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特別研究
5.湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
森田昌敏・今井章雄・松重一夫
木幡邦男・高村典子 |
| 水土壌圏環境部 |
: |
井上隆信・富岡典子 |
| 生物圏環境部 |
: |
野原精一 |
| 化学環境部 |
: |
佐野友春 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕
近年,琵琶湖や十和田湖等の多くの湖沼において,流域発生源対策が行われているにもかかわらず,湖水中の有機物濃度(COD)の増大傾向が観察されている。何らかの難分解性有機物による水質汚濁が進行している。湖沼環境では,近年,植物プランクトン種組成変化を含む生態系の変化が著しい。難分解性有機物の蓄積に示される湖水有機物の質的,量的変化も湖沼生態系の変化に大きな影響を及ぼしていると推察される。また,水道水源としての湖沼水に着目すると,湖水中有機物濃度の上昇は,浄水過程の塩素処理によって生成する発がん物質トリハロメタン等による健康リスクの懸念を増大させている。湖沼環境および水質保全上,緊急にこの新しい有機汚濁現象を把握する必要がある。
本研究の目的は,湖沼水中の有機物の特性や起源を適切に把握する手法を確立し,湖沼水中での難分解性有機物濃度上昇の原因を解明し,さらに湖水有機物の質的,量的変化が湖沼生態系やトリハロメタン等の有害物質の生成能に及ぼす影響を明らかにすることである。
〔内 容〕
本年度は以下に示すような研究を行った。
課題1 湖水中難分解性有機物の発生原因の解明
(1)湖水有機物の特性および動態
霞ヶ浦湖水を生分解試験(100日間)とDOC分画手法に供した。すなわち,湖水DOCを疎水性−親水性,酸性−塩基性,易−難分解性の違いに基づいて分画した。本実験手法を用いて,霞ヶ浦湖水中のDOC,難分解性DOC,各分画成分DOCの濃度およびその季節的変動特性を明らかにした。また,各分画に対して紫外部吸光度とDOCの比(UV:DOC比)を測定し,この比が溶存有機物の起源的情報を反映するかを検討した。霞ヶ浦と比較するために,琵琶湖と諏訪湖の湖水サンプルについても上記と同様な実験を行った。
(2)起源の明白なサンプルの特性評価
霞ヶ浦河川水,生活雑排水,森林渓流水,田面水等の起源の明白なサンプルのろ過水に生分解試験+DOC分画手法を適用し,DOC,難分解性DOC,各分画成分のDOC濃度および分画分布を明らかにした。植物プランクトン由来の溶存有機物の特性を評価するために,藍藻類を無菌培養し,培養後の培地ろ過液にDOC分画手法を適用した。また,水草等由来有機物特性を検討するために,ヨシ・ガマが繁茂する池の水のろ液に生分解+DOC分画手法を適用した。
課題2 湖水中難分解性有機物の湖沼生態系,水道水源水としての湖沼水質に及ぼす影響
(1)難分解性有機物の植物プランクトン増殖・組成に及ぼす影響
霞ヶ浦における藍藻類の増殖制限物質として鉄の存在形態が重要と推察される(前年度成果)。湖水中の生物利用可能鉄(あるいは有機態鉄)濃度を定量する手法の開発を行った。
(2)難分解性有機物のトリハロメタン生成能に及ぼす影響
霞ヶ浦湖水およびDOC分画手法により分離されたフミン物質および親水性画分のトリハロメタン生成能を測定した。
〔成 果〕
課題1 霞ヶ浦湖水,流入河川水,森林渓流水(FS),畑地浸透水(PFP),田面流入水(PFI)田面流出水(PFO),生活雑排水(DS),下水処理水(STPE),ヨシ・ガマの繁茂する池水(POND),M.aeruginosa培養後の培地ろ過水(MSM)を,DOC分画手法により,フミン物質(AHS),疎水性中性物質(HoN),親水性酸(HiA),塩基(BaS),親水性中性物質(HiN)に分画した(図1)。すべてのサンプルで有機酸画分(AHS+HiA)が優占していたが,AHSとHiAの存在比はサンプル起源により顕著に異なった。土壌との接触が顕著である森林渓流水や畑地浸透水では,AHSが圧倒的に優占した。河川水ではAHSとHiAが同程度存在したが,湖水ではHiAの存在比が上回った。生活雑排水,下水処理水および池水でHiAが優占し,藻類培養液ではHiAが顕著に優占した。このAHSとHiAの関係はサンプルのDOC濃度とも関連していた。AHSが優占するほどDOC濃度は低くHiAが優占するほどDOC濃度が高い傾向を示した。すなわち,きれいな水ではAHSが優占し,有機汚濁の顕著な水ではHiAが優占するの
である。生分解性の高い生活雑排水と藻類培養液は特徴的な分画分布を示した。生活雑排水ではHoNの存在比が大きく,藻類培養液ではAHSが極めて低くHiNが著しく高かった。HoNは生活雑排水中のLAS等の洗剤,HiNは藻類代謝物の糖類物質と考えられる。
霞ヶ浦湖心におけるDOC,AHS,HiAおよび難分解性DOC,AHS,HiAの動態を検討した。DOC,AHS,HiAの生分解率の平均は,それぞれ,12.1%,%,15.1%であった。湖水DOCおよびHiAの分解率は7〜9月が最大で冬季に極めて低くなった。7〜9月の大きな分解率は,この期間に藻類由来の易分解性HiAが生産されたことを示唆する。AHSは全期間を通じて分解率が低かった。AHSが難分解性であることは予想通りの結果であったが,HiAも極めて難分解性であることは新しい知見と言える。1997年に限って言えば,難分解性DOCが夏季から徐々に湖水中に蓄積し,1年間で約0.8mgC/l増大した。この期間,難分解性AHSは約0.2mgC/l,難分解性HiAは約0.8mgC/l上昇した。従って,湖水中の難分解性DOCの増大は,主に難分解性HiAの増大によるものと言える。
課題2 霞ヶ浦ろ過湖水,フミン物質および親水性画分(HiA+BaS+HiN)をMilli−Qで1mgC/lに調整し,pH7,24h,遊離塩素が1〜2mg/l残存する条件で塩素処理した後,ヘッドスペースGC/MSによりトリハロメタン生成能(THMFP=CHCl3+CHCl2Br+CHClBr2+CHBr3)を測定した。霞ヶ浦浄水場取水地点に近いSt.7におけるろ過湖水,フミン物質,親水性画分の平均トリハロメタン生成能は,それぞれ28.4,26.9,31.4μgTHM/mgCであった(図2)。親水性画分のTHMFPはフミン物質のそれよりも有意に大きかった(P<0.01)。他のサンプリング地点でも同様な結果が得られた。霞ヶ浦では親水性画分のほうがフミン物質より約2倍DOC濃度が高いことを考えると,トリハロメタン前駆物質として親水性画分はフミン物質よりも重要と言える。この結果は,代表的なトリハロメタン前駆物質はフミン物質とする既成学説を乗り越えた新しい発見と言える。
〔発 表〕B−139, G−12, b−102〜107, 233〜236
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