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文部省・科学研究費補助金による研究


(1)水環境修復のための有用微生物の機能強化・製剤化と高機能浄化システムの技術開発
〔代表者〕 地域環境研究グループ:稲森悠平
〔分担者〕 地域環境研究グループ:水落元之
東北大学大学院工学研究科:須藤隆一
東京農業大学応用生物科学部:高橋力也
筑波大学応用生物化学系:松村正利
千葉県立中央博物館:林 紀男
〔期 間〕 平成9〜12年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕 環境浄化を図る上で汚濁した水域や排水処理施設に対して,浄化に貢献する細菌や原生動物,後生動物を大量培養し,添加する微生物製剤の活用が,極めて重要な位置づけになりつつある。このような点を鑑み,窒素除去にかかわる硝化菌・脱窒菌,リン除去にかかわる脱リン菌,難分解性物質分解菌,汚泥の減量化・処理水の透明化に貢献する原生動物・後生動物の高密度培養法の確立,これらの細菌・微小動物を効果的に定着させ得る担体を活用した生物処理反応槽への高密度定着化ならびにのう子化,脱のう子化のための適正条件および増殖促進因子を固定化するための実用化研究を行い,高機能浄化システムの技術を開発することとする。すなわち,輪虫類をはじめとする微小動物と細菌との相互作用を定量的に解析・評価し,生物処理反応槽内における両者の適正なバランスを解明することを目的として,エステラーゼ活性を有する細菌を検出する蛍光染色剤,および全細菌を検出する蛍光染色剤を用い,細菌群と輪虫類等微小動物の混合培養系,微小動物が存在しない細菌群のみの系における細菌数ならびに生存率について評価・解析を行うこととする。
〔内 容〕 水環境修復に貢献する有用微生物としての微小動物と細菌の二者培養系において浄化能と密接に関係する捕食能,微生物活性,汚泥減量特性などの解析評価を行った。その結果,微小動物の個体密度が安定したときの細菌数は,後生動物貧毛類Aeolosoma hemprichiおよび原生動物縁毛類Vorticella cupiferaではほぼ等しく,全細菌数で2.6×108N/mlであり,一方,Philodina erythrophthalmaと細菌の二者培養系における全細菌数は1.3×108N/mlと,A. hemprichiおよびV. cupiferaの約半数であり,P. erythrophthalmaの細菌に対する摂食能力が極めて高いことが明らかとなった。
 微小動物の個体密度が安定したときの,全細菌数に占めるエステラーゼ活性を有する細菌数の割合,いわゆる生存率はA. hemprichiで42%,P. erythrophthalmaで46%,V. cupiferaで37%であり接種時にそれぞれの微小動物をフィルターにより除去した細菌群のみの対照系よりも生存率が5〜10%増加することが明らかとなり,このことから,微小動物が存在することにより,全細菌数は減少し汚泥の減量化につながるが,全細菌数に占めるエステラーゼ活性を有する細菌の割合が増加するため,細菌による浄化能力は維持されるものと考えられた。
 P. erythrophthalmaの個体密度が増加するにつれてエステラーゼ活性を有する細菌数,ならびに生存率が増加する傾向にあることが明らかとなり,輪虫類は捕食により細菌を減少させる効果と同時に,細菌群の増殖能および生存率を高める効果を有し,この2つの効果を適正に制御することが浄化能力を高める上で極めて有効であることが示唆された。
〔発 表〕 b−56

(2)タイ王国におけるバイオ・エコエンジニアリング活用自然強化型水環境修復技術の開発
〔代表者〕 地域環境研究グループ:稲森悠平
〔分担者〕 地域環境研究グループ:水落元之
水土壌圏環境部:徐 開欽
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 タイ王国の河川,運河,湖沼,内海,内湾等は生活系および産業系排水の処理の不徹底化により,水質汚濁,富栄養化が累進的に加速しており,その対策は待ったなしの状況にある。この対策を図る場合に重要なことは,熱帯地域という温度が高いことを十分に考慮に入れた技術開発にある。このような点を鑑みると,高い水温下,豊富な太陽エネルギーの存在下,高い成長速度を有する水生植物浄化法のシステム化,広い敷地を活用したラグーン処理における嫌気・好気条件の組み込みによる窒素,リン除去のための処理の高度化,生物処理プロセスの反応槽内で凝集体摂食者による汚泥の減量化及びろ過摂食者による処理水の透明化等にかかわる有用生物の機能を最大限に高めることによる水環境修復技術の基礎と応用の両面に立った開発研究が重要である。本研究では上記の点を鑑み,タイ王国で活用可能な水環境修復技術を提案することを目的として推進することとしている。
〔内 容〕 水環境を修復して健全な生態系を創造する上での基礎となる,重要な水源域の汚濁物質の質と量に関する基礎的知見の集積を図り,都市域においては生活排水の流入負荷比率が高く水質汚濁の進行が著しい上に大腸菌群が検出されるなど衛生面でも大きな問題を有していること,郊外等の農村域ではこれに加えて林野開発に伴う地表面土壌の流亡という面源負荷が大きな社会問題となっており,いずれも緊急の対策が必須であることが明らかとなった。食品工場等の排水処理施設における生物相等の調査を通じて,発生汚泥量の低減化を図るためには細菌から始まって原生動物や輪虫類などの微小動物を経て小型魚類さらに肉食魚への食物連鎖を通じた,すなわちエコエンジニアリングに立った視点の被食・捕食関係の有効活用が収率の検討結果から大きな有用性を示すことなどが明らかとなった。さらに,人工湿地を活用した低濃度汚濁水の処理についての検討より,アシやガマなどの抽水植物群落およびクウシンサイなど食用に供される水生植物群落の根圏が有機物および窒素除去に大きな役割を演じ,同時に年間を通じて常に再生産が行われることから熱帯地域における安定した水環境改善手法として 大きく期待できることが明らかとなった。特に水源域としての貯水池における有毒物質産生藻類である藍藻類の生息状況調査を通じて,藍藻類のアオコおよびアナベナなどの分布の実態およびこれらの藍藻類が産生する有毒成分であるミクロキスチンなどの濃度測定から,富栄養化に伴うアオコの発生はタイ国内全域に及んでおり,かついくつかの水源からはミクロキスチンも検出されていることから水源域における富栄養化対策は極めて重要な位置づけにあり,緊急の課題となっていることが明らかとなった。
〔発 表〕 B−26,G−1〜3, b−26, 27, 52, 64, 65, 78, 86, 88, g−1

(3)古人骨の化学的分析から見た水田稲作農耕による食生活,生業形態の変化
〔代表者〕 化学環境部:米田 穣
〔分担者〕 地域環境研究グループ:吉永 淳
〔期 間〕 平成10年度(1998年度)
〔目 的〕 日本列島に居住した先史人類集団では約2500年前に弥生文化という水田稲作農耕を伴う新しい生業活動が開始されたと考えられている。それと同時に骨の形態も大きく変化することから大陸の人類集団が大規模に流入したと考えられ,現代人の遺伝情報もそれを裏付けている。実際に採集狩猟から農耕へと生業を劇的に変化させたのか,水稲が食生活でどのような役割を果たしていたかを骨の化学分析から検証する。
〔内 容〕 弥生時代遺跡より出土する骨組織に残存するタンパク質を抽出して,その炭素・窒素安定同位体比を測定する。同時にハイドロキシアパタイトに含まれるストロンチウム,バリウム,亜鉛等の微量元素の含有量を測定し,その個体が生前に営んでいた食生活を復元する。本年度は東北地方・関東地方の弥生時代人骨を中心に分析を進めた結果,弥生時代においても内陸域と沿岸域で明確な食生活の相違が認められた。

(4)温室効果気体の変動と循環のダイナミックスに関する研究
〔代表者〕 東北大学:中澤高清
〔分担者〕 地球環境研究グループ:町田敏暢
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 大気中の二酸化炭素やメタン,亜酸化窒素の濃度と同位体比の高精度計測技術を利用し,広域にわたって各気体の濃度とその同位体比を測定することを通じてそれらの変動特性を明らかにする。また,得られた結果を大気輸送・循環モデルを用いて解析を行い,温室効果気体の循環を解明する。
〔内 容〕 大気中の二酸化炭素濃度の詳細な変動を精度良く測定するために二酸化炭素濃度連続測定装置の改良を行った。改良した連続測定装置を航空機に搭載し,サンプリング法による二酸化炭素濃度の観測値と比較する実験を行った。得られた観測値は良く一致し,連続測定装置が正常に機能していることが確かめられた。また,大気中の二酸化炭素濃度は空間的変動が大きく,より代表性の高いデータを得るためには連続測定が極めて有効であることがわかった。

(5)対流圏におけるハロゲンの化学と循環に関する研究−揮発性ハロゲン炭化水素の動態
〔代表者〕 北海道大学:河村公隆
〔分担者〕 化学環境部:横内陽子
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 海洋・海氷中には藻類によって生成されるブロモホルム,ジブロモメタン,ヨウ化メチルなどの有機ハロゲン化合物が存在している。これらは大気への反応性ハロゲン供給源として重要な意味を持っている。本研究では海洋起源有機ハロゲン化合物の大気・海洋中濃度分布からその発生量と影響評価を試みる。
〔内 容〕 パージ・トラップ/キャピラリーGC/MSを利用した海水・海氷中ハロカーボンの高感度測定法を確立した。サロマ湖で採取した海氷・海水中の有機ヨウ素,有機臭素化合物を測定した結果,海氷中に最高240ng/lのブロモホルムが検出された。西太平洋において海水中ハロゲン化炭化水素の定点観測を開始した。

(6)地球大気系の放射と雲・降水場に係わる大規模構造研究
〔代表者〕 東京大学気候システム研究センター:中島映至
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔分担者〕 大気圏環境部:高薮 縁・日暮明子
〔目 的〕 本研究では,地球大気系の放射収支,雲,降水,水蒸気場の衛星リモートセンシング手法を開発し,それを実際の人工衛星データに適用することによって,これらの場の大規模な時空間構造を把握することを目的とする。担当者は,衛星データから得た雲データを用い,大気における地表面放射フラックスの広域的な推定を行う。
〔内 容〕 気象衛星「ひまわり」のデータから雲情報を抽出し,高精度の放射伝達モデルを用いて地表面における短波放射フラックスを推定する手法を開発した。本年度は,雲情報に赤外の2チャンネルデータによるSplit window手法を用いた巻雲の識別を導入し,0.5度格子1時間間隔で1996年1年間の地表面短波放射量を推定した。巻雲情報を入れない計算との比較およびつくば市館野の地上放射観測結果と比較した。
〔発 表〕 f−47, 49,50

7)温室効果気体と気候変動研究
〔代表者〕 東北大学:青木周司
〔分担者〕 地球環境研究グループ:町田敏暢
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 地球表層における温室効果気体の循環を解明するために,南極ドームふじ観測拠点で掘削された氷床コアを用いて過去2度にわたる氷期−間氷期変遷を含む気候変動と大気中の二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素,一酸化炭素の各濃度及び二酸化炭素の安定同位体比の変動との関係を明らかにする。また,ドームふじ観測拠点においてフィルン中空気を大量にサンプリングすることによってメタン,一酸化二窒素,一酸化炭素の安定同位体の過去100年に及ぶ変動を明らかにし,これらの気体の発生源の特定を行う。
〔内 容〕 氷床コアからの空気抽出を効率よく行うために融解法と切削法を採用した小型の試料空気抽出装置を新たに製作した。この装置には氷床コア表面に付着している汚染物質の除去作業を自動化・並列化する機構や,大気試料の回収を効率よく行うための極低温冷却器を新たに採用して作業の効率化を図った。これらの装置を用いて氷床コアの予備解析を行った結果,装置が解析を行うにあたって十分な機能を備えていることが確認された。

8)放射強制力算定に必要な対流圏エアロゾルの放射特性に関する研究
〔代表者〕 東京大学気候システム研究センター:中島映至
〔分担者〕 千葉大学環境リモートセンシング研究センター:高村民雄
千葉大学環境リモートセンシング研究センター:竹内延夫
北海道大学:太田幸雄
北海道大学低温科学研究所:遠藤辰雄
東京大学気候システム研究センター:沼口 敦
大気圏環境部:日暮明子
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年)
〔目 的〕 温暖化による気候変動評価を行う上で,エアロゾルの直接効果と間接効果が大きな不確定要因となっている。本研究では,エアロゾルの気候影響を評価するために必要なエアロゾルの放射特性について,衛星観測により光学的厚さと粒径指標の推定を全球で行うとともに,化学分析と光学的手法による地上観測を行い,陸上及び海上での検証データの取得,気候モデルの作成を行う。
〔内 容〕 NOAA/AVHRRやADEOS/OCTS衛星搭載放射計の2波長を利用したエアロゾルアルゴリズムを本研究用に整備した。AVHRRについては多年度のリモートセンシングに着手し,全球,特にアジア域におけるエアロゾルの大規模分布と長年変化を調べた。それによるとピナツボ火山起源のエアロゾルが光学的厚さの時系列の中で大きな割合を占めており,対流圏エアロゾルについては,センサーの検定定数をチューニングすることによって精度向上をはかる必要があることがわかった。
〔発 表〕 F−42〜44,f−90〜95

(9)法医学的応用のための表面電離型有機マススペクトロメーター(SIOMS)の開発
〔代表者〕 浜松医科大学:鈴木 修
〔分担者〕 化学環境部:藤井敏博
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 使用が激増している乱用薬物,すなわちモルヒネ,ヘロイン,コカイン,覚醒剤,及びこれから使用が増加すると予想される幻覚剤等の研究のために,表面電離型有機マススペクトロメーター(SIOMS)のシステムを開発する。
〔内 容〕 ガスクロマトグラフ(GC)とSIOMSとの接続(超音速自由噴流分子線)のためのインターフェースの改良を行った。

(10)環境汚染のタイムカプセル“入皮”の研究
〔代表者〕 地球環境研究グループ:佐竹研一
〔分担者〕 地域環境研究グループ:西川雅高
化学環境部:伊藤裕康・田中 敦
〔期 間〕 平成9〜12年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕 本研究の目的は環境汚染のタイムカプセル樹木入皮についてそれぞれ産業化および環境汚染の歴史の異なる国で必要な研究試料を入手し,その汚染の状況を調査することである。
〔内 容〕 奈良県の室生寺で台風のため樹齢160年のものと約400年の杉を対象として研究を行った。これらの杉には例えば70年前の外樹皮および140年前の外樹皮を含む入皮が存在し,これをレーザーアブレーションICP−MS(プラズマ発光分析質量分析計)を用いて,特に鉛及び水銀について分析した結果は奈良県室生寺の環境汚染の歴史を明確に物語っていた。すなわち,140年前の鉛及び水銀の汚染レベルをそれぞれ1とすると,70年前の汚染レベルは140年前と変わらず,1と1であるが,これに対して現在の外樹皮は鉛については40,水銀については4を示していたのである。この分析結果は入皮を用いる過去の汚染を調べる手法と,多元素同時微量元素分析法としてのレーザーアブレーションICP−MS法の組み合わせの有効性を明確に示したといえる。

(11)睡眠覚醒リズムのシフトと不眠症のストレス評価に係わる生理内分泌学的研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:兜 真徳
〔分担者〕 地域環境研究グループ:黒河佳香
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 近年生活パターンの夜型化が日常化し,夜間活動や昼夜シフトの勤務等も増加している。こうした睡眠覚醒リズム変化がストレスや不眠症の原因となり,ひいては睡眠薬の乱用,交通事故あるいは作業事故・効率低下などの背景要因となっていることが示唆されているが,本態は不明な部分が多い。本研究では,特に不眠症例について,最近開発されてきた自律神経系活動指標や内分泌系指標を用いてストレス評価を試みることを目的とした。
〔内 容〕 不眠症の疫学調査において見いだされた極端な睡眠覚醒リズムを示すケースや不眠症について,自覚的及び他覚的な睡眠評価を試みた。結果,道路騒音が原因となっている不眠症では,持続的に不眠症傾向が継続するものが多い傾向が明らかであった。睡眠パターンと不眠症との関係については一定の関係が認められなかった。また,季節労働などに伴う不眠症は,一定期間後に再度調べてみると再現性が認められなかった。
〔発 表〕 b−137〜139

(12)ディーゼル排気ガスによる精子産生能力低下とその作用メカニズムの解明に関する研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:嵯峨井勝
〔分担者〕 環境健康部:宮原裕一
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 1993年と1994年に,スウェーデンの研究者がDEP抽出物あるいは発がん物質として有名なニトロアレーンの類緑体がヒトの精子の運動能力を低下させるということを報告し,世界に衝撃を与えた。近年,日本を含め世界的に青年の精子数が減少していることが報告され,その原因として最近話題の環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)の影響が疑われている。
 私達は,上記スウェーデンの試験管内で精子とDEP抽出物を直接まぜる実験で精子の運動能力が低下することがある。吸入したディーゼル排気が精子にまで影響を及ぼすことはないだろうと思い,これを確認しておこうと考え,DEP濃度として0.3,1.0および3mg/m3のDEを1〜10ヵ月間マウスに吸わせ精子の運動能力,精子数産生能力および精巣の形態的変化などを調べた。
〔内 容〕 一日当たりの精子産生能力(daily sperm production, DSP)が6ヵ月目で,DE濃度の上昇につれて対照群より各々29%,36%および53%低下していた。これらの低下はいずれも対照群に比べて有意な相違であった。この精子産生能力の低下は1ヵ月間清浄空気に戻すと回復する傾向が見られたが,3mg/m3の群でなお29%低下していた。また,6ヵ月間DEを吸入させたマウスではDSPについて算出した最大無作用量は環境基準値以下であった。
 なお,体重,精巣,精巣上重量等に有意差はなかった。一方,精巣組織の光学顕微鏡および電子顕微鏡による観察では,DE吸入マウスではライディッヒ細胞の形態に異常が認められた。さらに,DE吸入マウスでは,黄体形成ホルモン(LH)受容体のmRNA発現レベルもDE濃度に依存して低下していたことから,男性ホルモンであるテストステロンの合成能力が低下していることが示唆された。男性ホルモンは精子の誕生,成熟に必須のホルモンであるので,この低下が原因で精子産生能(DSP)が低下したものと考えられる。これらのことから,ディーゼル排気吸入によりライディッヒ細胞の構造的,機能的低下によって精子形成能などが影響を受けていることが示された。
 さらに,1998年末にカナダの研究者がDEP抽出物がAh受容体に結合して,遺伝子の発現を亢進したり,女性ホルモン受容体(エストロジェン・レセプター)に対する正常な性ホルモンの結合を拮抗阻害することを報告した。また,日本の早川らもDEP抽出物が,女性ホルモンレセプターならびに男性ホルモンレセプターに対する正常な性ホルモンの結合を拮抗阻害することを報告した。これらの知見から,DEPは様々なメカニズムで生殖器系に悪影響を及ぼす可能性が考えられるので,今後より詳しい研究が必要と考えられる。

(13)アポトーシス制御系に基づく環境有害因子の人への健康影響評価に関する研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:石堂正美
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 今日の環境問題の中で極めて重要な課題になっているのが,環境有害因子に生体が暴露したときの,人の健康への影響を鋭敏にかつ感度よく評価できる手法を確立することである。本研究では,近年見いだされた環境有害因子によるアポトーシスシグナルを人の健康影響の指標に応用することを目的とした。これらをもとに,人の健康影響評価法へ応用するには第一に血中レベルでアポトーシスシグナルが同定できることである。
〔内 容〕 (1)従来の方法による血中DNAフラグメント化の検出が困難であることが明らかになったので,PCR法による検出方法の条件検討を行う。(2)アポトーシス制御系の分子機構を明らかにし,血中レベルでの解析に応用する。(3)環境の異なる地域住民の採血収集を始める。
〔発 表〕 B−11〜13,b−16, 17

(14)砂分を多量に含む粘性土の繰返し圧密特性に関する基礎的研究
〔代表者〕 水土壌圏環境部:陶野郁雄
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 上越市西城町では豪雪年と暖冬年とでは10倍以上の年間沈下量の違いがある。冬季の揚水量が2倍程度しか違わないのにこのような大きな地盤沈下量の差が生じるのは,地盤沈下対象層のほとんどが砂または砂質シルトからなっているためと思われる。このような地層構成の地盤沈下地域はほかにもあり,年間数十日程度の揚水量の差が年間沈下量を支配している理由を明らかにする必要がある。 そこで,本研究は砂質土及び砂分を多量に含む粘性土の繰返し圧密特性や繰返し応力をかけた後の二次圧密特性を把握することを目的としている。
〔内 容〕 砂質土の繰返し圧密試験を行えるように,空圧式の全自動圧密試験装置の変位計を読み取り精度0.001mmにし,デジタルカウンターを通して0.1秒間隔で収録できるように改造した。 砂質土のt90は,圧密圧力が高くなるに従って,長くなる傾向にあるが,そのほとんどは1秒以内であり,きわめて短い時間に一次圧密が終了していた。これから求められる圧密係数や体積圧縮係数は,圧密圧力と逆比例の関係があり,しかも粘性土のそれに比べて1桁程度高い値を示していた。また,時間の対数と変位量の関係をみると,一次圧密比が小さく,一次圧密量が24時間圧密量のほぼ半分となっていた。このようなことから,砂質土は圧密終了時間が短く,しかも一次圧密比が小さいという性質を有しており,砂地盤においては二次圧密における沈下が無視できないことがわかった。 砂質土の繰返し圧密試験結果をみると,圧力の除荷・載荷を繰り返しているのに,静的に載荷をし続けたときよりも変位量が大きくなる傾向にあった。さらに,繰返し圧密試験における,除荷時の膨張量は,繰返し回数にかかわらずほぼ一定であるのに対し載荷時の沈下量は繰返しを行うたびに小さくなり,次 第に沈下量と膨張量が等しくなる傾向を示していた。

(15)野生生物個体群の生存力の評価手法に関する研究
〔代表者〕 生物圏環境部:椿 宜高
〔分担者〕 地球環境研究グループ:高村健二・永田尚志
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 狩猟や生息地破壊,化学物質などの影響で個体数が減少しつつある集団においては,環境ストレスおよび遺伝的ストレスをうけている。ストレスをうけている集団の脆弱性を評価するために,野生生物のさまざまな形質の変異性とストレスとの関係を明らかにすることを目的とする。
〔内 容〕 ヒガシカワトンボの雄にはオレンジ翅と透明翅の2つのタイプが存在する。オレンジ翅の色彩には個体変異が大きく,変異の主要な原因はサイズと前繁殖期間の摂食量がであることがわかった。フィールドでの観察の結果,オスの闘争能力や交尾成功度は翅色の濃さに相関があることがわかり,色彩は生存力の信号として機能していることが示唆された。トゲウオ集団の生息域の大きさとFAとの間には負の相関が見られたが,最近生息地の保全により個体数が回復した集団で,FAの減少は生じていないことがわかった。今後の回復過程を追う必要がある。
〔発 表〕 H−16,17,a−38,77,78, h−21, 22

(16)窒素・リン負荷削減と下水処理水の有効活用のための干潟ビオトープの創出手法開発
〔代表者〕 東北大学大学院工学研究科:西村 修
〔分担者〕 東北大学大学院工学研究科:須藤隆一・山田一裕・金 主鉉
地域環境研究グループ:稲森悠平・水落元之
水土壌圏環境部:徐 開欽
〔期 間〕 平成10〜13年度(1998〜2001年度)
〔目 的〕 本研究では特に,実在する干潟の調査と,屋外干潟モデルプラント装置における実験,それらを踏まえたモデルによる干潟生態系の評価解析を行ったうえで,下水処理水の供給を含む干潟の物理・化学的条件の工学的な操作による干潟生態系の構造と機能の制御方法を検討し,窒素・リン負荷削減と下水処理水の有効活用のための干潟ビオトープの設計,運転,管理の合理的システムを提案するために研究を推進することとしている。
〔内 容〕 干潟モデルプラントとして下水処理場内に1m3の容積を有するタンクを4系列設置し,各タンクに底質(海浜砂)を厚さ30cm入れ,海水を各系滞留時間約2時間で連続流入させ,水深は30cmで,底質は常時冠水した状態でゴカイ,イソシジミを導入し,かつ光の有無の系の運転を行った。その結果,ゴカイ系では,巣穴での脱窒促進および二枚貝系では,懸濁態物質濃度の二枚貝によるろ過摂食が重要な要因となることを明らかにした。
〔発 表〕 B−17, 23, 25,27, 28, 33, G−1〜4, b−21, 23, 48, 68, 71, 81, 85, 86, 91, g−1

(17)野外測定・シミュレーションによる樹体の3次元構造の発達過程の解析
〔代表者〕 岐阜大学:隅田明洋
〔分担者〕 地球環境研究グループ:竹中明夫
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 森林を構成する樹木の3次元的葉群構造・分枝構造を非破壊的かつ簡便に調査する方法を確立するとともに,既存の樹冠動態の3次元シミュレーションモデルも活用して,樹木の3次元構造の形成要因や構造の生態学的な意義について明らかにすることを目的とする。その成果は,森林の全体構造の発展過程を解明するための重要な鍵となるものと期待される。
〔内 容〕 可視レーザー測距計を利用した測量機器を用いて,樹木の3次元構造を測定し,再構成するための調査・解析方法を確立するとともに,その成果を用いて樹冠構造の発達過程を再現するためのモデルの開発を行った。このモデルは,枝ごとの生死・分枝・伸長および肥大成長を明示的に扱う点が特徴である。
〔発 表〕 a−40

(18)長大立坑を用いた雲の汚染・変質過程の実規模実験研究
〔代表者〕 北海道大学:太田幸雄
〔分担者〕 大気圏環境部:福山 力・内山政弘
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 酸性雨生成の最も基本的な過程である大気汚染物質の取り込みと反応による雲粒の酸性化過程について,鉱山の立坑(高さ約430m)を用いて実規模での実験的な検証を行い,雲の汚染・酸性化予測モデルの構築に資することを目的とする。
〔内 容〕 立坑下部で食塩,硫酸アンモニウムなどの無機塩水溶液のミストを散布し,坑頂において雲粒をインパクターにて捕集し,その濃度や化学組成を調べた。その結果,ミスト成分は大部分が粒径2μm以上の雲粒に含まれること,また雲の生成に伴って1.5〜2.6%に希釈されることなどが明らかとなった。
〔発 表〕 F−46, f−4

(19)高速有機分子の表面電離法をイオン源とするガスクロマトグラフ質量分析計の試作研究
〔代表者〕 小山工業高等専門学校:岸  浩
〔分担者〕 化学環境部:藤井敏博
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 超音速分子加速法により高速化した有機・無機化合物は加熱固体表面上で効率よく正イオン化または負イオン化される。この原理を利用した高感度に有機・無機化合物を検出できる特異な分析機器GC/MSの開発を行う。
〔内 容〕 Clイオン源用の大容量(150l/sec)ターボ分子ポンプ付きGC/MS装置の新システムが組み上がった。本年度は超音速自由噴流ビームの電子衝撃法によるマススペクトルを測定した。
〔発 表〕 D−36,37,d−38

(20)地理情報システムを応用した熱帯自然環境の変容と昆虫媒介感染症の動向に関する研究
〔代表者〕 神戸大学医学部国際交流センター:川端眞人
〔分担者〕 環境健康部:小野雅司
〔期 間〕 平成9〜12年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕 動物媒介性の熱帯感染症は熱帯・亜熱帯地方の開発途上国に広く分布し,感染者の個人的損失のみでなく地域社会に大きな影響を与えており,温暖化,森林焼失や都市化など地球環境の変容に伴い流行地は拡大すると予測されている。本研究ではマラリア(農村部)とデング熱(都市部)を対象に,リモートセンシングや地理情報システムを応用し,伝播動態の解析から今後の動向予測を対策法を構築する。
〔内 容〕 地理環境の異なる,ソロモン諸島ガダルカナル島,インドネシア東部島嶼地域,タイ国東北山岳地帯を対象に,衛星画像のほか,地形図,植生図等の資料収集を行うとともに,それぞれの地域について媒介蚊の発生源同定,住民の土地利用と行動域などのデータ収集を行った。これらのデータに基づき,地理情報システムを応用した解析を行い,媒介蚊発生要因の検討,マラリア流行関連要因の検討等を行った。
〔発 表〕 E−5

(21)干潟浅海域のベンスト生殖・定着技術導入によるエコエンジニアリング修復システム化開発
〔代表者〕 地域環境研究グループ:稲森悠平
〔分担者〕 生物圏環境部:渡邉 信
水土壌圏環境部:徐 開欽
地域環境研究グループ:水落元之
東北大学大学院工学研究科:須藤隆一
〔期 間〕 平成10〜13年度(1998〜2001年度)
〔目 的〕 干潟における共存と安定のシステムを構築する上で,生態学,生態工学,水理学,分析化学的側面に立ち,干潟生態系の浄化機能と密接に関連する食物連鎖を構成する各種生物間の捕食被食関係を含めた相互作用,重要なマクロベントスの生殖・生産・定着化技術,水質浄化と生物間相互作用にかかわる各種パラメータに着目した研究を進め,現状の干潟を修復する上での発生源対策のあり方を明らかにすることを目的として研究を推進していくこととする。
〔内 容〕 干潟モデルを作成し,底生生物の存在の有無と浄化能との関係について流入原水の藻類種を変化させて検討し,食性の重要性を明らかにした。また,干潟底質における硝化,脱窒反応にかかわる環境因子との関係について検討し,酸化還元電位と底質の中央粒径が重要なことを明らかにした。さらに,干潟から分離した微小動物によるデトリタスの捕食,分解特性について二者培養および混合培養実験から検討し,浄化能向上に対し食物連鎖における捕食能の重要性を明らかにした。
〔発 表〕 B−17,28, 33, G−1〜4, b−23, 74, g−1

(22)環境ストレスが微細藻類の遺伝的変異に与える影響
〔代表者〕 地域環境研究グループ:笠井文絵
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 集団中の遺伝的変異は,その集団が環境の変化,すなわち人為的環境ストレスにどれだけ適応できるかを決める要因となり,生態系に対する環境ストレスの影響を評価する上で考慮しなければならない重要な要素である。本研究では人為的環境ストレスが,水界生態系の一次生産者としてまたそれ自体が貴重な遺伝子資源である藻類の集団にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的とする。
〔内 容〕 接合藻ミカヅキモのアロザイム変異を5酵素について調べた。ミカヅキモには11の交配群があるが,PGM,PGI,6PGDには交配群内の変異が認められ,IDHとAATには交配群間の変異がみられた。9集団についてPGMとPGIの変異を比較した結果,田植え直後の水田から採取した集団はどちらの酵素についても単型的であったが,放棄水田や放棄イ草田から採取した集団はPGMだけか両方の酵素について多型的であった。
〔発 表〕 b−124

(23)生物の相互作用と場の利用を考慮した貧栄養な湖の総合的な保全のための基礎的研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:高村典子
〔分担者〕 地球環境研究グループ:高村健二
生物圏環境部:上野隆平
青森県環境保健センター:三上 一
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 湖沼の水質や透明度は,窒素やリンの濃度や負荷量だけでは十分説明できず,湖沼に生息する生物群集の相互の関係により大きく影響される。そして,生き物は生息場所のさまざまな環境により大きな影響を受ける。湖沼に生息する生物の場の利用や相互の関係を明らかにし,貧栄養湖沼の生態系保全のための基礎的研究を行う。
〔内 容〕 沿岸域の底生生物群集は,波による影響を大きく受ける部分とそれ以深とに大きく分別された。汀線付近の礫底でははく離食者に属するコエグリトビケラ属の一種(Apatania sp.)及びニンギョウトビケラの2taxaが底生動物の総現存量の78〜91%を占めた。一方,他の地点においては,ユスリカ科と貧毛類が全現存量の52〜100%を占めた。この割合は多くの月で沖に向かうにつれて増加した。また,湖心では調査期間を通じて,ユスリカ科と貧毛類しか出現しなかった。

(24)都市域における大気環境モニタリングシステムの新構築に関する研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:若松伸司
〔期 間〕 平成9〜12年度(1997〜2000年度)
〔目 的〕 都市域における大気環境質の経年変化や地域分布の特徴を的確に把握することができる大気環境モニタリングシステムの開発を目的とする。このような都市大気環境モニタリングシステムの新構築に必要な測定技術,データ収集・解析に関する基礎的な検討を行うとともに,実データに基づいたシステム評価を行う。
〔内 容〕 本年度においては,これまでデータが得られていなかったVOC成分に関する検討を重点的に行った。 発生源モニタリングとしてはトンネル調査による自動車からのVOC発生量や組成の推計を行った。また,環境中のVOC濃度の動態を把握するために自動分析システムを完成させ,関東地域とメキシコ市に設置し地域的な特徴を把握した。これとともに,沿道大気汚染モニタリングシステムの検討を行った。
〔発 表〕 B−41,190, b−119〜121

(25)DOC分画手法を用いた溶存有機物のトリハロメタン生成能評価
〔代表者〕 地域環境研究グループ:今井章雄
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 浄水過程の塩素処理により有機物から発がん物質であるトリハロメタン生成はよく知られている。トリハロメタン前駆物質は溶存有機物に起因し,代表的物質としてフミン物質が良く知られている。本研究は,トリハロメタン前駆物質の適正な定量的分離手法を開発し,トリハロメタン生成原因物質の存在濃度およびトリハロメタン生成特性を明確に評価することを目的とする。
〔内 容〕 霞ヶ浦ろ過湖水,フミン物質および親水性画分(非フミン物質画分)のトリハロメタン(THM)生成能をヘッドスペースGC/MSにより測定した。ろ過湖水,フミン物質,親水性画分の平均トリハロメタン生成能は,それぞれ28.4,26.9,31.4μgTHM/mgCであった。親水性画分のトリハロメタン生成能はフミン物質のそれよりも有意に大きかった(P<0.01)。
〔発 表〕 b−107

(26)拡散サンプラー方式による揮発性有機化合物の個人暴露量と室内大気の影響
〔代表者〕 化学環境部:相馬悠子
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 ベンゼンの暴露量は非喫煙者では室内空気濃度にはよらず,また東京地域で高く,自動車などの都市大気汚染の影響が見られたが,本年度は,タバコからのベンゼン暴露を中心に調査した。
〔内 容〕 揮発性化合物の他物質では喫煙者と非喫煙者の個人暴露量,室内空気濃度に差がないのに,ベンゼンでは喫煙者の個人暴露量,室内空気とも非喫煙者より濃度が高いことを示した。日本で販売しているタバコ中の平均タール量からタバコ煙中のベンゼン量を推定し喫煙本数を掛けてベンゼンの個人暴露量にすると,中央値で非喫煙者の7倍,タール量の多いタバコを喫煙した場合は20倍以上になる。発がんリスクも非常に大きく10−4以上になった。
〔発 表〕 d−24

(27)表面分析法を利用したケイ酸塩鉱物の化学的風化メカニズムの解明
〔代表者〕 化学環境部:瀬山春彦
化学環境部:田中 敦
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 本研究は,様々な表面分析法(二次イオン質量分析法,X線光電子分光法,走査電子顕微鏡法,ラザフォード後方散乱法)を組み合わせて,化学的風化,溶解によるケイ酸塩鉱物の表面変化を調べ,酸性雨などによる岩石や土壌の風化反応進行のメカニズムを解明することを目的としている。
〔内 容〕 本年度は,黒雲母とアルカリ水溶液との反応による黒雲母表面の変化を調べ,前年度行った酸との反応と比較した。その結果,アルカリとの反応では,黒雲母表面で反応前の層状ケイ酸塩構造が保たれており,酸との溶解反応で形成されたSiに富む表面溶脱層は形成されなかった。従って,ケイ酸塩鉱物の化学的風化のメカニズムは,溶解して行く溶液のpHに依存して大きく変化することが明らかとなった。
〔発 表〕 D−14,15, d−19, 20

(28)ダイオキシン類の毒性発現に係る新規の転写調節因子の同定
〔代表者〕 環境健康部:青木康展
〔分担者〕 環境健康部:松本 理
大阪大学大学院薬学研究科:今川正良
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 ダイオキシン類の多様な毒性発現にかかる遺伝子発現のメカニズムはいまだ明らかでない。我々は,これまでダイオキシン類の一つであるコプラナーPCBが肝がんのマーカー酵素であるP型グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST−P)遺伝子を発現する際にはGPE−Iと呼ばれるGST−P遺伝子の5’上流域が必要であることを明らかにしている。本研究の目的は,このGPE−I領域に結合する転写調節因子(タンパク質)を同定することである。
〔内 容〕 初代培養ラット肝実質細胞より核抽出液を調製し,32Pで放射標識した合成GPEIプローブを用いてゲルシフトアッセイを行った。その結果,1本のシフトバンドが検出され,このバンドの濃さがコプラナーPCB処理細胞の核抽出液では増強されていた。コプラナーPCBによる転写促進活性が失われた変異GPE−I領域をゲルシフトアッセイのプローブに用いた場合にはシフトバンドは検出されず,シフトバンドは特異的なGPE−I領域への因子の結合を反映しているものと考えられた。
〔発 表〕 E−29,e−3, 59

(29)MRイメージング法によるLECラット肝における多段階発がん説の検証に関する研究
〔代表者〕 環境健康部:三森文行
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 Long−Evans Cinnamon(LEC)ラットは銅の代謝異常から,肝炎を経て肝細胞がん等の肝疾患を高率に発症する新しい突然変異動物であり,肝疾患の発症過程を研究するのに好適な実験系を提供する。本研究では,MRイメージング診断法を用いて,同一のLECラット肝を経時的に,繰り返し観察することにより,肝細胞がんの発症が慢性肝炎から前がん状態を経て多段階的に起きているか否か検証することを目的とする。
〔内 容〕 前年度開始したLECラット12匹の2年間にわたるMRI繰り返し観察を終了した。MR画像と終了後の病理診断により5種類計42個の肝疾患を同定した。このうち,28疾患について画像の経時変化を追跡できた。この結果,5種の疾患の画像特性は発症段階からほとんど変化しないことがわかった。また,それぞれの疾患の成長速度を算出することができた。がん性疾患の疾患体積のダブリングタイムは4.1週と最も速い成長を示した。
〔発 表〕 e−61,71, 73

(30)熱帯降雨衛星観測とライダー雲観測とを用いた雲の放射効果の定量的評価に関する研究
〔代表者〕 大気圏環境部:高薮 縁
〔分担者〕 大気圏環境部:杉本伸夫・松井一郎
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 雲システムによる放射効果の定量的評価研究のため,熱帯域における大規模雲システムの活動と雲の鉛直構造との関係を調べる。解析には,インドネシア・ジャカルタ近郊に設置された小型ミーライダー等による地上からの連続雲観測およびGMS(ひまわり),TRMM(熱帯降雨観測衛星)等の衛星観測を用いる。また解析結果を放射伝達モデルを介した雲の放射効果の見積もりにつなげる手法を検討する。
〔内 容〕 本年度は1998年10〜12月中の3期間に雲データを取得し,雲底高度を算出した。雲の鉛直分布は,10月上旬には上層一層であったが,雨期に入った11月下旬〜12月には,5〜6kmの中層と9〜15kmの上層の2層構造であった。GMSデータおよび全球客観解析データからは,10月下旬〜11月上旬に30〜60日周期の対流活動システムがこの地域を通過したことが示された。今後,雲の鉛直分布と大規模雲システムや気象場との関係を統計的に解析する。
〔発 表〕 f−39,47, 49

(31)微小な反応速度差の精密測定法の開発と同位体間の反応速度差の決定─大気化学への貢献
〔代表者〕 大気圏環境部:鷲田伸明
〔分担者〕 大気圏環境部:猪俣 敏・古林 仁
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 近年,地球環境研究において種々の元素の循環機構(いわゆる炭素,硫黄,窒素などの循環)を明らかにするために同位対比測定が行われている。循環機構における同位体濃縮の一つとして大気中での化学反応における反応速度の同位体間の差異の評価が重要視されている。本研究では気相ラジカル反応における安定同位体間の微小な反応速度の差異を精密測定し,問題解決に貢献するもので,本年度は以下の研究がなされた。
〔内 容〕 (1)メチルラジカルと酸素原子,分子の反応速度の同位体効果:CH3とCD312CH313CH3のメチルラジカルとO(3P),O2の反応速度の比の測定を行った。系の中にあらかじめ濃度既知のO(3P)またはO2を混入しておき,反応によるシグナルの減衰を測定し同位体間での反応速度の差異を決定した。(2)CH2CFO,CD2CFOラジカルのレーザー誘起ケイ光の研究:反応速度研究の準備として,CH2CFOとCD2CFOラジカルのレーザー誘起ケイ光測定を行い,分光学的情報の中の同位体効果を決定した。
〔発 表〕 F−50〜54, f−109〜112

(32)大深度立坑を利用した実スケール雲化学実験―二酸化硫黄の酸化に関する研究
〔代表者〕 大気圏環境部:福山 力
〔分担者〕 大気圏環境部:内山政弘
地球環境研究グループ:村野健太郎
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 深さ約400mの立坑内に,実大気におけるのとほぼ同じ規模の人工雲を発生させ,ガス状および粒子状大気微量成分と雲粒との相互作用あるいは雲粒内で進行する液相化学反応を調べ,地球規模の物質循環や環境変動における雲化学過程の役割に関する知見を得ることを目的とする。
〔内 容〕 立坑下部で食塩,硫酸アンモニウムなどの無機塩水溶液のミストを散布し,坑頂において雲粒個数濃度や雲粒径分布の時間変動を調べた。その結果,個数濃度の増大は上昇気流速度から予想されるよりもはるかに遅れて始まり,かつその時間遅れは粒径に依存することが明らかとなった。この依存性の解析により水滴の成長速度に関する知見が得られた。
〔発 表〕 f−99

(33)深刻な森林被害の見られる亜高山域でのオゾンの観測
〔代表者〕 大気圏環境部:畠山史郎
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 奥日光の白根山周辺においては深刻な森林衰退が見られる。枯れている樹木は特定の樹種に限らず,広葉樹も,針葉樹も広範囲に枯損を受けている。関東平野内で生成する光化学オゾンや,この光化学オゾンと植物が放出するテルペン類等の天然炭化水素との反応で生成する過酸化物が原因の一つではないかと考えられる。このため,実際に深刻な森林衰退の見られる高山,亜高山地域でのオゾン濃度の測定を本研究の目的とする。
〔内 容〕 電池で駆動できる小型のオゾンセンサーと小型のデータロガーにより,平成10年8月1〜9日に,奥日光前白根山頂上直下の鞍部稜線上においてオゾン,気温,風向風速,湿度の測定を行った。平成10年度は梅雨がはっきりと明けずに,8月初旬においても雨の多いぐずついた天気が続いた。比較的低温で,風も首都圏の影響を受ける南東風ではなく北西風が多く,オゾン濃度が高濃度となることはなかった。
〔発 表〕 f−75,82

(34)河川生態系を健全に維持するための瀬と淵のあり方に関する研究
〔代表者〕 水土壌圏環境部:徐 開欽
〔分担者〕 地域環境研究グループ:稲森悠平
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 本研究では,近自然工法によって河川内における生物多様性の確保を実現させるために,生物の生息環境として重要な淵を対象として,河川水質に応じた瀬と淵の構造の最適化を図ることを目的とする。この目的を達成するために,河川水質の中で特に有機物・窒素化合物濃度と淵の構造を変数として作成したモデルにより,淵底部における溶存酸素濃度を予測し,底生生物の生息可能な溶存酸素濃度を確保しうる瀬と淵の設計因子を検討する。
〔内 容〕 平成10年度では,河床生物膜中の硝化細菌および付着藻類,従属栄養細菌間をめぐる窒素の収支を室内実験で求めるとともに,窒素由来の酸素消費がおこりやすい河川水質での各生物の動態を検討した。また,室内実験より算出した硝化速度や窒素収支などを用いて,瀬と淵のパラメータを考慮した簡易な水質シミュレーションモデルを構築し,淵の形状が変化した場合のDO濃度の予測を試みた。その結果,(1)河床付着生物膜中の藻類と硝化細菌間の窒素化合物の移動量は,藻類が摂取する窒素化合物のうち約1割が硝化細菌による硝化由来であり,硝化細菌が摂取する窒素化合物のうち約5割が藻類の分解由来のものであることが明らかになった。(2)緩流部に窒素化合物とともにはく離した生物膜による懸濁態有機物が流入したときに,有機物負荷が高い場合には,緩流部最下流部のDOが4mg/l程度まで減少することが簡易モデルを用いたシミュレーションにより予測された。また,緩流部において7.5mg/l以上のDOを保つためには水中NH4−N濃度が0.5mg/l未満である必要があることが計算により示された。
〔発 表〕 G−5, 6,b−47, 48, 71, 90, 91, g−1

(35)土壌生態系に及ぼす汚染物質の影響評価手法に関する基礎研究
〔代表者〕 水土壌圏環境部:服部浩之
〔期 間〕 平成8〜10年度(1996〜1998年度)
〔目 的〕 重金属や酸性物質による土壌の汚染が進んでいるが,これらの汚染物質が土壌生態系に及ぼす影響は明らかでない。土壌の物質循環機能への汚染物質の影響を未然に防止するためにも,汚染物質の土壌生態系への影響を把握し,その影響手法を確立する必要がある。本研究は,汚染土壌の物質代謝特性を明らかにし,それに基づいて土壌生態系に及ぼす汚染物質の影響評価の手法を開発することを目的としている。
〔内 容〕 土壌に酸を少しずつ添加していったときの土壌微生物相,土壌活性の変化を調べるため,カラム試験を行った。林地土壌100gを内径5cmのガラスカラムに詰め,pH3の硫酸水あるいは蒸留水を3l上方から流し,土壌中の微生物数等を調べた。その結果,硫酸水を潅水した土壌では,蒸留水を潅水した土壌に比べて,土壌pHが約0.8低下し,放線菌数,グラム陰性細菌数が半分以下に減少した。また,硝酸化成量も少なかった。

(36)湖沼における車軸藻類の消滅機構の解明と生息域外保全に関する研究
〔代表者〕 生物圏環境部:渡邉 信
〔分担者〕 生物圏環境部:野原精一
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 湖沼において激しく消滅している車軸藻類について,その分布と生息状況を水環境を含めて調査し,それらの消滅要因を明らかにするとともに,車軸藻類の培養を行い,増殖条件や生活環制御条件を検討し,個体での保存,卵胞子,精子,受精卵での保存技術を確立することを目的とする。
〔内 容〕 平成9年度までの38湖沼に加えて,10年度は津軽十二湖及び十三湖における車軸藻調査を行った。双方とも1964年の加崎の報告ではカタシャジクモの生育が確認されていたが,今回の調査では確認されなかった。水質汚濁がその原因と考えられた。日本固有種であるキヌフラスコモ(Nitella gracilens)は現在芦ノ湖でしかその生息が確認されていない種であるが,その培養に成功した。栄養細胞や卵胞子の形態を詳細に観察し,本種をN. furcata subsp. orientalisとする見解を完全に否定することができた。
〔発 表〕 H−20,22, h−41, 44

(37)河川の底生動物の成長と行動に対する化学物質の長期低濃度暴露影響
〔代表者〕 生物圏環境部:多田 満
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 人工環境室に設置した流水式水路を用いて国内の主要な河川に普通に見られる殺虫剤感受性種であるヒラタカゲロウ類とコガタシマトビケラを用いて野外で長期間低濃度で検出されるカーバメイト系殺虫剤,フェノブカルブを低濃度(1〜16μg/l)で長期間(2カ月程度)暴露し,その成長(幼虫の脱皮や羽化)と行動に及ぼす影響を調べる。
〔内 容〕 エルモンヒラタカゲロウとシロハラコカゲロウ幼虫の個体群レベルでの羽化に対する生態影響を調べた。羽化個体数は,1,2μg/lの低濃度では,始めの20日目までは羽化数が増加するが,その後は羽化が抑制された。一方,シロハラコカゲロウの羽化は,生存個体に関してはどの濃度でも継続的にみられ,エルモンヒラタカゲロウのような低濃度の羽化抑制はみられなかった。
〔発 表〕 H−13,f−19, 20

(38)集水域の栄養塩負荷が湿原生態系に及ぼす影響評価に関する研究
〔担当者〕 生物圏環境部:野原精一
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 本研究では,人間活動や開発行為等に影響されやすい移行帯としての湿地生態系を対象とし,人間活動により激しく撹乱された赤井谷地(高層湿原)・釧路湿原(低層湿原)における集水域からの栄養塩類の流入量評価とその生態系影響,並びに緩衝機能を調査・解析し,湿地生態系管理のためのガイドラインを作成するための科学的知見を得ることを目的とする。
〔内 容〕 調査は6月と6週間後の8月に実施した。各地点5サンプルを採取し,変動幅を求めた。草本群落の最大現存量を刈り取り法によって一次生産及び種多様性を測定した。方形区内の草本の密度と草丈の測定,土壌環境の測定を行った。脱窒活性を知るため採取した土壌コアサンプルをアセチレンで阻害して,N2Oガス生成速度を測定した。土壌コアサンプルの間隙水及び抽出水を採取し,栄養塩類の分析を行った。1つは埋設し6週間後に栄養塩類の増減を測定した。それらの差から栄養塩の溶出量を推定した。採取した植物の栄養塩類(窒素,リン)の量を測定した。人工基物として綿布を埋設し,6週間後の分解状態を張力試験で分解活性として評価した。土壌コアサンプルの灼熱減量及び窒素・炭素・リンの含有率の6週間での変化を測定した。
〔発 表〕 h−27

(39)富栄養化湖沼における藍藻溶解性細菌類の検出手法の開発
〔代表者〕 生物圏環境部:広木幹也
〔分担者〕 生物圏環境部:渡邉 信
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 富栄養化湖沼で夏季に大量発生するアオコの発生メカニズムについては主として,藍藻類の増殖の栄養学的条件などを中心に解析が進められてきたが,環境中にはこれらの藻類を分解する各種の微生物群が存在し,藍藻類の増殖を抑え,あるいは増殖した藻類の減少過程で重要な働きをしているという指摘もなされている。本研究においては,これら藻類溶解細菌類の自然界における動態を解析するための手法を開発することを目的とする。
〔内 容〕 富栄養化した湖沼水からシアノバクテリア(Microcystis aeruginosa,NIES−90)を含んだ重層寒天平板法により計29株の藍藻溶解性細菌を単離した。これら単離した細菌類はいずれもCA培地上でオレンジ,黄色,またはクリーム色のコロニーを形成し,細胞は長さ4〜10μm以上の長桿菌で,これらの細胞が断裂せずに長さ数十ミクロンの長さに達するものもあった。また,これらの細菌のいくつかは高いGC含量(60%以上)を持っていた。

(40)高層湿原への人為的影響の評価と保全対策
〔代表者〕 北海道大学:橘 治国
〔分担者〕 水土壌圏環境部:井上隆信
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 本研究では,湿原地下水の水質形成機構を明らかにし,湿原の乾燥化あるいは湿原涵養水や土壌の組成の変化等,人為活動の地下水に及ぼす影響を評価する。特に高層湿原の代表種であるミズゴケ繁茂地域と非湿原種であるササの進入域の水質の特性とその形成機構の差異を明らかにし,自然状態(高層湿原)を維持するための環境条件さらに保全対策を提案する。
〔内 容〕 サロベツ湿原と霧多布湿原における湿原地下水や周辺水域の水質や湿原土壌質の調査結果,従来の地下水位を中心とした水文学的に加えて化学的にも人為活動の影響が湿原生態系に及んでいることが明らかになった。すなわち,排水が地下水位の低下と泥炭の乾燥化を招き,さらに泥炭の分解による栄養塩濃度の上昇を引き起こすことと,土地造成による土壌の湿原への混入により土壌中のリンや珪酸含量が著しく高くなることがわかった。

(41)生息環境水理学の展開のための調査研究
〔代表者〕 名古屋大学:辻本哲郎
〔分担者〕 水土壌圏環境部:村上正吾
〔期 間〕 平成10年度(1998年度)
〔目 的〕 治水・利水・環境の3つの機能を等しく向上させるという認識で,河川整備をしていく上で,特に環境機能の中でも自然環境保全機能を向上させる川づくりの水理技術の進展が望まれている。本研究では,流れ・流砂・河道内地形・植生の相互作用系を解析することで,河道内の生態環境としての場(Habitat)がどのような河川水理学的事象によって形成されるかを検討した。
〔内 容〕 河川景観の管理・整備のためには,河道内の様々な地形,異なる表層粒度,植生領域が様々な形態で分布している状況における流れの時間的・空間的変化を記述する必要がある。このため,K−εモデルを用いた水深平均平面2次元解析の枠組みで,底面粗度,植生の形状抵抗を考慮した水理モデルを提案した。掃流砂あるいは浮遊砂が卓越する場合を想定して,流れの水理モデルを適用することで河道内地形(生息環境場)の形成過程が異なることを示した。

(42)気候変動と大気エアロゾル中のメタンスルホン酸の変動
〔代表者〕 地球環境研究グループ:向井人史
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 大気中のメタンスルホン酸(MSA)は海洋の植物プランクトンから放出されるジメチルサルファイド(DMS)の二次生成物であることから,DMSの発生量の良い指標になっている。ここでは長期的に大気粉じんを採取しMSAを分析しながら,長期的な気候変動とその濃度がどのように対応するのかを明らかにする。植物プランクトンが作り出すDMSが地球温暖化に対して負のフィードバック効果を持っているという仮説があるが,ここではその仮説を検証する。
〔内 容〕 島根県隠岐島及び太平洋上(日本−カナダ間)で,大気粉じんのサンプリングを年間を通して行った。太平洋上の観測結果によると,北太平洋上の春のメタンスルホン酸濃度は,隠岐島と同等かそれ以上になっていた。エルニーニョ現象が起こった今年(1998)の北太平洋上のメタンスルホン酸濃度は,前年に比べてかなり低めである傾向があった。以前の隠岐での観測もそのような傾向を示しており,太平洋全域でそのような傾向があるかもしれない。今後,気候との因果関係を解析する。

(43)中国大陸から越境移動する大陸性エアロゾルの起源の特定に関する研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:西川雅高
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 中国から越境移動する大気汚染物質の問題は,酸性雨に代表されるように風上側と風下側で見解が異なることがある。エアロゾルは,ガス状物質よりも拡散し難いので飛来ルート特定のよい物質である。春季に大量に飛来する黄砂エアロゾルは,日本の土壌と違った特徴をいくつか有している。この黄砂エアロゾルを利用することによって,中国大陸からの汚染物質飛来ルートを特定する手がかりを探ることを目的とする。
〔内 容〕 中国大陸から飛来する黄砂エアロゾルを採取するために,日本各地にモニタリングステーションを配置した;西表島,阿蘇,隠岐島,石川,富山,清水,つくば計7カ所である。中国各地の砂漠/乾燥地帯で採取した表層土の化学分析結果と,日本で採取した黄砂エアロゾルを比較し,気象学的考察を交えて,その飛来する黄砂エアロゾルの起源の特定を試みた。
〔発 表〕 b−179, 181〜183, 186,243, 244, 246

(44)リモートセンシングによる熱帯林の更新様式に関する研究
〔代表者〕 地球環境研究グループ:足立直樹
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 多くの熱帯林が急速に失われることが世界的な問題として取り上げられるようになって久しいが,その一方でこれらの熱帯林がどのように更新しているかについては未知の部分が多いのが実状である。熱帯林でも温帯林や北方林と同様に林冠ギャップ(森林上部を覆う葉層が消失し,穴のようになった部分)の生成が核となって更新が行われることが指摘されているが,定量的な把握は進んでいない。ギャップの動態を定量的に解析し熱帯林の更新様式を解明することは,熱帯林の更新(回転)速度を明らかにすることに直結しており,熱帯林の保全や復元のために欠くことのできない知見を提供すると考えられる。そこで本研究では,航空機等から取得した東南アジアの熱帯林画像データを基に,森林の樹冠高分布を求め,これを利用して天然更新の核となっていると考えられる林冠ギャップの生成と消滅(=修復)速度を広い面積で定量的に測定し,更新様式を解明することを目的とした。
〔内 容〕 パソの50haコアエリアについて空中写真をもとに,個々のギャップの動態を解析した。解析の対象は,1995年5月と1997年2月の二時期に共通して樹高分布図を作成することができた東側38ha部分である。樹冠高が15m未満のところをギャップと定義し,認識可能な最小サイズである6.3m2(=1セル)以上のすべてのギャップの消長を解析した。
 1995年に全部で509個存在したギャップは1997年には463個に減少したが,小さい方に極端に偏ったJ字型のサイズ分布の形は変化しなかった。消滅したギャップのほとんどは面積63m2以下のごく小さなギャップであり,188m2を越えるような大型のギャップは完全に閉じることはなく,大きな一つのギャップが複数の(多くの場合より小さい)ギャップに分割するなどして,周囲から徐々に縮小していた。
 次に1997年に確認された463個のギャップが,1995年の段階ではどのような状態だったかを調べることにより,これらのギャップの起源を解析した。その結果,全体の半数近くの210個(45%)のギャップがこの2年間に新たに生成したものであり,27個(5.8%)は複数のギャップが一つに統合したものであることが明らかになった。新しく生じたギャップのほとんどは最小サイズのもの(6.3m2)であったが,最大のものは188m2であった。統合したものは小さいギャップの方が多かったものの,最大のものは1,556m2であった。一方,起源別に面積の変化を見ると,新しく生じたものは当然すべて面積が増加しているが,増分は合計で3,963m2足らずであった。統合したもの,既存のものについては,面積がやや増加したギャップもあるが,その数も増分も少なく,減少したものの方が圧倒的に多かった。
 以上のことから,新しく大きなギャップができることは比較的まれな現象であり,ごく小さなギャップが生じては短期間に消滅しているのが大多数であることがわかった。また,森林全体でのギャップ面積の拡大には,新規生成のギャップと同様に,既存のギャップの拡大の貢献が同程度に大きく,新しく発生したギャップだけに注目するのではなく,個々のギャップ動態を詳細に把握することが重要であると考えられた。

(45)現代日本人小児の環境鉛暴露源の安定同位体分析による解明
〔代表者〕 地域環境研究グループ:吉永 淳
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 1980年代に入り,ガソリンが無鉛化され,一般公衆の鉛暴露レベルが下がってからの現代日本人の鉛暴露源がどこにあるのか,もし複数の暴露源があるとすればそれぞれの寄与割合はどれくらいなのかについて,小児の乳歯に含まれる鉛の安定同位体比を用いて調査することを目的とする。
〔内 容〕 1980年代中盤に生まれた日本人小児の乳歯17試料の鉛濃度および鉛安定同位体比を測定した。鉛摂取源となる可能性のある環境試料の同位体比と比較した結果,現代日本人小児には外国産の鉛暴露があること,その暴露の一部は母親の胎内で起こった可能性があること等を見いだした。

(46)アワビ類の再生産に及ぼす有機スズ化合物の毒性に関する実験的研究
〔代表者〕 地域環境研究グループ:堀口敏宏
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 アワビ類は各地で種苗放流事業が活発に実施されているにもかかわらず,漁獲量が増大せずに減少する傾向が見られ,また全漁獲物に占める人工種苗放流個体の比率(混獲率)がマダカアワビだけでなく,クロアワビやメガイアワビにおいても90%を超える海域があり,天然個体の再生産が著しく減少していると推察される。本研究では,その背景に内分泌撹乱が関与していないか,またそうであればその原因は何かについて検討した。
〔内 容〕 A海域(対照海域)とB海域(被影響海域)で毎月サンプリングされた試料の生殖巣組織を検鏡した結果,A海域産アワビでは晩秋〜初冬にかけて雌雄がほぼ同時期に一斉に成熟していたのに対し,B海域産アワビでは雌雄が同時期に一斉に成熟しておらず,生殖周期に乱れが観察された。またB海域産雌アワビの18%で精子形成が観察された。A海域産アワビをB海域に移植し7ヵ月間飼育したところ,雌の約90%で精子形成が引き起こされた。
〔発 表〕 B−125,b−219

(47)化石骨含有コラーゲンに対する続成作用とその炭素同位体比への影響に関する研究
〔代表者〕 化学環境部:米田 穣
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 化石や考古学遺物として発掘される過去の骨試料にはその生物が存在した年代,生息していた生態系に関する情報が記録されている。しかし,続成作用と呼ばれる土壌埋没後の化学変化や分析に先立つ前処理によってその情報は撹乱されている危険性がある。年代測定あるいは生態学的研究で使用される骨組織のタンパク質,コラーゲンに関して続成作用が与える影響を評価するための指標を確立することを目的とする。
〔内 容〕 ロシア極東域ボイスマン2遺跡から出土した人骨資料(約6500yBP)を試験対象として,全有機分画,水溶性分画,ゼラチン抽出分画,ゼラチン残渣分画について比較,検討した。その結果,最もコンタミネーションが少ないと考えられる。ゼラチン抽出分画が最も古い放射性炭素年代を示した。安定同位体については炭素・窒素同位体で見られた相関は他の分画では認められず,窒素を含有した土壌有機質の混入が示唆された。

(48)ほ乳類雄性生殖細胞の温度感受性に関する分子生物学的解析
〔代表者〕 環境健康部:大迫誠一郎
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 細胞質内にHSP90の高発現がないと,ある種の転写因子が機能しないため,HSP90は転写因子特異シャペロンとして注目されている。HSP90はほ乳類でも減数分裂前の精細胞に高発現しているが,減数分裂後は減少することから(Ohsako et al.,1995),減数分裂後の精細胞の高温変成に関与していると予想される。本研究ではHSP90が精細胞特異遺伝子の発現調整にどのように関与しているか検討した。
〔内 容〕 マウス精巣のin vivo高温暴露(33℃以上)によってHSP90の発現に変化があるか観察したところ,37℃,43℃ともに発現パターンに変化は見られなかった。このことから,HSP90の精細胞中での発現は熱ショックプロモーターを介さないことが示唆された。なお,無細胞in vitro転写系に関しては,マウスcalnexin−t遺伝子調節領域を遺伝子を用い,Runoff assayはコンディションを現在検討中である。

(49)重金属および酸化的ストレスに対する生体内防御因子としてのメタロチオネインの役割
〔代表者〕 環境健康部:佐藤雅彦
〔期 間〕 平成9〜10年度(1997〜1998年度)
〔目 的〕 生体内での重金属毒性および酸化的ストレスに対するメタロチオネイン(MT)の防御効果を明確にすることを目的として,エタノールによる炎症性病変(フリーラジカルの産生が関与)に及ぼすMTの影響をMT遺伝子欠損マウスを用いて検討した。また,重金属毒性に対するMTと重金属解毒作用を有する栄養素セレンとの相互関係についても低セレン飼料で飼育したMT遺伝子欠損マウスを用いて検討した。
〔内 容〕 エタノールを経口投与したMT遺伝子欠損マウスは,野生型マウスに比べて胃や十二指腸の粘膜病変が著しく増悪され,MTが炎症性の病変に対しても生体内防御因子として重要であることが示唆された。また,MT遺伝子欠損マウスは,セレンの低下によって,無機水銀の腎毒性やカドミウムの肝毒性が著しく増強され,内因性のMTおよびセレンが,重金属毒性に対して互いに協調して防御的に働いていることが示唆された。
〔発 表〕 E−14,15, e−27, 28, 33, 35, 36, 47

(50)肺胞モデル培養系を用いた環境汚染物質の影響評価法の検討
〔代表者〕 環境健康部:古山昭子
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 種々の化学物質を含む環境汚染物質による生体への影響評価の中で,吸入暴露による呼吸器への影響評価のために,生体肺組織から採取した構成細胞を適当な細胞外基質とを組み合わせて培養することにより基底膜を含む肺組織を模した肺胞モデル培養系を作成し,影響評価のための鋭敏なマーカーについて検討することを目的とする。
〔内 容〕 肺線維芽細胞順化培地又は線維芽細胞マトリックス存在下で,ラット肺胞上皮株細胞を風乾コラーゲンゲル上で培養することにより,生体と同様な基底膜の形成に成功した。従来のプラスチック培養基質と比較して,基底膜上では肺胞上皮細胞の接着,伸展,遊走が亢進し,上皮形成が促進されることが明らかになった。過酸化水素暴露実験より電気抵抗値の変化が細胞障害を最も早く検出することが明らかになった。
〔発 表〕 e−56,58

(51)領域大気モデルを用いた降水過程と陸面水文過程の相互作用に関する研究
〔代表者〕 大気圏環境部:江守正多
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 陸上の降水量は,そこでの土壌水分量に大きく依存することが近年指摘されている。すなわち,土壌水分と降水は相互に影響を及ぼしてフィードバックループを形成するが,その性質については未だ明らかにされていない。本研究では,現実的な境界条件を用いて3次元の領域モデル計算を高分解能で行うことにより,現実的な状況における降水過程と陸面水文過程との相互作用を明らかにすることを目的とする。
〔内 容〕 領域大気モデリングシステムCSU−RAMSを用いて,レナ川流域を含むシベリア領域の降水イベントのシミュレーションを行った。特に,現実に強い雷雨が観測された領域に2kmの高分解能の計算領域をネスティングし,対流性降雨が分解できるスケールでの実験を行った。結果について,モデルの分解能と降水スキームの特性による降水の再現性の違い,陸面過程の空間的非一様性と降水過程との関係に注目して考察を行った。
〔発 表〕 F−2, 3,f−10

(52)懸濁態リンの藻類利用可能性測定のための環境水中懸濁物質の分離手法の開発と応用
〔代表者〕 水土壌圏環境部:井上隆信
〔期 間〕 平成10〜11年度(1998〜1999年度)
〔目 的〕 河川や湖沼水中の懸濁物質・底泥は大きく分けると無機物質と有機物質の混合物であるが,好気的条件下においては懸濁態無機物質中のリンを藻類が利用することは難しいと考えられ,有機物質中のリンが藻類増殖に利用されている可能性が高いと推察される。このことを,密度差を利用して懸濁物質を無機物質と有機物質に分離する新たな手法を確立し,分離した懸濁物質のAGP試験を行うことで,明らかにする。
〔内 容〕 懸濁物質を,連続遠心分離による濃縮と密度勾配遠心法による分離手法を用いて,直接,無機物質と有機物質の2成分に分離する手法の開発を行った。連続遠心による懸濁物質の捕集率は,流量が一定の場合は回転数が大きいほど増加し,26,500gの条件下では95%が捕集された。ろ紙による分別と比較すると,10μm以上の懸濁物質はほぼ100%捕集され,懸濁態と溶存態を分けるのに通常用いられている0.45μmでは95%が捕集された。
〔発 表〕 G−13

(53)チベット高原におけるエネルギー・水循環過程の研究
〔代表者〕 筑波大学:安成哲三
大気圏環境部:江守正多
〔期 間〕 平成10年度(1998年度)
〔目 的〕 GAME(アジアモンスーンエネルギー・水循環観測研究計画)の一環として,アジアモンスーンの大気加熱に大きな役割を果たしているチベット高原上でのエネルギー・水循環過程とその変動にかかわる大気・陸面相互作用を,現地での集中的な気象・水文観測を通して明らかにすることを目的とする。また,積雪・永久凍土の役割を比較するため,シベリア,モンゴルの寒冷圏での同時観測を行う。
〔内 容〕 シベリアタイガ帯における森林からの蒸発散などの陸面過程と積雲対流などの降水過程との相互作用に関する知見を得るために,ロシアのヤクーツク付近における水・熱交換過程,凍土水文過程の観測に参加した。タワーによる境界層観測,雨量観測,土壌温度・土壌水分観測,植生調査などを実施した。

(54)熱帯感染症対策へのリモートセンシングと地理情報システム技術の応用
〔代表者〕 神戸大学医学部国際交流センター:川端真人
〔分担者〕 環 境 健 康 部:小野雅司
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 マラリアやデング熱など蚊が媒介する熱帯感染症の対策にはヒトの生計活動,行動様式,居住環境などヒト側の要因,媒介蚊の密度,媒介能力,吸血活動など蚊側の要因と,それを取り巻く自然地理環境の要因が複雑に絡み合っている。また,最近では地球環境の変容に伴い流行域は拡大すると予測されている。本研究では人工衛星からのリモートセンシング画像と多彩な資料を解析する地理情報システムを導入し,空間的な伝播動態と危険因子を解明し,生態学的な視点で蚊媒介性感染症対策の構築と動向予測を試みる。
〔内 容〕 ソロモン諸島国ガダルカナル島,タイ国東北山岳地帯(マラリア),インドネシアスラバヤ市街(デング熱)を対象に,現地調査を実施した。現地調査においては疫学調査のほか,衛星画像の収集,地形,植生,水系などのデータ収集を行うとともに,得られたデータに基づいて,地理情報システムを応用した解析を開始した。
〔発 表〕 E−5

(55)南極での自然界超長期保存を中心とした生物・地球環境試料保存国際ネットワークの構築
〔担当者〕 化学環境部:柴田康行
〔期 間〕 平成9〜11年度(1997〜1999年度)
〔目 的〕 人類活動による環境破壊,自然破壊の進行に伴い,生物種の絶滅や地球環境の悪化が懸念されている。新しい世紀並びに千年紀の始まりである21世紀初頭に,20世紀の人類の歩みを振り返ってその評価,反省を踏まえ,将来の子孫のために現在の地球・生物に関する情報,試料を取捨選択しつつ残していくことを目的とし,試料の超長期保存システムに関する検討,保存状態情報の記録,試料の取捨選択や保存性の検討,情報そのものの保存の問題など様々な角度から専門家の意見を集約し,具体化を目指す。
〔内 容〕 平成10年度には,9年度に開催された国際会議での意見,勧告等を踏まえて,担当課題である環境モニタリングにかかわる環境試料の選択と保存に関する意見交換を目的として,ドイツの環境試料バンク施設並びにドイツとオーストリアの関連研究者を訪問した。ドイツMuensterのミュンスター大学にある人試料の長期保存施設並びに付属分析施設,データベース管理施設を訪問し,リーダーのKemper名誉教授からプロジェクトの詳細な説明を受けた。ついでJuelichにある環境試料保存バンクと付属分析施設を訪問し,活動の現状と将来計画に関連してリーダーのEmons博士,Schladot博士と意見交換を行った。いずれの施設もドイツ的きまじめさでモニタリング試料の収集と保管を長期にわたって継続している様子,並びに試料の保存性,代表性や環境変化の把握に関して最新,最先端の分析化学の基盤に立った研究を推進しているさまに強く印象付けられた。本研究所も含め,これらの先端機関の試料保存はいずれも20年を越える時期にさしかかっており,現在大きなテーマとなっている内分泌撹乱物質等の研究にも重要な手がかりを与えうる長期的な変化を解 析しうる段階にきている。保存試料の貴重性の増大とともにこれらの確実な保存体制の維持,保証が益々大きな問題となってきており,貴重な試料の分散相互保管や,極地などの自然環境を利用した長期保存バックアップ体制確立などの具体化が重要かつ緊急性の高い課題となっていることが共通認識として確認された。
〔発 表〕 D−10

(56)デデリエ・ネアンデルタール人骨に関する総合的研究
〔代表者〕 国際日本文化研究センター:赤澤 威
〔分担者〕 化学環境部:米田 穣
〔期 間〕 平成10〜12年度(1998〜2000年度)
〔目 的〕 ネアンデルタール人類は約10万年前から3万年前に生息した。特に中近東では形態学的現代人と同時に生息したため,現代人の起源を探る上で非常に重要な位置を占める。本研究ではシリア共和国デデリエ洞窟遺跡から出土したネアンデルタール人骨の絶対年代を,本研究所加速器質量分析施設を用いて決定することを目的とする。
〔内 容〕 AMSのよる放射性炭素年代では,現在のところ概ね4.5万年程度が測定限界とされることが多い。NIES−TERRAでは通常よりも若干バックグランドが低い。この特徴を伸ばすべく,5万年を超える大過去試料の測定を目指す。現在のCO2グラファイト化の前処理方法における現代炭素混入を最小限に押される努力をする。並行してCOの熱拡散による同位体濃縮の実現性を検討する。

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