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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所年報 > 平成11年度 > 科学技術振興調整費による研究  1.総合研究

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科学技術振興調整費による研究


1.総合研究


(1)植物の環境応答と形態形成の相互調節ネットワークの解明に関する研究
 
@大気汚染ガスによる障害発生及び耐性の分子機構

〔担当者〕

生物圏環境部 佐治 光・久保明弘・青野光子
地域環境研究グループ 中嶋信美・玉置雅紀

〔期 間〕

 平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
 植物の大気汚染ガスに対する反応の解明は,ストレス状態下にある植物の遺伝子発現制御機構などを解明するためのモデルケースとなるだけでなく,大気の浄化や汚染物質のモニタリングに植物を有効に活用していくための重要な情報となる。そのために,以下のような研究を行う。
 大気汚染による障害に関与していると考えられるエチレンの生合成のキーエンザイムであるアミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素(ACS)の遺伝子(cDNA)を単離し,その発現を調べるとともにこれを植物に導入し,組換え植物を用いた研究により障害発生とエチレンの関係を明らかにする。また大気汚染ガス耐性の分子機構を解明するために,大気汚染ガスなどのストレス要因に対する感受性の高い突然変異体を選別し,その遺伝的及び生理的性質を調べるとともに原因遺伝子の単離を試みる。

〔内 容〕
 オゾンや二酸化イオウと接触させたトマトの緑葉からRT-PCR法により3つのACSアイソザイムの遺伝子(LE-ACS1A,LE-ACS2,LE-ACS6)に対応するcDNAを単離した。これらの遺伝子の発現をRNase protection assay法により調べた結果,いずれの遺伝子の発現もオゾンや二酸化イオウとの接触により誘導されることやその誘導パターンがアイソザイム間や接触させるガスの種類により異なることが明らかとなった。このうち,LE-ACS6のcDNAをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流にアンチセンス方向につないでタバコ(品種SR1)に導入した。得られた組換え体において導入した遺伝子が発現していることを確認した後,組換え体を0.2ppmのオゾンと接触させて傷害の程度を調べたところ,対照の非組換え植物よりオゾン耐性の高そうな組換え体が3系統得られた。さらにこれらの系統ではオゾンとの接触時におけるエチレン生成量が対照の植物よりも低下していることがわかった。
 一方,シロイヌナズナのCol系統由来のオゾン感受性変異系統が,速中性子線処理されたものから8系統,メタンスルホン酸エチル処理されたものから10系統,T-DNAタギング系統から33系統得られた。これにより植物のオゾン耐性には多くの遺伝子が関与することが推測されるが,これを明らかにするには遺伝学的解析により相補試験や遺伝子座の決定を行う必要がある。このうち遺伝子座の決定に必要な交配相手系統として,Colと同程度のオゾン感受性をもつ野生系統C24,Sf-2,RLDの3系統を選抜した。これらの系統とColとの交配によりF1世代の植物を得,さらにその自殖によりF2世代の種子が得られつつある。今後F2植物個体間でのオゾン感受性の幅を調べ,その結果に基づいて交配相手の系統を決定する予定である。
〔発 表〕H-3,4,b-176,181,h-4,5


(2)生殖系列細胞を用いた希少動物種の維持・増殖法に関する基盤研究
 @鳥類での子孫個体繁殖率の向上に関する遺伝的解析

〔担当者〕

地域環境研究グループ 高橋慎司
社会環境システム部 清水 明

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 野生鳥類の絶滅は,環境要因による個体数の減少に始まり,末期には近交退化による不可逆的で急激な繁殖能力の低下によって加速されると考えられる。国立環境研究所動物実験施設には,鳥類の実験動物としてニホンウズラの近交系が系統維持されており,しかも近交退化の絶滅型と回復型とに分離している。そこで,まず近交系ウズラを用いて鳥類の近交退化メカニズムを解明し,次に鳥類実験動物で近交退化の事例を解析し,最終的には絶滅が危惧されている野生鳥類を救済するための具体的方策を検討するのが,本研究の目的である。

〔内 容〕
 本年度は,実験用ウズラを用いて近交化に伴う繁殖能力の変化を把握するとともに,近交系ウズラ間での交雑試験を行い雑種強勢による繁殖能力の回復を図った。また,鳥類実験動物(ウズラ,ボブホワイト,ニワトリ)の卵形診断技術を開発し,種間・系統間比較を行った。以下に,主な成果を示す。
 近交系ウズラ(H2及びL2系)の52世代にわたる繁殖能力を解析した結果,H2系は絶滅型へL2系は周期的回復型へ分離したことがわかった。すなわち,L2系のふ化率は回復型ながら増減サイクルを示すことがわかった。これからのモデルは,希少野生鳥類の繁殖能力を改善させるために有用な情報を提供するが,今回は適応度指数(産卵率×受精率×ふ化率×育成率)の有用性を検討した。その結果,育成率を除いても近交退化現象が解析できることがわかった。
 ウズラ・ボブホワイト・ニワトリの卵形を画像処理し,卵形診断により種間・系統間比較が可能となった。また,H2系の平均卵形には絶滅の兆候が認められることが相関係数の比較より明らかにされた。
 近交系ウズラ間で交雑した結果,特定の家系のみで繁殖能力が向上することが確認できた。希少種の増殖を有利に進めるためには相性(Nicking)が重要であることがわかった。
 H2及びL2系のMHC構成を比較した結果,両系ウズラともサザン染色パターンが明確に分離しており,コンタミなく系統維持されていることが証明された。
〔発 表〕B-47,b-158〜163


(3)高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究
 @全球・領域気候モデルの並列処理環境におけるネスティング技術に関する研究

〔担当者〕

大気圏環境部 江守正多・野沢 徹・神沢 博

〔期 間〕

 平成10〜14年度(1998〜2002年度)

〔目 的〕
 並列処理技術の本格的導入による計算機の高速化・大規模化に伴い,今後10年程度で全球気候モデルの水平解像度は現在の数百kmスケールから数十kmスケールまで向上することが考えられる。しかし,温室効果気体などの増加に伴う気候変動における地域スケールの気温や降水量などの変化を高精度で予測するためには,より小さいスケールの大気擾乱や雲活動,地形や土地被覆の影響などを表現できる水平解像度数km程度の領域気候モデルの活用が不可欠である。領域気候モデルでは計算範囲を関心のある領域に限定することで,全球モデルよりも高い解像度を実現する。全球モデルと領域モデルを結合(ネスティング)することによって,全球の整合性を持って計算された全球モデルの結果を領域モデルに境界条件として与え,領域(例えば日本域)内でより高い解像度で精密な計算を行うことができる。これにより,関心のある領域に関してより高精度の予測が可能となる。このような精密な気候モデル計算を十分な速度で行うことを目的として,本計画では並列計算機上で全球気候モデルと領域気候モデルを最適にネスティングする技術を開発するための研究を行う。

〔内 容〕
 本研究では,全球モデルと領域モデルを結合して実行する手法を開発し,結合したモデルの最適並列化を行う。領域モデルにはコロラド州立大学領域大気モデリングシステムCSU-RAMSを用いる。
 本年度は,領域気候モデルをベクトル並列計算機(NEC SX4)上で8PEを用いて並列実行し,ベクトル化効率の改善を中心としたプログラムの書き換えによる高速化を行った。テスト計算には水平80×80格子,鉛直23層でモデル時間1年の積分を行った。前年度までの調査で,プログラムの配列構造がベクトル化に適合していないことが明らかになったため,計算時間のかかっているサブルーチンを抽出してその前後で配列の並べ替えを行うことによりベクトル長を伸長した。この結果,計算速度は著しく改善された。一般に,スカラー機に最適化されたプログラムをベクトル機で最適化する際に,本研究の方法は有効と考えられる。
 また,全球モデルと領域モデルを同時に実行する同時実行ドライバのプログラムの開発を行い,NEC SX4上で8PEを用いたテスト実行により動作を確認した。これによって,全球モデルの結果を逐次的に領域モデルの境界条件としながら,両モデルを別のノードを用いて並列同時実行することができる。この結果,大量の境界条件ファイルを作成・管理することなく,領域モデルの全球モデルへのネスティング計算を行うことが可能となった点は新規的である。さらに,水平解像度T42の全球モデル(CCSR/NIES AGCM)を単独で現在気候と二酸化炭素倍増時に対してそれぞれ10年積分し,その12時間ごとの出力を境界条件として領域気候モデルを同じく10年ずつ積分する実験を行った。
〔発 表〕f-13,15


(4)炭素循環に関わるグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究
 1)衛星データを用いた海洋の炭素循環と一次生産及び関連諸量のマッピングに関する研究
 @気候変動の一次生産及び関連諸量への影響評価に関する研究

〔担当者〕

化学環境部 柴田康行・米田 穣

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 人間活動に伴う二酸化炭素等の放出による地球温暖化は,現代の地球環境問題の中でも重要な課題である。この解決のためには全球レベルの炭素収支の把握に基づく定量的な解析が不可欠であるが,現状では情報は極めて不十分であり,正確な収支の推定が難しい。本研究では,衛星観測データに基づいて炭素収支の解析のための基礎データの全球分布図を提出する(グローバルマッピング)ことを目的とし,そのための精査地域・海域として世界の熱源である西太平洋暖水塊(WPWP)周辺の精密測定と衛星データとの突き合わせをあわせて実施する。

〔内 容〕
 百年〜数百年にも及ぶ長期にわたって成長を続けるハマサンゴ類のコア試料を解析して気候変動などの長期的な環境変化を読みとるための手法開発を継続した。試料をスラブ状に切断し,0.4mmずつ端から切削して,約2週間に1試料の割合で試料を調製し,酸素,炭素同位体比,並びにアルカリ土類金属濃度の測定を行って,それぞれ年輪構造に対応するきれいな年変化のパターンを得た。元素分析には同時測定型のICP発光分光分析装置を用い,0.3%程度の繰り返し精度で元素比の測定が可能な条件を確立した。
 これらのデータを水温変化の絶対値に読み替えるための換算係数を求めるため,研究フィールドであるオーストラリア西岸ルーウィン海流沿いのサンゴ近傍に水温・塩分濃度センサーを設置して,約1年近くデータを採取した。データ回収時にあわせて近傍のサンゴコアを採取し,今後分析を行って換算係数を求める予定である。


 2)衛星データを用いた陸域の炭素循環と一次生産および関連諸量のマッピングに関する研究
 @湿地域における二酸化炭素吸収量推定手法の高度化に関する研究

〔担当者〕

社会環境システム部 山形与志樹

〔期 間〕

 平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
 リモートセンシングデータを用いた,湿原植生の現存植生量や純生産量を推定するための手法開発を目的として,釧路湿原内において最大のバイオマス量であるハンノキ林を対象として,リモートセンシング画像によるハンノキの樹冠率推定を試みた。

〔内 容〕
 釧路湿原左岸堤防沿いのハンノキの疎密状態が異なる2ヵ所を選定し,5000分の1スケールで撮影された航空写真を用い,解析図化機による図化作業により200×200mの領域内におけるハンノキの樹冠をポリゴン化し,同時に樹高を算出した。これをグランドトゥルースとして,別途取得された航空機搭載型光学センサ(CASI)のマルチスペクトル画像を重ね合せた。次に各データについて30×30mメッシュ内の平均値を求め,これを解析対象とした。樹冠のポリゴンから算出した樹冠率を推定する試みとして,本年度は各種ミクセル分解手法を用いて解析を行ったところ,ハンノキの樹冠上から取得した分光情報のみから,画素内に混入する他の植生などによる分光情報を除去し,メッシュ内の樹冠比率を直接的に推定することに成功した。比較のために,リモートセンシング解析において,現存植生量と相関が有るとして用いられている正規化差分植生指数(NDVI値)と,30mメッシュ内のハンノキの樹冠率との間には相関を認めることはできなかった。また30mメッシュ内の平均樹高とNDVI値の比較,さらにハンノキごとに算出されている樹高と樹冠径を掛け合わせた疑似的なバイオマスにおいてもNDVIとの相関を認めることはできなかった。画素単位でNDVI値を求めたところ,ハンノキと,周辺に生育している草本植生(主にヨシ)のNDVI値はほぼ同じ値を示していることから相関関係が存在しなかったと結論でき,画素内に混入する植生種の特定なくして植生指数を扱うことの問題が明らかとなった。


(5)バイカル湖の湖底泥を用いる長期環境変動の解析に関する国際共同研究(第U期)

〔担当者〕

化学環境部 河合崇欣・柴田康行・田中 敦・相馬悠子
水土壌圏環境部 高松武次郎
地球環境研究グループ 功刀 正行
地域環境研究グループ 森田昌敏
研究生 阿部泰恵

〔期 間〕

 平成7〜11年度(1995〜1999年度)
 平成10年度から第II期。

〔目 的〕
 世界最古のバイカル湖湖底堆積層の不撹乱柱状試料を採取し,物理・化学的,陸水学的,生物・生態学的測定及びデータの解析によって,ユーラシア大陸北東域の長期(〜1000万年)気候・環境変動を再現する。科学情報として極めて不十分な状態にある内陸域古環境変動に関する緻密で連続性の良い情報を得ることによって,氷床柱状試料・海洋底柱状試料等によって検討されてきた地球環境変動の議論を補完する。ここでは,主として不撹乱柱状試料採取,堆積年代決定法,化学分析及びデータベースの構築を行う。

〔内 容〕
 本年度は,バイカル湖の湖底堆積層から採取した200mの不撹乱柱状試料(BDP-96コア),600mの不撹乱柱状試料(BDP-98コア)の測定・分析によって,過去1000万年程度のバイカル湖地域の気候や環境の変化を示すデータを整えた。このデータから再現された古環境変動について,各分野間の整合性を検討し,それぞれの項目が持つ特徴と問題点を見つけるとともに,議論全体の信頼性を高めた。データを総合的に解析し,バイカル湖地域の過去1000万年の気候・環境変動の歴史を再現し,その生物相への影響を議論した。
 具体的には,以下のような研究課題を他省庁研究機関,各大学と共同で設定するとともに,ロシア・アメリカ・ドイツの研究者との共同研究で総合的な測定・解析を行った。
(1)掘削手法及び現場測定に関する研究
 1)掘削手法に関する研究
 本年度は,最終年度に当たり,掘削・試料採取は行わなかった。本課題における湖底深度掘削試料採取によって,これまでに,以下の試料を採取,国際分配の後,輸入して測定・分析に供した。試料名の2桁数字は採取年を示す。

(2)堆積年代測定に関する研究
 1)10Be加速器質量分析法及び古地磁気堆積年代法の併用による1千万年年代決定に関する研究
 バイカル湖は3千万年にも及ぶとされる長い歴史を持つ世界最大の湖であり,その湖底堆積物の解析を通じてその間の環境変動の歴史を明らかにすることは地球の気候変動メカニズムを明らかにして将来の予測をより確実に行う上で重要な意義を持つ。こうした研究の基礎情報として,堆積物各層の堆積年代を明らかにすることが欠かせない。本研究では,海洋底の解析などにより明らかにされてきた地球磁場の逆転パターンとの比較による古地磁気年代決定法と,10Be並びに26Alという宇宙線起源の長寿命放射性核種による絶対年代決定法とを組み合わせて1千万年に及ぶ堆積物の年代決定を可能にする手法の確立を行い,バイカル湖から採取されたコア試料の年代決定に応用する。同位体比が元々極めて低く,分析の難しい26Al/27Alを測定するために,部分溶解法を用いた試料処理上件の検討を継続した。溶解液中の試薬濃度を段階的に変えて検討した結果,26Alの抽出についての抽出試薬の濃度の最適値は,塩酸ヒドロキシルアミン法で一般に用いられる0.04Mより高く,1M前後の高いところの方がわずかに良い結果となった。同一条件で10Beの溶出を行い,10Bの妨害を除くために分析磁石の後ろに2次ストリッパーフォイルを置いてエネルギー損失の違いから両者の分離をはかりながら,最適条件を見つけてBDP-96コアの深度別の測定を行った。部分溶解法による10Beの分析結果は全溶解法によるデータの変化と相対的によく一致する結果となり,堆積後の自生鉱物の成長による溶解状態の変化は特に認められなかった。また,測定誤差範囲で,10Beの変動と26Alの変動は良い対応を示した。
〔発 表〕D-12,d-18,19

(3)化学的手法による環境変動解析に関する研究
 1)無機元素及び生元素安定同位体測定による環境変動解析の研究
 湖沼堆積物の無機成分(元素組成)は過去に湖内や流域で起こった生物・化学・物理反応の結果を化学化石として保存していて,気候変化と連動した生物生産量や外来物質流入量の変動,底層水や堆積物表層での酸化還元状態の変化,地殻変動(湖盆の移動や水深変化)の影響などを記録している。したがって,堆積物の元素組成を初期続成作用の影響などを十分考慮して解析すれば,古環境に関する有用な情報を引き出すことができる。ここでは,バイカル湖で採取した堆積物コア中の約40元素をICP-AES,ICP-MS,中性子放射化分析などで定量し,バイカル湖堆積物の無機成分特性を明らかにするとともに,元素の鉛直濃度分布から,過去数百万年〜一千万年の間の湖,流域,及び地球規模の環境変化を推定する。また,堆積物中の生元素安定同位体や光合成色素の分析なども行い,結果を総合的に考察して古環境を復元する。
 本年度は,BDP93コア(アカデミシャンリッジで採取;コア長:102m)の詳細な解析を行うとともに,BDP98コア(アカデミシャンリッジ;603m)の上部200mの分析を行い,以下の結果を得た。
@バイカル湖の堆積物は,他の淡水湖(例えば琵琶湖)に比べ,Ca,Sr,Ni,Mg,U,及びCrを高濃度で含み(琵琶湖に対する存在比:1.5〜3),後背地質の影響と考えられた。また,S(2.1)(多分Seも)にも富んでいて,低温と大きな水深のために,堆積物中で硫酸還元がかなり進んでいることを示唆した。一方,親生物元素の一つであるBr(0.66)の濃度は,この湖の生物活性の低さを反映して,かなり低かった。
AAl濃度で規格化した代表的親生物元素(Mn,P,Br及びCu)の鉛直濃度分布から,約14万年前以降,生物活性が増大していて,その傾向は完新世に入った1万年前以降顕著になったことがわかった。
BS/Al,As/Al,U/Al,Cu/Al,及びPb/Alはコア中でほぼ一定周期で,かつ同期して増減しており(過去70万年間に約10周期),堆積物中での硫化物生成が周期的に増減したことを示した。これは,寒冷−温暖の気候変動に対応した生物活性の周期的変動を反映した結果と考えられた。
CUの鉛直濃度分布は,Emilianiが海底堆積物中の有孔虫化石について報告したδ18Oの変動と良く一致していて,気候変動の有効な指標と考えられた。
D全量Siの変動は,地殻起源元素(Al,Na,Mg,K,Tiなど)の変動と鏡像関係にあり,生物起源珪酸の増減に支配されていると推定された。そのため,適当な補正を加えれば,全量Siから生物起源珪酸の変動を評価することができると考えられた。

(4)総合解析及びデータベース構築に関する研究
 1)シベリア・極東地域の気候変動既存データベース構築及び大気大循環モデルとの比較研究
 2)植生変遷及び生物進化データベースの構築に関する研究
 3)総合解析及びバイカルデータベース運用に関する研究
 日本−ロシアにミラーサイトを置く国際共同データベースのハードウエアの構築(第一段階)を平成10年度に完了したが,本年度は,国際合意に基づく運用面での基本構造として,一般公開/プロジェクト内共有コアの2層構造を採りながら内容を充実した。特に,ロシア側で準備された英訳&英語表記ロシア語文献リスト10000件をインターネット上で一般公開した。
 BDP-96コア及びBDP-98コアの測定・分析を進め,各分野間の測定結果の整合性を検討しながら,ユーラシア大陸北東域の過去1000万年の気候環境変動の再現を行うデータを整えた。この間の気候変動の特徴は「寒冷化」であり,それに伴う陸上植物の「自然淘汰型多様性減少(属の消滅)」があったことが明らかになった。また,新しい「属」の出現・移入は見られなかった。一方,湖内では氷期−間氷期サイクルが始まった250万年位前からケイ藻の分化(進化?)頻度が急速に高まるとともに,「種の寿命」が短くなったことが示された。地球の気候変動が生物相に与える影響が古気候・古生物情報がそろった形で具体的に示されるとともに,水塊の環境緩衝作用によって水生生物は異なった環境影響を受けたことも示唆された


(6)成層圏の変動とその気候に及ぼす影響に関する国際共同研究(第U期)
 1)成層圏の素過程の研究と大気微量成分の変動解明
 @成層圏オゾンに影響を及ぼす臭化メチル等の起源と動態に関する調査研究

〔担当者〕

化学環境部 横内陽子

〔期 間〕

 平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 臭化メチル,塩化メチル等の自然起源ハロカーボン類は成層圏オゾン破壊に重要な役割を果たしていると考えられている。しかし,それらの発生源や分布については不明な点が多く,影響評価のための解析を困難にしている。そのため,本研究では(1)大気中ハロゲン化メチルの高感度測定法の開発 (2)北半球高・中・低緯度域(北極・アラート,北西太平洋上北緯42〜52°,亜熱帯・波照間島)における大気中ハロゲン化メチルの季節変動と経年変化の観測 (3)航空機を利用した相模湾上空におけるハロゲン化メチルの鉛直分布観測を実施して,大気中ハロゲン化メチル変動要因と発生源を解明する。

〔内 容〕
 北太平洋,北極域(アラート),亜熱帯域(波照間島)の3地域における大気中ハロゲン化メチル濃度の定期観測から,各ハロゲン化メチルについて緯度ごとに特異的な季節変動パターンが得られた。船舶による緯度分布観測の結果等と合わせて解析した結果,大気中塩化メチルは熱帯・亜熱帯の陸域から大量に放出されていることが明らかとなった。これは従来の海洋起源説を覆すものであり,大気中最多ハロカーボンである塩化メチルの影響評価のために重要な発見である。また,殺虫剤などとして人為的にも利用されている臭化メチルについて,その大気中濃度の観測結果とボックスモデルによる人為寄与分の計算結果(北半球:4.3ppt,南半球:2.3ppt)の比較から自然起源臭化メチルの緯度分布を推定した。得られた分布は南北両半球における平均濃度がいずれも約6pptで,赤道付近でやや高くなる傾向を示し,塩化メチルと同様に熱帯域に自然発生源のあることが示唆された。
 航空機観測によるハロゲン化メチルの鉛直分布観測(500〜7000m)から対流圏上部の塩化メチル,臭化メチルは地表付近のバックグラウンド濃度(それぞれ550ppt,10ppt付近)で推移していること,反応性の高いヨウ化メチルについては中緯度の対流圏上部におよそ0.5pptで存在することが明らかとなった。
〔発 表〕D-42,43,d-57,58



 A光化学モデルを用いた成層圏オゾンの長期変動の研究

〔担当者〕

地球環境研究グループ 秋吉英治

〔期 間〕

 平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 火山爆発によって増加した硫酸エアロゾルが,気温やオゾン層に及ぼす影響を調べる。国内のレーザレーダ観測グループによって得られた,ピナツボ火山爆発起源の成層圏硫酸エアロゾルの鉛直分布及び時間変動に関するデータと,鉛直1次元光化学−放射結合モデルを用いた研究を行う。特に,地表気温がオゾン減少によってどのような影響を受けるかを,簡単な1次元結合系によって調べる。この1次元モデルによる研究によって,今後のより高度で現実的な3次元モデルを用いた研究に必要な化学反応過程,放射過程,化学−放射結合過程,気温や微量成分の時間変動などに関する基礎的な知見を提供する。

〔内 容〕
 レーザレーダによって観測された,ピナツボ火山爆発起源の成層圏硫酸エアロゾルの鉛直分布,表面積,及び時間変動(爆発後約半年〜9カ月で最大,その後時定数11カ月で減少)から,エアロゾルの放射特性,及び表面積の時間変動を計算し,これを鉛直1次元−光化学放射結合モデルに取り込んで,火山性エアロゾルがオゾン層及び気温に及ぼす影響を調べた。計算の結果,オゾン全量は約5〜6%減少した。地表気温は,最初の半年くらいはエアロゾル層の日傘効果により,地表に届く太陽光が減少することによって,約0.1〜0.2K減少するが,その後エアロゾルの温室効果が効いてきてこの冷却の約1/3は,解消される。しかしながら,上空のオゾン減少による温室効果の減少で,その後冷却傾向は数年続き,上層のオゾン減少が回復するまで続く,という結果が得られた。エアロゾル増加による成層圏のHOx,ClOxの増加,NOxの減少も再現された。ここで得られた1次元の簡単なモデルによる結果は,今後行われるであろうより高度な3次元モデルによる,同様な数値実験の結果を解釈する場合に有用な知見となるであろう。
〔発 表〕A-4,a-2



 2)成層圏変動の気候への影響に関する解析及びモデルを用いた研究―衛星データ等を用いた解析的研究
 @衛星データ等の解析による極渦構造の変動メカニズムの解明

〔担当者〕

大気圏環境部 神沢 博・菅田誠治・笹野泰弘

〔期 間〕

 平成10〜11年度(1998〜1999年度)

〔目 的〕
 本研究の目的は,成層圏極渦の構造,極渦の孤立性の機構を力学的解析によって理解することである。極渦の構造は,オゾン,温室効果ガス等の分布を決める大きな要素であり,それらの分布は,直接的には放射過程を通して,間接的には,放射過程によって規定される成層圏の温度分布,さらには,温度と密接な関係がある風の分布を通して,気候へ影響を及ぼす。
 成層圏の温度分布は,基本的には,オゾンによる紫外線の吸収加熱と二酸化炭素,オゾン,水蒸気の赤外放射冷却のバランスによって定まっている。大気の運動による力学的な熱の輸送,さらには,オゾン等の物質の輸送が,その温度分布を変化させる要因となる。成層圏の極渦とは,冬季に西から東に吹く強い風(極夜ジェットといわれる)が低温の極域を取り巻くように流れている様をいう。極の真上からみれば,北半球では左回りの渦,南半球では右回りの渦ができている。秋から冬にかけて発達し,南半球においては春,11月頃まで持続する。北半球においては,通常3月頃まで持続する。南半球の極渦の方が強く,かつ,持続期間も長い。南極域においてオゾンホールが発達するのは,この極渦の性質のためである。

〔内 容〕
 問題意識:極渦の空気の入れ代わりの機構およびタイムスケール(極渦の孤立性)を特定する。その際,上下方向の交換(成層圏対流圏間の空気粒子交換)および緯度方向の交換の両者に着目し,両者を統一的に理解する。また,「極渦の孤立性が高まる」ことは,「極渦内の空気と低緯度の空気との混合が小さい」ことを意味し,以下の2つの過程が働くことを意味する:「低緯度からの熱輸送が小さい→低温→オゾン破壊」;「低緯度からのオゾン輸送が小さい→低温」。両者の過程とも低オゾン低温度の状態を招き,極渦の孤立性がさらに高まると考えられる。この両者の過程の寄与の大きさを評価する。
 本年度の研究内容:1996/1997年北半球冬においては,極渦が非常に安定で異常に長期間持続した。この期間に環境庁開発のILASセンサーにより取得されたデータ,特に,空気運動のトレーサーとなる長寿命不活性気体である亜酸化窒素(N2O),メタン(CH4),水蒸気(H2O)のデータを解析した。各データが等混合比の値を取る高度を日々追跡することにより,極渦内で確かに下降運動が起こっていたことを見いだし,その値は,どの気体成分による推定であるかに依存せず(したがって推定の確実性が高い),高度20km近辺においては,約0.7km/month程度であった。この運動だけで極渦と極渦外との空気交換が起こるとすると,極渦中の空気粒子の滞留時間が1年近くになるような大きさである。また,極渦内よりも極渦境界付近の方が下降運動の大きさが大きかった。定量的に確信を得るためには,さらなるデータ質評価が必要である。一方,極渦の内外の水平混合の度合いを評価するために,気象データを使用した多数の空気粒子(数万個)のトラジェクトリー解析を行い,水平混合による極渦中の空気粒子の滞留時間が1年以上の大きさになることを推定した。
〔発 表〕F-6〜8,14,15,f-18,20,21,24


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