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環境研究総合推進費による研究(地球環境研究)
8.砂漠化に関する研究
〔担当者〕
| 生物圏環境部 |
: |
大政謙次・戸部和夫 |
| 下線は研究代表者を示す |
〔目 的〕
砂漠化の影響は現在地球の全陸地の約1/4,世界人口の約1/6に及び,将来の地球環境や食糧供給に深刻な影響を及ぼすことが懸念されている。そこで国際社会は「砂漠化防止条約」を締結し,1996年12月26日には発効,1997年10月には第1回締約国会議が開かれた。条約は,我が国を含む先進締約国に対して,砂漠化防止に対する資金的・技術的な支援を要請している。
しかし,これまで砂漠化研究および砂漠化防止技術は,その技術・方法論,対象とする砂漠化プロセス,対象地域の点で,それぞれ別個に独立して展開されてきた。その結果,研究成果や技術の総合化・普遍化が十分に行われていない。そこで本研究では,既往の砂漠化研究をレビューし,各研究の座標付けを与えるとともに,その総合化を図る。同時に,砂漠化防止技術については地域性を越えた共通性を抽出し,対象地域−問題プロセス−防止技術のマトリクスを作成する。
〔内 容〕
本研究では以下の2点の課題について取り組む。
(1)砂漠化研究の総合化
砂漠化防止対策を展開していく上で,もっともカギとなる下記の2点について,最先端の研究成果をまとめる。
1)地域を限定した上で,その地域における一連の砂漠化プロセスを,背景となる自然環境条件と伝統的な土地利用システム,砂漠化の自然的・人為的要因,フィジカルな砂漠化プロセス,砂漠化の人間生活への影響,砂漠化対策とその効果,周辺住民等へ及ぼす副次的影響という流れで総合化し,可能な限り定量化しモデル化を図る。2)地域の固有性を越えて地球上で普遍的にみられる,自然的または社会経済的な砂漠化プロセスを抽出し,そのプロセスの定量的または定性的なモデル化を図る。
最終的には,上記の成果にもとづき地球スケールでの砂漠化評価モデルの構築および地域スケールでの早期警報システムの開発へとつなげていく。
(2)砂漠化防止技術の体系化
既往の砂漠化防止プロジェクトのレビュー,ならびに世界の砂漠化研究者へのアンケートにより以下の2点を明らかにする。
1)対象地域の自然的条件や社会経済的条件に応じて,その地域で効率的かつ効果的な砂漠化防止プロジェクトを分析し,多様な砂漠化防止技術の体系化を図る。
2)今後,もっとも短期間に開発され,かつ効果の大きい新たな砂漠化防止技術を明らかにする。最終的には地域の実情に適合した砂漠化防止技術を評価するシステムの構築を試みる。
〔成 果〕
(1)砂漠化研究の総合化と砂漠化防止技術の体系化に関する研究
「地球環境研究展望−砂漠化−」検討会報告書が以下のような内容でまとめられた。
1)砂漠化関連分野の国際的動向
(1)アジェンダ21
1992年の地球サミットで,行動計画として採択されたアジェンダ21の第2部,第12章が砂漠化に関する章となり,砂漠化の定義の変更とプログラム分野が盛り込まれた。
(2)砂漠化対処条約
1994年に採択された砂漠化対処条約では,アジェンダ21などの成果をもとに,条約の第3部に,行動プログラム(第1節第9〜15条),科学技術協力(第2節第16〜18条),支援措置(第3節第19〜21条)などが規定されている。また,第4部に科学技術委員会の設置(第24条)や各種機関・団体のネットワーク化(第25条)などの条項も盛り込まれている。
(3)地球環境ファシリティ
地球環境ファシリティ(GEF:世界銀行,UNEP,UNDPの共同管理)は,当該国の利益にはならないが,地域社会全体には利益になるようなプロジェクトの一部または全部にかかるコストを負担することになっており,資金供与する分野を,気候変動,オゾン層保護,生物多様性保全及び国際水域に限定している。
(4)IPCC
IPCC関連では,第2次報告書で,乾燥・半乾燥地域の生態系への影響や砂漠化の問題との関連が取り上げられており,2001年に予定されている第3次報告書でも,上で述べたような砂漠化対象地域での土壌劣化による炭素貯蔵力の低下や,生活や農業生産に伴う温室効果ガスの放出の問題,また,気候変動に伴う乾燥地生態系の破壊と希少植物への影響,およびその保全などの問題が取り上げられるものと考えられる。
(5)IGBP
IGBPのGCTEなどでは,世界各地にトランセクトを設けて,環境の変化に伴う植物群落の種類や組成,植生の変化などを調べている。アジア地域でも中国のNortheast
China Transectのように,森林地域から草原,乾燥地域にわたるトランセクトもあり,気候変動の影響の生態学的なデータが収集され,影響モデルの開発に利用されている。
2)今後必要とされる研究
(1)砂漠化のメカニズムの体系的解明
砂漠化の予知や対策を効果的に行うためには,各々の地域によって異なる砂漠化のメカニズムを,自然的要因と人為的要因の両面から体系的に把握する必要がある。
しかし,現在のところ,砂漠化のメカニズムについてのこのような体系的な解明は十分には行われておらず,各々の地域で個別にその原因を調べているのが現状である。また,その因果関係を表すモデルについても,サブモデルの開発段階で体系化はなされていない。
(2)砂漠化のモニタリングとデータベース
人工衛星を利用した観測と地上でのグランドトルースやバルーン,航空機などによる定期的な観測などとを併用して,モニタリングの精度を上げていくことが要求される。また,国際的なネットワーク体制のもとに,ベンチマーク(あるいはトランセクト)の地域を設定し,どのような要因をモニタリングすべきかを体系的に整理する必要がある。さらに,計画的に長期的なモニタリングを行うとともに,これらのデータを利用して広域リモートセンシングの精度を向上させるための方法の開発が必要となる。加えて,画像分光やマイクロ波,レーザーなどを利用した新しい観測手法の開発とともに,将来的には砂漠化のモニタリング衛星なども考慮していく必要があるかもしれない。
(3)生態系保護と砂漠緑化
乾燥地生態系は,厳しい環境に適応した植物種の宝庫であり,高いハビタット多様性を示す。また,多くの食用作物の原産地でもある。砂漠化によるこれらの生態系の破壊と貴重な生物の絶滅を防止するために,希少種やそのハビタットのデータ化と保全のための方法の検討が必要である。具体的には,現地での保全とバイオテクノロジーを含む人工的な保全技術の両面からその保全法を検討する必要があろう。また,その前提として,砂漠化のメカニズムや生態系の解明も重要である。
(4)持続的な土地利用システム
砂漠化の問題では,その地域社会の生産活動の基盤である土地利用の問題が重要である。砂漠化対処条約では,地域社会の持続的発展が究極の目的であり,乾燥〜乾燥半湿潤地域の生物生産の脆弱な土地で,いかに地域の発展と持続的な生産活動,すなわち土地利用の持続性を共存させるかが求められる。また,すでに土壌劣化が進行している地域では,土壌劣化の回復を考慮した土地利用の形態と修復技術の検討が必要である。アグロフォレストリーのような農業形態は,植林による環境保全と農業生産を融合させたものであり,持続的な土地利用のひとつの形態であろう。
(5)新技術・代替システムによる砂漠化対策
地域社会の持続的な発展にとって,新技術の導入は不可欠である。しかし,その技術はその社会が受容する適正技術である必要がある。また,長期的な視野に立った技術導入である必要がある。たとえば,大規模な潅がい施設は短期的には大幅に収量を増大させるが,長期的には土壌の塩性化を引き起こし,砂漠化を促進させる場合が多い。今後,導入が期待される新技術としては,太陽光利用のシステムや地下ダムなどの潅がいシステム,乾燥地域に適した高収量品種や緑化樹木の開発,栽培技術,貯蔵・加工技術,土壌改良技術などがあげられるが,新技術の開発と並行して,これらの技術がその地域の自然や社会において適合するかどうかの評価を行うための手法の開発も必要となろう。
(6)効率的な援助とその評価
これまで行われてきた砂漠化対策のプロジェクトの中で成功した例は数少なく,多額の資金を投じたトップダウン方式の大規模プロジェクトはほとんど失敗したといわれている。これは,上述したような砂漠化のメカニズムを的確に評価したり,また,適正技術を選択したりするための知見が乏しかったことに加えて,現地,とくにそこで生活している住民の意思があまり反映されなかったり,環境に対する知識が不足していたりといったことに起因している。このため,砂漠化対策に焦点をあてた,住民参加と環境教育のためのプログラムの検討が求められる。
3)推進費における研究の方向性
図1は上述した今後の砂漠化の分野で必要とされる研究を簡単な流れ図として示したものである。砂漠化研究の特徴として,その地域特有の問題が多く,現象の解明や影響の研究,さらに対策研究においても,その地域の特徴が強調されることが多かった。推進費の研究もその例外ではなく,多くの研究が地域あるいは個別の問題に焦点をあてて推進されてきた。今後,これらの地域の特徴や個別の問題を取り扱った研究が,図1で示した砂漠化研究の中でどのような位置づけにあるか,また,その成果がどのように利用されていくのかを整理した上で,将来行うべき研究を計画していく必要があろう。
〔発 表〕h−9
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