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経常研究


8.生物圏環境部


1)富栄養湖沼における藻類毒の挙動に関する研究
〔担当者〕 渡邉 信・広木幹也・彼谷邦光*1・佐野友春*1・稲森悠平*2
(*1化学環境部*,2地域環境研究グループ)
〔期 間〕 平成7〜11年度(1995〜1999年度)
〔内 容〕 本研究は,有毒藻類及びそれが産生する毒素の同定を行うとともに,環境水中に最も高濃度に存在する毒素ミクロシスチンの自然界での挙動を有毒藻類の分解・捕食過程を踏まえて明らかにすることを目的とする。本年度は有毒アオコの代表的な種であるMicrocystisを捕食する無色のベン毛藻類であるAulacomonas2種とCollodictyon3種の毒性の強さが異なるMicrocystisに対する嗜好性を調べた結果,Collodictyon sparsevacuolatumのみに嗜好性が確認されなかったが,他の種はすべて毒性の弱いMicrocystisをよく摂取することが判明した。毒性の強いMicrocystisが優占する要因のひとつとして捕食者の嗜好性が関与していることが示唆された。
〔発 表〕 H−21, 28, 31, 34, 38,h−33, 34, 37, 39, 43

2)微生物の多様性に関する研究
〔担当者〕 渡邉 信・広木幹也・河地正伸
〔期 間〕 平成6〜11年度(1994〜1999年度)
〔内 容〕 本研究は,微細藻類及び土壌微生物における種レベル及び遺伝子レベルでの多様性を明らかにする手法を開発するとともに,その長期的保存法を確立することを目的とする。本年度は16S rRNA塩基配列情報の類似性から同種と考えられた淡水産浮遊性シアノバクテリアMicrocystisの形態種5種について,全ゲノムDNAのホモロジーをDNA−DNA交雑試験から求めた結果,同種の基準とされている70%以上の値を得た。この結果から,形態種5種は分類学的に同種であることを結論づけることができた。また,23 S−16S rRNA ITSの塩基配列情報の解析の結果区分された3つの遺伝的グループは種内変異であることがわかった。
〔発 表〕 H−21,23〜30, 32, 33, 35〜37, 39,40,h−31〜33, 35〜40, 42, 43

3)緊急に保護を必要とする車軸藻類の分布と培養の研究
〔担当者〕 渡邉 信・野原精一
〔期 間〕 平成6〜11年度(1994〜1999年度)
〔内 容〕 本研究は,車軸藻類の現段階での分布を明らかにし,過去のデータと比較して車軸藻類の客観的な現状を明らかにするとともに,絶滅の危機に瀕する車軸藻類を分離培養し,培養下での保全を行うことを目的とする。本年度まで40湖沼での調査を完了し,そのうち28湖沼で車軸藻類は消滅し,残りの12湖沼でもわずか1〜3種類の車軸藻類が確認されただけであった。また,絶滅危惧種に指定されているキヌフラスコモ(Nitella gracilens)の培養に成功し,その栄養体及び卵胞子の形態を詳細に観察した。その結果,本種はN. furcataとは形態的に全く異なった種であることが判明し,本種をN. furcata subsp. orientalisとする見解が否定された。
〔発 表〕 H−20,22, h−41, 44

4)植物の生理生態機能の画像診断法に関する研究
〔担当者〕 大政謙次・戸部和夫
〔期 間〕 平成7〜11年度(1995〜1999年度)
〔目 的〕 植物の生理生態機能(光合成,蒸散,含有成分,生物季節等)を非破壊で画像計測し,診断する手法の開発を行う。さらに,開発した手法を用いて,植物の生長過程や環境変化に対する影響を調べる。
〔内 容〕 前年度までに開発した三次元カラー光学顕微鏡を改良し,植物葉のCO2交換速度と蒸散速度を計測すると同時に葉面の気孔開度を計測することの可能な装置の開発を行った。さらに,この装置を用いて,通常の生育条件下にある植物の葉面の気孔開度の日周変化を画像として取り込んで解析するとともに,気孔開度の変化に伴うCO2交換速度や蒸散速度等の経時変化を追跡した。
〔発 表〕 H−3,8〜10, 18, h−5〜8, 10

5)中国の半乾燥地域に生育する植物の生理生態機能に関する研究
〔担当者〕 大政謙次・戸部和夫
〔期 間〕 平成7〜11年度(1995〜1999年度)
〔目 的〕 中国の半乾燥地域に生育している植物の生命維持機構や砂漠化による植生の破壊を回復させるための基礎的知見を得るために,植物実験施設を用いて,これらの植物の種子発芽や耐乾性,耐塩性などの生理生態機能を明らかにする。また,現地で採取した植物の系統保存や実験植物化の技術についても検討する。
〔内 容〕 土壌の塩性化した地域への植物の適応機構を調べるため,中国の乾燥地域の非塩性地域に生育するHaloxylon persicumと塩性および非塩性地域の双方に生育するH. ammodendronの塩に対する適応性を比較した。その結果,400mMのNaClを含む水耕液で約3ヵ月間栽培したH. persicumおよびH. ammodendronの生存率は,それぞれ11%および82%であり,H. ammodendronはH. persicumに比べ高い塩適応性を示すことがわかった。
〔発 表〕 H−19,h−23

6)高山域に分布する植物の環境適応性に関する研究
〔担当者〕 名取俊樹
〔期 間〕 平成7〜11年度(1995〜1999年度)
〔目 的〕 前年度までの結果から,富士山ではおおよそ2,500m以上に分布が限られているオンタデは,国立環境研究所の実験ほ場(海抜おおよそ20m)では,フェノロジーが多少変化して生育できることがわかった。そこで,生育場所によるオンタデのフェノロジーの変化をさらに確かめるため,小浅間山(長野県)に生育するオンタデのフェノロジーを調べた。
〔内 容〕 小浅間山(長野県)の1,630m付近に生育するオンタデについて,6月から9月まで月1回の割合で野外調査を行い,生育の様子を調べた。その結果,5月初旬に成長を開始し,7月には葉数の増加及び伸長成長が停止して,生殖成長期に入り,すでに結実期をむかえていた。この結果は富士山で既に得られている結果とほぼ同様な結果であり,小浅間山と富士山との間で明確なフェノロジーの差が認められなかった。
〔発 表〕 h−24

7)撹乱された移行帯生態系の修復過程に関する研究
〔担当者〕 野原精一・矢部 徹・佐竹 潔・上野隆平
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 人為的栄養塩負荷の解消のために行われた奥日光・湯の湖の浚渫事業が1996年に終了した。ところが浚渫によっていかに損なわれ再び回復し,元の水草帯に生態系が回復するかという浚渫の生態系影響の事後評価が十分ではない。また,尾瀬沼に1980年代に繁茂した帰化植物コカナダモが,近年忽然と大部分の純群落が消え,移行帯の砂漠化が見いだされた。そこで,撹乱された湖沼移行帯に今後シャジクモ等がいかに回復し,元の生態系に復元するかモニターを行い,シャジクモ等の回復に必要な条件を見いだすことを目的とする。
〔内 容〕 環境変動の著しく,シャジクモ類の残存している尾瀬沼で水草帯の回復を明らかにする研究を行った。以下のような項目について調査を実施した。(1)尾瀬沼での水草帯の回復調査(2)安定同位体を用いた移行帯の底泥環境の解明(3)移行帯の種の分布拡大過程及び生物多様性の把握(4)全国主要湖沼の水草帯の現況調査
〔発 表〕 H−20,h−25, 30

8)環境指標生物としてのホタルの現況とその保全に関する研究
〔担当者〕 宮下 衛
〔期 間〕 平成8〜11年度(1996〜1999年度)
〔目 的〕 豊かな自然環境,うるおいのある自然環境の指標として親しまれているホタルおよびホタルを含めた絶滅のおそれのある生物の生息する自然環境の保全と再生について調査研究することを目的とする。
〔内 容〕 ゲンジボタルの生息する渓流環境の保全を目的として行われている砂防流路工工事の影響調査を行った。第1期工事については,すでに汚染された下流域であることから底生動物および藻類に対する影響としては認められなかった。なお,上流側の第2期工事区間に,絶滅危惧種の藻類カワツルモおよび水生昆虫カタツムリトビケラの生息が確認されたことから,生息環境を保全するための工法等についての検討が必要である。

9)河川底生生物群集に及ぼす化学物質の影響
〔担当者〕 多田 満
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 河川は多種多様な化学物質で汚染されているが,それらの環境中での動態や生態系影響に関する知見は限られた範囲にとどまっている。これまでの研究から化学物質は致死濃度以下のレベルでも生物相互作用系を撹乱し,生態系に予測し難い間接的影響を及ぼすことが明らかになってきた。本研究ではこれまでのデータに基づき化学物質による底生生物群集の挙動を統合的な解析手法により明らかにする。
〔内 容〕 流水性のカゲロウ類幼虫を実験水路に保持して,カーバメイト系殺虫剤,フェノブカルブの個体群レベルでの羽化に対する生態影響を調べた。羽化個体数は,エルモンヒラタカゲロウの対照区で,始めの30日で緩やかな増加を示し,60日目にはほぼすべての個体が羽化した。また,最終的な死亡率も3%程度であった。1〜2μg/lの低濃度では,始めの20日目までは羽化数が増加するが,その後は羽化が抑制された。
〔発 表〕 H−13,14, h−19, 20

10)湖沼沿岸帯に生息する底生生物の生息環境に関する研究
〔担当者〕 上野隆平・高村典子*1
(*1地域環境研究グループ)
〔期 間〕 平成7〜11年度(1995年度〜1999年度)
〔目 的〕 水草帯などの湖沼沿岸帯の保全のためには,種間関係などの生物学的な環境構造を把握することが不可欠である。しかし,無脊椎動物など小型の生物,特に底生生物の生態については不明な部分が多い。本研究では,湖沼沿岸帯の底生生物の生息環境の基礎的なデータを蓄積することを目的とする。
〔内 容〕 本研究所内の実験池の底生動物について食性を調査した結果,優占種であるフタバカゲロウや一部のユスリカはデトリタス食者であり,各生息場所に豊富な藻類またはデトリタスを利用でき,餌選択性が低いことが確認された。  貧栄養湖である十和田湖のユスリカ相を明らかにした。水深23mまでの2ヵ所の沿岸帯で採集されたものについては種数と水深との関係ははっきりしなかったが,より遠浅の地点の方が種数が多かった。また,別に調査された水深5〜40mまでの4地点でのデータでは,5mでの9種から40mでの2種まで水深の増加に伴って種数は減少した。
〔発 表〕 h−3

11)河川に生息する底生動物の分類及び生態に関する基礎的研究
〔担当者〕 佐竹 潔
〔期 間〕 平成10〜13年度(1998〜2001年度)
〔目 的〕 河川生物群集の主要な構成種であるカゲロウ,カワゲラ,トビケラなどの底生動物については,種名が決定されていなかったり,その生息環境との関係が十分に解明されていない場合が多い。このような状況は,種々の影響評価をあいまいなものにし,より高度な実験的解析を困難にしている。そこで,本研究では底生動物に関する基礎的な知見を蓄積・整理することを目的としている。
〔内 容〕 本年度は,底生動物の調査が行き届いてない島嶼地域の河川において調査を行った。伊豆諸島の伊豆大島・三宅島では安定した地表流がほとんど観察されず,わずかに見られる底生動物相も貧弱なものであった。一方,八丈島では島の南部や東部の河川で,オナシカワゲラ,コカクツツトビケラなどのトビケラ類,ブユ・ユスリカなどの双翅目,ミズムシを採集することができたが,カゲロウ類を採集することができず,その生物相の特殊性が明らかになった。

12)浅水域に生育する大型植物の個体群動態評価手法に関する研究
〔担当者〕 矢部 徹
〔期 間〕 平成9〜12年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕 埋め立て,護岸工事や油の流出事故は浅水域の生物相に重大な影響を及ぼす。生物影響をバイオマスなど量的指標をもちいて評価する際に,それら量的指標は通常期においても変動が大きく非定常的なため,工事や事故の影響によるものかどうかが識別しにくい。本研究では潮間帯や干潟をはじめ浅水域の大型植物のさまざまな個体群動態から定常的な量的指標の抽出や非定常的変動の把握などを行う。
〔内 容〕 岩礁潮間帯,泥干潟,礁原砂干潟,汽水湖など多様な立地において個体群を成立させている海草類の形態特性,バイオマスや分布の変動を追跡した。東京湾内の木更津盤洲干潟と富津干潟上にひろがるコアマモ藻場では葉身長,葉鞘長,葉幅,葉数などの形態特性に個体群間差がみられた。一方航空写真を利用してパッチ個体群のサイズ分布を分析した結果,両者には大きな差はみられなかった。コアマモの形態の差は干潟における覆砂や養貝といった人為的撹乱に大きく影響されており,覆砂区では特に節間成長が卓越していた。これらの結果,コアマモは漁業やレクリエーションにワイズユースされている都市域の干潟に適応的な特性をもつ種であることが示唆された。
〔発 表〕 h−29

13)植物の環境ストレス耐性に関与する遺伝子の探索と機能解析
〔担当者〕 佐治 光・久保明弘・青野光子
〔期 間〕 平成10〜14年度(1998〜2002年度)
〔目 的〕 植物は環境保全に必須であり,大気汚染や紫外線などのストレス要因が植物に及ぼす影響やそれらに対する植物の耐性機構を明らかにすることは,基礎・応用の両面において重要である。特に環境ストレス耐性機構については植物の様々な遺伝子が関与していると考えられるため,それらの遺伝子の同定と機能の解明を目指す。
〔内 容〕 シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的解析を行うための基礎情報を得るために,外国及び我が国由来のシロイヌナズナの野生系統について,オゾン感受性を調べた。その結果,外国由来の系統では,Col,RLD,Sf−2のオゾン感受性が低く,Cvi,Ler,Wsなどのオゾン感受性が高いことがわかった。また,我が国由来の系統では,NGが低感受性で,AK,Kyoto−1が高感受性であることがわかった。
〔発 表〕 h−14,16

14)植物の環境ストレス耐性機構解明のためのシロイヌナズナ突然変異体の選抜と解析 (奨励研究A)
〔担当者〕 青野光子・久保明弘
〔期 間〕 平成10年度(1998年度)
〔目 的〕 突然変異体とは,遺伝子の変異によって通常とは異なる性質を示す個体であり,従来から遺伝学の研究に用いられてきた。近年,植物の突然変異体から変異を受けた遺伝子を単離する技術が急速に発展してきており,注目されている。植物の環境ストレス耐性にかかわる突然変異体を選抜し,解析することによって,以下のようなことが期待される。(1)環境ストレス耐性にかかわる未知の有用な遺伝子を単離することができる。特に,発現量が非常に少ないが重要な機能を有する遺伝子の単離が可能になる。(2)突然変異体の生理的・遺伝的および分子生物学的解析により,植物の環境ストレス耐性機構に関する情報が得られる。これは,植物の種個体群の環境変動に対する適応と維持に関する遺伝的メカニズムを理解するための重要な知見となるとともに,植物の環境保全への利用においても有益な情報となる。このように,突然変異体を用いた研究は環境研究の面からも注目される。本研究における課題は,複雑な環境ストレス耐性機構の解明を試みるために,多くの種類の突然変異体を選抜することと,突然変異体の解析を進めることである。
〔内 容〕 シロイヌナズナの野生系統に突然変異を起こす処理を行った植物(9万5千個体の速中性子線照射系統,8万5千個体のメタンスルホン酸エチル処理系統及び延べ1万7千系統のT−DNAタギング系統)を選抜に用いた。オゾン暴露(0.2ppm),低温処理(5度),強光照射(生育時の6倍の光強度)などのストレス処理を行い,野生系統に比べて耐性が変化した植物を選抜した結果,19系統のオゾンに弱い突然変異体,11系統の低温に弱い突然変異体が得られた。また,強光に弱い突然変異体の候補も得られている。環境ストレスに弱い突然変異体は,環境ストレス耐性のために働いている遺伝子に欠陥があるものと考えられる。次に,選抜した突然変異体の一部について,様々なストレス(オゾン,二酸化イオウ,紫外線B,低温,強光など)に対する耐性を調べた。オゾン耐性が増加した突然変異体がひとつあったが,他の16系統は,環境ストレスに弱くなったものである。この中には,複数のストレスに弱くなったものが7系統含まれている。このことは,遺伝子の中には複数の環境ストレスに対する耐性のために働いているものがあることを示唆しており,一見無関係に見える様 々な環境ストレスに一部共通の耐性機構が存在すると考えられる。また,ある環境ストレスへの耐性のために働いている遺伝子は複数あることが示唆された。最後に,オゾンに弱い突然変異体のうち4系統について,オゾンに対する防御に働いていると考えられているアスコルビン酸の含量を測定した。その結果,その中のひとつのアスコルビン酸含量のみが野生型の植物に比べて有意に低く,アスコルビン酸含量の低下がオゾンに弱い原因である可能性が示唆された。他の3系統がオゾンに弱いのは別の要因によると考えられる。以上のように,植物の環境ストレス耐性にかかわる突然変異体の選抜と解析により,環境ストレス耐性機構に関する情報が得られた。
〔発 表〕 h−14,16

15)海草藻場におけるパッチ状個体群の地理的配置とサイズに関する研究 (奨励研究A)
〔担当者〕 矢部 徹
〔期 間〕 平成10年度(1998年度)
〔目 的〕 干潟等砂泥性潮間帯に生育する海草コアマモや海藻オゴノリといった植物ベントスの群集は藻場と総称され,干潟の単調な構造に空間的多様性を与えている。また,藻場内部の波浪低下効果や隠れ場効果により稚魚および小型生物の住み場所になる。藻場のセディメントトラップ効果に植物ベントス自身の枯死物も加わり有機物の安定供給も行う。これらの特徴は藻場内の生物多様性を高めるだけでなく藻場外の漁場育成効果も持つため,藻場造成の事業化も進められている。その一方で大量に播種しても侵入先が確定できないこと,侵入後も定着するとは限らず維持管理にコストがかかることが問題視されている。  本研究では,広域の藻場内におけるパッチ状個体群のサイズ解析や形状特性および一定期間を経たパッチ状個体群の変化の解析を通じて,植物ベントス各種の侵入定着過程の特徴を検出することを主目的とする。隣接する藻場間,藻場内のパッチ状個体群間,パッチ内の個体間でみられるサイズ特性の変化についても言及する。
〔内 容〕 東京内湾に残存する2つの干潟,千葉県小盤洲干潟と富津干潟に点在する比較的健全な海草藻場を調査対象とした。過去に撮影された該当地域の垂直航空写真に関する撮影情報と推定潮位から植物ベントスのパッチ状個体群の判読が可能な写真解像度を検討した。その結果,縮尺は1/5000〜1/6000程度である必要があること,日中干出期(3〜9月)は太陽高度も高くハレーションを起こしやすいこと,夏以降は雲も多いことなどの撮影留意点が明らかになった。以上の条件を満たす日中干潮時に低空撮影を行った。撮影画像は幾何補正および色調補正を施したのち画像解析と目視判読による詳細処理を行った。識別されたパッチ状個体群の構成種と形状特性や面積および周囲長を計算した。  大潮干潮時には現地調査を行い画像判読結果との整合性を高めた。植物ベントスのうち海草コアマモについては現地でサンプリングを行い,形態の特徴を示す項目として葉身長・葉鞘長・葉鞘幅・葉数を測定した。  その結果,盤洲干潟の優占種はコアマモ,アオサ,オゴノリであり,富津干潟ではアマモ,コアマモ,オゴノリ,アオサであった。各種とも面積20m2以下の小型のパッチ状個体群が90%以上を占めていた。地下茎による栄養繁殖を盛んに行う海草コアマモは500m2以上の大型パッチを多く形成していた。特定区域では中規模個体群が欠損している事例が見られた。これは耕運などアサリ漁場整備事業による定期的撹乱の影響であることが推測された。  地域間の差は葉身長に検出され,盤洲干潟のコアマモは富津干潟のものよりも長かった。富津干潟は波浪が強いため老化した葉身先端の脱落が促進されたものと推測された。葉鞘長には地域内差が検出され,とくにアサリ漁場整備の覆砂処理区において葉鞘が著しく伸長していた。  本研究の結果,海草・海藻の侵入定着を観測および予測するには,航空写真を用いたパッチサイズ解析が有効であること,海草コアマモは漁業やレクリエーションにワイズユースされている都市域内湾の干潟における人間活動とそれに伴う撹乱に適応的な特性をもつ種であることが示唆された。

 


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