が見られた。黒潮影響があると,全炭酸・アルカリ度とも親潮水より高くなるので,時系列解析には,低塩分時のデータを除外しなくては,合理的な濃度変化を抽出することができない。
 黒潮影響のうち観測航海の結果では,定点KNOTで全炭酸の冬の最大値と夏の最小値の間に約100μmol/kgの濃度差があった。これは,定点観測点で全炭酸データが測定されているバミューダのBATS点,ハワイのHOT点がそれぞれ40〜50および<20μmol/kgであるのと比べて極めて大きい。このような大きな全炭酸の濃度変化は,春から夏の生物生産で生じるので,KNOT点でのこの期間の大きな炭素輸送量(export production)あるいは新生産量(new production)を物語る。1998年と1999年の間で振幅の違いは見られなかった。2000年2月に最大値を記録したが,このときは混合層が100mの塩分躍層に達した直後であり,その後の混合の進行で,春の最大値はさらに高くなるものと考えられる。春から夏の時期は水温成層していることと風速が低くガス交換量が小さいことから,全炭酸量の変化から炭素輸送量を見積もることができる。その結果によると,1998年6〜8月の70日間,1999年5〜8月の84日間の新生産量はそれぞれ330と270mgC/m2/dayであった。また,7〜8月と比較して5〜6月の期間は2倍ほど大きな新生産量が見込まれた。
 一方,pCO2は航海間の変動が大きく,2年の時系列では確定的な季節変化は得られなかった。ただし,商船の観測によって推定されている変化と矛盾しないデータが得られた。すなわち,pCO2の季節変化は秋に最小となり大気に対して約40μatmの低下,春に最大となり大気に対して約20μatmの上昇である。このことは,海域のCO2吸収が主として秋に起こることを意味している。すなわち,春から夏の生物生産で表層海水の全炭酸が低下して行くが,夏は気体ガス交換が小さく大気からのCO2吸収量は大きくならない。しかし,夏に水温が上昇しても生物による無機炭酸の利用が続き,水中のpCO2は高まらない。このことが秋のpCO2を低く保つので,主たるCO2吸収がその時期に起こる。秋の終わりから冬になると,鉛直混合のために表層水と全炭酸濃度の高い亜表層水が混合するのでpCO2が高まる。
 (3)生物生産の観測
 定点KNOTでのクロロフィルa量は0.4〜0.5μg/lであり,5月から6月上旬や10月に一時的に1〜2μg/lまで高まることがある。冬季も大きく減少することはない。このことから,定点KNOTは北海道沿岸域や千島列島沿いに見られる大きな生産の海域よりは外洋的である。定点では1998年に6回,1999年に10回の13C法による一次生産量測定を行った。KNOT定点での一次生産量は5月には500mgC/m2/dayであり,6〜8月は160〜290mgC/m2/day,10〜12月は160〜110mgC/m2/dayに低下した。測定された一次生産量はより生物生産の小さいと考えられるハワイのHOTやアラスカ湾のSt. Pと比較してもやや低い値であった。これは,KNOTでは一次生産の高い深度がほぼ20mまでであり,それ以深では生産量が急激に減少することによる。また,KNOT点での一次生産測定ではエピソード的な植物プランクトン量増大時を捕らえられなかった。
 全炭酸の変化から得られる新生産は,期間の積算値であるので,この大きな新生産と比較的小さな一次生産を説明するには,春から夏にかけてエピソード的生産が支配的であると考えざるを得ない。定点KNOTそのもので強いブルームが見られた航海はなかったが,1999年5月の「みらい」航海ではKNOT北東の44.67°,東経155.85゜で表層のクロロフィル極大が13.0μg/lのブルームを確認し,その点での一次生産は1700mgC/m2/dayであった。
 これらのことから,定点KNOTでの生物生産は,春から夏にかけてケイ藻を主体とする効率的に沈降する植物がエピソード的に増減して進むという,仮説が提唱できる。おそらく,春から夏にかけてこの海域の植物プランクトン量はダイナミックに増減し,空間的にも不均一に変動する。そのため,6〜7月の一次生産量からは説明が困難な量の新生産,すなわち,炭素輸送が起こる。この仮説を確かめるためには,エピソード的植物量の増減,海域の不均一性を衛星データや貨物船観測から確認する,既に行われた表層沈降粒子捕集実験結果の解析を進める,観測航海で海域の不均一な現象の程度を確認するなどの研究を進める。集中的観測は2000年夏で終了するので,観測データの解析とモデル化の研究が今後の課題である。


(4)超伝導受信機を用いたオゾン等の大気微量分子の高度分布測定装置の開発

〔代表者〕
名古屋大学 福井康雄
〔分担者〕
大気圏環境部 中根英昭・長浜智生*
地球環境研究グループ 秋吉英治    
(*科学技術特別研究員)
〔期 間〕
 平成9〜14年度(1997〜2002年度)

〔目 的〕
 オゾン層破壊の原因を明らかにするためには,オゾン及びオゾン層破壊の証拠物質であるClOの高度分布を測定することが必要である。ミリ波分光計はオゾンとClOの両分子を測ることのできる装置である。本研究は,200GHz帯のミリ波分光計を開発し,これを南米チリに設置して観測を行うとともに観測データを用いて,南極オゾンホールとの関係等,オゾン及びオゾン層破壊物質の動態解明とモデル化を行うことを目的とする。

〔内 容〕
 本研究は次の3つのサブテーマから構成されている。
 (1)大気微量分子高度分布測定システムの開発
 (2)エアロゾル変動の解析とモデル化
 (3)オゾン・ClO変動の解析とモデル化
 本研究所が担当しているサブテーマ(3)では,三次元的に運動する気塊中の光化学反応を記述するモデル(トラジェクトリーボックスモデル)の高度化を行うとともに,渦位分布のアニメーションを作成し,南極及び北極の極渦の運動及び中緯度との相互作用を可視化できるようにした。
〔発 表〕f-77〜79


(5)生物・物理・化学的因子の制御による微生物細胞の活性化・機能強化

〔代表者〕
筑波大学 前川孝昭
〔分担者〕
地域環境研究グループ 稲森悠平
〔期 間〕
 平成8〜12年度(1996〜2000年度)

〔目 的〕
 水環境修復に貢献する有用微生物の中で,特に増殖が遅い微小後生動物に関し,生物・物理・化学的因子の制御による微生物細胞の活性化・機能強化の重要な一環として,有用微生物の大量培養法,長期的保存・再生法,および排水処理施設等浄化プロセスへの定着化手法について,研究,開発を行う。

〔内 容〕
 500l大型大量培養装置を用い,米ぬかを基質として輪虫類の大量培養を行ったところ,段階的に基質を添加することにより10,000N/mlまでの高密度化が可能となった。また,培養された輪虫類を実排水を基質とする担体流動床型浄化槽を模擬したリアクターに添加したところ,添加しない対照系と比較し,輪虫類の個体数密度で2倍の定着,透視度の向上,および懸濁物質濃度の低減化が認められ,本法を用いることにより効果的な水質改善につながる基盤ができた。
〔発 表〕B-11,b-40,42,91,93


(6)生態工学を導入した汚濁湖沼水域の水環境修復技術の開発とシステム導入による改善効果の総合評価に関する研究

〔代表者〕

東北大学 須藤隆一

〔分担者〕

地域環境研究グループ 稲森悠平・水落元之
生物圏環境部 渡邉 信
化学環境部 彼谷邦光
水土壌圏環境部 徐 開欽
〔期 間〕
 平成9〜14年度(1997〜2002年度)

〔目 的〕
 人間活動に由来する生活排水などに含有されて湖に排出される窒素,リンによって,霞ヶ浦をはじめとする貴重な水資源である湖沼の富栄養化が進行している。この抜本的な対策として,窒素・リン対策が可能な高度合併処理浄化槽の開発および汚濁河川・水路の物理化学的手法と生態工学手法を活用したハイブリッド型直接的浄化技術の確立と効率的なエネルギー投資のための改善効果評価手法の開発を目的として研究を推進することとしている。

〔内 容〕
 セラミックス担体生物膜ろ過法やリンの回収リサイクルが可能な吸着脱リン法,生態工学を活用した水生植物による浄化システム等の研究成果を茨城県の補助事業ある霞ヶ浦水の路クリーンアップ事業において実用化できた。近赤外線分光分析法によるモニタリング手法を見いだし,水質自動連続測定装置を組み込んだモニタリング手法およびニューラルネットワーク解析の活用方法の提案を行うことができた。
〔発 表〕B-10,15,16,19,b-12,18,21,27,32,33,37,40〜42,55,58,62,67,70,73,
78〜81,88,91,93,224〜229


(7)都市ヒートアイランドの計測制御システム

〔代表者〕
慶應義塾大学 久保幸夫
〔分担者〕
地球環境研究センター 一ノ瀬俊明
〔期 間〕
 平成8〜12年度(1996〜2000年)

〔目 的〕
 都市の人工排熱を通じ,人間活動が都市の熱環境に与えるインパクトを正確に評価し,都市構造及び人間活動の制御がどの程度こうしたインパクトを軽減しうるのかを定量的に明らかにするため,地表面境界条件の重要な要素である都市人工排熱や土地利用・地表面物性の詳細なデータを作成し,ヒートアイランドや大気汚染現象の数値シミュレーションに反映させる。

〔内 容〕
 ドイツで事例の豊富な,都市における気候機能分析図及び都市計画への勧告図を東京において試作した。盛夏季には,日中南東方向から進入する海風が卓越し,これは赤坂御所,新宿御苑を結んだ低ラフネスゾーンの走向と一致する。その風下には人間活動の高度に集積した新宿副都心が存在し,海風を遮らずに導入し副都心の冷却を図るという戦略が示される。夜間は南南西方向に転向し,銀座界隈の道路網の走向に風向が一致する。
〔発 表〕I-3〜7,9,10,12,14,15,i-1,5,6


(8)都市交通の環境負荷制御システムに関する基礎的研究

〔代表者〕
学習院大学 岩田規久男
〔分担者〕
社会環境システム部 日引 聡
〔期 間〕
 平成9〜14年度(1997〜2002年度)

〔目 的〕
 本研究では,応用一般均衡環境経済モデルを開発し,2010年以降の日本のCO2排出量を1990年の6%削減のレベルに安定化させるための炭素税の導入が,産業構造の変化を通して,日本経済や貨物輸送や旅客輸送に及ぼす影響を,一般均衡のフレームワークを用いて分析する。

〔内 容〕
 応用一般均衡モデルを用いて,炭素税の導入(ただし,その税収を政府支出増加に使う)が経済および輸送部門(旅客輸送,貨物輸送)に及ぼす影響についてシミュレーションした結果,2010年において課すべき炭素税額は25,000/炭素トン,実質GDPは0.05%減少し,旅客輸送量と貨物輸送量は,それぞれ,5.0%,4.2%減少するという推計結果を得た。
〔発 表〕C-35,c-33〜35


(9) 植物由来および人工の内分泌撹乱物質の相互作用評価

〔代表者〕
自治医科大学 香山不二雄
〔分担者〕
地域環境研究グループ 平野靖史郎
〔期 間〕
 平成10〜14年度(1998〜2002年度)

〔目 的〕
 現代文明社会を支えている人工の化学物質の中には,生物の内分泌系を撹乱することにより生殖,内分泌,免疫,神経系に重大な悪影響を与える化学物質があることが明らかとなってきた。ほ乳類以外の野生生物では,因果関係が明らかな例がいくつか報告されているが,まだ人では内分泌撹乱化学物質の健康影響は明らかになっていない。内分泌撹乱化学物質の人の健康および生態系へのリスク評価を行うことは現時点の急務である。本研究では,内分泌撹乱化学物質の影響評価に,影響を与える植物エストロジェン(phytoestrogen)と人工の内分泌撹乱物質との相互作用をin vitro,in vivoの系を用いて評価する。in vitro検査では乳がん細胞株MCF-7またはリンパ球系細胞,骨組織由来細胞を用いて,植物エストロジェンおよび人工内分泌撹乱化学物質の影響の差および相互作用について,さらにその作用機序に関する研究を行う。in vivoの系では,胎児期の両物質群の暴露が免疫系の発育や骨代謝バランスにどのような影響を起こすのか検討を行う。

〔内 容〕
 植物エストロジェンの活性をMCF-7細胞のBrdUの取り込み速度を調べることにより測定した。クメステロールはダイゼインやジェニスタインよりも強い活性があることがわかった。また骨芽細胞においてTNFα刺激下でのIL-6産生に及ぼす植物エストロジェンの効果を調べた。17β-エストロジオールと同様にすべての植物エストロジェンは骨芽細胞のIL-6産生を阻害することが判明した。
〔発 表〕b-126


(10)東アジア域の地域気象と物質循環モデリングの総合化

〔代表者〕
九州大学 鵜野伊津志
〔分担者〕
大気圏環境部 江守正多・菅田誠治
〔期 間〕
 平成10〜13年度(1998〜2001年度)

〔目 的〕
 東アジア地域の大気環境予測は,土地利用の改変や植生変化に伴う地域気候変化のほかに,中国等の発展途上国の急速な経済発展による汚染物質排出量の増大に伴う越境大気汚染(酸性雨)の影響の重要性が指摘されている。そのため,我が国を含めた地域の詳細な大気環境予測・評価のための研究開発が必要であり,大気中微量成分の空間分布・時間変化を示す「化学天気予報図」等を作成することが重要である。本研究では地域気候・気象モデルによる東アジア域の気候・気象変動解析と対流圏物質輸送モデリングを高速ネットワークを用いて複数の機関が密接にデータ交換しつつ並列に進め,その結果をもとに「化学天気予報図」の作成と可視化を行うことを目的とする。

〔内 容〕
 コロラド州立大学で開発された領域大気モデリングシステム(CSU-RAMS)を用いて,東アジア地域の特性を高精度に反映させた地域気象の再現性の検討を進めた。同時に,CSU-RAMSと結合する物質輸送モデルとして,米国EPA(環境保護庁)が開発を進めている第3世代の物質輸送モデル(Models-3/CMAQ)のアジア域への応用をU.S. EPAと共同で進めた。入力データとしてCSU-RAMSの雲・降水を含む気象データを用いるためのインターフェイスを確立した。RAMSで用いている土地利用・植生データと同じデータを用いるようにインターフェイスを改良した。さらに,このシステムを用いて東アジア域における硫酸エアロゾルのシミュレーションを行った。1997年の1月に九州北部で観測された硫酸エアロゾル高濃度の濃度・時期についてよい再現を確認した。また,乾性・湿性沈着について分布および量を観測と比較して検討した結果,分布は概ね再現され,量についてもファクター2以内の誤差に収まっていることが確認された。
〔発 表〕f-13,15,25,35


(11)ネットワークによる地球環境衛星データベースの構築と高度利用に関する総合的研究

〔代表者〕
東京理科大学 高木幹雄
〔分担者〕
社会環境システム部 田村正行
〔期 間〕
 平成10〜13年度(1998〜2001年度)

〔目 的〕
 本研究では,NOAA衛星とGMS衛星の受信局を高速ネットワークで結ぶことにより,AVHRR及びVISSRデータをサイバースペース上に集積し,陸域,海域,大気域の科学的なデータセットを作成することを目的とする。AVHRRデータからは,最新の物理量推定アルゴリズムを用いた高速大容量データ処理を行い,毎日の植生指数分布図と海面水温分布図を空間分解能1kmで作成する。また,VISSRデータにより1時間ごとの雲分布図を作成し,AVHRR解析結果と組み合わせることにより,アジア地域における環境の長期広域変動を予測する。

〔内 容〕
 本研究所の黒島受信局,東京大学生産技術研究所,タイ国アジア工科大学,千葉大学のウランバートル受信局で受信したNOAA/AVHRRデータを用いて,ウラル山脈より東側の全アジア域における植生指数(NDVI)モザイク図を,地上分解能1km,時間間隔10日で,1998年一年間にわたって作成した。また,NDVIに加えて,AVHRR5バンドの元データ,衛星仰角,太陽仰角,衛星−太陽方位角,及び観測日を記録し,これらすべてを含む10バンドのデータセットを完成させた。
〔発 表〕C-20,23,24


(12)資源循環・エネルギーミニマム型社会システムの構築

〔代表者〕
北海道大学 福田正己
〔分担者〕
地球環境研究センター 井上 元
〔期 間〕
 平成10〜15年度(1998〜2003年度)

〔目 的〕
 シベリアの永久凍土は夏季には融解するので南部においては森林,北極域では潅木の混じった草地が存在する。森林は日光が地面に直達するのを妨げ凍土の融解を防いでおり,凍土は融解で生じた水や降雨の地下浸透を妨げ,少ない雨量でも植物に水分を供給する。この森林が火災で焼失した場合,永久凍土の融解が進行し森林と凍土の共生関係が崩壊し,また,火災に伴う二酸化炭素,炭化水素,一酸化炭素の放出は大気環境に大きなインパクトを与える。これらのプロセスを明らかにするフィールド研究を行う。

〔内 容〕
 本年度は,森林火災の生じた湿原からのチャンバー法によるメタン発生量測定を行った。チャンバーのベースを6カ所設置し,アクリル製の箱をその上に置き箱内のメタン濃度増加を測定した。メタンセンサーは,新たに開発したポータブルの半導体センサーで,約5分間で1カ所の測定が可能である。火災後は,樹木が倒れて生じた穴に水が溜まっている場所や,乾いて蘚苔類が生息している場所などが混在している。水の溜まった場所からは気泡によるメタン発生も含めて,一般の湿原の10倍もの発生が観測された。乾燥した場所からは,メタンの発生は観測できなかった。


(13)ダイオキシンの定量的リスク(毒性)評価システムの研究開発

〔代表者〕
化学環境部 藤井敏博
〔分担者〕
立教大学 常盤広明・立川仁典
星薬科大学 市川 紘・香川博隆
〔期 間〕
 平成11年度(1999年度)

〔目 的〕
 ダイオキシン問題がとりただされる契機となった1976年イタリアのセベソにおける化学工場の爆発事故以来,世界保険機構(WHO)や日本の厚生省,環境庁を中心に,人体に影響のないとされる基準値の策定がされてきたが,わずか15年の間にその値は当初の約1/100に変更されている。これはダイオキシンが極めて毒性の強い物質であり,実験データが不足していることや,この問題が注目されるようになってからまだ日が浅く,長期的な実証データがとれないことに起因している。そこで今回,実際の物質を直接扱わずに,かつ短期間でダイオキシンのリスク(毒性)評価システムを確立することを目的として,理論指向型システムを構築する。

〔内 容〕
 本課題では,上記手法を70種以上に及ぶダイオキシンの異性体に適用し,それを基に毒性の発現する際,レセプターがどのような相互作用をするか,どの物理量が毒性に寄与するかを調べ,定量的リスク評価システムの研究開発を行った。具体的には,すべての化合物に対して統一的な精度をもった物理量を入力層とするため,新たな理論的指標として「スケール化された絶対ハードネスおよび絶対電気陰性度」を用いて,階層型ニューラルネットワーク法により定量的構造活性相関の解析を行った。
〔発 表〕d-41,44


(14)生物多様性データベースのプロテオーム情報による再構築

〔代表者〕
生物圏環境部 渡邉 信
〔分担者〕
地球環境研究センター 清水英幸
〔期 間〕
 平成11年度(1999年度)

〔目 的〕
 全生物界を進化の視点から網羅し,分岐順序を議論する系統樹を作成することを目的として,種の命名記載情報を正確に網羅した基盤データベースの構築,情報発現系であるタンパク質分子の全発現系解析システム,プロテオームの開発を目的とした。

〔内 容〕
 1999年までに発表された細菌・古細菌および,1994年までに発表されたシアノバクテリアに関する学名情報を網羅的に整理し,2つのデータベースに格納した。学名を見いだし項目として,ネットワーク上に分散している,有用関連情報へのアクセスと,その情報を研究に活用する環境をWWWブラウザを介して提供できるシステムを開発した。プロテオーム解析は,系統関係の解析に画期的な発現全タンパク質の情報を提供する。この情報を生物学研究者に広く利用の機会を提供するために,プロテオーム情報を利用した系統解析ツールを試作した。
〔発 表〕h-26


(15)生態工学導入による有毒アオコ発生湖沼の生態系修復技術の開発

〔代表者〕
地域環境研究グループ 稲森悠平
〔分担者〕
地域環境研究グループ 水落元之
水土壌圏環境部 徐 開欽
〔期 間〕
 平成11年度(1999年度)

〔目 的〕
 中国をはじめとする開発途上国では生活排水,産業排水等に由来する湖沼の水質汚濁により生態系破壊が累進的に加速しており安全な水資源を確保することも困難な状態にある。このままの状況を放置することは極めて危険である。このため,国情に合う多大な処理施設とエネルギー消費を伴うことなく,生態工学を活用する有用生物による自然の浄化能力を強化し,高度・効率化した生態系修復技術が求められている。また,その技術は我が国における湖沼生態系修復技術の多様化を図る際において基盤となるものである。本研究では上記の点を鑑み,中国をはじめとする開発途上国の湖沼生態系修復技術としての適正手法の開発を目的として推進するものであり,中国のデンチ湖及びタイ王国のバンプラ湖を対象とし,浮水植物と沈水植物を植栽した湖内生態修復対策,水生植物を植栽した沿岸人工湿地帯による修復対策,担体を充てんする流入小河川の直接浄化対策,高度処理土壌トレンチを活用する分散式生活排水の発生源対策等の生態工学手法の導入による湖の生態系修復技術の開発を推進し,アジア地域の水環境修復の核となる技術を創造することを目標とし研究を推進した。

〔内 容〕
 本国際共同研究は,有毒アオコの発生により危機的状況に直面しつつある中国デンチ湖およびタイ王国バンプラ湖を対象とし,生態工学技術を導入した水耕・水生植物植栽修復対策,収穫植物のリサイクル対策,流入小河川の生物付着担体充てん直接浄化対策,土壌浄化法による生活排水の発生源高度化対策等の開発研究を @直接浄化機能の高い有用生物の検索,培養と現地の植栽技術開発 A食物源としてリサイクルの可能な水耕植物を活用した浄化技術の開発 B有用植物を活用した生態工学手法による湖沼生態系修復技術の開発 C土壌トレンチ等を活用した分散型生活排水の高度処理技術の開発 D藻類,有用水生植物の調査及び有毒アオコ対策技術の開発 E浄化槽,水生植物浄化法を活用した分散型生活排水の高度処理技術の開発の各項目で実施し,以下の結果を得た。
 中国,タイ王国における毒性物質ミクロキスチンの調査および富栄養化対策技術の開発を行う上でのネットワーク作りと技術基盤の構築をめざしての調査・研究を通して公的研究機関や大学と共同研究を行える体制が検討され,生態工学手法を活用した富栄養化抑制型適正水環境改善技術を開発する上での基盤をかなりの程度まで構築することができた。また,中国,タイ王国ともに藍藻類が産生するミクロキスチンによる汚染が顕在化していることが明らかとなった。中国,タイ王国ともに水耕栽培浄化法において付加価値の高い植物の栽培が可能であり,食物生産と浄化が経済的に成立する可能性の高いことが示唆された。また,日本で開発されつつある高度処理浄化槽は中国都市部の下水道が普及していない地域ではその活用が可能であるが,郊外においては経済性の面から現状では適していないため,土壌トレンチなどの土壌浄化システムの技術開発を行い,中国への技術移転の可能なシステムの提案を行うことが重要と考えられた。これらのことから,アジア・太平洋地域の開発途上国では国情に応じた生態工学手法を活用し,環境低負荷・資源循環型の処理システムを構築することの重要性が示唆された。
〔発 表〕B-14,19,b-21,43,47,73,98


(16)内分泌撹乱化学物質の細胞内標的分子の同定と新しいバイオモニタリング

〔代表者〕
地域環境研究グループ 国本 学
〔分担者〕
地域環境研究グループ 石堂正美
〔期 間〕
 平成11〜15年度(1999〜2003年度)

〔目 的〕
 内分泌撹乱化学物質による生体侵襲の機序を分子レベルで明らかにし,さらに有効で簡便なスクリーニング系を確立することを目的とする。すなわち,生体内ホルモンの合成,分泌,情報伝達にかかわる諸過程を定性・定量評価するための分析手法を開発し,内分泌撹乱化学物質によるこれら諸過程への影響をモデル細胞を用いて詳細に解析することを目的とする。

〔内 容〕
 ヒト神経芽細胞腫NB-1細胞を対象として,内分泌撹乱化学物質を暴露した際に発現が変化する遺伝子をSerial Analysis of Gene Expression(SAGE)法を用いて系統的に解析する。遺伝子バンクに登録されていない新規遺伝子で発現が顕著に変化するものについては,cDNAクローニングを行いそれらの機能検索を行う。
 NB-1細胞を用いた予備的検討から,少なくとも以下の4種類の内分泌撹乱性が疑われている化学物質(β-Estradiol 17-acetate,Cadmium,Methylmercury)が,NB-1細胞における神経突起の伸展に影響を及ぼすことが明らかになっている。これらに陽性対照としてのdibutyryl cAMPとダイオキシンを加えた5物質を対象として,NB-1細胞への暴露に伴って発現が変化する遺伝子の系統的解析を行った。用いた手法は,1,176個のヒト遺伝子がスポットされているジーンアレイ法(Atlas Array)である。現段階では,ハウスキーピング遺伝子とされるものやカドミウムによるメタロチオネインの誘導の検出は可能になってきているが,他の遺伝子発現に関してはまだ,十分な情報が得られていない。


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