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特別研究
4.超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究
〔担当者〕
| 地球環境研究グループ |
: |
兜 真徳・新田裕史・黒河佳香
今井秀樹・高橋慎司・松橋啓介
石堂正美 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕
電力利用の増加した現代社会では日常的となっている低レベルの超低周波(50〜60 Hz)電磁界への暴露によって,白血病,脳腫瘍,乳がんあるいはアルツハイマー病のリスクが上昇している可能性を示唆する疫学的データが報告されている。これらの報告で示されているレベルは,これまで生理的影響を考慮して安全とされてきたレベルより極端に低いレベルであり,その妥当性について国際的に盛んに研究されているところであるが,我が国での研究あるいは行政での取り組みは大幅に遅れている。このような超低周波電磁界への暴露をうけている人口は非常に大きく,健康影響の具体的検討が急務である。そのために,超低周波電磁界への暴露によって生ずることが示唆されている健康影響の妥当性を検討し,またリスク評価の手法を吟味することによって,超低周波電磁界の健康リスク評価に資することを目的とする。
〔内 容〕
本研究は3つの課題から構成される。
第1の課題は,日常の生活で実際に経験しうる暴露レベルの範囲内で,精密にコントロールしたヒトへの暴露を行い,生理・生化学的変化との定量的な関連性を検討するものである。第2の課題は,ヒトに対する暴露が困難な高レベルおよび周波数変化を加えた培養細胞系実験を行う。第3は定量的リスク評価のために必須である一般集団における暴露レベルに関する調査研究を行う。
課題1 ヒトを対象とした低レベル電磁界暴露実験
実験A:昨年度に開始した実験の被験者をさらに追加して,計30名(男21名,女9名)に対して自律神経系への超低周波交流磁場の急性影響を検証するための暴露実験を実施した。まず,被験者を2グループに分け,第1グループには回転軸が鉛直方向の,第2グループには回転軸が水平方向の50Hz正円回転磁場を負荷した。安静(1分間)+単純作業(クレペリン試験)(1分間)を1単位として連続5単位(計10分間)を1セッションとし,5分間の休憩を挟んで5セッションを1日の実験スケジュールとして,1人につき2日間で計10セッションを実施した。各セッションごとに,そのうちのランダムに選んだ1単位に,5種類の強度(20,40,60,80,100μT)で連続ないし間欠的(5秒間のON/5秒間のOFF)の2種類,すなわち計10種類の暴露のいずれかを行った。観察項目は心拍数,および各種心拍変動指標である。これまでの実験データの解析では磁界暴露によって,暴露レベルに依存した反応や一貫した変化は認められなかった(図1)。
実験B:14名(男7名,女7名)の被験者に1セッション55分の実験を2日〜4日間にわたり午前2回,午後2回の計4回実施し,午前・午後の各2回のセッションのうちのどちらか1回に磁界(50Hz鉛直回転軸方向,20μT正円回転磁界)を暴露した。被験者はセッションを通して心拍数計測を行うとともに次の3種の認知・反応実験を各セッション30回ずつ実施した:@単純反応時間(視覚刺激+音刺激に対する反応時間)A選択反応時間(3つの丸のうち1つの色が変化してから,その丸に対応したキーを押すまでの時間)B時間認知(10秒の標準カウント後に主観的に数えた10秒間の実際の時間)。その結果,磁場の暴露有無で,心拍数および認知・反応時間テストにいずれも差はみられなかった。
課題2 動物および培養細胞系を用いた低〜高レベル電磁界暴露実験
ヒト乳がん由来培養細胞MCF−7を各濃度のメラトニン存在下また,0.2μT(control)〜100μTの電磁界暴露条件下で培養した。培養は1週間続け,さらに3時間BrdUを取り込ませ,取り込まれたBrdUをELISA法により測定し,細胞の相対的増殖能を評価した。メラトニンは10−11Mから10−9Mの濃度範囲で細胞増殖抑制作用を示し,その程度はメラトニン無添加の場合の20〜25%であった。そこに100μTの電磁界を暴露すると,メラトニンの細胞増殖抑制作用は5%以下まで減少した。
次に,この抑制機構を明らかにするための第1段階として,細胞のメラトニン受容体に電磁界が影響を与えるか否かを検討した。まず,メラトニン受容体サブタイプを識別する受容体アンタゴニストluzindole(タイプ1)とGR135531(タイプ2)を用いて,MCF−7におけるメラトニン受容体サブタイプの同定をおこなった。それぞれ,luzindole(タイプ1)及びGR135531(タイプ2)が存在するところで,ヨード125で標識したメラトニンの受容体への結合活性を測定した結果,luzindoleの濃度依存的に標識メラトニンの結合活性が阻害されたが,GR135531存在下では阻害されなかった。このことから,MCF−7には主にタイプ1のメラトニン受容体が存在することが明らかになった。また,100μTの電磁界を1週間暴露しても,メラトニン受容体の結合能には有意な差は見られなかった。さらに,MCF−7細胞にそれぞれ0.2(control),1.2,100μTの電磁界を1週間暴露し,mRNAを単離後,逆転写により作製したcDNAに対してメラトニン受容体サブタイプ1a及び1bに特異的なPCRプライマーを用
いてPCRを行った結果,1a受容体のみが増幅され,1b受容体は検出されなかった。また,受容体1aの発現量は,電磁界暴露(1.2μT−1週間および100μT−1週間)で,大きな変化は見られなかった。
課題3 ヒト集団における暴露レベルと生理影響評価
調査A:電磁界レベルの時間変動の大きさを見積もることを目的として長期連続測定を実施した。測定は東京都葛飾区内の6世帯を対象として1997年10月から1年間,EMDEX
Liteを用いて1分間隔で磁界レベルを記録した。対象世帯は約500mの範囲内にあり,3軒は木造一戸建,1軒は鉄骨一戸建て,2軒は鉄筋集合住宅であった。測定位置は寝室内のテーブルないしタンスの上とした。測定器の1メートル以内には電気器具のないところを選定し,またその近傍で大きな磁界変動がないことを確認した。また,家庭電機製品の所有・使用状況,ならびに測定期間ごと(2週間)の電力消費量の記録を依頼した。その結果,平均値については最も低い家屋と最も高い家屋では約8倍の差が認められた。平均値と標準偏差とは必ずしも相関しておらず,各世帯の特性を違いを示していた。短期・長期の測定値の変動傾向をみると,24時間周期変動が目立っていた。対象世帯によって日内変動の大きさに差はあるが,暴露調査のデザインにあたっては少なくとも24時間以上の測定時間が必要であることを示唆している。曜日による違いはいずれの世帯でも明確ではなかった。季節変動については冬季にやや高い傾向が認められた。
調査B:環境中での時間・空間変動の大きさを見積もることを目的として,送電線周辺地域での暴露量測定調査を実施した。対象地域は千葉県北部の高圧送電線周辺で,送電線から水平距離50m以内の家屋と近接する50〜100mの家屋,計20世帯で実施した。測定は各世帯の寝室の1カ所で1週間連続して行った。送電線により近い家屋の寝室レベルが約2倍高いことが示されたが,季節変動など他の変動要因を含めて評価する必要がある。
〔発 表〕B−102,106, b−137, 139, 196, 201
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