ここからページ本文です
科学技術振興調整費による研究
7.国際共同研究(二国間型)
(1)中国湖沼流域のバイテクシステムを活用した修復技術の共同開発
〔担当者〕
〔期 間〕
平成11年度(1999年度)
〔目 的〕
本国際共同研究は,生活排水中の窒素,リンの流入により藻類異常発生の抑制できるバイテクシステムを活用した湖沼の富栄養化対策技術を開発し,中国のみではなく,国を越えた地球規模の開発途上国の湖沼水環境問題の解決することを目的としている。
中国側のカウンターパートとしての中国国家環境保護総局の中国環境科学研究院と密接な連携の下で中国の全域への波及効果が期待でき,さらに他の開発途上国の湖沼流域のバイテクシステムを活用した修復技術の共同開発への貢献も期待される制御システムの開発を重要な位置づけとして研究を推進することとしている。
〔内 容〕
本国際共同研究において得られた成果は,中国の太湖の全域における窒素・リン濃度等の富栄養化に関係水質項目と有毒アオコに関係項目の調査を行い,T-Nの平均濃度は1mg/l程度,T-Pの平均濃度は0〜1mg/l程度,特に有毒アオコのミクロキスチン濃度は集積域では105μg/lであることがわかった。また,窒素・リン除去の可能な水耕栽培プロセスとしてのバイテクシステムを太湖の湖岸に設置して中国側と共同して湖水の窒素・リンの除去特性について調査し,窒素とリンの除去速度がそれぞれ1g/m2/日,0.1g/m2/日程度であることが明らかとなった。また,水耕栽培植物としてのクウシンサイの根の部分の生物相は,輪虫類,ミジンコ類,巻貝類等の水生動物が優占化していることが明らかとなった。さらにクウシンサイの成長速度も大で,中国へ応用可能な生態系修復技術となるものと考えられ,さらに太湖流域の地域特性に応じた適正条件を確立するための検討を推進していくことが必要であると考えられた。
本国際共同研究により得られた太湖全域の富栄養化の関連水質基礎データと太湖の湖岸に設置した水耕栽培プロセスから得られた実験結果に基づき,中国の太湖流域に合うバイテクシステムを活用した湖沼富栄養化の修復技術に資する生態工学としてのエコエンジニアリングシステムの提案が可能となった。なお,中国側は本国際共同研究を続けて国家重点環境研究課題として検討する予定となっており,国立環境研究所においても中国側と継続して共同研究を行い,実用化を図ることの重要性について両国の認識の一致を見ることとなった。
〔発 表〕B-20,b-44,55,70,78
|
(2)環境化学物質のリスク評価のための簡易毒性試験系の開発
〔担当者〕
〔期 間〕
平成11年度(1999年度)
〔目 的〕
環境化学物質による生体影響を予測するためのリスクアセスメント手法について,先進諸国間で協力分担し開発することが要請されている。中でも,短期間で多種類の化学物質の毒性が評価できる培養細胞を用いた簡易毒性試験の開発が強く期待されている。本研究では,細胞毒性試験法の標準化と有用性評価の先端的研究を行っている。ウプサラ細胞毒性研究所のグループと共同で,培養細胞を用いた簡易毒性試験のうち,特に慢性的毒性の評価法の開発と環境試料への適用にかかわる技術的問題の克服を目指すことを目的とした。
〔内 容〕
国立環境研究所とウプサラ細胞毒性研究所双方が得意とする試験系を持ち寄って共同研究を行うとともに,試験技術の相互移転をはかった。特に国立環境研究所では,培養神経細胞を用いた慢性的神経毒性の評価系開発を,ウプサラ細胞毒性研究所では,ヒト毒性データベースの作成とそれに基づいた簡易毒性試験系の有用性評価を行った。さらに,国立環境研究所では,河川水,埋立処分場浸出水等の環境試料への適用を試み,その際に生じる問題点への対応策について両研究所で議論した。
|
(3)大気汚染物質のリスクアセスメント方法論の確立−分子疫学的評価手法による研究
〔担当者〕
〔期 間〕
平成11年度(1999年度)
〔目 的〕
大気汚染物質による慢性気道炎症性疾患や肺がんなどの呼吸器系疾患のリスク評価では,複合汚染による総合的なリスク評価が求められている。そのため影響を受けた遺伝子やタンパク質などの分子を分析し,暴露量との関係を解析することにより,多因子による影響評価の精度の高い新しい手法の開発を行うことを目的とする。この目的の達成を通じて両国における大気汚染による呼吸器系疾患に関するリスク研究の技術・知見の交換が活発となる。
〔内 容〕
研究実施体制及び研究方法においては,日本側は,慢性気道炎症性疾患や肺がん患者の血液および標的臓器の組織を用いて重金属や発がん物質によって傷害されたタンパク質及び遺伝子変異頻度を測定する。ポーランド側は,血液組織などの材料を準備し,汚染物質の種類と暴露量を測定する。二国共同でDNAの傷害パターンと汚染物質の暴露量との相関地図の作成や,地域・疾患・汚染物質などの項目による地図の分類を行う。これにより,複合的な大気汚染のリスク評価手法を確立する。
今回,大気汚染物質の分子疫学的評価のため2種の生体影響指標について検討した。
1)酸化ストレスによって起こるタンパク質の酸化傷害にアクロレイン付加体が生じることをヒトの肺組織を用いて見いだした。この付加体は,大気汚染などによる酸化的ストレスによる影響の指標として有用であることが示唆された。
2)生体内に過剰に存在する銅イオンは,Cu(U)/Cu(T)の酸化還元反応に伴って発生する活性酸素によりDNAの損傷を生じる。銅を蓄積する性質を有する突然変異体ラットとリポーター遺伝子としてLacT遺伝子を導入したトランスジェニックラットを交配することにより作成した新たなラットを用いて,大気汚染物質などで生じる酸化的ストレスに伴うDNAの変異が生じることを確認した。
今後さらに,基礎的条件検討及び酸化傷害タンパク質及び遺伝子の微量測定の確立,DNA変異の解析等の研究をポーランド側と共同して行う必要がある。これに基づいて,大気汚染物質の分子疫学的研究の実施を検討する。その際には,実際のヒト検体を用いてその量―反応関係に閾値があるかないかの確認が必要となる。この研究の実施により,大気汚染物質の生体影響の新しい機能や役割の発見が期待される。
|
(4)大気環境変動が作物および野生植物に及ぼす影響に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究センター |
: |
清水英幸・鄭 有斌*
(*STAフェロー) |
〔期 間〕
平成11年度(1999年度)
〔目 的〕
地球規模の環境変動の中でも,近年観測されている大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の増加は,世界各地で気温上昇・降水量変化・対流圏O3濃度増加等の気象・大気環境の変動を引き起こすことが予測されている。これら一次的・二次的な環境変動は農作物や野生植物の生長や生理活性へ多大な影響を与えると考えられ,地球・自然環境の保全上極めて重要である。
本研究では,これら近未来の大気環境の変動が作物や野生植物に及ぼす影響を,主として生理生態学的に解析するとともに,影響評価手法の開発を検討する。このため,日英両国で実験用の作物および樹木等の野生植物(共通植物種を含む)を数種選定し,その光合成初期過程の酵素活性や,同化された糖の代謝・転流等を定量する手法を確立する。また,同種の最適な栽培条件を検討するとともに,想定される大気環境変動下における複合影響実験を実施し,大気環境変動が植物の生理生態に及ぼす影響の把握と影響評価手法の妥当性の比較検討を行う。
〔内 容〕
農作物や樹木等野生植物を材料に,生長量(乾重)や生理活性(光合成活性等)と大気環境(CO2濃度,O3濃度,大気湿度)との関連について,環境制御室を用いて実験的に検討した成果を以下に簡単に記述する。
(1)樹木に及ぼす二酸化炭素と湿度の影響
4種類の中国原産樹木を,4段階のCO2濃度,4段階の相対湿度のもとで4週間生育させ,相対生長率や純同化率等の生長パラメータ,水利用効率,炭素の安定同位体比,葉の窒素・炭素含有量等の分析を行い,地球環境変動に対する樹木の反応予測モデルに適用した。また,異なる水分条件の地域で,水利用効率を研究するための炭素同位体比の利用に関するガイドラインを示した。
(2)作物に及ぼす二酸化炭素濃度の影響
3種類の野菜類を,4段階のCO2濃度のもとで2〜4週間生育させ,葉の光合成に関連するパラメータ(A,Amax,Vcmax,Jmax,RuBP,TPU),気孔コンダクタンス,水利用効率,炭素・窒素含有量,植物生長パラメータ等について分析した。結果は将来の二酸化炭素濃度上昇に対する野菜類の生理反応予測の基本的データとして利用でき,また二酸化炭素施肥を実施している温室栽培者にとっても有益な情報を提供できた。
(3)植物の乾燥/熱ストレス耐性に関する研究
生育初期に乾燥ストレスを受けた植物は,生育後期の乾燥・熱ストレスに強い耐性を示すという仮説を確認するため,キュウリに最初乾燥ストレスを短期間処理した後,乾燥/熱ストレス処理を実施し,植物の生育に及ぼす影響について検討した。得られた結果は,現在頻繁に,また将来地球環境変動によって,乾燥/熱ストレスを受ける(と予測される)多くの地域に応用可能であった。
(4)ガス交換/気孔運動同時計測システムの開発
葉におけるガス(CO2)交換速度の計測と気孔開閉運動の観察を同時に行うことができる,ガス交換システム付き複合顕微鏡の開発を行った。種々の環境ストレスによって引き起こされる気孔抵抗の増大(ポロメータ法や重量法などから推測される)が,実際の気孔閉鎖を引き起こしているか否かを直接的に観察することが可能となった。
(5)植物の光合成活性に及ぼすオゾン影響のメカニズムに関する研究
トウオオバコを75ppbのO3に暴露し,葉齢や暴露期間による光合成活性への影響について研究した。その結果,O3による光合成低下の初期原因は,RuBPカルボキシラーゼの低下によることが明らかとなり,光化学系Uの量子効率とは関係なかった。また,気孔コンダクタンスの減少だけでは光合成阻害を説明できなかった。なお,O3暴露された植物の葉では,葉位(葉齢)によって,汚染物質に対する反応に顕著な差が認められた。
〔発 表〕K-169,170,i-18,19
|
|