| 10)メタロチオネイン遺伝子欠損マウスを利用した酸化的ストレスに対するメタロチオネインの毒性学的役割に関する研究
(奨励研究A) |
| 〔担当者〕 |
佐藤雅彦 |
| 〔期 間〕 |
平成10年度(1998年度) |
| 〔目 的〕 |
紫外線や放射線をはじめ環境汚染物質の中にはフリーラジカルを産生することによって障害を引き起こす物質が数多く存在し,酸化的ストレスが生体へ及ぼす影響は極めて大きい。生体内で産生したフリーラジカルはスーパーオキシドディスムターゼなどの酵素やグルタチオンなどによって除去されるが,最近,これらに加えて金属結合タンパク質として知られるメタロチオネインがフリーラジカル除去効果を示すことがin
vitroの実験で報告されている。しかしながら,生体内での酸化的ストレスに対するメタロチオネインの役割については不明確な点が多い。ごく最近,遺伝子工学的手法(ジーンターゲッティング法)によりメタロチオネインの亜型であるT型およびU型の発現を抑えたメタロチオネイン遺伝子欠損マウスが作製され,メタロチオネインの生理機能を解明するための実験モデルとして広く利用され始めている。本研究では,このメタロチオネイン遺伝子欠損マウスを利用して,生体内での酸化的ストレスに対するメタロチオネインの防御効果を明確にすることを目指した。 |
| 〔内 容〕 |
メタロチオネイン遺伝子欠損マウスおよびその正常(野生型)マウスはDr.A.Choo(オーストラリア,王立小児病院マードック研究所)より供与を受け,動物実験施設内トランスジェニック動物飼育室で繁殖・維持しており,両マウスともに生理的並びに行動面での異常は観察されない。このようなメタロチオネイン遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスに,毒性の標的組織が異なる5種類のフリーラジカル誘起物質(パラコート,アセトアミノフェン,エタノール,シスプラチンおよびX線)をそれぞれ投与(全身照射)して,各物質による標的組織での毒性発現に及ぼすメタロチオネインの影響を検討した。その結果,メタロチオネイン遺伝子欠損マウスでは,パラコートによる肺毒性,アセトアミノフェンやエタノールによる肝毒性,シスプラチンによる腎毒性並びにX線による骨髄障害が野生型マウスに比べて著しく増強し,これらのフリーラジカル誘起物質の急性毒性の発現に内因性メタロチオネインが防御的な役割を果たしていることが明らかとなった。一方,メタロチオネイン誘導剤である硫酸亜鉛をあらかじめ1日1回,2日間投与した野生型マウスでは,腎臓や骨髄中のメタロチ
オネイン濃度が有意に増加し,シスプラチンによる腎毒性およびX線による骨髄障害がともに軽減された。
しかし,メタロチオネイン遺伝子欠損マウスでは,亜鉛前投与によってこれらの組織中メタロチオネインは誘導合成されず検出限界以下であり,野生型マウスのような軽減効果は認められなかった。従って,亜鉛の前投与が示すシスプラチンの腎毒性および放射線の骨髄障害の軽減効果は,あらかじめ腎臓や骨髄中で誘導合成されたメタロチオネインによるものであることが示唆された。以上の結果より,メタロチオネインは生体内において酸化的ストレスに対する防御因子として重要な役割を果たしていることが示唆された。 |
| 〔発 表〕 |
E−15,e−26, 28, 31, 32, 36 |