ヘッダーユーティリティメニュー

イベント情報、交通案内、サイトマップ、関連リンク、お問い合わせ・ご意見

グローバルナビゲーション


ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所年報 > 平成10年度 > 科学技術振興調整費による研究  7.重点基礎研究

ここからページ本文です

科学技術振興調整費による研究


7.重点基礎研究


(1)環境中ダイオキシンの疫学予備研究

〔担当者〕

環境健康部 遠山千春・小野雅司・
宮原裕一・吉川麻衣子

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
近年,ダイオキシン類への暴露による健康影響が注目されてきている。ダイオキシン類によるの健康影響を研究する際には,ヒト集団を対象とする疫学調査の実施が不可欠であるが,疫学調査を実施する際,ヒトのダイオキシン類への暴露を把握することが必要であり,その暴露の指標として,対象群の体内のダイオキシン濃度を測定することが望ましい。ところが,現在,ダイオキシン類の濃度を測定する際,現在の技術では例えば血液を100ml以上採取することが必要であり,一般人口への疫学調査を行う際のフィージビィティを低下させている。そこで本研究では,より簡便な分析法,もしくは血中濃度の適切なサロゲートの開発を目指し,種々の生体資料の測定結果の相関関係を調べ,また,複数の測定方法についての比較検討を行った。

〔内 容〕
ダイオキシン類の環境汚染に関する疫学的研究に供するために,生体へのダイオキシン類による暴露に対する正確な評価法を構築することを目指し,以下の研究を行った。まず,体内のダイオキシン濃度を正確に把握するために,まず,ラットにて,同一条件下における種々の臓器のダイオキシン濃度を測定し,その体内分布について検討した。その結果,低濃度の暴露条件においては,血中のダイオキシン濃度と,肝臓及び脂肪組織におけるダイオキシン濃度との間には相関関係が認められた。また,他の臓器(精巣,腎臓,脳)においても同様の結果が得られた。この結果は,総重量当たりの濃度,及び総脂質当たりの濃度の両方において一致していた。これはすなわち,ラットにおいては血中ダイオキシン濃度が,諸臓器の濃度をある程度反映することを示しており,非侵襲的な血液検査が,より侵襲的な組織学的検査の代替物として有用である可能性があらためて確認された。ヒトにおいては,現時点での技術では少量の血液における分析では測定結果にばらつきが大きく検出限界が高くなり,得られた数値の信頼性の低下を招くため,実用的ではないことが確認された。また,免疫抗体における生 物化学的分析法の検討も行い,この方法によって,血中濃度を定量的に測定するには至らなかったが,対象者を高濃度暴露群と低濃度暴露群というカテゴリカルな分類を行える可能性が示唆された。


(2)霞ヶ浦における南米産ペヘレイの侵入による湖内生態系撹乱に関する研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 春日清一

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
霞ヶ浦に南米産魚であるペヘレイ(Odonthestes bonariensis)が侵入,日本で初めて定着したことが1993年確認された。その後,霞ヶ浦では著しく増加し,湖内生物相に大きな影響を与えるに至った。しかし,霞ヶ浦における繁殖生態や成長,分布,食性などは明らかでなく,将来,湖内生態系に与える影響を推測し,この種を管理するための基礎資料を得なくてはならない。一般に帰化魚はその侵入過程が不明確で,突然爆発的な増加が観察され,帰化魚の定着過程が明らかにされることは少ない。しかし,霞ヶ浦のペヘレイはその侵入当初から,環境要因などが調査されており,帰化魚の侵入過程を解析する良い対象であり,また将来ペヘレイが霞ヶ浦に適応する過程を明らかにすることができる。

〔内 容〕
1985年茨城県内水面水産試験場はペヘレイを湖内網生簀養殖を目的とし,場内で池中養殖試験を行った。1989年霞ヶ浦南岸において1年魚のペヘレイが採集され,1993年7月に霞ヶ浦南岸で産卵群と思われる大型魚が定置網により多数採集され,1994年7月にワカサギトロール網で多くのペヘレイが混獲され,霞ヶ浦に定着したことが確認された。その後混獲量は徐々に増加の傾向にあったが,1998年秋にはトロール網の6〜7割をペヘレイが占め,在来魚のワカサギ,シラウオ,ハゼ,エビ等の漁獲量は激減した。
 これまで帰化魚として湖内魚類相に重大な影響を与えてきたオオクチバスやブルーギルが沿岸域に分布するのと異なり,遊泳性魚であるペヘレイは湖内全域に分布し,さらに大きな影響を与える可能性が示された。その食性は幼魚期には動物プランクトン食であるが,体長15cm以上では魚食性が強くなり,20cmを越えると魚類やエビ類を専食することが明らかにされた。
 霞ヶ浦におけるペヘレイは雄でおよそ15cm,また雌では20〜25cmで成熟し,雌の成熟には2年余の時間を必要とすることが明らかとなった。年間通し雌成熟個体が観察されることから,霞ヶ浦での産卵期は特定できない。産卵群は湖岸の底質が砂地の場所に集まることが確認された。夏季に産卵されたペヘレイの雌雄比は著しく雄に傾いた。
 初期発生期,稚仔魚期の生態学的調査はまだ不十分であるが,霞ヶ浦ではペヘレイが減少する条件は見つからず,強い漁獲圧がかからない限り,将来にわたり霞ヶ浦の優占魚種となることが推測された。


(3)生物の生存限界域における環境適応性に関する研究

〔担当者〕

生物圏環境部 渡邉 信・大政謙次・名取俊樹・
戸部和夫・広木幹也・河地正伸・
野原精一・宮下 衛・佐竹 潔・
上野隆平・多田 満・矢部 徹・
佐治 光・久保明弘

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
ある生物種の分布の限界域に生存している個体群にとって,その生存環境はその生物種に最適な環境ではなく,さまざまな環境ストレスを受けつつその環境に適応している。そのような限界域に生存する個体群は環境変化の影響を受けつつその環境に適応しており,また,環境変化の影響を最も受けやすいと考えられる。そのため,そのような生存限界域に生存する生物群の分布とその存在状態を環境との関連で把握することにより,その種の生存を規定する環境要因を明らかにすることができる。本研究では,国内希少野生生物種に指定されているキタダケソウを例として,低温など様々な環境ストレスにさらされながら分布限界域に生存する生物の現状を把握し,さらに,その適応機構を明らかにすることにより,自然保護の基礎となる研究を行う。

〔内 容〕
 1)キタダケソウの現況の把握
 キタダケソウの現況を把握するために,キタダケソウ生育地域において登山道に平行及び垂直方向にコードラートを設置し,コードラート内のキタダケソウの個体数およびキタダケソウ以外の主な植物種を記録した。その結果,近年キタダケソウが目立ってきたと言われている本地域では,登山道近くにキタダケソウの個体数が多く,さらにコードラート内に生育するキタダケソウ以外の主な植物種として,ハクサンイチゲ,イワベンケイ,スゲ属,チョウノスケソウ,トウヤクリンドウなどが認められた。さらに,キタダケソウ生育地土壌の特性を把握するため,土壌の水溶性塩類濃度を調べた結果,生育地土壌の特徴として,登山道やハイマツ生育地土壌に比べてカルシウム濃度が高いことがわかった。
 2)キタダケソウの実験植物化
 キタダケソウの適応機構を明らかにするための実験を行うためには,人工制御環境下で実験に用いるキタダケソウの栽培法を確立する必要ある。そのため,特定国内種事業届出者として登録されている業者よりキタダケソウを購入し,かつて栽培法を試みた経験や文献等を参考に,栽培時の地温あるいは土壌pHを調整し,環境制御温室内での栽培を試みた。その結果,従来人工制御環境下で困難であったキタダケソウの栽培が土壌pHの調整により可能となり,キタダケソウを実験植物として供給できる可能性が出てきた。さらに,キタダケソウの生育に土壌pHが重要な要因であることがわかった。
 以上の結果より,キタダケソウの生存にかかわる植物種としてハイマツ・ハクサンイチゲなどがリストアップされ,さらに,生育地土壌の特性としてカルシウム濃度が高いことによる生育土壌のpHが重要であることが示唆された。
〔発 表〕h−24


(4)森林生態系の多様性の指標化とデータベース化に関する基礎研究

〔担当者〕

大気圏環境部 畠山史郎・神沢 博
地球環境研究グループ 奥田敏統・村野健太郎
地球環境研究センター 藤沼康実

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
熱帯地域の森林は,森林周辺の微気象や地球規模の気候に大きな影響を与えている。一方,森林はまた人間活動に由来する環境変化の影響を受けていて,その保全は今や全地球的な課題である。熱帯林の生物多様性の維持機構と,森林を構成する樹木個体群の世代交代に関する科学的知見は,自然林の保全に不可欠なものである。本研究は,第一にタイおよびマレーシアに分布する熱帯季節林や熱帯降雨林内に長期植生変動観測プロットを設置して,森林内の樹木の個体密度,組成,個々の樹種の分布パターン,林内構造,林冠構造,土壌地形等の環境要因等を継続的に測定し,そのデータベースを構築するとともに,各要因間の関係を解析した上で,森林群落の長期変動や地球環境変動における熱帯林の役割等の解明へ資する基礎データを提供することを目的とする。一方,大気汚染・酸性雨は森林生態系に重大な影響を与える要因であり,温帯地域のみならず,熱帯地域でも大きな問題となりつつある。本研究では森林生態系に影響を及ぼす大気環境因子としてオゾン,酸性物質,エアロゾルと森林衰退との関係を明らかにするための基礎データを得て,これをデータベース化することを第二の目的とした。

〔内 容〕
本研究においては,タイのファイ・カー・ケン(Huai Kha Khaeng),同じくタイ半島部のカオ・チョン(Kaoh Chong)およびマレーシア半島部のパソー(Pasoh)に設定された長期観測用プロット内で出現した直径1cm以上のすべての樹木のサイズ,マッピングを行い,それに加え,林冠の表面構造,デジタル化した土壌,地形データを重ね合わせることにより,それぞれの樹種の生長や林冠構造がどのような環境要因によってコントロールされているかを解析した。またこのような各測定パラメータを長期間にわたりモニタリングすることにより,森林群落の炭素収支における役割等を解明する。本年度はタイ半島部のカオ・チョンに16ヘクタールのプロット設置をするための地形測量,プロット内の基準ポイントの設置などを行った。またマレーシアのパソのプロット(50ヘクタール)で取得されている植生データをもとに各樹種の分布と土壌,地形要因との関係,樹木の種多様性と林冠構造との関係,林冠高と地形,土壌との関係などについて解析を行った。またタイのファイ・カー・ケンプロットについても同様の解析を行うためにプロット上空での空中写真の撮影の準備を行うと同時に,そのための現地の共同研究者等との研究打ち合わせなどを行った。カオ・チョンのプロットについても実質 的な植生調査を開始するための準備,研究打ち合わせ,現地調査体制の整備などを行った。
 一方,熱帯地域においても温帯地域と同様,光化学オゾンの生成が問題となっているが,熱帯地域では森林樹木の放出する天然炭化水素の量が多いため,これとオゾンによる反応の生成物である過酸化物が森林に影響を及ぼしている可能性も高い。我々は,日光の森林地内で大気中の過酸化物濃度を測定し,この濃度変化に与える気象要因,大気化学的要因の影響を調べて,気温,日射,オゾン濃度,イソプレン濃度などの影響が大きいことを明らかにした。
〔発 表〕A−5,a−7〜9, 11, f−87, 88


(5)大気中のイオウ同位体比の迅速分析に関する研究

〔担当者〕

地球環境研究グループ 向井人史

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
大気中の硫黄酸化物や硫酸塩は石炭や石油の燃焼,金属精錬などによって放出されるほか,火山や生物由来の自然起源のものもある。ここでは,イオウの同位体比を用いて起源の同定や大気中の反応について明らかにするための,迅速で高感度な分析法を検討する。従来の分析法では5mg程度の量が必要であり,大気試料のような試料量が少ないサンプルでは,高頻度に分析を行うことが困難である。ここでは,元素分析計と質量分析計を接続し高温度で燃焼させ生成した二酸化硫黄をガスクロマトグラフィで分離し直接質量分析計で同位体比を測定することによって,感度と時間短縮を図ることを目的とする。

〔内 容〕
イオウ分析の条件を設定するために,触媒,酸化炉温度,ガスクロマトグラフの条件,質量分析計の設定などを検討した。ガスクロマトグラフにおけるTCDの検出感度はμg以下の感度であるが,質量分析計の導入時に1/10程度スプリットされることと,一定した同位体比の値が得られるようになるためには,100μg程度の量が必要であった。また硫酸バリウムと硫化銀のような形態の差や,分解温度,ガスクロ温度などは分析値に若干影響することがわかった。本方法によって中国で採られた大気中の粉じんや硫黄酸化物の硫黄同位体比を測定した。


(6)バックグランド大気の酸素/窒素比の変動を検出する分析手法確立のための研究

〔担当者〕

大気圏環境部 遠嶋康徳

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
化石燃料の消費に伴って大気中に放出された二酸化炭素(CO2)が海洋および陸域生物圏のそれぞれにどれだけ吸収されているかを見積もることは炭素循環を考える上で重要である。陸域生物圏がCO2を吸収する場合にはほぼ同量の酸素を大気に放出するが,海洋がCO2を吸収しても酸素を放出しない。そこで,化石燃料からのCO2の放出量と大気中のCO2の増加率および酸素の減少率を比較することで陸域生物圏と海洋のそれぞれのCO2の吸収量を推定することができる。実際の分析では大気中の窒素の変動が酸素に比べて無視できることを利用し,酸素/窒素比の標準空気からの偏差の百万分率(これをpermegという単位で表し,4.8permegが酸素1ppmに相当する)で酸素の変動を表す。大気中の酸素濃度の変動(年間約3ppmの減少)はその濃度に比べて圧倒的に小さいため,非常に高精度の分析が要求される。これまでに報告されている分析方法の特殊性などから大気中の酸素/窒素比の測定は限られた研究機関でしか行われていない。本研究では,一般的な分析装置であるガスクロマトグラフを用いた酸素/窒素比の測定方法を確立することを目的とする。

〔内 容〕
本年度は,分析手法の改良,大気試料採取方法の確立,標準空気の相互検定,実際の大気中の酸素/窒素比の変動の検出について研究を行った。
 分析手法の改良では,ガスクロが大気圧の変動に影響されないように,検出器とサンプルループの出口およびカラム上流において圧力を一定に制御するようにした。改良の結果,安定した分析精度を得ることができた。2つの乾燥空気の交互分析の結果,1回の分析での標準偏差が約18permegとなり,1つの試料につき7回分析を繰り返すことで標準誤差が7permegになることがわかった。
 大気試料はパイレックスガラス製の容器に加圧採取される。フラスコ内での酸素/窒素比の安定性を調べる実験を行ったところ,1ヵ月間はほとんど変動しないが,それ以降徐々に酸素濃度が減少することがわかった。酸素濃度減少の原因としては,バルブに使用されているバイトン製O−リングへの酸素の吸収や,O−リングに塗布されているグリースの酸化による酸素の消費などが考えられる。フラスコでの保存期間に限度があることは大気試料を収集する際の大きな制約になるため,今後もフラスコの材質や採取後の保存法方等についての検討を行う必要がある。
 酸素/窒素比の変動の検出には標準ガスを維持管理する必要がある。そのために,除湿した大気を加圧充てんした高圧容器を何本か準備し,これらの酸素/窒素比を相互検定を開始した。これまでの実験では,高圧容器内の酸素/窒素比が約半年間ほとんど変動していないことが確認された。
 波照間島で1997年7月から月1回の割合で採取された大気試料を分析した結果,酸素/窒素比が春から夏にかけて増加し秋から冬にかけて減少する明瞭な季節変動を示すことがわかった。これまで得られた約1年半のデータからでも大気中の酸素/窒素比の減少が認められるが,減少率を正確に求めるためにはさらに観測を継続する必要がある。
〔発 表〕f−57


(7)水質浄化機能に果たすエコトーンの役割に関する研究

〔担当者〕

水土壌圏環境部 徐 開欽・渡辺正孝・内山裕夫・
富岡典子・越川 海・村上正吾・
井上隆信・林 誠二・牧 秀明・
越川昌美

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
湖沼の沿岸帯,海浜や干潟等のエコトーン(水域と陸域の移行帯)はそれぞれの水域に流入する汚濁負荷に対する浄化機能を持っていることが知られている。しかしながら,これらのエコトーンの多くは沿岸の人口集中や高度利用のため埋め立てられたり,護岸工事によってコンクリートで固められたりする中で消失してしまった。また,湖沼,内湾等の閉鎖性水域の汚濁に伴い,かつて健全な生態系は危機に瀕している。元々これらの水域が自浄作用だけで生態系を維持していたことを考えれば,水質浄化機能に果たすエコトーンの役割の解明が意義深いと考えられる。本研究は水質浄化機能をもつエコトーンの役割とその有効利用手法を開発するために,閉鎖性水域のエコトーンを中心に,その汚濁現状と周辺環境を把握し,エコトーンによる汚濁水域の直接浄化メカニズムの解明とその浄化システムの構築を行うことを目的とする。

〔内 容〕
本研究では,水質浄化機能に果たすエコトーンの役割を明らかにするとともに,生物多様性の保全を可能とする生物の生息しやすい空間の創出(ビオトープ化)に関する基礎的知見を得ることを目的として検討を行った。得られた知見は以下のとおりである。
 1)エコトーンにおける生物種と現存量を決める物理化学的要因(勾配,粒径,砂質,波高,光等)間の関係があったことがわかった。
 2)水生植物(ヨシ原等)によるエコトーンの創出手法とその水質浄化機能の基礎的な検討が行われた。ヨシ原の生態と環境要因との関連を明らかにすることができ,茎植え手法と種子苗手法によるヨシ原の創出手法の開発を行った。創出したヨシ原の水質浄化機能と自然のヨシ原との比較検討を行ったところ,同等以上の浄化効果が得られることが明らかになった。
〔発 表〕G−1〜3,5, 6, 12, 19, 22, g−1, 4, 9, 11, 27, 29, 30


フッターユーティリティメニュー