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ホーム > 刊行物 > 国立環境研究所年報 > 平成10年度 > 科学技術振興調整費による研究  2.生活・社会基盤研究

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科学技術振興調整費による研究


2.生活・社会基盤研究


(1)内分泌撹乱物質による生殖への影響とその作用機構に関する研究
 1)内分泌撹乱化学物質の計測手法及び評価手法の開発
 (1)内分泌撹乱物質の高感度分析手法の開発と環境中濃度の把握

〔担当者〕

化学環境部 白石寛明

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
分泌系撹乱が危惧されている物質を物質の性状に応じて分類した後,水,底質および水生生物を対象とした包括的な測定法を確立する。標準物質を用いてガスクロマトグラフ四重極質量分析計(GC/QMS)で分析可能と考られる物質群に対する最適なGC条件を検討するとともに,検量線の種類,内部標準の種類,定量下限,検量線の直線性,ピーク形状,保持時間の変動などの基礎データの収集を行い,精度管理されたGC/QMSによる一斉分析法として確立する。ステロイドホルモンの高分解能GC/MS分析法や,界面活性剤の代謝物など揮発性が少なく測定が困難な物質の分法に,LC−MSを応用し,その有用性を明らかにする。高感度,高選択性が要求される物質に対しは,GC−AEDによる元素選択的分析法(有機金属化合物など),負イオン化学イオ化GC/MSによる分析法(有機塩素系化合物)などを補足的に用いる。この分析を用いて,下水処理場周辺など発生源の調査や都市河川,湖沼,内湾などにおける上記物質の環境濃度や分布状況の把握を行う。

〔内 容〕
負イオン化学イオン化GC/MS法によるフェノール性内分泌撹乱物質の分析を検討した。ビスフェノールAを用いて試薬の種類(無水トリフルオロ酢酸,無水ヘプタフルオロ酪酸および無水ペンタフルオロプロピオン酸),反応条件の検討を行った。トルエン中で,60℃,30分間加熱することで,いずれの試薬でもほぼ定量的にアシル誘導体化することができた。無水トリフルオロ酢酸では十分な感度を得られず,無水ヘプタフルオロ酪酸および無水ペンタフルオロプロピオン酸による誘導体化は,NCIで高感度であるが,試薬に由来するフラグメントイオンが強く現れ,他の負イオンの相対強度は非常に小さかった。しかし,弱い強度ながら対象化合物に由来する負イオン(例えばエストラジオールのペンタフルオロプロピオン酸ジエステルでm/z 417[M−147],397[417−HF])が生成し,これらイオンを用いればppb以下の測定が可能であった。
 また,HPLC−電気化学検出器による高感度分析法の開発を試みた。ビスフェノールAを用い,クーロメトリック型の検出器(4チャンネル)では,印加電圧を200mV,400mV,520mV,580mVとした場合,520mVのピークが最大であった。また,各チャンネルのシグナル比から物質の定性が可能であり,検出下限値は2pg以下と推定された。アンペロメトリック型の検出器では,印加電圧を上げるとピーク面積もほぼ直線的に増加し,950mVでは850mVの10倍程度になった。印加電圧900mVでの定量下限値は,10pg(0.2ppb,50μl)程度であった。どちらの検出器を用いてもおよそ0.2ppb程度の濃度までなら濃縮操作なしで直接導入による分析が可能と考えられたが,実試料の分析には妨害ピークが認められ,クリーンナップ操作が必要であったため,固相カラムによる精製法を検討した。
〔発 表〕d−14〜16


 (2)魚等の生物に対する内分泌撹乱作用の生物検定法の開発

〔担当者〕

化学環境部 白石寛明

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
内分泌撹乱作用の検定生物として魚類などの水生生物を選び,内分泌撹乱物質により誘導されるバイオマーカーの高感度計測,魚類への行動影響,ライフサイクル試験などによる新しい生物検定法を作成する。数種の魚類を用い,内分泌撹乱物質の暴露により発現するタンパク質やmRNAをバイオマーカーとして検出する生物検定法を確立し,短期間の暴露で高感度に影響を検出できるものとする。内分泌系撹乱のバイオマーカーとしてステロイド代謝酵素であるP450aromや雌に特異的なタンパク質であるビテロゲニンに焦点を当て,各タンパク質やそのmRNAの定量法をリアルタイムRT−PCR法で検討する。また,タンパク質の定量には免疫化学的手法や機器分析法を用いる高感度測定法を開発する。また,ミジンコ,エビなど各種水生生物を用い生殖・繁殖影響を評価するライフサイクル試験法や魚の生殖に関係した行動などを指標とした検定方法を確立する。これらの試験法を用いた暴露試験により用量−反応関係を求め,試験法の評価を行う。

〔内 容〕
マミチョグでのビテロゲニンmRNAの発現をRT−PCRにより定量するためのPCRプライマー及びTaqmanプローブを設計した。また,PCRによる定量ための標準品として用いるため,エストラジオールを投与したマミチョグの肝臓より,ビテロゲニンmRNAのフラグメントを上記の範囲でクローニングした。このcDNA0.049ngから100ngの4倍希釈系列を用いリアルタイムPCT法により増幅曲線を得た。得られた増幅曲線で指数増幅領域にあるPCR生成物(蛍光強度)を一定とするPCRサイクル数と標準サンプルの初期量により検量線を作成したところ,よい直線性(相関係数が0.999)認められ,マミチョグでのビテロゲニンmRNAの微量定量が可能なことが示された。また,メダカの卵膜タンパク質の前駆体であるコリオゲニンHとβアクチンのPCRプライマーおよびTaqmanプローブを作成し,ビスフェノールA(3.2ppb〜2ppm,6区画)にふ化後140日まで暴露したメダカの肝臓中のコリオゲニンHとβアクチンmRNAの測定を行った。
 メダカよりビテロゲニンを精製し,抗体を作成した。また,メダカコリオゲニンモノクローナル抗体を作成するために,メダカコリオゲニンに特有(GKPSDPSRKTRE)および相同性(CHYPRKHNVSS)の認められるアミノ酸配列を選びペプチドを合成し,ペプチド抗体の作成を開始した。また,コリオゲニンの精製を試みた。HPLCによるビテロゲニンの定量法について検討を加え,細孔を有しないカラムと蛍光検出を用いることにより高感度化された。
 水生昆虫である糸トンボをビスフェノールAで暴露し,繁殖障害に関する知見を得た。
〔発 表〕d−13


 (3)内分泌撹乱物質の情報科学的研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
(1)文献学的に報告されている内分泌撹乱物質を拾い出し,その物質についての国内外の情報を収集整理する。このための情報データベース化のためのフォーマットを確定し,また本研究で実施する各研究からの研究成果情報のフィードバックを可能とする。(2)アルキルフェノール類及び塩素化フェノール類をモデル物質群とし,魚の生物試験系を用いてその内分泌撹乱作用を定量的に測定する。また,これらの物質群におけるエストロジェン分子との分子構造類似性を指数化する方法を検討し,内分泌撹乱作用との最適合性を調べる。

〔内 容〕
(1)情報データベースについては,物質の物理化学的性状,生産量用途,環境ホルモン作用,一般的な毒性,法律的規制等の項目について情報を収集整理することとし,そのフォーマットを確立した。(2)in vitroのハイスループットアッセイ系として蛍光偏光度を用いたスクリーニング法の応用の検討から開始した。
 バキュロウィルスにより作製した組換えヒトER−αと蛍光標識したガンド(ES1)が複合体を形成すると,分子運動が緩慢になる結果,蛍光偏光度が大きくなる原理を用いて測定する。本実験では,市販装置(Beacon 2000)を用いて,いくつかのフェノール性化合物について競合結合性試験を行った。その結果ほとんどすべてのフェトル性化合物は弱いながらエストラジオールと結合競合することが明らかとなった。またニトロフェノールのように長波長域に吸収を持つ物質は測定を妨害することが明らかとなっている。
 本実験で得られる情報が,生体における内分泌撹乱作用と直接リンクしている訳ではないが,多数の化学物質のスクリーニング法として利用できるものと考えられ,またフィールド試料中の女性ホルモン様物質の検索にも利用可能と考えられる。


 2)内分泌撹乱の発現メカニズムの解明に関する研究
 (1)性ホルモンレセプターと結合する化学物質の内分泌撹乱のメカニズム

〔担当者〕

環境健康部 遠山千春

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
内分泌撹乱物質がいかなる作用機序でほ乳類の生殖機能に異常を発生させるのかを明らかにするために,ラット・マウス個体あるいはその生殖腺細胞の培養系を用い,内分泌撹乱作用によって生じる精子形成にかかわる遺伝子レベルの変化と,それに伴う生殖細胞特異的な分子の発現変化を検索する。特に性ホルモンレセプター(ER・AR)を介した影響に焦点を当て,生殖影響のメカニズムを解明する。
 本年度は性ホルモン受容体への結合および内分泌撹乱作用の報告されている物質であるBisphenol−A(エストロゲン作用あるいは抗エストロゲン作用)およびVinclozolin(抗アンドロゲン作用)を成熟雄ラットに投与し,精子・精巣・副生殖腺への影響を解析した。一日精子産成量(DSP),精巣上体精子数(SR)の変化,細胞運動アナライザ(IVOS)を用いた精巣上体精子の性状(運動率・精子運動速度)なども解析した。これらの情報をもとに,組織細胞生物学的解析から,物質投与によって明らかに変動のある遺伝子を探り当て,その遺伝子および細胞を今後の研究計画におけるバイオマーカーとする。

〔内 容〕
 1)Bisphenol−A(BPA)の精子・精巣への影響
 BPA200mg/kg/dayを成熟雄ラット(13週齢)に6日間経口投与し,投与開始8日目(D8)と36日目(D36)に解剖した。その結果,投与群においてD8では精子運動率は増加し,精子運動速度を示す指標(VAP・VSL)は減少した。DSP・SRについてはD8では変化がみられなかったが,D36においてともに減少傾向にあった。組織学的検索では,投与群のD36において精子発生を行っていない精細管が観察された。その精細管では生殖細胞が観察されず,ほとんどがセルトリ細胞で占められていた。これらの結果から,BPAが成熟個体精巣においても精子発生に何らかの影響を与えることが示唆された。
 2)Vinclozolinの精子・精巣への影響
 Vinclozolinを成熟雄ラットに25mg/kg,50mg/kg,100mg/kgの用量で,6日間連続で投与し,D8,D36に解剖した。その結果,D8では対照群に比べて精子運動率は濃度依存的に増加した。一方,精子運動速度を示す指標は対照群に比べて濃度依存的に低下した。DSP・SRには変化がみられなかった。一方,D36では25mg/kg投与群で対照群に対する精巣上体重量,精嚢腺重量の低下,精子運動率の低下およびDSP・SRの低下が認められた。しかし50mg/kg,100mg/kgにおいては有意な差はみられなかった。また,P450sccによる免疫染色ではD8において間質のライディッヒ細胞に対する強陽性反応が観察された。以上の結果よりVinclozolinは,精巣上体精子の運動能に関して即時的に亢進する作用があること,また,精巣に対しては精子形成の抑制効果があることが示唆された。


 (2)巻貝の性転換の機構の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 堀口敏宏
化学環境部 白石寛明

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
船底塗料などとして使用されてきた有機スズ化合物により,ごく低濃度でも特異的にインポセックスと呼ばれる生殖器異常/生殖機能障害が巻貝類に引き起こされることが明らかにされてきた。しかしその詳細な誘導・発現機構は明らかでない。ここでは巻貝類のステロイドホルモンとその代謝経路や機能を明らかにし,比較内分泌学的に巻貝類の特殊性を検討することを目標とする。また内分泌撹乱化学物質がステロイドホルモンやインポセックスに及ぼす影響をin vivo試験により観察する。さらに雌へのペニス形成に深くかかわるとされる脳−側神経節や足神経節の構造や機能についても検討を試みる。本年度は,無脊椎動物の内分泌に関する既往知見の整理とともに,巻貝類のステロイドホルモンの測定手法について検討した。また巻貝類の中枢神経系の組織学的構造を観察した。

〔内 容〕
軟体動物の内分泌に関する知見は脊椎動物に比べてはるかに少なく,ステロイドホルモンや神経ペプチドに関する知見がいくつか得られているものの,ある特定の種(アメフラシやモノアラガイの一種)にほぼ限定されている。軟体動物のステロイドホルモンは脊椎動物のそれと同等あるいは同様の生合成経路を持つとされるが,軟体動物が持つステロイドホルモンの構造を化学的に詳しく同定した研究報告は少ない。神経ペプチドについて,産卵ホルモン(ELH),背方体ホルモン(DBH),及び貝類インシュリン様ペプチド(MIPs)が知られている。
 インポセックス誘導機構に関する仮説として,(1)アロマターゼ阻害説 (2)脳神経節障害説 (3)硫酸包合能阻害説が提出されているが,いずれの仮説にも疑問点が残されており,インポセックス誘導・発現機構の全貌を詳しく説明するには至っていない。巻貝類固有のステロイドホルモンの同定や機能解析とともに巻貝類固有のステロイドホルモン受容体などに関する研究が必要と考えられた。
 高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計(HR/GC/MS)を用いてテストステロン,プロゲステロンおよびエストラジオール−17βなどの各種ステロイドホルモンのマススペクトルを得るとともに,雌雄別のイボニシの生殖巣からのエタノール抽出/濃縮液や固相抽出試料のHR/GC/MSによる分析,測定を行った。
 10%ホルマリン固定/パラフィン包埋/Kluber−Barrera染色により作製したイボニシ組織標本を光学顕微鏡で観察した結果,中枢神経系として頭部後方に食道の周囲を取り巻いて左右一対の脳神経節,側神経節および足神経節が認められ,これらの前方に口球神経節,後方に食道上部並びに下部神経節が観察された。いずれも青く染まる顆粒を有する細胞で占められる部分と髄質と見られる部分から構成され,互いに連絡していると見られた。最大の神経節は食道下部に位置する足神経節であり,多数の足神経が伸びていた。


 (3)内分泌撹乱物質による器官形成不全の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 曽根秀子

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
生殖系・内分泌系臓器においては,細胞の分化・増殖を性ホルモンが制御している。
 胎生期のホルモン変化が発生・発達過程における器官形成に影響を及ぼす。本研究は,生殖系・内分泌系臓器の機能維持にエンドクリン撹乱物質がどのような悪影響を及ぼすかをヒト・ほ乳類組織等を用いて,分子メカニズムの基盤を明らかにする。そのために,性ホルモン受容体に応答して特異的に発現するような遺伝子を検出し,単離した遺伝子の器官形成にかかわる機能を調べる。

〔内 容〕
研究方法は,マウス胎児脳のゲノム中から,ゲノム−フィルター結合法を利用して,内分泌撹乱物質に特異的に応答する遺伝子の検索及び解析を行う。具体的には,(1)マウス胎児脳からのゲノム抽出と至適制限酵素によるゲノム・フラグメントプールの作成。(2)DNA結合領域を含むエストロゲン受容体タンパク質断片の大腸菌による生合成及びそのタンパク質の精製,ニトロセルロースフィルター上でのDNA結合領域に対する遺伝子のスクリーニング。(3)エストロゲン受容体との結合領域を含むフラグメントを有するプラスミドの構築及び標的遺伝子の解析と遺伝子の選択を行う。(4)国立がんセンター研究所で確立された新規アッセイ系を用いて,器官形成に影響する内分泌撹乱物質の検索を行う。(5)PhlPあるいはフタル酸エステルを妊娠ラットあるいはマウスに経口投与し,器官形成過程における胎児の脳及び生殖器系への影響を解析する。平成10年度は(1),(2)について行った。


 3)生物界における内分泌撹乱物質の実態の解明に関する研究
 (1)巻貝等における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 堀口敏宏
化学環境部 白石寛明

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
本研究では,国内の巻貝類を中心とする水生生物における内分泌撹乱の実態の解明を目標とする。巻貝類のうち,インポセックスが観察されている種(新腹足類および中腹足類)とそれ以外の種(原始腹足類)を対象に,内分泌撹乱や個体群減少の実態を解剖学的手法,病理組織学的手法並びに水産資源学的手法を用いて明らかにする。またステロイドホルモンの測定手法が確立されれば,それの応用による性成熟周期の評価についても試みる。明らかな内分泌撹乱もしくは個体群減少が認められる場合には,周辺の環境中における内分泌撹乱物質の有無について水・底質試料に対する生物検定や各種環境試料の化学分析を通じて検討する。また環境中の内分泌撹乱物質による暴露量評価も試みる。またその種の内分泌撹乱や個体群減少の主因が内分泌撹乱物質であると考えられるかどうかについて,他の潜在的要因(生物的並びに非生物的環境要因)の影響も含めて,相関性や寄与率などの検討を行う。さらに因果関係を明らかにするための実験を必要に応じて実施する。

〔内 容〕
神奈川・油壺において1990年以降,ほぼ毎月継続的に実施してきた定期調査のデータを解析した結果,イボニシの生息量が1996年頃からやや増加したように見られたが,インポセックスの出現率は100%の状態が続いており,湾内のイボニシではRPL Indexも横這いのままであった。また輸卵管が閉塞した,産卵不能の重症個体が個体群のほとんどを占める状態が続いており,産卵期でも産卵がほとんど観察されない状態も続いていた。こうしたインポセックス症状の重さに殻高による差異は認められなかった。体内有機スズ含有量も殻高による差異が明瞭でなかったが,小型個体においてトリ体が高い場合が見られた。また本調査期間(1990〜1997年)中のイボニシ体内トリブチルスズ含有量の減少率は1/2〜1/3程度であり,海水中のそれ(1/10程度)に比べて小さかった。油壺のイボニシ個体群は,外部からの浮遊幼生の加入に依存して維持されている個体群であると推察された。
 バイの生殖巣組織標本(雄43検体,雌92検体(うち,インポセックス76検体),計135検体)を検鏡した結果,雌雄の生殖細胞の発達過程がそれぞれ5段階および4段階に分けられた。種々の発達過程にある生殖細胞の組織内分布に基づいて生殖巣組織の発達段階をスコア化し,毎月の雌雄各標本の平均値をプロットして性成熟の周期性を評価した結果,雄では明瞭な成熟盛期を持つ生殖周期が認められたが,雌では成熟盛期が不明瞭であった。また雌92検体中の6検体(雌1検体とインポセックス5検体)で卵巣の精巣化および卵巣における精子形成が認められた。したがって,バイの産卵量減少の背景に雌における卵巣の成熟不全と卵巣での精子形成に伴う卵形成能の低下/喪失があったものと推察された。またバイのインポセックス個体の卵巣中有機スズ濃度とペニス長が正相関したことから,バイのインポセックスが有機スズにより引き起こされた可能性が高いと考えられた。
〔発 表〕B−124,128, 133〜136, b−220, 222〜225, 227, 229, 231, 232


 (2)淡水水生生物における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏
横浜市立大学 井口泰泉

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
本年度は,内分泌撹乱物質の首都圏の河川における淡水魚類の生殖に与える影響を知るため,以下の項目に沿って解析を行う。(1)首都圏の河川及び,汚染の少ないと思われる河川での時期,場所を変えた淡水魚類の採取を行う。採取は腎臓,肝臓,脾臓などの臓器や,生殖腺及び血液について行い,以降の解析に用いる。(2)(1)で得られた生殖腺の組織切片を作製し,生殖細胞や生殖腺自体に異常が認められるかを確認する。また各臓器の組織切片も作製し,生殖以外にも異常があるかを確認する。(3)採取した魚種のビデロゲニンに対する抗体の作製及び,(1)で得られた血液中の性ホルモン及びビデロゲニン量の測定。血液中のビデロゲニンの量を測定するため,採取した魚種の卵を用いてビデロゲニンの精製を行い,それに対する抗体を作製する。ここで得られた抗体を用いて,ウェスタンブロッティング法により血液中のビデロゲニンの検出を行う。(4)河川水中及び底質における化学物質濃度の測定,河川水及びその底質より化学物質の抽出を行い,液体クロマトグラフィー等を用いた解析を行う。

〔内 容〕
発生中における外因性のエストロゲンの作用について明らかにとするため,女性ホルモンである17β−エストラジオールを含む溶液中(終濃度10−10,10−8,10−6M)で卵から稚魚まで飼育し,ふ化率,生存率,体長及び体重をふ化後2週間ごとに測定するとともに,生殖腺及び骨組織の組織観察を行った。その結果,エストロゲン処理群では,ふ化率,生存率ともコントロール群に対し,濃度依存的な低下を示した。ふ化後4〜8週齡での体長,体重及びふ化後8週齡での外部形態を調べたところ,10−10M処理群ではコントロール群に比べ体長,体重,外部形態に変化はないのに対し,10−8M処理群では体長,体重ともに有意に小さく,また,背曲がり,眼球突出,体表模様の消失等の形態異常が多く観察され,すべての処理個体において上記のいずれかの形態異常を持つことが明らかとなった。またこれらの骨標本より,全身の骨で硬骨化が抑制されていた。次に8週齡での生殖腺の組織観察を行ったところ,コントロール群では雄雌の比が6:4なのに対し,10−8M処理群では96%が雌で,4%が未分化であった。また,10−6M処理群ではすべての個体が雌にな った。さらに,エストロゲン処理を行った群にのみ精細胞,卵細胞も形成されていない生殖腺を持つ個体や,卵巣の間質細胞が異常増殖している個体が出現していた。以上のことから発生中へのエストロゲンが形態異常,骨形成不全,性転換,卵巣の間質細胞の異常増殖を引き起こすことが示された。
 エストロゲン様活性を持つ化学物質であるノニルフェノール,ビスフェノール−A(2.5,5mg/g Body Weight)
を雄成魚の腹腔内に2日間連続で投与し,3日目に肝臓を採取した。肝臓からRNAを抽出し,ビテロゲニンmRNAの発現をノーザンブロット法を用い解析した。その結果,雄肝臓でのビテロゲニンmRNAは,コントロール群では見られずエストロゲン,ビスフェノール−A,ノニルフェノール投与群で発現していた。したがって,これら2つの化学物質がマミチョグに対しエストロゲン様活性を持つことが確認された。


 (3)長寿命生物における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

化学環境部 柴田康行

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
環境中に放出された内分泌撹乱物質による野生生物の生殖影響が懸念されている。中でも鳥類は寿命が長く,また生態系の上位に位置し食物連鎖過程で各種有機汚染物質を高濃度に蓄積しやすいため,影響を受けやすいと考えられ,実際に欧米を中心として多くの報告が出されている。本研究では鳥類に対する各種内分泌撹乱物質の汚染実態を明らかにし,その生体影響を探ることを目的として,各地の営巣地の実態調査,特定の営巣地における詳細な生態調査,有機塩素系化合物,有機スズ,鉛,プラスチック添加剤等の内分泌撹乱物質の汚染実態などの解明に関する研究を行う。

〔内 容〕
平成10年度は北海道利尻島で有害鳥獣駆除事業に合わせてウミネコの繁殖実態調査を行うとともにウミネコの成体,卵等の試料を入手し,有機スズ化合物,多環芳香族炭化水素(PAHs)等の分析を進めた。同時に,1983〜1992年に採取され,本研究所スペシメンバンクに保存されていた環境庁生物モニタリング試料のうち東京湾で採取されたウミネコ試料を分析し,歴史的な変化を明らかにした。GC−AEDという高感度な手法で測定することにより,1g以下の生殖器一つ一つについても,サブppbの定量下限で有機スズ化合物の分析を行うことができた。その結果,筋肉部に比較して明らかに脂肪,肝臓,生殖器中有機スズが高いこと,特にジブチルスズについては生殖器が最も高い数値であることが明らかとなった。有機スズはトリフェニル,トリブチルいずれも80年代に高く,規制を開始した90年前後にかけて急速に減少している様子が明らかとなったのに対し,PAHsは緩やかに漸減する傾向を示した。


 (4)性腺・精巣組織における内分泌撹乱の実態の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 森田昌敏
東京大学 堤  治
帝京大学 梅田 隆
京都大学 森 千里
自治医科大学 香山不二雄
産業医科学大学 川本俊弘

〔期 間〕
平成10〜12年度(1995〜1997年度)

〔目 的〕
精巣中に残留する各種内分泌撹乱物質の測定を高分解能質量分析法を用いた分析法を確立し,それを用いて,その濃度についての予備的な知見を得る。また脂肪組織に残留する内分泌撹乱物質についても高分解能質量分析法を用いて分析する手法を確立し,その濃度についての予備的な知見を得る。
 一方で,環境ホルモンの影響により発生しうると考えられる精子数の減少,精巣の組織学的変化,子宮内膜症等について実態を明らかとするとともに内分泌撹乱物質との関連を明らかとする。

〔内 容〕
脂肪組織中の内分泌撹乱物質濃度の測定法について検討を行った。代表的な物質として,ビスフェノールA,ノニルフェノールがあるが,これらの物質の脂肪からの分離精製は困難であり,アルカリ分解法等,新たな精製法を行った。
 精巣中の有機スズをスズに特異的に応答する検出原子発光検出器を用いて測定する手法を確立した。本法はスズに特異的であり,そのガスクロマトグラフ上の応答はほとんどスズ化合物であることが明らかとなった。予備的な測定では,魚介類に蓄積して生殖阻害を引き起こすとされるトリブチルスズ及びトリフェニルスズは検出されなかったが,その代謝物と考えられるジブチルスズが数ppbのレベルで存在することが示された。これの持つ意味は現在の段階では不明である。また未知のピークが見られ別種の有機スズの汚染を暗示する結果となっているが,今後同定を急ぐ必要がある。


(2)スギ花粉症克服に向けた総合研究
 1)スギ花粉症の発症・増悪メカニズムの解明に関する研究
 (1)修飾因子の疫学的解析

〔担当者〕

地域環境研究グループ 新田裕史

〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
スギ花粉症の発症・増悪にスギ花粉自身が最も大きな役割を果たしていることは明白であるが,スギ花粉以外にスギ花粉症の発症・増悪にいかなる因子が関与しているかについては不明な点が多い。年齢についてはこれまで30歳代が最も有病率が高いとする報告が多かったが,最近は若年層での有病率の増加を指摘するものも多い。有病率の年齢分布の違いは一般に感受性の違いと考えられるが,スギ花粉症の場合にはスギ花粉飛散数が増加し始めた時期と出生年代との関係やライフスタイルの変化などいくつかの解釈があり得る。修飾因子のひとつとして注目されている大気汚染,特にディーゼル排出粒子の及ぼす影響についても実験研究と疫学研究の結果は必ずしも一貫していない。アレルギー疾患については世界的に増加傾向にあるとされ,都市化や環境汚染との関連性が示唆されている。しかしながら,これらの因子の関与を明らかにするためには疫学方法上の問題点も多い。細菌,寄生虫感染との関連性,ダニなどの他のアレルゲンとの接触をはじめとする生活環境にかかわる諸因子など,スギ花粉症の発症・増悪を修飾する可能性がある因子は数多い。本研究はこれらの点を明らかにするこ とを目的とする。

〔内 容〕
まず,学童の花粉症の感作・発症状況を把握するために,前年度に引き続き,茨城県北部および東京都区内の各1小学校の学童約1000名について,花粉症,その他のアレルギー疾患の症状,既往歴等に関する質問票調査と特異IgE抗体検査(CAP RAST法)を実施した。抗体検査は症状の有無にかかわりなく保護者の承諾を得た学童(全体の約7割)について実施した。性別・学年別の陽性率(CAP RASTスコア2以上)は東京地区(男)で29.3%,東京地区(女)で21.8%,茨城地区(男)で40.5%であり,茨城地区(女)で37.4%であり,スギ花粉飛散数が多いと考えられる茨城で男女とも高率であった。学年では大きく変動しており,全体的には学年が上がるにつれて高くなる傾向が見られた。
 ダニおよびスギIgE抗体の陽性率をみると両者ともに陽性である割合は茨城地区,東京地区ともに男子が女子よりも高い傾向がみられた。すなわち,ダニIgE抗体陽性率では男女差が大きかった。また,東京地区ではスギのみ陽性である割合は小さいが,茨城地区では1割程度スギのみ陽性の者がおり,スギ花粉への暴露の程度が反映していることが示唆された。
 さらに,他の分担研究者が実施しているスギ花粉症の住民健診で得られたデータを解析して修飾因子の検索を行い,定量的なリスクファクターの評価を試みた。
〔発 表〕B−103,b−205, 206


 (2)修飾因子の実験的検証

〔担当者〕

環境健康部 藤巻秀和

〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
スギ花粉症の発症・増悪,あるいは抑制の機構は非常に複雑であり,大気汚染,感染,食事などの外的因子の影響が大きいと考えられている。しかしながら,スギ花粉症を発症した患者と健常人では,どのような修飾因子の違いにより発症が誘導されるのか明らかでない。そこで,スギ花粉症の発症に影響を及ぼす修飾因子を特定し,その機構を解明することは花粉症の予防・治療法の確立に寄与すると考えられる。数多くの生体外の因子の花粉症発症への影響を比較的簡便に評価するための実験系が求められている。本年度は,最近注目を集めているTリンパ球のサブポプレーションにおけるサイトカイン産生バランスを評価するための実験系の確立について検討した。

〔内 容〕
アレルギー反応を惹起するためには,ヘルパーT細胞のサブポプレーションであるTh1細胞とTh2細胞の分泌するサイトカインのバランスの不均衡が必要と考えられている。最近,ヘルパーT細胞とは別のサプレッサー/サイトトキシックT細胞のサブポプレーションであるTc1細胞とTc2細胞の分泌するサイトカインもその不均衡の誘導に関与することが示唆されている。そこで,このサイトカイン産生の不均衡状態の把握が評価に有用であるか否かを検討した。疫学的研究によりスギ花粉症発症との関連が示唆されているディーゼル排気粒子(DEP)を用いて,CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞によるサイトカイン産生バランスについて抗CD4,抗CD8抗体を投与したマウスで測定した。その結果,抗原として卵白アルブミン(OVA)で免疫し,抗体投与した群とOVAとDEPで免疫して抗体を投与した群間では,主要な免疫臓器である脾臓の細胞数やその抗原刺激による増殖反応においては有意な増強はみられなかった。脾臓におけるCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞は,それぞれの特異抗体処理において40〜60%の低下がみられたが,DEP投与の有無では差は認められ なかった。脾臓細胞における,サイトカイン産生では,IgE産生亢進に働くインターロイキン4はDEP投与群で有意な増加がみられ,抗CD4,抗CD8抗体処理群の比較でも同様な結果が得られた。しかしながら,IgE抗体産生の抑制に働くインターフェロンγの産生は,DEP投与で変化がみられなかったが,抗CD4,抗CD8抗体処理した群の比較では,DEP投与群での抑制が認められた。以上の結果から,CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞のサブポプレーションからのサイトカイン産生の不均衡について測定することは,生体外因子のアレルギー反応性を検討するための有用な指標になる可能性を示唆している。
〔発 表〕E−24〜27,e−54, 55


 2)スギ花粉の生産と飛散予報法の高度化に関する研究
 (1)花粉飛散量の計測に関する研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 新田裕史

〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
従来,スギ花粉飛散の予報はダーラム型花粉捕集器によるデータに基づいて実施されてきた。しかしながら,この方式は測定のための労力が多大であり,また時間分解能についても不十分である。本研究では,花粉飛散の予報法の向上に寄与するとともに,従来は人手に頼っていた花粉観測にかかわる労力を軽減し,リアルタイムな花粉観測値の情報伝達を可能とするためにスギ花粉数の自動計測装置を開発することを目指す。

〔内 容〕
自動計測装置の基本仕様の検討を終了し,装置の基本要素である花粉捕集装置,花粉認識装置,画像処理装置それぞれについての試作を行った。
 花粉捕集装置は粒径30μm前後の粒子が効率よく捕集できるとともに,画像処理の際に誤差要因となる微小粒子を除去するように設計されている。花粉認識装置部は花粉の自家蛍光を光学的に検出し,その情報を画像処理部に送る役割をする。画像処理装置は得られた自家蛍光画像をコンピュータにより処理し,蛍光スペクトルや形態情報とりスギ花粉を同定・計数するものである。
 スギおよびヒノキ花粉の飛散期に本捕集装置により空中花粉をメリネックステープ上に捕集した後,花粉認識・画像処理装置により,花粉の同定・計数を行い,性能を確認した。さらに,自動連続計測装置の設計のための基礎的検討を行った。
〔発 表〕b−203,204


(3)高齢社会に向けた食品機能の総合的解析とその利用に関する研究
 (1)臓器内生物ラジカル計測と食品成分による消去作用の解析

〔担当者〕

地域環境研究グループ 嵯峨井勝

〔期 間〕
平成9〜11年度(1997〜1999年度)

〔目 的〕
本研究は,高齢者の健康を保持するために,抗酸化性食品の有害性を評価することを目的とする。この目的のために,12%の高脂肪と1%のコレステロールを与え続けた老齢化動物(ラット)に抗酸化性食品を摂取させ,各臓器レベルで活性酸素・フリーラジカルの生成を抑制しうるかどうか,さらに,それらの抑制作用がコレステロール蓄積等の生活習慣病指標と関連するかどうかを実験的に明らかにすることにある。

〔内 容〕
実験は,日本人の食生活で摂取する割合に近い12%の脂肪+1%コレステロールとともに各種の抗酸化性食品を含んだ餌をラットに18ヵ月間与えた。このラットの加齢につれて組織内生物ラジカルの指標として8−OHdGの生成増加ならびに抗酸化性物質量の低下割合を測定した。さらに,その各々の動物の血清中の生活習慣病指標の変化を調べ,生物ラジカル指標との間の相関を調べる予定である。その相関から,老化を防ぐ食品の効能を評価し,高齢者の健やかな健康に役立つ食生活を提案することを目的としている。
 本年度は,上記各飼料を18ヵ月間投与したラットにパーキンソン病を誘発するMPTP(1−methy1−4−pheny1−1,2,3,6−tetrahydropyridine)の30mg/kgを1回投与し,与えた抗酸化性食品がカタレプシー(物につかまったまま動かなくなる行動で,パーキンソン病の程度を示す指標)を抑制するかどうかと脳内の過酸化質や8−OHdG 生成,および血清中の生活習慣病指標の測定を行った。
 抗酸化性食品としてのイチョウ葉エキスを与えたラットのカタレプシー時間は半分に低下し,タマネギエキスも有効であった。これら食品中に最も多く含まれているフラノボイドの1つであるケルセチンはほとんど効果が認められなかった。また,脳の8−OHdG生成もカタレプシー類似の傾向を示していた。
 生活習慣病指標についてみると,LDLコレステロールはタマネギで最も低下し,一方,HDLコレステロールはタマネギで最も増加しており,次いでイチョウ葉エキスがタマネギに次ぐ結果であり,ケルセチンはほとんど効果が認められなかった。
 以上の結果より,タマネギエキスとイチョウ葉エキスは血管系を介する脳の酸化的傷害の抑制に有効であることが判明した。現在,心臓をはじめとする循環器系に及ぼす影響も検討している。


(4)環境と資源の持続的利用に資する資源循環型エコシステムの構築に関する研究
 1)家庭排水由来の有機物資源の有効利用等による流域負荷低減技術に関する研究
 (1)窒素・リン・COD等の簡易モニタリングと資源リサイクル高度処理システムの開発に関する研究

〔担当者〕

地域環境研究グループ 稲森悠平

〔期 間〕
平成10〜12年度(1998〜2000年度)

〔目 的〕
生活排水,廃棄物等による水質汚濁を防止し閉鎖性水域をもつ地域を中心とした環境保全と資源の持続的利用に資する汎用的な地域エコシステムを構築するため,生活排水等における窒素,リン等の除去技術の高度・簡易化手法の開発および開発された技術の技術面,効果面,コスト面での評価手法の開発を目的として研究を行う。具体的には,し尿排水を含有する液状廃棄物の窒素,リン,有機物等の高度除去を目指し,抗硝化細菌モノクローナル抗体を用いた迅速定量化手法を活用し硝化細菌等の有用細菌を高度に保持しうる最適操作条件を検討する。また,生活排水の処理水の資源化有効利用システムを開発すると同時に窒素,リン,COD等の簡易モニタリングシステムの開発を行い,水処理施設の排出口におけるBOD10mg/l,T−N10mg/l,T−P1mg/lの目標水質の確保の有無の評価および維持管理の適正化のための開発研究を目標とし推進することとする。

〔内 容〕
生物学的窒素除去プロセスの高度効率化を図る上で重要な硝化細菌の個体群動態の変遷を迅速に評価する手法の開発を目的として,アンモニア酸化細菌Nitrosomonas europaeaおよび亜硝酸酸化細菌Nitrobacter winogradskyiに対して特異的なモノクローナル抗体を作成し,取得した抗体を用いた2抗体サンドイッチELISA法によりこれら硝化細菌の定量を行った。その結果,1.0×105N/ml以上の範囲において定量可能なことが明らかになると同時に,本抗体を用いた蛍光抗体法による蛍光顕微鏡を用いた直接定量法により,低濃度の硝化細菌の直接個体数計測が可能なことが明らかとなった。さらに,生活排水の処理を行っている処理装置の好気槽内部より取り出した生物膜の凍結薄切切片に対して抗硝化細菌モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法により硝化細菌の分布特性の解析を行った結果,N. europaeaは生物膜内部に比較的多く存在すること,およびN. winogardskyiは生物膜の外周部に多く存在することが明らかとなり,本手法は富栄養化の原因となる窒素を除去する上で高効率な処理性能を発揮しうる新たな生物膜法のシステムづくりにおいて,極めて有用な微生物モニタリングツールとなることが示唆された。簡易水質試験紙を用い,NO2+3−N,NO2−N,PO4−Pの標準物質を用いて複数の試験者により本試験紙の読み値判定の誤差について検討した結果,若干の個人差はでるものの簡易かつ迅速な水質検査手法であることから,個別家庭における高度合併処理浄化槽等の維持管理への適用においては非常に有用なツールとなることが示唆され,さらに精度の向上を図ることにより極めて重要な維持管理における窒素,リンの濃度判定の簡易化,迅速化が可能になるものと考えられた。
〔発 表〕b−21,28〜30, 38〜41, 60, 67〜69, 76, 82, 98, 101


(5)日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究
 1)生体リズムの睡眠・覚醒調節作用に関する研究
 (1)環境ストレスによる生体リズムへの影響と感受性の固体差の解明

〔担当者〕

地域環境研究グループ 兜 真徳・黒河佳香

〔期 間〕
平成8〜10年度(1996〜1998年度)

〔目 的〕
睡眠の保全が公衆衛生上の課題とされており,睡眠に影響を与える環境要因として,夜間の道路騒音,電磁界暴露あるいは照明環境等の関与が示唆されている。本研究では,それら影響の評価と対策法を探ることを目的とした。

〔内 容〕
全国5地域の主として中高年女子を対象とした「不眠症」の疫学調査の結果,夜間道路騒音暴露レベルとの間に良好な「レベル−反応関係」が認められるなど,騒音性不眠症の存在を示唆する有効なデータが得られている(ただし,不眠症はこれまで同様(「入眠困難」,「中途覚醒」,「早朝覚醒」「覚醒時の不眠感」が週1回以上,一ヵ月以上持続しているもの)と定義した)。最終年度である平成10年度には,前年度上記5地域とは別に行った沖縄K島での調査において,特に女子の不眠症割合が異常に高かったことから,再度(前回対象を含む)男女約1,500名を対象として不眠症や睡眠の取り方等に関する調査を実施し,自覚的な不眠症状と客観的な睡眠状態との関連を検討すべく,数日間にわたって,アクチメトリや心拍間隔変動の測定・スペクトル分析を行い,睡眠パターンや自律神経系活動について客観的評価を行った。また,一部の対象者について超低周波電磁界測定はEMDEX−LITE(米国Enertech社製)を用いて測定・記録・解析した。これら若干の補足調査を行い,これまでの結果について総合解析を行った。
〔発 表〕b−137〜139


(6)生活環境中の電磁界の健康影響評価と安全対策に関する調査(FS)

〔担当者〕

地域環境研究グループ 兜 真徳・新田裕史

〔期 間〕
平成10年度(1998年度)

〔目 的〕
高圧送電線周辺や屋内の超低周波磁界によって小児白血病のリスクがわずかながら上昇していることを示すいくつかの疫学調査があり,国際的にも社会問題化している。本研究では,本年度予備調査費が認められた上記研究テーマについて,我が国で本格的な小児白血病の疫学調査をはじめ現時点で行うべき研究の計画に資するための予備的な調査研究を行うことを目的とした。

〔内 容〕
当該分野の専門家からなる研究推進委員会,ならびに作業分科会を設けて以下の3点に関する調査を行った。1)日常電磁界による傷害性(hazard)に関する調査 2)電磁界による発癌リスクの「量−反応(dose−response)関係」に関する調査 3)集団における暴露評価(exposure assessment)に関する調査である。また,我が国で本格的な疫学調査を想定した場合の基本的問題点について整理し,対策法について考察した。


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